ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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辻谷耕史さん追悼で、今回の作業用BGMは『無責任艦長タイラー』のOP、「Tylor OP just think of tomorro」を聞き続けていました。
OPに使われてた歌詞は、実はFullverの二番なんだよね。
タイラーが中年から青年になるとか、原作とは違う設定展開なんだけど、これも見ているとそれも許容範囲になるのが不思議。辻谷さんの声の魅力のせいか、あのタイラーが好ましく見えて来る。
原作では巡洋戦艦「阿蘇」とか立派な大型艦ばっかりが乗艦だけど、与えられたのがおんぽろ駆逐艦「そよかぜ」だったのも好きだった。幽霊船騒動は良い回だったな。

ハルミさんとか原作に影響を与えたのも大きいなぁ。ああ。あの最後の「いってみよー」は新たに二度と聞けないのか……。


91(閑話)

 

              ◆       ◆       ◆

 

「殿下は?」

「お休み中です。かなり疲労があると軍医が……」

 

 ズリルの言に妻が答えると、彼は「まぁ、無理も無いな」とばかりに肩をすくめた。

 

「捕虜となったオストマルク人は如何にしますか?」

「頭の痛い問題だな。尋問が済んだら、.Drヴォルガ辺りに引き渡してしまいたい所だが」

 

 こちらはテイルが答える。

 マザーバーンはマルク本星から離れつつあった。

 あれだけ猛威を振るったプリンツ・ゴリの姿は今は見えず、残骸と化したそれを証拠品集めも兼ねて回収部隊に始末を任せている所だ。

 

「しかし、自分の未熟さを思い知ったよ」

「あなた……」

 

 ヨナメの心配そうな表情に気が付いて、夫は「大丈夫だ」と告げる。

 自分の持っていた技術屋としてプライドが、ブーチン獣との直接対決でへし折られた形にはなったが、それで開眼した面もある。

 

「上には上があると気が付いた。だが、これはまだ敗北ではないさ」

「では、対抗可能でしょうか?」

「テイル殿。このズリルを見くびらないで頂きたい」

 

 補佐官の力強い言葉に侍女長はほっとした顔をする。

 事実、ズリルはまだ敗北したとは思ってはいない。

 確かに自分の円盤獣は破れたが、それは投入した開発資金の違いでしかないと思っているからだ。

 

「ふむ」

「ダントス少将の所には豊富な財源があって、俺の所にはない。それだけの違いです」

「確かに今のベガ軍では、開発リソースに回せる資金は少ないですね」

「それを批判している訳ではありませんぞ」

 

 補佐官としてベガ星の行政にも関わっているから、ズリルには今、ベガ星の経済状態が手に取る様に判る。

 既に盤石な経済体制を築き上げ、ばんばん軍事に資金を回すブーチン王子側と違って、軍事に回すだけの余裕は確かに無いのである。

 行政と言う技術者として畑違いの分野に回された時、ズリルは憤慨した物であるが、今ではより広い戦略的視点を持てたとして感謝している。

 単なる現場技術者だったら、周りを無視して一方的に〝資金を出せ〟〝開発させろ〟と吠えていただけの、近視眼的な男になっていたかも知れなかったからである。

 

「ミニフォーの活躍が目立ったので、当分はこちらにリソースを集中すべきだと思いますな」

「円盤獣は凍結ですか」

「旧式機の改造は続けますが、新たに一から新規開発する余裕は今はありません」

 

 元々、今も配備されている円盤獣は、ヤーバン軍標準の中型円盤を改造しただけに過ぎない。

 人的被害の減少と人件費削減が主な目的で、コクピットを無人化して自律型にしただけな為、基本的な戦闘能力は強化されてはおらず、ここが性能の差となって現れたのだ。

 これを越える為には、全くの新規開発を行い専用設計で製造された機体を配備すべきなのだが……。

 

「我が星域には、ガイラーの空爆ロボ並の脅威が差し迫ってないですからな」

「平和なのも考え物と言う訳ですね……」

 

 近年のガイラー星との開戦が、ブーチンに資金や技術を与えている事は明白であった。

 敵の巨大機動兵器、空爆ロボに対抗する為に兵器開発技術が加速度的に上昇しているのでる。

 逆にうちは前線から遠いから、戦線手当とも言えるヤーバン本国からの補助金も少ない。

 もっとも、このマザーバーンだって、対フリード星用との名目で補助金を得て、ようやく建造に漕ぎ着けた代物なのだけど。

 

「しかし、強かったですね。アステカイザー」

「うむ……。あれの秘密が是非とも知りたい所だ」

 

 そう、アズテクの戦士は強かった。余りの強さにテイルが呆れてしまった程だ。

 等身大の生身でプリンツ・ゴリを倒してしまったからである。

 

「ミニフォー部隊の援護もありましたけどもね」

「だが、共同撃墜とは到底言えない。あれは殆どアステカイザーの手柄だ」

 

 妻の意見も否定はしないが、やはり倒したのはあの古代戦士の力であった。

 ミニフォー部隊も奮戦し、立て続けて弾幕を浴びせて、ゴリの耐久力を削ったが、小回りを効かせてゴリの攻撃を介い潜り、ダメージを蓄積させて一気に貫く戦法はを見せたのは、アズテクの戦士であった。

 

「特に最後の突撃戦法には目を疑ったな」

「古代文明の域まで、我々がまだ届いていない証明でしたね」

 

 テイルの言葉にズリルは頷くしかない。

 最近、発掘されてこの艦内にも備え付けられた光量子エンジンもそうであるが、古代文明が生んだ遺物に対しては、現状の技術との間に隔絶した差がありすぎるのだ。

 ふと、ヨナメが言っていた言葉を思い出す。

 そう〝あれは人工生命体では〟とのヒントだ。

 

『もし永久的に動けるロボやサイボーグがあるとしたら、あれも光量子エンジンを搭載しているのか?』

 

 それが額の〝アステカの星〟なのかも知れないが、だとしてもサイズが小さすぎて理解の範囲外である。

 ヤーバンも小型化した核融合炉や、効率の良いバッテリーを用いてアンドロイドやサイボーグを実用化しているが、あれはそんな物では済まないだろう。

 光量子エンジンに関しては、まだ作動原理すらも把握していない。

 

 第一、マッハビートルの加速力を利用しブーチン獣に体当たりして、その身体を貫通しても全く平気と言う頑丈さは、最早、ズリルの理解を超えていた。

 準光速の速度でぶつかれば、相手が如何にサイボークであって生身の部分が多かろうが、アステカイザーだって同時に同じだけの衝撃をもろに喰らう筈だからだ。

 

『今後の研究が必要になるな』

 

 概念からして全く違う、異種の創造物なのかも知れない。

 更にオストマルクの者共達が語る〝女神ラミア〟と言うのも、科学者である彼の想像力から逸脱した存在だった。

 伝承とかお伽話ならともかく、実在の存在として現れるとかは認めたくはない。

 科学から見れば、余りにも非常識な存在だからである。

 しかし、そう言う何かが、物理的に事を成したのは事実なのである。

 一応、採掘基地へ調査部隊を派遣しているから、その内、何かの資料や証拠を掴むだろうが、それが何になるのかまでは、ズリルは全く予想だにしていなかった。

 

「そう言えば、オストマルクの連中はどうなっている?」

「監視付きで独房に閉じ込めてあります」

 

 ヨナメによると使節団の三人は別枠で、バク、ガン、マグのシシ三人は尋問中であるらしい。

 やはり、後ろ盾に何も無いと立場が違うのである。

 

「尋問官はアラーノ中尉か?」

「バンダー少尉です。流石に連続して執務に当たるのは過酷と思いまして」

「良く承知したな?」

 

 責任感の強い彼の事だから、身体を酷使して昼夜問わずに尋問を続けるかと思っていたのだが。

 

「強制的に変わらせました。本人は引き続き任務に就くつもりでしたが……ヶ

「ゴルヒだな」

「はい」

 

 馬面のあの少尉の言葉だけは、無視しないらしい。

 そこへ、シャーマンが駆け込んでくる。

 

「殿下の意識が戻られました!」

 

 そのシャーマン、メロメは開口一番にそう告げたのだった。

 

 

〈続く〉




約2,700文字。むぅ、久しぶりの閑話です。主人公の王子は出てきません。
ベガが気絶後、あれよあれよと状況が動いています。ゴリはアステカイザーに倒され、マザーバーン内では戦後処理の真っ最中です。

まぁ、揉めてるのは誘拐犯達をどうするかなんだよね。
表向き「ベガ王子は誘拐されていない」のだから、別の罪で何とかしないといけないしね。更にオスト・ウエストの外交問題も加わって、頭の痛い所。
ワルガスダーも表向き、ヤーバン軍は「謎の反乱勢力」として機密扱いだから、「こいつらが特異な能力を使う真犯人でした」とも世間に発表出来ないんですよ。
謎の敵がいると公表すると、世論で「早く、そいつらの正体を暴け」とせっ突かれて、扱いが面倒臭くなるからね。

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