映画館で聴いた時『うる星』とは思えなかった覚えがあります。
世界を破壊するバクが飛行する箇所はスピーディで、でも、途中でラムの水族館シーンで使われる旋律が印象に残る。そしてハリアー発進。友引町が一望出て回り込むシーンの曲は雄大。ホントに雄大。
押井監督の最高傑作だと今でも思います。
彼の本音も垣間見える。「人の夢だけ作り続けて、一つ位自分の夢を作ってもええやんか!」との夢邪鬼の台詞は、ああ、当時、原作付きではなく、オリジナル監督作品を撮ってみたい押井さんの心からの叫びなのだなと……。
ロケット弾が飛翔する様はスローモーションの映像の様に見えた。
いや、主観なんだけどさ。それがそそり立つ幹にぶつかるまてが、酷くゆっくりと感じたってのが、俺の感想だ。
蔦の妨害はない。
前にはシールドとして。伸びる蔓をバリアーに弾を防いでいたんだけど、既にそれは前回で一掃されて短い物しか残っておらず、防壁の役には全く立たなくなっている。
「あ……」
その呟きを漏らしたのか誰かは判らない。
俺は頭痛からようやく回復しつつあり、確かめる余裕は無かったからね。
《!》
声ならぬ悲鳴。そして頭の中を駆け抜ける苦悩の念波。
精神攻撃かと錯覚する程、頭の中をぐぢゃぐぢゃに掻き回されたよ。
その場に居る者はアステカイザーを除いて皆、影響を受けて悲鳴を上げ、バクやガンなんかは頭を抱えて転がり、口から泡を吐いて気絶する。
無論、俺も例外じゃない。
情けないけど「うわぁぁぁぁぁぁ」と絶叫して、地面に転がってしまう。
《我が子……達よ!》
それが自称女神の最期の言であり、後は言葉にもならぬ苦悶の精神波だけが撒き散らされる。
そして俺は見た。
幹が急速に色を失って枯れ果てて行く中、ラミアの姿、あの『Xボンバー』での面影を持った人間態の女神が幹の中から浮かび出る幻を。
喉をかきむしり、救いを求める様に天へと手を伸ばしたそれは、だが、異様な光景だった。
『ラミアだ!』
そう、その姿は真にラミアであったのだ。
しかし、ラミアはラミアでも、地球の神話に出て来る半人半蛇の姿だったんだ!
◆ ◆ ◆
「ビーム第2弾、到達します!」
その声と同時に、不可視のエネルギースクリーンが弾着を阻む。
多少、船体に負荷が掛かるがまだ持ちこたえられる。
「ベガトロン砲だな」
「この距離まで届くとは、恐ろしい威力です」
ズリルの呟きに、紫色のシャーマンルックを纏った妻が応える。
降下中のマザーバーンは攻撃を受けていた。
敵は先程まで戦っていたワルガスダーの艦隊や、先行したアステカイザーのマッハビートルではない。
地上でドラミングをする、巨大なゴリラみたいな機動兵器だ。
「ブーチン閣下が開発したという新型機動兵器でしょうか?」
「テイル。何故、そう思える」
「ガイラーの空爆ロボにしては生物的すぎますから」
護衛メイドは理由を述べた。
その間にも、プリンツ・ゴリは額の角からビームを放つ。
「元々、ブーチン獣とは、その空爆ロボに対抗する為に開発された巨大サイボーグ兵器だが……どの程度の物なのか」
「未知数ですね。補佐官、どうしますか」
ズリル補佐官の言葉が濁る中、テイルは次の方針を尋ねる。
現在、マザーバーンに搭載している兵力で排除出来るかは不明であるからだ。
ちなみに、ブーチン獣のスペックは軍規として軍の一部にしか公開されておらず、この時のベガ軍は性能を掴みかねていた。
「あなた……」
「ミニフォー部隊で探りを入れては?」
心配そうな目を向けるヨナメの頭越しに、ベガ殿下の声が響いた。
いや、表向き、ベガ殿下を名乗る影武者の意見である。
ズリルはチラリと玉座の方を向いて「うむ」と頷いた。
「ミニフォー部隊発進!」
四方八方に発進口はあるが、今回は敵の攻撃があるだろう正面から出す事はなく、安全な背面からミニフォーを射出する。
緑色の円盤が続々と放たれ、急下降しつつゴリへと迫って行く。
「初実戦だな」
「果たして、無人機が通用するのか……」
「此処は嘘でも、味方の勝利を信じるもんだろ!」
アラーノ中尉と隣の馬面が、手に汗握りながら味方を応援した。
だが、ゴリは強かった。
まず、先制のビーム掃射で一機が吹き飛び、続いて二機目、三機目と叩き落とされる。
同じベガトロン砲でも出力が大きい分、射程が違うのだ。
「よし、今の内に円盤獣を出せ」
ズリルは先に出したミニフォーを囮に、残された円盤獣の出撃を命じた。
ワルガスダーとの戦いで4機の内、半分が撃墜されているが、今出さなくて、何処で出すと言うのかとの判断で撃ち出される。
「敵わないだろうが、な」
「え?」
補佐官の言葉に影武者ベガが問い返す。
「ええ、時間稼ぎでしょう」
これはテイル。彼女達は悟っていた。
円盤獣は通常の戦闘円盤よりは強力だが、試験用に普通の中型円盤を改造しただけの急造兵器。
対してブーチン獣は、新規開発された新規の機動兵器だ。
下手をすると鎧袖一触で、あっという間に葬り去られるだろう。
「ミニフォー部隊を含めて全て囮。陽動部隊だからな」
「本命は本艦です。さて。イチメ! サンメ! リンメ!」
ヨナメの声と共に何処からともなく、三人のシャーマンが影の様に現れて頭を垂れる。
彼女らはベガ直属の護衛侍女達だ。
「「「ここに!!!」」」
「採掘基地へと行き、殿下を保護するのだ」
「「「ははっ」」」
「行けっ」
命を受けて彼女達はぱっと散り、忍者みたい身のこなしであっという間に姿を消した。
ヨナメは彼女らをちらと見送りつつ、正面モニターを睨む。
「接近戦になると強いな」
「数は力です」
ミニフォーが砲門を開いていた。
出した機数16の内、既に6機は墜ちていたが、残機は手数でゴリを圧倒している。
特にガンシップみたいに周囲を回りながら、砲塔が連続で射弾を送り込む戦法は有効そうである。前ではなく横に向けて撃つから、不用意に接近して、敵の頭上を通過する危険を冒さずに済むからである。
「しかし、何と言う耐久性だ」
ズリルは歯噛みする。
こちらのベガトロン砲はゴリの表面に焦げ目を付けるだけで、命中弾は堪えてない様に見える。
ブーチン獣を造ったのが、第8外征師団のダントス少将であるとの情報が本当なら、その技術力の差を見せつけられる思いだ。
『私は所詮、学生上がりの未熟者なのか!』
変形し、四つ足獣体型となった円盤獣を事も無げに、そう、あっさりとパンチ一発で殴り飛ばすゴリを見て、ズリルは悔しさを嚙み締める。
『私は奴に勝ちたい!』
二体目の円盤獣を真っ二つに引き裂かれた時、ズリルの心の中には技術者としての欲求が、めらめらと燃え上がっていた。
〈続く〉
今回約2,400文字。やっばり規定オーバーしてしまうね。
「女神は死んだ……」
「くっくっく」
「誰だ!?」
「ふふふ、女神が一人だとでも思ったのか」
「ま、まさか双子」
「違うな、110つ子だ!!」
てな、邦子風超展開にはならない筈……多分(笑)。