使われるシーンは主人公のこころ達が旧ドイツ軍の水陸両用小型四輪駆動車シュビムワーゲン(個人的にはドレスアップした真っ白なこいつを、『ココショワーゲン』と呼んでました)で、町を離れる友達を見送りに駅に向かって疾走するシーンが一番印象的でしたね。ピアノを中心とする旋律もかなりドラマチック。
例のシーンは間に合わないと急いて、遂にショートカットの最終手段『河へとダイブ』して水上走行するシーンもあって、ミリタリー好きにはたまりませんでした。
『ココロ図書館』は髙木信孝氏の原作よりも黒田洋介作品と言うイメージが強いんですよ。彼の作品群でも毒が無い極めて珍しいアニメでしたね。『まぉちゃん』はともかく、『リヴァイアス』だの『スクライド』などと比べちゃ駄目なんだろうけど(笑)。
まぁ、自分はこころよりも、ひめみやきりん先生(とCVの市原さん)目当てで見てた作品なんだけどね。
「私に物を尋ねるのはチートになると思うネ」
先に質問を続けようとした時、ブラックミストからの先制が飛んで来た。
何を言ってるんだと思ったが彼女は続けて、「ベガ王子として生きて行くのなら、自分の力でこの世界の理を尊重してやるべきデース」とか言って来た。
「何を……」
「ラミアの事を探るのであれば、この世界にも手掛かりは無数にありマース」
一例として、バニーガールは捕虜としたオストマルク人の事を例に挙げる。
彼女はガンやマグに関しては判らないが、バクはかなりの裏に通じている可能性はあるし、更にワルガスダーの憑依が解けた外交使節団にだって、何らかの情報があるだろうと告げる。
「それら現世で出来る事を何もせず、一足飛びに私を頼るのは駄目ネ」
「う……」
「それが戦士として、この世界に呼ばれた貴方の責任だと思いマース」
戦士。また、この単語だ。
偽ラミアも俺をこう呼んでいたが、何で戦士なのだろう?
「俺は戦士じゃ無い」
ブラックミストは「今の貴方はそうネ」と、あっさりと肯定する。
だが、「本質的に貴方は戦士なのデース。それはベガ王子、貴方が何者なのかに気が付いた時にはっきりと分かりマース」などと言う。
「そも、私の名前が何だが分かりますカ?」
「ブラックミスト。黒い霧」
「それは言語の意味でしか無いのデスよ」
彼女は『プロレスの星アステカイザー』の名を挙げた。
ダイナミックプロが前世紀に製作した特撮ヒーロー番組の事である。
「ブラックミストはその中に登場する、敵組織の名前だったっけ?」
「正解デース」
パチパチと虚ろな拍手が響いた。
そして彼女は「この名は地球の、ユーの世界のそれから適当に名付けただけデース」とバニースーツの色を絡めて命名した事実を告げる。
アステカイザーが現れたから、その関連性も考慮しての命名でもあったらしい。
「つまり、本当の名が有る訳だね」
「イエース。けど、まだヒミツネ!」
顔に霧が掛かっているみたいではっきりと見えないのがもどかしいが、片手を挙げ、もう片手は口元に投げキッスの様なポーズを取って、片目を瞑り、微笑みを作ってニコリとしているらしい雰囲気があった。
それから急に真面目な雰囲気になると、「貴方が全て理解した時に、私の本当の名前も頭に浮かぶデショウ」と呟いた。
『何だ?』
良く見ると両手を前に組んで、まるで祈りを捧げている様なポーズを取っている。
ブラックミストが言う頭に浮かぶとの単語から、もしかしたら俺はブラックミストの事を以前から知っているのか?
あの祈りのポーズは、それを思い出してくれとの彼女なりの嘆願なのか?
もしかして、俺は……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そこまで思い至った時、猛烈な頭痛が俺を襲った。
駄目だ。思い出すな。
思い出すな。
ブラックミストが、以前に俺に問うて来た事。
『私が知りたいのは本当のYou(ユー)デース』
そうだ。俺は、俺とは一体何者なんだろう。
視界がブラックアウトする直前、ブラックミストが、あのバニーガールが俺の事を心配する悲痛な表情が見えた気がした。
褐色肌のそれは美しい眉ひそめ、憂いを帯びた深い新緑の瞳だった。
◆ ◆ ◆
「殿下、殿下が目を覚ましました!」
その声を聞いたのは医務室らしき部屋だ。
俺を覗き込むのはシャーマンであるらしいオレンジ色の髪をした女だったが、彼女は俺の覚醒を確認したら、どっかへと走り去ってしまい、次に現れたのは軍医だった。
「無理してはいけませんぞ」
「ここは……」
「マザーバーンの医務室です。まずはお休み下さい」
俺は身を起こしかけたが、再び寝台へと寝かされる事になる。
見下ろすと服装がスチュワーデスの制服のままだから、マルク本星からあんまり時間は経っていない様子だ。
ぐーと腹が鳴って、腹に溜まる物は何か無いのかと要求したら、流動食のパックみたいな物が出て来たので口にする。
甘いゼリーみたいで食べ応えは無いけど、まぁ何も無いよりきマシだ。
「殿下!」
やがてやって来たのは、ズリルを筆頭に政権のメインメンバーだった。
テイル、ヨナメ、アラーノ。何だか久しぶりだな。
「心配を掛けた」
「本当ですよ」
と、ここでは嘘でも「ご帰還おめでとう」とか言って欲しいのだが、テイルは歯に衣着せぬ物言いで返事をする。
しかし、ベガ星の行政を任せていた筈のズリルまで前線に出て来ているは意外だった。
まぁ、『こんな非常事態だからなぁ』とも納得はするが、一番気になるのは一番後ろに立っている、どう見たって俺そっくりの人物だった。
「ああ、気になりますか」
「そりゃ、なぁ」
テイルの言葉に反応する。
多分、前に話題に出掛けた俺の、ベガ王子の影武者なんだろう。
あの時は途中で説明が有耶無耶になったけど、今回は説明して貰わねば困るぞ。
「知っている人物ですよ」
「は?」
テイルがにやりと笑った瞬間、影武者の姿が揺らいで姿が変わった。
緑色の髪。色黒な少女。
「ハツメか!」
「はい。済みません、私で……」
恐縮ですとばかりに身を縮める小さなシャーマン。
「……にしても、どう言う仕組みなんだ?」
「呪術の一種です。視界を歪ませて姿を殿下に見せるのです」
聞くと単純に光学迷彩みたいに他人へと見せ掛けているだけなので、実体として接触すると、例えば髪の長さが違うとかで感覚が違う為に見破られてしまう事もあるらしい。
だけど、王子に直接触る奴なんか滅多に居ないから、大丈夫だと踏んだみたいだ。
精神力を消費するのでずっと擬態は無理だが、数時間だったら何とか保つとの話である。
「影武者は他にも候補を用意していましたが……」
「その候補者は?」
「候補者としてそのままです。シャーマンが動員出来るのであれば、それに越した事はありません」
テイルが口を濁した。
何か理由があるらしいのを察して、俺はそれ以上口を出さなかったが、まぁ、これは正解だろう。
だって、呪術なり超能力を使わない影武者って、どう作成するんだよって話になるからな。
そっくりさんを見付けるだけだったら良いけど、それ以外に影武者を用意するなら、余り考えたくない方法で人為的に手を加える事になるからだ。
「姉上の件もある。仕事は早めに取りかかりたいけど……」
俺は敢えて話題を変え、ズリルに問いかける。
ズリルの方も用意してきたらしく、幾つかの資料を俺の方に示し「抜かりはありませんが、殿下はもう少しお休み下さい」と言ってのける。
「本国の方の行政は?」
「代理として新戦力を投入しました。優秀ですぞ」
聞けば、鉱山関連にヒメノ兄妹を投入したらしい。
おいおい、大学生だった兄はともかく、妹はまだ未成年だぞと驚愕したが、バイトの臨時職員として仮採用し、ゆくゆくは正規の役人にしてしまう計画らしい。
「……青田買いだな」
「キリカ殿は兄を手伝うのが生き甲斐らしいので、嬉々として仕事に励んでおります」
そりゃそうだろうなぁ。
『科学面での損失じゃ無いのか』
冷凍光線技術はどうなるんだよとも思うが、今はベガ星の政権運用を整える方が先なので、作の影武者問答同様、俺は敢えて口にするのを避けた。
人材がとにかく欲しい所だ。
「まぁ、いいや。ガンダルの方からの報告は?」
「全体で5%程の遅れが出ていますが、ルビー星の移管は順調との事です」
「姉上の婚姻までには間に合いそうだね」
後は軍事面だけど、とにかく旗艦であるこの艦が完成しているだけども良しとしよう。
実戦の結果は後に聞くとしても、とにかく体裁だけは間に合った訳であるし。
「殿下。オストマルクの件はどう致しましょうか?」
「中尉。それは……」
途中で、会話に割って入るのはファルコのアラーノ中尉であるが、ヨナメはそれを遮ると「まだ、殿下は本調子ではありません。この件は後日に」と強く主張する。
テイル、ズリルも同じ意見の様である。
「は……」
周りの雰囲気を察したのか、彼は唇を噛んで引き下がった。
〈続く〉
今回は約3,200文字。な、長い。
さて、ベガ王子とは?
次回か次々回辺りで、マルク編は完結予定です。
その後は、いよいよデュークフリードが事件を起こす新章に突入予定。