ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『超新星フラッシュマン』のOPです。
戦隊シリーズで唯一、正義側(と言うより、サラ)に嵌まった作品でした。前作や前々作はゴズマやギアの方が圧倒的に魅力的だったんですよ。
サラの衣装は衝撃的でした。「おいおい、SFでセーラー服は良いのかよ」と良い意味でコペルニクス的転回な物の見方を示してくれたのです。これがファンタジーで「サッキュバスに十二単衣を着せても構わんよね」(By『風紗館のリオン』)に繋がりましたね。 
メス側も坂浦先生(『VKカンパニー』)……じゃなっくって、サーカウラーが好きでした。「ボー・ガルダン、お前が居れば安心だ!」はBLっぽくて、今は亡き栗本薫こと中島梓女史が絶賛していましたけど、まぁ、同意(笑)。


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 サイボーグ馬の変形を目にしつつ、バクは語る。

 ダビスタ星人は半人半馬の種族であり、平原を根城に豊かな狩猟生活を営む異星文明だった。

 

「しかし、彼らは既に傭兵としてヤーバンに使われる道具でござるよ。

 純粋なダビスタ星人はほんの一握りしか残って居らず、家畜扱いされて使役するだけの屈辱的な扱いをされている。敗北した民族の末路と言うのは惨めでござるな」

 

 ヤーバンとの間に行われたダビスタ戦役はほんの一月で終わった。

 宇宙へも進出していない未開惑星と恒星間国家との間には越えられぬ開きがあり、ヤーバン軍はダビスタの抵抗を一蹴したのである

 ダビスタ軍は最後まで抵抗したが、生き残った住人は一部を除いて奴隷化されてしまう。

 それは近年ではソフトに対応している対外戦争でも、例外と言える程の過激な始末であった。

 

「家畜なのか?」

 

 ガンの問いにバクは「ヤーバン軍の要求は過酷で、住人に突き付けたのは死か奴隷かの二者選択だったと聞いておる。生き残った者は奴隷とされ、馬扱いの家畜として飼われる事となったのだ」と回答する。

 

「だから、あれは騎乗用サイボーグとして改造された者達なのでござるよ」

 

 当然、命令を聞く様に彼らはロボトミー化されている。

 相手が人間ならば非人間的措置だが、家畜ならば改造しても道義上では文句は出ないからだ。

 酷い話だが、これを知ったのは俺も最近の事だ。

 

「我らマルクも一歩間違えば、ヤーバンによって奴隷化されていたかもでござるが……。

 本国の血気盛んな者共は、この現実を理解しておらぬ」

「では、何故、攘夷をやろうとしたんだ!」

 

 激昂したのはマグであった。

 

「しかも、ヤーバンの王子を拉致までして!」

「それが女神の望みであったからでござる。彼をこのマルク本星までお連れする事。そうすれば女神のお力で現状を打破出来ると信じたからでござる」

 

 バクはふっと笑みを漏らした。

 

「正直、このベガ王子が本物か否か、判断が付きかねていた所もあったでござるが、女神が本物と判断したからには、間違えてなかったと安堵したでござるよ」

 

 うーん、贋者扱いだったのかよ。

 しかし、この男は女神の傀儡か手先なのか。女神(自称)の目的は不明だけど、あんまり良い感じはしない。

 俺の第六感がそれを告げているんだ。さて、これからどう対処すべきかな。

 

「……ガ王子が、連れ……筈だ。見付け次第に……」

 

 通信機が拾う電波から、指揮官らしい男の声が聞こえてくる。

 やっぱり目的の一つは俺であるらしい。

 

《どうやら奥の手を出す必要がありますね》

 

 蔦の攻撃を撥ね除けた傭兵に対して、緑色の幹を振るわせながら女神の念波が発せられる。

 大木と化している幹に咲く白い花々が巨大化し、花びらを散らす。

 一瞬、枯れるのかと錯覚したが、花の跡にはこぶの様になった物が出来上がるとぐんぐん膨らんで行く。

 

「実……なのか?」

「おおっ、もしやこれは女神の下僕……」

 

 巨大な白い実が自重に負けて次々と地面に転がる。

 大きな物では馬鹿でかいアトランティックジャイアント種のどて南瓜。比較的小型の物でも桜島大根程のサイズがある実が落下すると、中から異様な物体が実を割って出現した。

 

「ごぁるるるるる」

 

 そいつは牙を剥きだして咆吼する。

 毛むくじゃらの雪男か何かを彷彿とさせる巨体を持った生物だ。

 

「キーラかよ。伝説の存在だと眉に唾付けていたんだけどな」

 

 ガンが何とも言えぬ顔をしながら、ぼりぼりと頭を掻く。

 

「確か女神のお供のお猿さんだったな」

 

 伝承ではキーラとはそんな存在の筈だった。

 俺はそれを知った時に、昔の日本放送協会でやっていた人形劇に登場する、お供のお猿さんを想像していたのだけど。

 

「キーラはお猿さんじゃなくて、猿神だ!」

 

 俺の言にマグが言い返す。

 

『猿神ねぇ。猿人の間違いじゃあないのか』

 

 俺はどっかの東南アジアで作られた仏像窃盗犯を掌で押し潰す、黒歴史作品に登場するハヌマーンより、凶悪そうなこいつにげんなりする。

 もっとマスコット的な可愛いのを予想してたのに、目の前のこいつらは真っ白な雪男みたいな類人猿かゴリラっぽい猛獣だ。 

 突き出した顎。口から飛び出した牙。目には凶暴そうな光が宿り、テナガザル風に長い手の先には鋭い爪が生えている。その巨体は全身が筋肉質で膂力がありそうだ。

 

『正直、可愛さの欠片もないな』

 

 せめて西遊記のアレ程度だったら、まだ可愛げがあるんだけどな。

 異様に長い手を振り回し、蔦を掴むとターザンみたいに木々を渡って行く。

 

「向こうは粗方、掃討が完了した様だな」

 

 ガンの言葉にモニターに目をやると、ダビスタ星人の背から大型の浄化装置が展開しているのが見えた。

 ファンで空気を吸い込んで後方から排出しているが、これでガスとかの有害物質を無効化しているのだろう。

 傭兵達はヘルメットを脱いで小休止しているらしい。

 

「ふん。まずは奴らとの約束を果たさんとな」

「胡散臭そうな女神ですか?」

「そいつを刈れとの事だ。悪党公団の手には余るらしいな」

 

 この会話はヘルメットを取ったお陰で部屋のマイクが拾った傭兵達の肉声だった。

 変調する通信機からの会話を追うよりは楽だけど、いつまでも拾えるとは限らないので、念の為に無線の方も追いかけている。

 

「三分後に前進だ。奴を発見次第、例の物を撃ち込め」

「はっ! 此処を拠点として第二小隊を前進させます」

「まずは広域掃討型を先頭に小癪な緑を焼き払え。花粉に気を付けろよ。アレは有害だ」

 

 区画を制圧した傭兵部隊は、隔壁を開けて次の区画を制圧しに入る。

 勿論、そこは未だ密林状態だから、彼らは再びヘルメットを装着している。

 

《キーラよ。敵を排除するのです》

 

 女神のテレパシーと同時に、蔦を排除しながら進む傭兵部隊の先陣と彼らが接触する。

 樹上からの奇襲。

 長い手から伸びた爪と、大口を開けた顎がキーラの武器である。

 先頭の兵がのど笛を食いちぎられ、次の一人がフルスイングした腕に頭自体を吹き飛ばされる。

 サッカーボールみたいにぽーんと頭がすっ飛んだ後、首から下の胴体がぐらりと倒れた。

 幾らサイボーグでもこいつはたまらない。

 首の切断面からはバチバチと火花が飛び、オイルみたいな物が鮮血の如く噴き出している。

 

「くっ……狼狽えるな。応戦しろ!」

 

 慌てて発砲するが、先程まで相手をしていた触手と違い、キーラには機動力があった。

 床で飛び跳ね、こんもり生えている植物を有効に使って縦横無尽に動き廻る。

 無論、ビームを浴びて消し炭になる奴も少なくはないが、数の暴力で傭兵達を圧倒し、かつ、構っていられなくなった触手の方もキーラを支援するかの如く、再び活動再開して襲いかかる。

 

「ゴ、ゴーマン中尉っ」

「後退だ。騎馬隊は殿となって援護を!」

 

 顔面蒼白となって狼狽える部下へ、指揮官らしき男が命令する。

 しかし、俺は指揮官の名に驚きを隠せなかった。

 

『ゴーマン中尉だと?』

 

 度々名は上がるが、本人とは初対面だ。

 精悍な顔をした青年将校である。指揮ぶりは堂々としていて迷いが無い。

 少なくとも現場の指揮官としては有能であるのが判る。上手く育てれば。連隊長も夢ではなさそうだ。

 

『しかし、何故、ルビー軍の士官が傭兵部隊にいるんだ?』

 

 俺の疑問に答える筈もなく、押された傭兵軍は後退する。

 

「ブーチン獣を投入しましょう」

「いや、まだ早い。試したい事がある」

 

 ゴーマンと部下がヘルメットを被る前に交わした肉声が、何となく耳に残った。

 傭兵部隊は隔壁で防御態勢を敷いて、キーラ達と睨み合いになった。

 

 サイボーグの噴き出すオイルに火花が引火して発生した火事を、どうやらゴーマン達は利用する様だ。

 時々、燃料らしき物が放り込まれ、火勢が途絶えない様に工作している点からも明らかで、増援を待ってから再度、攻勢へと転じるつもりなのであろう。

 

 

〈続く〉




キーラが随分と獰猛になっています。原作のキーラファンの方(居るのか?)には御免なさい。レプリカなので一杯居ます。
こいつは女神の戦闘ユニットの様な物ですので、原作のそれとは別物とお考え下さい。ほら『ドロロンえん魔くん』に登場する、妖怪廃病院の看護婦達みたいな存在かな。
ベガは『プリンプリン物語』に登場するモンキーを連想してたみたいですけどね(笑)。

今回も約1,100文字近くオーバーしてしまった……。

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