実は前半は第98話の後半になる予定でした。でも、一人称と三人称が混ざるってのも変だから、独立させました。
後半の方は書き足しです。前半だけだと約1,700文字しかないので「流石にこれじゃ、短すぎるよな」って訳で、デュークの活躍を書いてみました。
作業用BGM紹介は、今回はお休みです。
いや、聞いてたけどね。『サマープリンセス』から「あたしは犬」とか(笑)。
長かった。
あの惑星テーラでの屈辱を晴らす為の旅が、まさかこんなに長く掛かるとは思っても見なかった。
だが、姫よ。
悪しき精神(こころ)を持つ者共の悪夢にうなされ、苦痛にさいなまれる愛しき女性(ひと)よ。遂に時は来たのだ!
「ドラグ様。恐魔要塞、転移完了です」
部下である竜兵の報告に、黒尽くめ鎧に身を固めた司令官は閉じていた目をゆっくりと開く。
「いよいよ、ですね」
「さて、奴らを殲滅出来るのかな?」
スクリーンに映る二人の男女。
女の方は「エンゼ」で、男の方は「デスク」と名乗っているコンビだ。
まるで忌むべき駄民の背中に翼を生やした様な姿をした奴らが、俺に問いかけて来た。
「今度は失敗しない。テーラの時は忌々しいアトランティスの奴らの介入があった」
本命であるマザープラネット《ゴルゴス》こそ、この宇宙へ出現させる事に失敗したが、分遣隊であるこの恐魔要塞だけでも戦力的には充分だろう。
そう、途中のオリオンで手に入れたあの忌々しい存在もある。
「恐魔龍を放て」
「了解。恐魔龍《バルバ》、《ゲセン》、《マホバ》を発進させます」
幸い、今度の奴らの本拠地にはろくな戦力が無いらしい。
衛星軌道上に待機していた宇宙艦隊は、ゴルゴスの転移の影響を受けて残らず壊滅している筈だ。
そいつらが沈んだ爆発の余波のせいで、マザープラネットの転移に失敗してしまったのだが、これは今、悔やんでも仕方あるまい。
「惑星上に居た戦力が上昇してきます!」
「構うな。恐魔龍に迎撃を任せ、我が恐魔要塞は恒星へ向かう」
予定ではマザープラネットの質量でロシュの限界を起こし、敵の母星を粉砕する筈だったのだが、これが駄目になったからには、第二プランに切り替える必要が出て来た為だ。
以前、惑星テーラで姫が試みられなかったプランを踏襲する。
ムー、その悪しき末裔達を一人残らず消し去る為に!
「ぐるるるる……」
「判っている。お前の姫様が、永劫の苦しみから解放される日も近いぞ」
司令官は縞模様の毛並みを持つ、猛獣に語りかける。
姫が連れていた唯一の臣下、恐るべきサイバネティックビーストである猛獣も興奮している様だ。
彼はがちゃがちゃと甲冑を鳴らしながら、指揮官席より立ち上がる。
「今回はアトランティスの介入は無い。ムーの奴らを殲滅するのだ!」
片手を挙げて吠える鎧武者の号令に、部下達は「おおっ」と力強く応えたのだった。
だが、画面のデスクが満足そうに頷く中、エンゼの方は心配顔である。
「どうした?」
デスクが問う。
「不確定要素があるのです。前に偵察した時には無い要素が……」
しかしエンゼは首を振って「戦士が……。あの戦士がここに現れる可能性は無かった筈」と、自分の言葉を自分で否定しようとして口を濁らせる。
顔が無表情な仮面に覆われたデスクと違い、エンゼの方は素顔なので感情の変化が容易な読み取れるのだ。
「以前、テーラのムーで出会ったあれか?」
「確かに似ています。ヒノ・ヤマトに……」
その該当人物はアトランティスと共に、テーラでの試みを阻止された最大の要因である。
もっとも、その彼の活躍のお陰でムー大陸は沈んでしまったのであるが。
「敵、恐魔龍と接触します!」
その言葉にデスクは意識をそちらへと向ける。
黄色い小型機が、今、まさに放った軍勢と交戦を開始しようとしていた。
◆ ◆ ◆
「スパイカースピン!」
ガッタイガーの外部にあった装飾状のカッターが高速で敵を斬り裂く。
前面に最初に現れた敵は、ここに居るよりも地上を走った方がお似合いじゃないかと思う巨大な四足獣だったが、驚いた事に真空の環境でも生存可能な様でもあり、毛むくじゃらでどんな原理かは知らないが、宇宙空間でも機動している。
だが、見かけ倒しなのか、その巨獣はあっさりとガッタイガーに真っ二つにされてしまった。
「まさか、生身か?」
ブーチン獣の様なサイボーグ兵器かと思ったが、敵の残骸に機械部品らしき物は見えない。
デュークは首を捻ったが、次の敵が現れたのを見て意識をそちらへ移す。
次の奴は蟹の様な土台から、幾つもの首が生えていると言った風情の、宇宙怪獣と行って良いグロテスクな形をした巨獣である。
進化の過程を無視して、混沌から生まれた様な宇宙生物が牙を剥いて立ちはだかる。
「ランダムの予言通りだとすれば……。俺はこれから行かねばならなくなる」
無数に生えた首には巨大な一つ目と牙の生えた顎が備わっており、ガッタイガーに食らいつこうとするが、フリード星の王子は華麗にそれを躱す。
「ニードルシャワー!」
機体上部から雨あられと射出される、超合金の針がその首をズタズタにする。
血飛沫を振りまきながら、だが、全てを潰した訳では無く、残った首の目玉が輝き、幾筋もの強烈な怪光線を放って来た。
何発かがガッタイガーに命中し、衝撃を受けるが大した事は無さそうだ。
デュークは衝撃に席から弾かれそうになるが、シートに内蔵した力場のホールドが働いて何とか耐える。
もし、大昔の物理的なベルト式の安全帯を使っていたら、締めた所に負荷が掛かって圧迫された内臓や骨が、どうにかなっていた所である。
「流石はグレン合金。だが、こいつらは前座だ」
遙か彼方、既に目視距離では捉えられないが、こいつらを放った母艦が本隊であろう。
主力が前線を離れて居るのには理由がある筈だ。
単なる威力偵察。
いや、ならば母艦はさっさとワープにでも入って撤退する方が正しい。
「あるいは陽動として味方を足留めさせて、別の目的を企むかだ」
デューク・フリードは蟹状の本体にニードルシャワーを叩き込んで撃墜すると、最後の恐魔龍を速攻で沈めるべく、機体を捻って突っ込んで行く。
〈続く〉
てな訳で『マシンザウラー』の軍勢登場です。
いや、他にも色々混ざってるけどね。
敵が恐竜人なのが、ちょっぴり『ゲッター』系の要素が入ってたりします。
【宣伝】
活動報告にも出してますが、なろう向けに執筆した『ハンプトン・ローズの蜂』シリーズをこちらへも掲載しました。
アメリカ南北戦争に魔女が介在して、青菜食ってパワーアップする水兵と闘う(て、それは外伝の方だ!)架空戦記です。宜しかったら読んで下さい。