ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『緊急発進セイバーキッズ』から「Dancing Beat」です。
軽快なリズムでアップテンポで歌い上げる明るいOP曲ですね。
モンキーパンチが原作のメカアニメと言う変わった作品で、実はルパン三世御一行らしき者達も出演してたりします。いや「またつまらぬ物を…」とか五右衛門もどきの刀使いやるんだから、これは確信犯ですね(笑)。
しかし、コメディ調の作風も後半になるとタイムトラベラーらしき謎の姉ちゃんが絡むと、どことなく哀愁を感じるシリアス度が増した作風になります。謎は結局解明されず、姉ちゃんは未来へと帰ってしまい有耶無耶になってしまうですけど、あの伏線は一体何だったのだろう? 
姉ちゃんとぷかりんのじいちゃんやDr.バグとの間に何があったか、多分、これが最終回に唐突に出て来る最強ロボとの関連性があるんたろうけどね。


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《我が子よ。ああ、通じないのですね》

 

 悲観に暮れた様な念波。

 俺は女神を自称する存在の方に振り向いた。

 

 俺は『かなり無理をしているんじゃないのか』と植物の幹を観察する。

 こいつがどんな存在だかは知らないが、物理的に考えるとエネルギーを多量に消費し過ぎていると思う。

 蔦を動かすのも増殖させるのも、ましてキーラみたいな化け物を大量に生み出すだけでも、多量の物理的なエネルギーが消費されるのを強いられる筈だからだ。

 

『食虫植物だって、捕食に使うエネルギーは莫大と聞くからな』

 

 目の前のこいつと、ハエトリソウやモウセンゴケとは同一には語れないかも知れない。 

 しかし、食虫植物と同様の原理で身体を動かしていると仮定すれば、消費するエネルギーは植物にとって莫大な物であると想像出来るからだ。

 

 ハエトリソウが動物の様に昆虫を捕食する際、素早い動きで葉っぱの蓋を閉める仕草を見せるのだが、それを成す為に蓄えられたエネルギー(カロリー)は、ほんの数回程度で使い切ってしまう物であるらしい。

 だから、「いたずらに触覚毛を刺激して食虫植物をやたら閉じさせない様に」とテレビ番組の解説で耳にした記憶がある。

 獲物も無いのにそれを続けると、最終的には枯れてしまうとの話だ。

 

『短時間に無理を続けているからな』

 

 それこそ光量子エンジンみたいに無限に力が供給されるので無ければ、いずれ力は尽きる。

 俺の推測が当たればだけどね。

 

「キーラは何故、叔父上を襲わないんだ」

「別の使節団員もやって来たぞ」

 

 その声に俺は振り向いた。

 確かに他のオストマルク人達も次々と隔壁の扉をくぐり、手に得物を持ってランダムの周囲を取り囲む。

 

「アムール殿。ウスリー殿。ネヴァ殿でござるな」

「有名なのかい」

「そこそこ高名でござるよ」

 

 バクが俺の問いに答え、マグやガンも頷いている。

 そして「少なくとも武官だ。ソリッドの扱いには長けている」との追加情報も出る。

 

「つまり。今回、此処に現れた四人は全員、シシと言う訳か」

「シシとは違う。あちらは政府側の人間だからな」

 

 否定するのはガン。

 ヒラメ顔の男は「武人の事を指すならば、我々の単語で〝ダイン〟と言う」と教えてくれる。

 宮仕えしているのと浪人状態とでは違うらしい。

 

「あっ!」

 

 思わず声が漏れる。

 ランダムの周りに居た使節団員が抜刀すると、周りを取り囲んだキーラを事も無げに斬り捨てたからだ。

 斬られたキーラは驚愕に満ちた瞳で目を開くが、何も出来ずにそのまま身を翻す。

 しかし、背中側にある膨らんだ瘤みたいな場所が弱点らしく、そこへ向けて二撃目が放たれると黄色い樹液を撒き散らしながら、どうと倒れて動きを止めてしまう。

 

「無抵抗のまま……」

「何でだ。何故、キーラを叔父上が倒す」

 

 次々と斬って捨てられるキーラ。

 逃げ出す者も多いが、その背中を無慈悲に袈裟斬りにするオストマルク人達。

 半ば植物であるのでキーラの身体には血が通っておらず、噴き出した黄色い樹液が彼らを染めるが、使節団員はまるで気にはしていない様子だった。  

  

「女神様!」

 

 堪らずバクが何かを話そうとするが、緑の巨木はそれを制して《言いたい事は判ります》と告げる。

 

《彼らはマルクの我が子なのです。私同様、その分身たるキーラもマルクの子らを傷付ける事が出来ない》

「つまり、反撃は不可能なんだね」

 

 俺の問いに女神を自称する存在は沈黙した。

 

《貴女方を捕らえた様に、非殺傷手段であれば行使は出来ます》

 

 ややあって答えはあったが、つまり、キーラは使節団に効果的な反撃を行えない事になる。

 その言葉通り、蔦による触手攻撃が再開されたが、ランダムが蔦の密集している辺りに例の火器、RPG風の重火器を発砲した時に変化が起こった。

 

《くぅぅぅぅぅぅ!》

 

 苦悶の念波が撒き散らされた。同時に命中した所の緑が次々に変色して壊死する。

 薬品による化学兵器なのか、それともウイルスか何かを利用した生物兵器なのか、その弾頭はたちまち周囲の緑を一掃してしまった。

 

《パージを!》

 

 ランダムらが進入したブロックと次のブロックを繋ぐ隔壁が閉鎖される。

 自称、女神はこの基地の電気系をどうやら制御可能な様だ。

 

『ふぅん。汚染をこれ以上拡大させない為か』

 

 植物は当然、この隔壁を越えて侵入しているのだが、エアロックのアイリスバルブが閉まると同時に、ブチブチとそれが切断されてしまう。

 本体へあの弾頭の影響が出ない内に端末を斬り捨てたのだろう。

 実際、壊死の影響は間一髪で絶たれたと言っても良い。 

 

「ほう、さすが悪党公団。良い仕事をする武器だ」

「中尉」

「我々も前進だ。このドルビーM077基地を制圧するぞ」

 

 そのゴーマンの言葉通り、後方に控えていた傭兵部隊も動き始めた。

 隣のブロックにはまだキーラが数体残っているのだが、密林状態から丸裸にされた今、前ほどに奇襲効果は望めず、掃討可能だとの判断なんだろうな。

 神出鬼没のジャングル戦法が、かなりの幻惑効果を発揮していたからね。

 

《ここに集いし、我が子らよ》

「女神様」

《我を護るのです。私ではあの者達に手が出せません……》

 

 弱気な言動であるが、これは本音なのであろう。

 そろそろかも知れない。

 俺が此処、イ-ヤハーテに呼ばれた訳を問い質す機会だと思い俺は口を開く。

 

 

〈続く〉




Dr.ヴォルガを含めて、オストマルク使節団の名は旧ソ連の河です。
今回、武官のみで文官は出ていません。ドニエプルだのオビだのがまだ居るみたいです。

久々に2.100文字台になったぞ。やっぱり2,000字以内には納められなかったけど。

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