いや、素直に原曲の「漂流・スカイハリケーン」の方を出せよ。とのお叱りがあるかも知れませんね。でも、歌詞無しのこっちの方が執筆時には心地良いんですよ。途中の間奏が何となくボーナスみたいだし(笑)。
使われたシーンとしては、ロベルト隊に囲まれて全滅の危機に陥ったアフガニスタンの大裂孔戦ですね。エマーンからの援軍としてオーガスⅡが大量に現れた時、流石のロベルトも撤退せざる得なくなるって場面。
『オーガス』って設定がSFしているから好きなんだけど、今一つメジャーじゃ無いんだよなぁ。結構、オルソンとかヘンリーみたいなチラムの連中が好きだった。
水晶宮へ帰還した俺に待っていたのは戦後処理と言う奴であった。
マルク本星の戦いは公にされ、マルクの政治に荷担して反乱した傭兵の暴走を鎮圧した事件として、表向きには語られる事となった。
お茶を飲みながら、俺はズリルとの世間話に興じていた。
「これいいのか?」
「オストマルク側の攘夷勢力弾圧用の政治取引です。
先の王子襲撃事件との兼ね合いもありますな」
しれっと語るズリル。
つまり、裏取引でDr.ヴォルガ率いる改革派に恩を売った形である。
今回の事件の黒幕を攘夷派の仕業にして……まぁ、大筋としては間違っちゃ無いんだけど、紛争の首謀者として弾劾する形で勢力を割く試みだ。
筋書きとしては、攘夷派の企みはベガ王子暗殺。
これは傭兵隊長ゴーマン・フソンからの要請でもある。との話に繋げる。
ゴーマンはかねてよりベガ王子を嫌悪していた為に、攘夷派の手を借りて一気にその排除を計画したのだ。ってこれは本当の事だな。嘘の中にも真実を混ぜるのがプロパガンダでは有効だし。
その見返りに彼の傭兵部隊をマルク本星へ派遣して、一気にオストマルク勢力圏の拡大を図った格好になる。これが成功した暁には彼と癒着した攘夷派との裏取引で、傭兵部隊にはマルク本星の鉱山利権(の3%)が与えられる事になっていた。とされた。
ベガ王子暗殺、は奴らの望む事だったから間違ってはいないが、続く、マルク本星に対する異星勢力の介入に関しては反対だった筈で、異星勢力の片棒担ぎとしての汚名を着せられた事は、攘夷派にとって不本意だったに相違ない。
意外なのは俺の立場であった。
ベガ王子がこのカラクリに気付き、奴らを泳がせて証拠を掴んで一掃したともされており、外部からは策士であるとして俺の評価も上がったのだ。
無論、『これじゃ敵を騙してはめる狡猾な悪党じゃないか、いいのか?』とも逡巡したが、ズリルやテイルらの身内スタッフが出した案に乗る事にした。
結果として、能ある鷹は爪を隠すとして、今まで敢えて凡庸を装っていたのかとか対外的に評判が上がる始末で、自分としては「おいおい」とも思わない訳でも無い。
「ブーチンが顔を真っ赤にして、怒り狂いそうだな」
奴にしてみれば〝無能〟の烙印が押されていたベガ王子が高評価されるだけでも腹が立つに違いないし、ゴーマンとの背後関係から、この事件の裏に自分が荷担していると、暗に示されている形になっているからだ。
「怒らせておけば宜しいのですよ」
「面倒だな」
これは本音。
傭兵に関しては一部の暴走との形に収束させてはいるが、それでも奴の経済基盤に多少なりとも損害は入っている筈だ。
何せ、両マルク間でこの事件をきっかけに停戦が再び結ばれたせいで、傭兵部隊は旨味があった筈の仕事を無くしてしまったからである。
これは傭兵を支持基盤に持つブーチンにとっては、かなり痛い損失だと思う。
彼らの不満は軍内部での支持を揺るがしかねないからだ。
地球の米国で言うなら、全米ライフル協会の機嫌を損ねたのに当たる。
経済規模から見れば全体的には大した事はないのだが、それが持つ圧力団体としての力は強大だからだ。
「弟の恨みは怖いな」
「今更です。既に何度も命を狙われてるではありませんか」
「それもそうだね」
まぁ、しでかしてしまった事は、今更だが後戻りは出来ない。肩入れしたDr.ヴォルガら改革派が、オストマルクの攘夷派を圧倒するのを期待して見守るしかないな。
これを外交的に利用して、ベガ星がオストマルクへの影響力を高められたら御の字だ。
「捕虜はどうした?」
「一人を除いて、オストマルク側に引き渡しました」
「残留者は誰だ?」
「マグとか言う、未分化の若者です」
オストマルク側とはすなわち.Drヴォルガの事であるが、彼はマグの引き取りを拒絶した。
メゾ。性的未分化状態にある事がデリケートな問題でもあり、そして彼(彼女かも知れないが、一応、彼と記す)が持っている政治的な問題がややこしかったからだ。
「マグの父、ドン・ランダムとか言う男。これが色々とややこしいらしく……」
「大物で英雄らしいからな。今回の事件にも表向き、関わってないとされた程に」
オストマルクでは厚い人望のある男であり、カリスマの点では現オストマルクでも最高だろう。
ワルガスダーに憑依されたままだが、かと言って奴を糾弾するのはオストマルクに反発を生む結果なる。
それだけにこの事件では〝ランダムは無関係〟だと偽りの発表がされている。
「マグは暫く、丁重に預かって欲しいとの話でした」
「囚人ではなく?」
「Dr.曰く軟禁状態に置いてくれ、との事です」
ズリルは「誰がその費用を払うのかと考えると、頭が痛くなります」との愚痴を呟く。
俺は苦笑しつつ、「まぁ、仕方ないだろう」と承諾した。
奴にはまだ訊きたい事、尋ねたい事が沢山あるからな。
「で、ラミアの事に対しての情報は掴めたのかい」
「植物と言うよりも、半ば動物みたいな身体構造でした」
奴が根元に頭脳を持ってた事の報告は聞いているが、それ以外に未知の構造が存在していたらしい。例えば、核動力並みのエネルギー発生機関とかだ。
はっきりとした規模は枯れ果てているので、推定でしか出ないものの、あれは数万Kw級の発電機に相当するだけのエネルギーを生成していたらしい。
オタな話で申し訳ないが、これは某『機動戦士』に登場する、超大型〝動く装甲〟数機分にも匹敵するエネルギーである。今ある量産型の円盤獣に換算すれば、軽く十数機分にも当たるだろう。
「はっきり言って、生き物がそんな物を内蔵している事自体が非常識です」
「もし、本当にラミア。贋者だったらしいけど、がマルク両星の民を創造したとしたら、有り得そうだけどね」
そう、何と言ってもラミアは女神なのである。
それが女神の名を騙っているのなら、贋者であろうが持っていても当然なのかも知れない。
だって創造神の持つパワーから考えれば、核融合炉クラスの力なんかは、ほんのちっぽけな物に過ぎないと俺は考えるからだ。
天地創造とは最低でも惑星その物、下手すると星系丸ごとを創り出す力なんだからね。
「まさか……」
引きつっているズリルの顔を見るのは意外だな。
俺は「宇宙には、今の我々が想像を超えた者も居るのかも知れないよ」と前置きして、「もしかしたら小惑星クラス、いや、惑星規模の超生命体とかも存在してるのかも知れない」と、『時々、特撮やSFアニメでそんな奴が出て来る事もあるんだよなぁ』などと思いつつ話を続ける。
「宇宙船並みにでかい宇宙の虫みたいのが、無数に宇宙を泳いでるとか」
「悪夢ですな」
別次元の話だが某『頂点を狙う』に出た宇宙怪獣や、惑星その物がボスだった『電撃戦隊』の星王を思い浮かべる。
『太陽の使者』や『六神合体』にも、超生命体な宇宙の魔王やら疑心の皇帝が居たな。
本当にそんな奴が、この次元に存在しているとは思いたくはないんだけど、最近、何に対しても準備だけはしておきたいと思う様になってしまったのは、アステカイザーやらフリード星の魔神の事に触れたせいだろう。
「まぁ、それはなしにせよ。創造神だったら、惑星どころか星系の一つも造れるだけの力があるだろうしね」
「研究したい所ですが、元手が足りません」
「まぁ、今の所は光量子エンジンと偽ラミアの残骸の分析だけで構わないよ」
うちの予算は厳しいのは承知の上だし、それ以上にスタッフが足りないのも知っている。
ヒメノ兄妹とかが適任だったけど、行政方面へ編入してしまったからね。
それでも現物、遺跡から発掘した光量子エンジンと、枯れた偽ラミア本体が手元に在る分、徒手空拳よりは大分マシな筈である。
「それにしても……未だ、訳の分からぬ事件でしたな。殿下の誘拐目的とか……」
「一応、実行部隊の黒幕はバクだよ」
攘夷運動を隠れ蓑にして、俺をマルク本星へと拉致したのはあの男だ。
俺を拐かしたグループ内で彼だけが最初からラミア、偽女神の念波によって指令を受け取っていたのだ。
「本物の女神からのそれと疑いもせず?」
「そりゃ、表向きあのラミアだって、偽女神でございって言う訳も無いだろうしね」
「奴の尋問では殆ど有益な情報はありませんでした。ベガ王子暗殺と見せ掛けて保護し、イーヤハーテへ王子を連れて行く。それが女神の望みであった。その一点張りです」
「だろうな。偽女神にとってバクはただの道具だ」
可哀想だが、彼は偽女神にとって自分の指示通りに動いてくれる下僕だろう。
本人に聞いても無駄なのはそこから来ている。
偽女神から見れば、歯車に余計な情報を与える事は無いからだ。
バク本人は女神の腹心になったつもりで動いてたのだろうが、偽ラミアにとっては使い捨ての端末感覚の存在として、良い様に使い潰されたと俺は推測している。
彼は偽ラミアにとって唯一無二の存在では無く、表には出てないが代わりになる者達が、多分、複数存在している筈だ。
神とか女神とかのやり口は、某『最低野郎』で、ある銀河を長きに渡って裏から操っていた奴と同じだと思うからな。
「本物のラミアであれば、バクも幸せだったんだろうけどね」
「は?」
「いや、何でもないよ」
本物。『Xボンバー』に登場したあのラミアであったなら、こんな非情な作戦は行われなかったのだろうと思いたいからだ。
贋者は古代アズテク、つまりアステカの遺失技術によって創造された代物であると、俺はブラックミストから聞き出していた。
『多分、偽ラミアはアズテクの法則に従って、目的の為に他者を犠牲にする方法を使う必要があったんだろうけど……』
アステカの文化は犠牲、神へ捧げる生け贄を前提に作られた物である。
生み出した民を使い捨てにするのは、アズテクの考え方ならありなのであるが、少なくとも、俺が識るラミアちゃんはそんな物を忌み嫌っている女の子だったからだ。
本物であったなら、バクは使い捨てられる事は無かっただろう。
「拉致して、殿下に何をやらせたかったのでしょう?」
「尋ねる前に滅んだからな。おっと、枯れただけで滅んでないとの情報もあったな」
心の中に去来するのは、奴がやたら〝戦士〟と俺を連呼していた事だ。
何かのヒントなのかも知れないが、俺にはこの単語に心当たりは皆無である。
だから冗談めいて、「もしかしたら、ぼくには指先一本で大怪獣もひっくり返る力でも秘めているのかもね」と笑いながら言ってみる。
でも、これは吸血鬼や人造人間連れた、別の王子の能力だな。
「さて、そろそろ時間ですな」
壁に掛けられた時計をチラリと見て、ズリルがテーブルから立ち上がる。
補佐官として惑星行政の長官となってしまっている現在、彼は多忙なのである。
「ゆっくりお茶も出来ないか。僕もこれから儀式の練習さ」
「頑張って下さい。本番まであと一週間ですからな」
三日後には式典の為、フリード星まで赴く必要がある。
急ぐ旅では無いから、丁度、結婚式の前日に到着する様になっており、アクシデント等の万が一の事態に備えて、余裕を持ったスケジュールを取ってある。
自然災害の他、ブーチン辺りが何かを仕掛けるってのも考えられるからね。
「気が重いな」
「それでも、姫様の晴れの舞台ですぞ」
「ああ、分かっているよ」
そして三日後、マザーバーンはフリード星目指して旅立ったのだった。
〈続く〉
約4,500文字。凄いオーバーです(笑)。
と言う訳で、何か謎を沢山残したまま(と言うか、更に伏線を仕込んで)マルク編はこれにて閉幕。
無論、一時舞台を去った形のオストマルクの方々、そして偽ラミアはいつか再登場しますが、今は裏に引っ込みます。
で、次回から新章になります。
マルク編がオリジナルな舞台(でも出たのはマルク本星だけで、結局、東にも西にも行ってないのだな)であったのに反し、次はやや原作寄りになります。