ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMはN93『夜桜忍法帖』から「ゆくぞ!夜桜忍法帖」です。
これ遊演体PBMのスタートセットに同封されたCDに入ってたんですが、GMの甲斐甲賀氏曰く「なかなかの名曲」と言うのに同意です。

N93は自分が初めて参加したPBM(「史上最凶のネットゲーム」とも呼ばれてましたが)なので、懐かしさもひとしおですね。同人誌を作ったのも良い思い出だ。
一夜桜争奪戦とかは無関係で、ひたすら遊園地〝長崎デジマーランド〟でお仕事してた気もするけど、かなり楽しめたせいで、以後、PBMにハマる原因を作ってくれた罪な作品でもあります。
所属忍軍? 当然「ウイ、アーHORRORS、世界を我が手に!」(笑)。


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《女神。いや、ラミア》

 

 念話で語りかける。

 植物の幹はびくりと震えるが《おおっ》と、歓喜の声とも思える念波が発せられる。

 

《念話で話す》

《承知しました》

 

 周りのシシ共に聞かれると拙いと感じ、俺は会話をテレパシーに切り替えたんだ。

 だけど、バク辺りに聞かれる可能性も無くも非ずなんだけどね。

 

《やはり、私の正体を知っていたのですか、戦士よ》

《まぁ……ね》

 

 厳密には知っていた訳では無い。

 キーラやらゲルマ帝国の名が、とある作品に登場した事を思い出しただけだ。

 それは『Xボンバー』だ。

 某洋画の星戦争の影響を多分に受けた思われるスペースオペラであるが、ダイナミックプロ系で唯一の人形劇と言う変わった作品である。

 既に特撮系の『バトルホーク』や『アステカイザー』が登場しているんだから、マリオネット系だってあるだろうとの予想だったが、やっばりである。

 それに登場するヒロインの名がラミアだった。

 

《確か、君を手に入れると宇宙を征服出来るって話だったな》

 

 番組では敵であるゲルマ帝国は当初F-01と言うコードネームでラミアを捜しており、彼女を入手する事で全宇宙の支配を企んでいるとの筋書きだったからね。

 

《無理です》

 

 即答だった。

 続けて彼女は《今の私では無理なのです》と答える。

 それは置いておいて、ラミアであるのなら何故、姿を現さないのかとの疑問をぶつける。

 『Xボンバー』に登場するラミアは美少女であり、こんな植物の塊みたいな姿では無かったからである。

 今の姿は、まるで『ドロロンえん魔くん』に登場しそうな薔薇妖怪だ。

 

《今の私は……と言う事は、今では無い時点では可能だったと言う事なのか?》

《流石は戦士。鋭い所を突きますね》

 

 ふむ、やはり『何等かのカラクリがあるな』と思った時、モニター内の傭兵達が動きを見せる。

 室内のキーラを始末した彼らは、閉じたままの隔壁扉のアイリスバルブに手こずっていたのだが、業を煮やして強硬手段に出たみたいだ。

 正規の手段で開けるのを諦め、何やら粘土みたいな物を隔壁扉に張り付けている。

 

「まずい、あれは爆薬だな」

 

 マグの呟きと共に棒状の物を突き立てると、安全圏まで傭兵達が下がる。

 プラスチック爆薬を扉に取り付けて爆破するらしい。

 棒の先には点滅するランプと側面の柄に数字を表示する液晶が見える。

 

『時限信管だ』

 

 間髪を入れずに爆薬が炸裂し、鈍い振動がこの部屋まで伝わって来る。

 俺は「次の部屋にモニターを繋げ」と口走ると、何か傭兵を止める手段がないかと知恵を巡らせる。

 

「侵入者退治用の警備装置とかは?」

 

 思い付きをマグが述べた。

 

「駄目だ。此処の機器は補助的な物だからな」

 

 ガンの回答は明快である。

 ここに備えられた装置はあくまで予備の補助機器に過ぎず、全ての機能を使う為にはメインシステムが揃っている司令室へ赴かねばならない。

 端末から動かせる機能なんて、カメラ操作とか微々たる物である。

 もし制限されてないのなら、進入したテロリストとかが逆に悪用すると困るからだ。

 

「もしあったとしても、せいぜい催眠ガスとか衝撃銃程度だろう」

「奴らには通用しないか」

 

 うん、確かにあるとしても非殺傷武器がせいぜいだ。

 この基地が軍事施設なら自動銃座とか、殺す気満々な装備が待ち構えてるんだろうけどね。

 

「入って来るか……」 

 

 次の区画も緑のジャングルであったが、拡散ビーム砲と火炎放射器がそこら中を舐め尽くし、更にランダムが特殊弾頭を放つと、やはり植物はあっという間に生命を絶たれる。

 まるでベトナム戦争に使われた枯れ葉剤だね。

 女神の方は既に対処していたらしく、その次の区画を閉鎖して本体との繋がりを絶っていた

 が、此処へ到達するのも時間の問題だろう。

 

「特殊弾頭は全部で四発。既に半分使っているが……」

 

 モニターの一つを自分用に回し、奴らの現在地とドームとの相対位置を表示する。

 丁度、区画三つ分だ。

 ドームへ辿り着く前に奴は残り二発の弾を使い果たす筈だけど……。

 

「君は動く事は出来ないのか?」

 

 この会話は、他者に聞かれても構わないと判断して肉声だ。

 俺は奴らが到達する前に逃走を勧告するが、女神を自称する植物はこれを拒否した。

 曰く《動きたくても動けない》のだそうだ。

 

「ラミアは二本脚で歩け……いや、それどころか空をも飛べたっけな」

 

 かの番組最終回を思い出しつつ、俺は呟いた。

 なのに、何故、動けないとの疑問である。

 ちなみに俺が、女神を自称する存在と言い続けているのも、この女性が俺の識るラミアとのイメージ差が大きすぎる為である。

 

 ラミアは番組最終回で目から光線を放つと言う、どう考えても人間業とも思えぬ巨人、強大なゲルマ魔王を最終回に生身で対決するんだ。

 まぁ、ラミアも空中浮遊しながら生身で炎を放射してた訳だから、こっちも超人レベルだろう。

 ちなみに、このクライマックスであるゲルマ魔王との戦いに『Xボンバー』の主人公達三人組は、何も出来ずに観戦状態。

 ラミアだけがゲルマ魔王周囲を飛び回って、とうとう独りで魔王を倒してしまう。

 

 それだけでも、ヤーバン伝説の〝武姫〟クラスはある凄いエスパーなんだけど、この女性(ひと)、ゲルマ魔王を倒した後に次元を越えてどっかへ行っちゃうんだ。

 しかも、身一つの生身で……。

 主人公達ぽかーんで、しかも、完全に置いてきぼりだよ。

 まさか、直前まで宇宙船Xボンバーで皆のお世話とかしてた秘書ポジションのマスコットキャラが、敵のラスボス倒して、別れも告げずにどっかへ行ってしまうなんて思わなかったろうな。

 

 しかし、こうなると単にスーパー超能力者ってレベルじゃ語れないよね。

 真に女神の力を持ってるとしか思えないし、永井/ダイナミック・プロ系でも最強レベルのヒロインだと思ってる。

 

『それと比較してしまうと、何となく矮小なんだよ。この自称、女神は』

 

「拙いぞ。次の区画に向かってる」

「傭兵め!」

 

 意識をシシ達の方へ向けると、ずずんと腹に響く衝撃が再び起こった。

 傭兵達が再び隔壁扉を爆破したらしい。

 

「ランダム。次は俺達に任せろ」

 

 発射筒に弾頭を差し込んで再装填するオストマルク人へ、ゴーマンが語りかける。

 

「ほう。やはり外様の力を借りるのを良しとせぬか」

「そうじゃない。どうせ次の隔壁も閉じているだろう」

 

 ゴーマンは語る。

 

「この区画の蔦は動かず、襲って来なかった。つまり切断され、蔦が本体と繋がっていないからと考えられる。

 貴重な特殊弾頭を使うまでも無く、火炎放射器と拡散ビームだけで焼き払えるなら、それに越した事は無い」

「ふむ、一理あるな」

 

 そのゴーマンの説明にランダムも納得する。

 

「脅威度が低い雑魚に、弾を無駄遣いするのは愚者だ」

「ああ、残りの二発は本体にぶち込んでくれ」

 

 マイクが拾った会話から、俺は残りの区画で弾を使い果たしてくれると言う甘い幻想を捨てた。

 

 

〈続く〉




ラミアちゃんは作者も結構好きなキャラです。
造形とか服装も正統派プリンセスだしね。
『ばってん爆撃機』の最終回を知ったのは、割合最近なんですけど、あれならゲルマ魔王が宇宙征服の為にラミアを追い求めていたのも、まぁ納得。
たった二話前に、自分が「超能力を持っていても何も出来ない」と、己の非力さを嘆いていたキャラとはとても思えません(笑)。

今回は約2,700文字。
前回、折角、規定値に近づいたと思ったのになぁ。

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