金管とヴァイオリンが良い旋律。この曲、長年捜したんだけど見付からず、とうとう業を煮やして『関ヶ原』のDVD買ってしまったけど、ようやく最近、つべにUPされたんだよね。製作が昭和56年と言うから、西暦なら1981年か。司馬遼太郎原作の三部作の時代劇です。
本編は合戦シーンが多少、しょぼい事に目を瞑れば(今はCGで合戦も誤魔化させるけど、昭和では人海戦術。それでもエキストラ3,500人!)、森繁久弥(徳川家康)や三船敏郎(島左近)、加藤剛(石田三成)なんかの大物俳優を起用して凄いドラマでした。でも、やっぱり霊界の人…じゃなかった、方言で吠える丹波哲郎(福島正則)が一番印象に残ってたりして(笑)。
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ダビスタ戦役。
十数年前、ヤーバン連合ルビー方面軍第8外征師団が行った星間戦争だ。
まだ師団がプーチンへ委譲される前、姉上の指揮下にあった頃に行われた最後の戦闘である。
無論、フリード星に留学中だった姉上は直接的に戦闘の指導を行ってはいない。
「現場の暴走だったと聞いているな。あくまでも平和裏に鎖国状態にあったダビスタを開国させ、間接的に統治下へ置く事が、姉上の方針だった」
キーラと傭兵部隊との対峙は、戦場にある一定の停滞をもたらした。
こっちも緊張を続けている訳にも行かず、この機会を利用して休息を取るべく用意を開始した。
ちなみに外部から迫る巨大な機動兵器は、クレバスの縁に止まってこちらを窺っている様子だ。その姿が傭兵を苦しめるキーラに似ているのは皮肉な事実である。
「それに異を唱えた奴が居る。と言う事か?」
ヒラメ顔の男に「ああ」と返事する。
女神を自称する女(?)は沈黙し、話題の尽きた俺達はいつしかダビスタ戦役の事を話し合っていた。
迫るキーラを隔壁で防いでいたのは、他ならぬダビスタのサイボークであったからである。
隔壁前の扉で並んで尻を向け、キーラが侵入しようとすると強烈な後ろ蹴りが飛んでくる。そのキック力は凄まじく、蹴られたキーラは後方に吹っ飛んで絶命する程である。
「ある意味、見せしめもあったのであろうよ。
一足先に開国していた我がマルクも、ヤーバンに逆らえばこんな目になるぞ……とな」
とはバク。
結果的にそんな意味に捕らえられるのは仕方が無いか。
戦役を主導した第8外征師団が行った攻撃は、オーバーキルと言って良い程に凄まじ過ぎた。
「私怨もあったろうな」
当時の師団長。ゴーガン・フソン少将は武闘派の筆頭だった。彼は数多の戦いを重ねた歴戦の勇将ではあったが、戦いの中でしか生きる意味を、価値を見出せない男であった。
不幸な事にダビスタでの交渉の席で、彼の息子、キョーマン・フソン大尉が殺される。
このキョーマンと言う奴が礼を失し、ダビスタ人を見下した態度を示し過ぎたのが原因であったのだが、怒り狂ったゴーガンはダビスタに対して殲滅戦を開始したのだった。
ダビスタ人に対して「死か奴隷か?」の二者選択を迫り、奴隷以外の者、答えの出せなかった者を文字通り皆殺しにしたのである。
ちなみにダビスタに与えた猶予は、たったの半日であった。
「復讐でござるな」
「ちなみに姉上の所に第一報が届いたのは、全てが終わりに近付いた三週間後だ」
当時のダビスタの科学力は、地球で例えるならば19世紀。ようやく実包式の銃が発明され、蒸気機関の普及を開始されて産業革命が起こった頃に過ぎなかった。
それに対し、恒星間文明が容赦なく牙を剥いたのである。
ダビスタ人は勇敢に抗戦したが、抵抗空しく壊滅してしまった。生き延びたのは奴隷として残された少数の者達だけであったと言う。
「当然、本国に相談せず、独断専行したとして師団長は解任。軍籍も奪われて禁固刑の後に獄死。生き延びたダビスタ人は一万人居るか居ないかで、星その物を放棄する羽目となった」
「あれがその末裔でござるな」
モニターに映るケンタウロス型のサイボーグ。
元々ダビスタ人は人馬族であり、馬の姿から人型に変形出来るのだ。その特徴を利用して傭兵稼業に就いている者だって居るのだろうが……。
「殆どが家畜の末裔だ。あそこ(傭兵部隊)で自由意志を持った物は多分、居ない」
「何故、そんなに報告が遅延したのでござる?」
「フリード星で問題が起きていたからな」
そう。タイミングが悪すぎたのである。
この時期、領主であるテロンナ・ヤーバン王女は自領を離れ、フリード星へと留学に行っていたが、間の悪い事に、ダビスタ戦役が開始される直前にフリード星で姉の誘拐事件が発生したのである。当然、中央は混乱して統制が乱れていた。実質的な指揮は執れない。
第8外征師団はその隙を突いて、現場判断と言う形で独断行動に走ったのだ
「問題が発覚したのは現場の一指揮官が、これを師団本部を通さずに中央へ報告した為だと言われている」
「ほう。気骨のある者も居たのでござるな」
「流石に中央に黙って、一惑星を専横するのはマズいとの判断だったんだろう」
当時のルビー軍は乱れていたと聞く。
領主は頼りない小娘だ。現場が上を見下して勝手に暴走する事もしばしばだったと聞いている。
結果的にこのダビスタ戦役事件が、姉が第8外征師団をルビー軍から外した原因となる。自分に反発して言う事の聞かない膿を絞り出し、外へと放り出したのである。
「ま、その現場指揮官……は恨まれただろうけどな」
俺は現場指揮官の名、バレンドス……当時は大尉だったか、の名を言わずに飲み込んだ。
「何故?」
「第8外征師団はダビスタを策源地にする筈だったからだよ」
隠星(おんせい)と言う物がある。
昔の隠田(おんでん)、つまり隠し田とか隠し畑の惑星版で、登録された正規の惑星領地では無く、登記の上では無い物とされる私有惑星だ。
過去の星間大航海時代、私掠提督が活躍し、ヤーバンが爆発的に宇宙へ進出した初期の頃には良く見られた物である。
ゴーガンは姉の統治下ならば、こう言った隠星の再現が出来ると侮っていたらしい。
ダビスタ攻略の際、「惑星破壊爆弾で星ごと吹っ飛ばしてしまった」と告げ、まんまと惑星を自分の私有財産に出来るとの皮算用を踏んでいたらしいのだ。
「可能なのか?」
ガンの問いに俺は「まさか……」と首を振る。
流石にそれは姉を、そしてヤーバン王家を侮りすぎている。
特にこの行いは、父上の怒気に触れてしまった。惑星領主や代官でも無い者が、中央の意向に逆らって無断で星を領有するとは、大王の権威に傷を付けたに等しいからだ。
進退窮まったゴーガンの行った愚挙は、報告通り、証拠隠滅の為にダビスタ星を本当に宇宙から抹殺する事であった。
既にダビスタ星は荒廃した惑星になってしまったが、本当に惑星破壊爆弾で木っ端微塵にする悪魔の様な計画であった。
「間一髪の所で、それは阻止された」
この裏にブラッキー、そしてバレンドスが関係している。
彼らが今の地位にあるのは、この時の戦功なのだが、マルクの人間に語る事ではないなと判断して、俺は敢えてそれを言わなかった。
「ゴーマン・フソン。そしてキョーマン……」
マグがぶつぶつ呟くと、俺に顔を向けて「なぁ、もしかすると、あそこのゴーマンって奴も身内なのか?」と問い質す。が、それは宇宙船の飛来で無視された。
「ワルガスダー?!」
やって来たのは、いつもの十字形の青い揚陸艇だ。
艦隊では無く単艦だが、何で戻って来たのか?
〈続く〉
ダビスタ戦役話です。
何となく、少し閑話っぽい説明回になってしまった。小出しにして会話に混ぜる事も考えたんですけど、いいや、一気に説明しちまえとこんな形になりました。
丁度、睨み合いしている最中だしね。
あ、ゴーガンのネーミングはお分かりの通り「傲岸」です。
コーマンが「傲慢」だったら、親は「傲岸」。兄は「驕慢」なんだろうと考えた結果です。だから「不遜」なファミリーネームも付けてしまいました(笑)。