日本語歌詞の狂った具合が、まー、印象に残る残る(笑)。
まだ向こうオリジナルは全く違った奴で、日本語版程狂ってなかった。
本編はチンパンジーがひたすら演技してるのが、まぁ、凄えと感心してましたよ。だって人間が一切登場せず、ドラマやってるのは猿ばっかり!
一応、スパイ物なんだよね。
最後に「うー、うー、うー」と言いいがら、新曲を披露するのがお約束。つーか、向こうの60-70年代のスパイって「らりほー、らりほー、らりるれろん」もそうだけど、ミュージシャンをやるってのが定番だったのかいな?
◆ ◆ ◆
尋問室の隣にある控え室に入室すると、ぐうぐうと弟が仮眠を取っていた。
この忙しい時に緊張感の無い奴だと思いながら、彼はその身体を揺さぶって起こす。
「兄貴?」
「まぁ、お前も疲れてるんだろうが……吐いたのか?」
アラーノ中尉の弟、バンダー少尉は椅子から立ち上がると居住まいを正した。
「駄目だ。具体的な情報は得られない」
誘拐の黒幕がラミアだか、何たら言う女神だったとの話が出ただけらしい。
攘夷派の仕業だの、オストマルク政府がバックについてるだのと言う、かの星を政治的に締め上げる材料は出て来そうも無い。
宗教的な狂信者が単に暴走したと言う事実だけでは、単に相手政府が「では、その狂信者達が犯人ですので、処分はご勝手に」と尻尾切りされて終わるだけだろう。
「女神を祀る教団とか言うのに、責任を取らせるか?」
「駄目だな。首謀者がその教団の幹部か何かだったら、その手も使えるんだが」
オストマルクの宗教は特殊だ。
これはウエストマルクも同様なのだが、女神信仰はごく自然に全国民が信じているが、具体的な宗教組織を持っていない。
無論、それを奉じる神官なり巫女なりは存在し、神職が集う礼拝の場も設けられ、管理はされているものの、横の繋がりがないのである。
「大体、ラミア信仰の神職はメゾとか言う、性別未分化の連中が司っているから、今回、事を起こした男達、シシ共は該当しない」
犯人は男だから、該当する教団関係者に結びつける事は無理臭い。
それに普段から教団に入り浸っている様な奴でも無いとの報告もある。無理矢理、証拠をでっち上げて冤罪にする、との最終手段もあるにはあるが、これは現時点では一介の中尉が、決断して実行するのには重すぎる。
「女っぽい奴も一人居たけどな」
バンダーが笑いながら言う。
まぁ、我が主君の例もあるし、オストマルクにも男の娘って奴だって居るだろう。
「殿下との話は付かなかったのか」
「病み上がりで、まだ、それどころでは無いそうだ」
まぁ、これは仕方が無い。変に身体を酷使させて悪化させるのは避けたい。
そこへ入って来たのは、ゴルヒ・フォック少尉だった。
今日は私服ではなく、タイトスカート姿が眩しい正規の軍服である。
「夜食だぞ」
「お、有り難い」
弟へ差し出されたのは、細長いパンに挟んだパスタだった。
炭水化物に炭水化物を併せると言う、良く考えれば変な食べ物なのであるが。彼女の故郷ではよく食べられていた携帯食であるらしい。
「ん、アラーノは要らないのか?」
「いや、頂こう」
馬面で「ちっ」と小さな舌打ち。
こいつ、食い意地が張ってるから俺の分が要らないと判ったら、遠慮会釈なしに自分の腹に収める気だったな、と推測する。
ソース塗れのパスタ(ゴルヒは「そば」だと主張していたが)に、周りのパンが良く合っていて美味い。
「結構、行けるな」
「だろ。今度、鉄板持って来て焼きそばを作ってやるよ」
「お前の故郷の味か」
ゴルヒは「ん……ああ、あたしの星は滅んでる。でも、まぁ、知識として伝授されたから、味はかなりのレベルで再現は出来てるだろ」と言って、にかっと笑った。
正確には星は無事だが。そこに住む人間は、既に殆ど存在しないのである。
ヤーバンとの星間戦争では、敗戦し、そんな境遇になった人間は珍しくない。
「で、なんか分かったのか?」
「いや、絵空事の様な事しか言わないから、頭が痛い所だ」
「ああ、創造主たる女神が実が贋者だったとか、なんとか」
ゴルヒが呟く。
「正直、オストマルクやウエストマルクの民にとっては衝撃が大きいらしいんだが、俺からしたら、そんなのの何処がショックなんだと言いたい所だな」
「生け贄の話とかもあったね」
「異性を生け贄にして、ラミアへ捧げていたって奴だな」
オストマルクが男尊女卑、ウエストマルクが女尊男卑な社会であったのもこのせいであっらしい。必要以外の異性を間引き、神に捧げる事を女神、今は偽が頭に付くが、が強要していたらしいのだ。
生け贄を必要とするのは捧げられる生命と引き替えに、偽ラミアが何かを成就させる物であった。らしい。
しかし、ここら辺は科学の民として育ったルビー星人にとっては理解不能であった。
生け贄を捧げて、それを代償に何かの現象を結実させるのは、どう考えても非科学的な行為であるからだ。
「それはオストマルクの使節が語ったって話だろ?」
「ああ」
「ワルガスダーに憑依されて、語られた事実ってのを割り引く必要はあるね」
頭頂部に付いた耳をぴくんと動かしながら、ゴルヒが注意する。
確かにそうだ。
「欺瞞かもと疑うべきか?」
「ワルガスダー自体が、今の所は敵だから当然だね」
「確かにな」
話半分に聞いておけと言う忠告だろうか。
ゴルヒは「宗教儀式の話はまぁいいとして、それが王子誘拐にどう繋がるかってのを知りたいな」と続ける。
そう、彼女の指摘の通り、ここらがさっぱり分からない箇所でもある。
「偽ラミアと言うのが何者なのかは知らないが、それがベガ王子を拉致する指示を出したのであれば、何等かの目的あっての事だろう。その目的を調べるのが……」
「近衛としての俺達の役目。ああ、それは承知している」
「しかし、何故って話になると、オストマルク人にも分かってないらしいんだ」
それまで沈黙していたバンダーが意見を述べる。
ソースで汚れている口元を舌で舐め回しながら、「偽ラミアがそれを望んでいたんだそうだ、との話は出るけどなぁ」とお手上げポーズを取る。
つまり、何を画策してベガ王子をマルク本星まで呼び寄せたのか、それが全く掴めていないのだ。
「ベガ王子にしか出来ないから、と語っていたらしいんだけどね」
「殿下の特技はESPだけど……。うーん」
ゴルヒは白銀の髪の毛をバリバリとかきむしる。
「どうした」
「いや、ただのエスパーで良いなら、もっと適任者は居るだろうしね」
殿下で無くては駄目な理由にはならない、か。
単に超能力を使うプラットホームとしてならば、姉君のテロンナ姫の方が安定しているだろう。
確かに強いのは事実だが、使いすぎると貧血を起こしたり、短時間しか保たずに倒れてしまう脆弱さがある。
「そも、偽ラミアって何者なんだ?」
「何かの植物だったらしい。採掘基地で調査したサンプルが届いている」
報告では一種の食虫植物的な構造を持った、未知の植物であったらしい。
根元に巨大な司令部位、つまり、動物で言えば脳みそに当たる物があった特異な生命だが、枯れてしまっているので本格的な解析は今後の研究次第であろう。
「でも、これが本体では無いらしいって話だぜ。兄貴」
「そうだとしても、こいつがどっから現れたかってのが気になる」
「あ、それはあたしも気になっていた」
外部から持ち込まれた?
いや、では誰が採掘基地へ持ち込んだのだ。
マルク本星から生えてきた?
馬鹿な。空気も水も無い真空の環境で、あんな物が生えるのものか。
「オーパーツだな」
「ま、奴もアズテク文明の物らしいからねぇ」
冗談めいた声と共に馬面少尉がけらけら笑うが、アラーノは八方塞がりになっている状況が不快だった。
〈続く〉
閑話、ファルコ(鷹部隊)編。
オストマルク人に尋問しても、社会の成り立ちの違いで情報が「訳分からん」になってます。彼ら自体、何が起こっていたのか掴んでない所もありますしね。
そして神が実在し、現実に干渉するってのはヤーバン系の人間にとっては、あり得ないお伽話なんですよ。
ゴルヒだから焼きそばです。民族料理って扱いになってます。彼女の星は正確には自治惑星としては存在しない、過去の星です。
それとルビー軍の女子軍服は『マヴラブUNLIMITED』のまりもちゃん風(少佐の方ね)、と勝手にイメージしてます(笑)。