ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは久々にクラシック。
『ブラームス』の「大学式典序曲」であります。
何となく行進曲にも共通点があって好きなんですよ。
物語内でも丁度、テロンナ姫の結婚式だし、そんな中で式に使われそうな曲だしね(笑)。

これを知ったのは遙か昔、レコードが現役の頃の時代だったですね。初めはその旋律から、軍楽隊の曲かと思いました(笑)。
日本じゃ、あんまりメジャーじゃ無いんだよねぇ。某『銀英伝』でも使われていたのかいないのかって所で、後は第二楽章のイントロがラジオの「大学受験講座」に使われていた位かしらん?



ロスト編
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「前方にゲルモスです!」

 

 ブリッジにその声が響いたと同時に俺はスクリーンに見入る。

 敵ガイラー艦隊は既に殆どが撃沈され、既に艦隊としての体を成していない。

 

「まだ、空爆ロボが出て来る可能性はあるな」

「戦力を温存しているとは思えませんが……」

 

 否定する艦長のヤマメだが、俺はそれを制して「慎重に行こう。ミニフォー戦隊、前へ!」と命令する。

 ガイラー軍の巨大母艦を殿に撤退しつつある敵を、散開したミニフォーが取り囲んで波状攻撃を加えて行く。

 

「殿下。お疲れ様です」

「ん、君も前線に出て来なくても良いのに」

 

 紫色のシャーマン服を身に付けたヨナメの声に、俺は後ろを振り返って答えた。

 前線指揮を始めて三年。

 ズリルに申し訳ないが、子育てもあるだろうに彼女は俺を補佐し続けてくれる。

 

「いえ、テイル殿ほどの力を持たない、己の技量の低さを痛感する毎日です」

「ズリル共々、君達夫婦は良くやってくれているよ。あの事件以来……」

 

 そう、あの事件だ。

 俺は回想する。テイル。アラーノとバンダー兄弟。そしてテロンナ姉様達がごっそりと居なくなってしまったきっかけを作ったフリード星での事件。

 昨日の事の様でもあり、そして遙か昔の事にも思えるあの一件。

 俺はそのきっかけを作った、先代デューク・フリードの顔を思い出していた。

 

「姫達にこの星域の何かを土産にしたいな」

「ルビーナ様にですか。でも、この星域にお菓子屋とか玩具屋があるとは思えませんよ」

 

 近くに居住惑星すら無いのだから当たり前だな。

 俺は苦笑して、鉱山惑星の鉱石を指定する。

 とげとげの六角柱が生えた巨大なクリスタル(水晶)だ。

 

「ああ、それなら姫様も喜ぶかも知れませんね」

「でもデュークは不満だろうな。フリード星の偏向教育のせいなのか、どんどん嫌な性格になりつつある」

 

 姫とは一つ違い、六歳のデューク・フリードを俺は嫌いだった。

 そう、全ては五年前に遡る。 

 

              ◆       ◆       ◆

 

 五年前。

 デュークとテロンナ姉様の婚姻が、フリード星で行われようとしていた。

 俺達も参列する為にベガ星からマザーバーンを駆って、テロを警戒しつつ到着していた。

 先日、オストマルクの攘夷派によって拉致される事件が起きたばかりだから、慎重に航海していたのだが(他に弟の妨害も警戒していた)、どうやら杞憂に終わったみたいであった。

 

「呆気なかったな」

「流石に警戒厳重と見ていたんでしょう」

 

 昨日の今日だからとテイルは指摘するが、その常識を敢えて突いて、テロをやる馬鹿も居たりするのであんまり同意は出来ないよね。

 

「ブーチンと父上も既に到着しているな」

 

 スクリーンに映る艦容を確認しつつ、俺は呟いた。

 この巨大なマザーバーンが小舟に思える程、馬鹿でっかい父上の、いや、ヤーバン軍の総旗艦『キング・オブ・ヤーバン』と、それに付き従うやや小さい、と言ってもマザーバーン並みのサイズがある弟の『プリンツ・ブーチン』の姿を確認する。

 うわぁ、艦隊を率いてるよ。

 ベガ星軍が貧乏だから、随伴艦無しの一隻なのに比べ、父上は親衛隊を引き連れているから豪華だよなぁ。

 弟の方もこれ見よがしに、数隻の円盤を引き連れている。

 

「兄の威厳が無いよな。まぁ、いいけどさ」

 

 マザーバーンはフリード星上空に待機する。

 フリード星は鎖国政策を採っているので、招待客の宇宙船が到着しても直接降りる事は出来ないのである。

 もっとも、例外が『キング・オブ・ヤーバン』だ。

 大王の旗艦だけは我が物顔でフリード星へ大気圏突入を図るのは、フリード星と我がヤーバンの力関係を体現していると思って良い。

 

「実質、属国だからなぁ」

「我がマザーバーンにも着陸許可が下りてますよ」

「まぁ、ヤーバン王族の船だからね」

 

 隣に位置する、弟の旗艦『プリンツ・ブーチン』も同様だろう。

 流石に建前上、兄である俺を差し置いて先に着陸する事は無さそうだったけどね。

 とっとと着陸して、奴の顔を見る前に父上と姉上に合っておこうと決心する。 

  

「これは……何だ?」

「変な反応ですね。微少ですが時空振に異常があります」

 

 しかし、この時、ブリッジの片隅でこんな報告がなされていたのだが、俺は愚かな事に「何か起こったの?」と問い返すだけで、「いえ、異常は消えました。計器の誤作動かと」との報告を聞くとこれを気にも留めないまま、見過ごしてしまったのだ。

 マザーバーンはやがて着陸し、俺は出迎えの車列の一員となる。

 

「ズリルやガンダルも連れて来てやれば良かったな」

「夫はお断りするでしょうね」

 

 彼らはそれぞれ、俺の領地であるベガ星やルビー星で、膨大な書類仕事を片付けている。

 もうすぐ、二つの星が統合されるので気が狂いそうな忙しさであるから、休養も兼ねて婚姻の儀に参加させてやりたいとも思ったんだけどな。 

 妻であるヨナメ曰く、「どの道、後回しにされた仕事が殺到するだけだ」だそうである。

 以前、フリード星に来た時は、まだ田舎星の補佐官だったからのんびり出来たけど、今はハードワークを抱える行政長官だからな。

 

「良く来た。王子よ」

「ベガ、久しぶりです」

 

 車列を降りて用意された宮殿の一角に通されると、そこには父であるヤーバン大王と姉のテロンナが待っていた。

 

「はっ、父上、姉上」

 

 父上は公式の場であるから、あの閻魔大王風の大王スーツを着たままだ。

 

「ブーチン・ヤーバン殿下のおなりぃ!」

 

 門衛の声と共に登場したのは我が弟である。

 

「遅参、失礼!」

 

 ブーチンに直接会うのは数年ぶりだ。

 黒づくめの服装で冷たい美少年と言った風であるが、その鋭い目には明らかに俺への憎しみが宿っている。

 おい、俺はお前に何か悪い事でもしたのかと問い返したいぞ。

 

「良い。久々に家族全員が集まったな」

「姉上、ご結婚、おめでとうございます」

 

 あ、祝いの言葉を弟の奴に先に言われてしまった。

 しかし、姉は「まだ式は明日よ」と釘を刺す様に微笑んで否定した。

 

「デューク・フリードとは既に面会したのですか?」

「いいえ、先程の通信で、こちらへ来るとは言っていたけど」

 

 俺の問いに姉が応じた時、再び「デューク・フリード殿下、おなぁりぃ!」との声が響いた。

 扉が開き、端正な顔の貴公子が現れる。

 つかつかと前進して、ヤーバン大王の前で頭を垂れると「おおっ、婿殿」と父上が顔を上げる様に促す。

 

「ヤーバン大王。そして皆様。遠路遙々、ようこそお越し下さいました」

「全くだ。俺は前線指揮に忙しかったのにな」

「ブーチン!」

 

 デュークの言葉を受けた弟が皮肉を言うが、姉上の叱責が飛ぶ。

 昔から思うんだけど、ブーチンはフリード星の事を軽んじている様に感じる。

 弱小の保護国だと下に見ているんだろうな。

 

「嫌だったら帰っても良いんだよ」

「なにぃ、ベガの癖に生意気だぞ!」

 

 流石に無礼なので俺が口出しすると、計算通りに怒りが俺の方を向く。

 お前、どっかの漫画のいじめっ子だな。うん。

 

「止めぃ。大王の前なるぞ!」

「ははっ!」

「失礼しました」

 

 で、父上の出番だ。

 馬鹿な弟も、流石に父に逆らう様な真似はしない。

 

「さて、宜しいかしら、皆様」

 

 一旦、騒ぎが収まった所で姉が「今日はめでたい報告があるのですよ」と切り出した。

 デュークも知らされていない様子で、訝しげな表情で婚約者の顔を伺っている。

 

「私、妊娠しています」

「おおっ」

「え、姉上?」

 

 その場で驚きの表情を見せる一行。

 姉はデュークにすっと近づいて、「五ヶ月目よ。そろそろお腹が目立ち始めるかしら」と呟く。

 

「その子は……」

「ええ、デューク。貴方の子供、フリード星の王族になる子供よ」

 

 

〈続く〉 




えーと、はい。マルク編から五年の歳月が流れました(まだ回想モードだけど)。
と言いますのも、今のままだとベガ王子がベガ大王になるのに時間が掛かるので、多分、今後もこの手法を使うと思います。
男の娘の容姿は余り変わりませんけどね。少年から青年になり、美少女が美女になる程度かな?

さて、五年後の世界ではデューク・フリードは代替わりしております。
元々、あれは「フリード星の公爵」と言う尊称なので、次代の後継者も同じ名前になります。つーか、こっちが『グレンダイザー』版のデュークです。
テロンナやテイル他、主要な脇役達が何処へ行ったのか、先代デューク(『宇宙円盤大戦争』版の方)がどうなったのかは乞うご期待。

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