叩いて、鳴らして、楽しんで   作:いひょじん

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はしめての感覚

「えーと、どういうことかな?」

「だから、もう1度さっきの演奏聴かせて欲しいんです!」

「え、俺の?」

「はい!」

戸山さんはキラキラした目で俺のことを見てくる。

「ダメですか?」

次は子猫みたいな上目遣いで俺のことを見てくる。

「ダメっていうかその…」

どんどん戸山さんの目からおねがいしますってオーラが出てきてやりにくい。

けど、俺は人前で演奏とかしたことがないからちゃんと叩けるかわからない。

何より今演奏してたものは俺が何回やっても成功してない曲だ。

言ってしまえば、完成してないものだ。

それを人に見てもらうのは生意気だけど俺の中にあるドラマーとしてもプライドが許さない。

だけど…

「お願いします!一度だけでいいんです!」

こうも必死に頼まれると断れなくなる。というか、戸山さん距離が近過ぎないか?

「わかっ…」

俺が承諾の返事をしようとしたら戸山さんと一緒にいた金髪ツインテールの女の子が俺たちの間に入ってきた。

「香澄は距離が近すぎだ、もうちょい離れる!ほら、さっさと帰るぞ!」

「えー、なんで?せっかく見せてくれそうだったのに」

「あたし達は練習終わったから帰るの!それにこんな人の演奏を聞いたところで意味ないだろ?」

「そんなことないよ!それに有咲だって凄いって言ってたよ?」

「と、とにかくこんな人の演奏聴いてる暇はないの!ほらとっとと帰る」

有咲と言われてた人は、戸山さんの腕を引いて部屋を出ようとした。

「ちょっと待ってください」

俺はそれを止める。

確かに俺の演奏はまだ未熟なところが多い。だけど、演奏を聞いてもない人に真っ向から否定されるのは腹が立った。

ドラマーのプライドとか言ったが、このままでは俺自身のプライドが許さない。

「そこまで言うんだったら、是非聞いていってください。最高の演奏をしてみせます」

「いえ、結構です」

「あなたはさっき俺の演奏は書く意味がないと言いましたよね?演奏を聴いてないのに意味がないと決めつけるのはどうかと思いますよ?」

俺がツインテールに挑発気味に話誘い込む。

「そ、そこまで言うんだったら聞いてやるよ!」

ツインテールの子は見事に挑発に乗ってくれた。

「そう来なくちゃ。じゃあ、ちょっと待ってくださいね」

俺らハイハットのボルトの締まり具合やスネアのチューニングを確認するためにドラムセットに戻る。

すると、スタジオの扉が開いてポーニテールの女の子が入ってきた。

「もー、香澄達何してるの?もう精算終わったから帰るよ?」

「あ、沙綾‼︎せっかくだし沙綾もこの人の演奏聴いてみようよ!」

「え、ちょっと待って。どういうこと?」

ポニーテール少女は突然のことに激しく動揺しているようだ。

「香澄がこの人がドラム演奏してるの見て、突然ドラム演奏してくださいとか頼み始めたんだよ。私はやめろって言ったんだけどな」

「あー、なるほどね」

ポニーテール少女は事情を理解して微笑を浮かべ俺の方を向いた。

「ごめんなさい、うちのバンドメンバーがご迷惑をお掛けしました」

「あ、全然構いませんよ。俺も人に見てもらったことがないからちょうどいい機会だと思ったんで」

「本当にすみません」

なんて礼儀正しい子なんだろ。たぶんこのバンドのお母さん的存在というかまとめ役がこの子なんだろうなって勘だけどそう感じた。

「みんな何してるの?」

今度はボブカットの子と黒髪ロングの子がスタジオに入ってきた。

「あ、りみりんとおたえもドラマの演奏聴いて行こうよ!」

それからまたさっきと同じような会話と反応を繰り広げ、結局5人は俺の演奏を見て行くことになった。

おいおい、ちょっと待て。初めは金髪ツインテール少女を見返してやろうと思ったのと、2人くらいならいいかと思って演奏を承諾した。

けど、なんか気づいたら5人になっていて今になって凄い緊張して来たんだけど。

けど、今更うじうじしてても仕方ないから、とにかく始めることにした。

「何か叩いて欲しい曲とかあります?」

「さっきの曲がいいです!」

「わかりました」

スティックを持ち、深呼吸をして呼吸を整える。そして前を見る。

戸山さん達がものすっごいこっちを見ているのにたじろぎそうになるけど、目を瞑ってもう一度深呼吸。

「よしっ!」

覚悟を決め、俺はアンプにつなげた音楽プレーヤーの再生ボタンを押した。

そして曲が始まり、俺だけの演奏が始まった。

 

 

気がつけば、曲が終わっていて、俺の動きも止まっていた。

そして、俺の演奏を見ていた5人は黙っている。

もしかして、俺の演奏が下手だったから言葉も出ないとかないよな?

これでも結構頑張った方なんだけどな。

そんなことを思っていると一斉に拍手が始まった。

「す、凄い!やっぱりあなたの演奏凄いキラキラしてます!」

「き、キラキラ?」

「はい!さっき見たときに凄いドキドキとキラキラを感じたんです!」

凄い擬音を使って説明してくれるけど、褒めてくれてるみたいなのでホッとした。

「どうでした、意味のある演奏を心がけたんですが?」

俺に火をつけさせた、金髪ツインテール少女に感想を聞いてみる。

「ま、まぁ良かったんじゃねー。思ってたよりは」

そういって顔をぷいっと背けられた。けど、その顔は嫌な感じはしなかった。

「あの、今演奏してた曲ってユニゾンの曲ですよね?」

「はい。ユニゾンの『fake town baby』って曲です」

「やっぱり!私もユニゾンとかよく聞くんですよ!」

ポニーテール少女とは仲良くなれそうだ。

それからボブカット&黒髪ロングガールズからもお褒めの言葉を頂けた。

「凄い演奏ありがとうございます!」

「いえいえ、俺も人前で叩くの初めてだったからいい経験させてもらいました」

「じゃあ、私たちそろそろ行きますね!」

「気をつけて帰ってくださいね」

「はい!あっ、私戸山香澄っていいます!」

「俺は飯島響弥っていいます。今日からここでバイト始めたんでよろしくお願いします」

「あ、やっばりバイトの人だったんですね!こちらこそよろしくお願いします!」

軽い会話をして彼女達は帰っていった。

俺もキリがいいので帰る準備を始める。

「そういえば、さっきはいつまのところミスしないでちゃんと叩けたな」

いつもは、二番サビ終わりのDメロのフィルインでタイミングがずれたり叩く回数が少なかったりとミスをしたいて、それが1ヶ月くらい続いたのに今日はそんなことが気にならないくらいうまく叩けた。

というか、今になるまでそのことを忘れていた。

たぶん、人に見られていつもと違う環境で演奏したからそれが良い方向に影響したのかな。

俺は嬉しくてニヤニヤしながら片付けを進めた。

 

「まりなさん、お疲れ様です」

「お疲れ様。もう練習は終わりでいいの?」

「はい。今日はいつもより上手く叩けて満足したんで」

「そっか。そういえば香澄ちゃん達に演奏聞かせてあげたんでしょ?」

「はい。けど、どうしてまりなさんがそれを?」

「さっき帰る時にね、香澄ちゃんが『バイトの響弥さんのドラム凄いですね!』って私に報告しに来てちょっと話をしてたのよ」

「あー、なるほど」

「香澄ちゃんだけじゃなくて、Poppin’Partyのみんなも凄かったって言ってたよ。良かったね」

「なんか改めて人にそう言われるのって照れますね」

「確かに。けど、響弥君はもっと自分のドラムの腕に自信を持たなきゃ!」

「はい。これからも精進します」

「うんうん、頑張って!お姉さんも応援してるから!」

「ありがとうございます。じゃあお疲れ様です」

「はーい、お疲れ様」

そして、俺は帰路に着いた。

 

帰り道で俺はあることを考えていた。

親戚の家にドラマがあって興味本位で触ってみたら思った以上に楽しくて、父親の勧めで中1の時にドラムのレッスンを受けたり本格的にドラムを始めてから約4年。

今までドラムを叩いてきて、常に楽しいという感情が湧いて来ていた。

けど、今日の楽しいは今まで演奏した中でも感じたことのない楽しいって感じだった。

なんていうか、人に見られることで、自分の演奏を聴いてくれる人がいるのが嬉しくて楽しいって感じだ。

こんな事感じたことがなくて、とても新鮮だった。

今まで、俺なんかの演奏は人に見せるものじゃないって思っていたけど、人に見てもらうっていうのはいいことなんだと今日知った。

また誰かに負ける機会があったら叩いてみよう。

その後の帰り道は嬉しくてちょっとスキップしながら帰ったのだった。




皆さん、お久しぶりです!
いひょじんです!
約2ヶ月ぶりで、大幅に投稿が遅れてしまいほんとうに申し訳ないです!
丁度、専門学校の卒業制作と補修やレポートやらで2ヶ月バタバタしていて投稿に手がつきませんでした…
けど、やっと卒業制作やその他もろもろが終わり時間が出来たので投稿を再開しました!
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