某提督の徒然ならざる日々   作:七音

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航空母艦 グラーフ・ツェッペリンの呼び方

 

 

 

「私に愛称、だと?」

 

 

 唐突な提案に、コーヒーカップを傾けていたドイツ国籍の航空母艦 グラーフ・ツェッペリンは、怪訝に眉を寄せる。

 発案者は、目の前でニコニコと笑うイタリア国籍の航空母艦、アクィラ。

 演習上がりの午後。庁舎二階のテラスでテーブルに着き、優雅にくつろいでいた所だった。

 

 

「そう! みんなとより仲良くなるには、やっぱり呼び方って重要じゃない?」

 

「うぅむ、そういう物だろうか」

 

「きっとそうよ! という訳でぇ」

 

 

 日本以外の国籍の空母同士という事もあってか、アクィラはグラーフによく纏わりついていた。

 あまりいい言い方ではないが、常に冷静な物言いをするグラーフと、社交的かつ色んな意味でフワフワした雰囲気のアクィラが一緒に居ると、そんな風に見えてしまうのだ。事実、二人の関係は良好である。

 だからであろう、アクィラの提案にも「そんなものか」と思っていたグラーフだが。

 

 

「マミーヤにメヤースバコォを置いて、貴方の呼び方を募集してみましたー!」

 

「なんだと!? あ、アクィラ、何を勝手に!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて」

 

 

 どこからか、手作りダンボール製らしい箱を取り出すアクィラには、流石に突っ込まざるを得なかった。

 飛び出た吹き出し部分に「グラーフ・ツェッペリンさんの愛称を大募集!」と書かれたそれは、ピンク色の包装紙で丁寧にデコレーションされ、おまけに二人のチビキャラまで描かれている。

 少し照れている様子のグラーフと、吹き出しを掲げているように見えるアクィラの絵は、恐らく秋雲の手によるものだろう。手が込んでいた。

 ちなみに、アクィラの目安箱の発音は、どう聞いても何かを殴打している擬音にしか聞こえなかった。特に後半が。

 それはさて置き。グラーフのツッコミを華麗に受け流したアクィラは、テーブルの上に中身をザバーっとひっくり返す。

 さほど大きな箱ではなかったのだが、中からは二つ折りになったアンケート用紙がこれでもかと溢れた。

 

 

「い、意外と多いな」

 

「ねー。みんな、貴方と仲良くなりたいのよ。これだけでも嬉しいでしょ?」

 

「ま、まぁ、な……」

 

 

 舞鶴鎮守府、桐林艦隊の総員は、おおよそで六十人から七十人近く。

 この量から察するに、ほぼ全員が案を投じてくれたと推測できる。

 図らずも、皆が自分を気に掛けてくれていると知り、こそばゆい喜びを感じるグラーフだった。

 

 

「よしよし、それじゃあ分類しましょうか。ぱっと見、被ってる愛称もあるみたいねー」

 

「そのようだな。これは、グラーフ。こちらもグラーフか」

 

「あ、貴方はまだ見ちゃダメ! こういうのはちゃんと集計してから発表するものなの!」

 

「そ、そうか。では、頼む」

 

 

 ついつい、手元に溢れてきた物の一~二枚を見てしまうツェッペリンだが、その手から慌ててアクィラが用紙を取り上げる。

 最終的に発表するなら構わないじゃないか、と思わないでもないけれど、アクィラは妙に張り切っているし、素直に従う事にした。

 ややあって、集計を終えたアクィラが「結果発表~!」と声をあげ、グラーフも申し訳程度に「わ、わ~」と拍手。案外ノリが良い。

 

 

「やっぱり、一番多いのはグラーフって呼び方みたい」

 

「うむ。私もしっくり来る。これ以上はないと思うのだが」

 

「待って待って、まだ結論づけるのは早いわ」

 

 

 仕分けされた用紙のうち、およそ半分近くを占めるのは、最も無難と思われる呼び方、「グラーフ」であった。

 無難とは言ったが決して悪い意味ではなく、用紙に添えられた意見欄には、「見た目の雰囲気と喋り方に威厳を感じるから」「呼びやすくてカッコイイ」「一番似合うと思うかも、です」など、好意的な意見が多い。

 余談だが、このアンケートは無記名投票なので、誰がどの用紙を投じたのかは分からない仕組みである。最後だけは特徴的な書き方(言い方?)で絞られそうだが。

 グラーフ自身、この呼ばれ方を好んでいた。

 しかし、他にも呼び方は投票されているようで、アクィラは次の用紙を手に取る。

 

 

「じゃあ次ね。こんなのはどう? グラーフ・ツェッペリン、略してグラッツェ! まるでイタリア語みたぁい♪」

 

「とても間抜けに聞こえるのは何故だ……? いや、イタリア語を馬鹿にしている訳ではなくてだな。遠慮したい呼ばれ方だ……」

 

 

 上機嫌に発表するアクィラと対照的に、グラーフは半眼でその案をやんわり拒否する。

 グラッツェ。イタリア語で言う所のGrazie……。「ありがとう」に通じる語感は、名前として呼ばれるとなると、どうなのだろう。

 意味合いとしては決して悪くないのだけれども、やたらめったら感謝の言葉を連呼されてもなんだか……である。

 またしても余談だが、一部の意見欄には「字面でピンと来た」「頑張って考えました!」「馴染みがあってぇ、とっても言いやす~いでぇ~すね~」と書かれている。

 最後のはおそらくポーラが書いたのであろうが、なぜ無記名投票なのにワザワザ自分の口調を文字で表現するのか。理解しがたいグラーフだった。

 

 

「えー。残念ねぇ。じゃあ次はぁ……これ! グラーフをもじって、グラたん! 美味しそうだわぁ」

 

「やめてくれ……。本当にやめてくれ……!」

 

「これもダメなの? じゃあ同じ感じのでぇ、グラリン!」

 

「ほとんど変わらないじゃないか!?」

 

 

 反応が良くないと見るや、二つの呼び方を続けて発表するアクィラだが、グラーフは頬を引きつらせながら、今度は明確に拒絶する。

 グラたん。野菜や魚介類、肉やパスタなどにホワイトソースとチーズをかけ、焼き目がつくまでオーブンで加熱するフランス料理……ではない。

 名前を縮めて最後に「たん」をつけて呼ぶというのは、日本の萌え文化において、お気に入りのキャラの名前をネタ的に表現する場合によく使われる。グラリンもそれに類する表現の一種だ。

 ない。これはない。例え善意で投票してくれたのだとしても、全力で御免被る案だった。

 こういうのに限ってちゃっかり無記名な辺り、むしろ笑いを取ろうという悪意を感じないでもないのだが。

 というか、なぜこのような知識が自分にあるのか、はなはだ疑問なグラたんもといグラーフだった。

 

 

「う~ん、困ったわねぇ……。なら、これからいくつか案を言うから、良さげなのがあったら教えて?」

 

「……分かった」

 

「じゃ、行くわよ?

 グラっち、グラグラ、グラっぺ、ペリちゃん、ペリカン、ペリっち、ペリリン、ペリー提督。

 どうかしら?」

 

「すまない。全部、全く呼んで欲しくならなかった。私は水鳥ではないし、ましてや開国を迫った事なんてある訳がない!」

 

 

 これならどうだ、とばかりに羅列するアクィラと、またも律儀に突っ込むグラーフ。

 ここまで来れば誰でも分かる。確実に遊ばれている。そうに違いない。

 先ほど感じたこそばゆい喜びから一転、これほど多くの仲間たちに遊ばれているという怒りが湧く。

 思わず、船体ごと過去にタイムスリップし、「開国するのだ、日本よ!」と高らかに叫ぶ自分を想像してしまったほどだ。恐ろしくシュールだった。

 実際の所、グラたん、グラリンと投票した人物が、無記名投票を良い事にイタズラした可能性も捨て切れないのだが、追求のしようもない。グラーフは仕方なく、怒りと共に飲み込む。

 一方で、せっかくの意見をずっと否定されてばかりのアクィラも、やはり面白くないようで。

 

 

「んもぉー、さっきから何? だったら貴方は、どんな風に呼ばれたいの?」

 

「だから、私は普通にグラーフと呼んでくれればそれでいいんだが……」

 

「けど、グラーフってドイツ語で伯爵って意味なんでしょ? それってつまり敬称で、距離を感じない?」

 

「む。ならば、提督のようにツェッペリンと呼べばいい。こちらはちゃんと人命だ」

 

「確か、ツェッペリン伯爵って男性なのよね。それは気にならないの?」

 

「ああ。むしろ誇らしいくらいだ」

 

 

 アクィラからの問いに対し、グラーフは胸を張って答える。

 ツェッペリン伯爵。

 本名、フェルディナント・アドルフ・ハインリヒ・アウグスト・フォン・ツェッペリンは、二十世紀初頭に実在したドイツ軍人であり、いわゆる硬式飛行船を実用化した事で有名な人物だ。

 かの陸軍中将を名の由来とし、背筋を伸ばす彼女の姿は、名前で遊ばれたから頑なになっているのではなく、心の底から自分自身を誇っているのだと、アクィラも感じ入るくらいに堂々としていた。

 こうまで言われて別の愛称を押し付けるほど、アクィラは独り善がりにはなれなかった。

 

 

「そっか。そこまで言うんだったら……あら? これって……」

 

「どうした、アクィラ」

 

 

 ──なれなかったのだが、ふと気づく。

 先ほど読み上げた一発ネタ用紙の中に、二枚重なり合った物があったのだ。

 確認してみると、それには「ペリーヌ。もしくはエリン」と、かなり真面目に考えてくれたであろう案が書かれていた。

 可愛らしい響きに、アクィラは目を輝かせて用紙をグラーフへ見せる。

 

 

「あらー! ねぇねぇ、この案はとっても良くない? キチンと貴方の名前から連想できる愛称だし!」

 

「あ、ああ。悪くはない、な」

 

 

 さしものグラーフも、不満要素を見つけられないようである。

 姓であるツェッペリン──Zeppelinをもじりつつ、女性らしい名前とした愛称。

 そんな風に呼ばれている自分を想像し、嬉しいような、気恥ずかしいような気持ちを感じたグラーフだったが、ややあって首を横に振る。

 

 

「……いや。この案をくれた人には申し訳ないが、私はやはりグラーフでいい」

 

「え? どうして?」

 

 

 驚き、今度は目を丸くするアクィラ。

 間違いなく好感触だったはずなのに、どうして? と言わんばかりだ。

 対するグラーフは小さく笑い、そして表情を引き締めてから続ける。

 

 

「私は軍艦だ。戦うために生まれ、敵を討ち滅ぼすために存在している兵器だ。

 ごく普通の女性のように名を呼ばれるだなんて、もったいない気がしてな」

 

「そんな事……」

 

 

 ないわよ、とアクィラは言いかけて、グラーフの上げた手に遮られ、口をつぐむ。

 

 

「すまない、違うんだ。私たちの在り方を憂いている訳ではない。

 ただ、今は戦う事に集中したい。

 この戦い、易々と勝てるものではないだろうからな」

 

 

 軍艦としての、兵器としてのグラーフ。

 それを扱うための統制人格として、女性をかたどって存在するグラーフ。

 矛盾するわけではないが、完全に両立するのは難しい。

 ましてや、戦いは現在進行形で続いているのだ。

 ならば優先すべきは軍艦としての己であり、本当の女性のような愛称など身に余る。

 そう言いたいのだろうグラーフの気持ちは、アクィラにも察しがつく。

 だからこそ寂しくて、より強い言葉で否定したかったアクィラだが、不意にグラーフが「しかし……」と付け加えた。

 

 

「いつか、この戦いが終わって。

 何か、奇跡のような事が起きて、私たちのような軍艦でも、一人の女として生きる事を許されたなら。

 私のようなモノを……ぁ、愛してくれる人に、出会えたなら。一度はそんな風に、呼ばれてみたいものだな……」

 

 

 遠くを見つめ、祈るように紡がれる願いは、言っているうちに照れてしまったのか、そっぽを向くようにして締めくくられる。

 アクィラが考えるに、「こんなセリフ私には似合わん」とか思っていそうだ。

 赤く頬を染めるその姿は、花も恥じらう乙女だと言うのに。

 

 

「大丈夫。きっと来るわ、そんな素敵な未来が。ううん、私たちで掴むのよ!」

 

「……ふふ。ああ、そうだな」

 

 

 二人は微笑み合い、これからも続くであろう、戦いへの気持ちを新たにする。

 確かな見通しは立たず、未来が明るいとも限らない。

 けれど、この仲間たちと一緒ならば。

 グラーフは自然と、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 甘味処 間宮に入ってすぐのコルクボードには、一枚のお知らせが張り出されていた。

 

 

「あ。呼び方、決まったみたいですね」

 

「そうらしい」

 

 

 足を止めた二人は、練習巡洋艦 鹿島と提督である。

 間宮たちの完全管理下に置かれ、一日一袋までと厳命されたポテチを求めて、わざわざ執務室から足を運んだオヤツ時の事だった。

 またしてもアクィラのお手製らしいお知らせには、「アンケートの結果発表~!」という表題の下に、集計結果が書き出されている。

 結果として、一番多く票を集めたのは「グラーフ」という呼び名だったが、一番下には彼女本人からのメッセージがあった。

 

 

『結果としてはこうなったが、強制するものではないので、好きに呼んでくれて構わない。これからもよろしく頼む』

 

 

 直筆のようで、少々角張った、まだ拙さの残る日本語だったけれど、それ故にグラーフの感謝の気持ちが滲んでいるように見える。

 少なくとも鹿島はそう感じたのか、楽しげに頷いていた。

 

 

「やっぱりグラーフさんかぁ。頑張って考えたのに……。

 でも、今までもそうでしたけど、凛々しい雰囲気がピッタリですもんね。

 私の案が採用されなかったのは残念ですが、納得です」

 

「ああ」

 

 

 言葉少なにではあるが、提督も鹿島と同じように頷く。

 こうしてアンケートをしたり、それに答えたりするのも、海外勢──グラーフたちが順調に艦隊に馴染み、皆が彼女たちを受け入れようとしている証拠。望ましい現状である。

 しかし、軽い足取りでお知らせを通り過ぎようとする鹿島をよそに、提督は少しばかり落胆した……様にも見える面持ちで呟いた。

 

 

「……いいと思ったんだけどな」

 

「はい? 何か仰いましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「……? あ、分かった! 提督さんも投稿したんですね? どんな愛称を考えたんですか?」

 

「言わない。秘密だ」

 

「えー、なんでですかー。イジワルしないで下さいよー」

 

「絶対に言わない」

 

「むー。なら、教えてくれるまで、ずっと腕をツンツンしちゃいますよ?」

 

「……好きにするといい」

 

「じゃあ遠慮なく。えいえい」

 

 

 ポテチを求めて進む桐林に追いすがり、彼の腕を笑顔でツンツンする鹿島。

 じゃれ合うようにも見える二人の姿を遠目に、ポテチを用意しながら間宮たちは思う。

 イチャついてんじゃねぇよ、と。

 統制人格同士の仲は良好でも、提督が絡むと途端に火花が散る、舞鶴鎮守府の日常であった。

 






 戦果報告! 我、相変わらずリアルがヤバいので、サクッと2018年冬イベを完走せりー!
 難易度は甲乙乙丙丙丙丁。せっかく実装されたのでE-7は丁を選んでみたんですが、超楽勝でしたw
 いやー、最終海域をあそこまでサクサク攻略できると、それまでのストレス発散になっていいですね。あまりに一方的過ぎて可哀想だったくらい。乙でもクリアできたか?
 ただし、ラストの長ゼリフは許さん。
 曲なんて流れなかったし、武蔵ので終わったと思ってタップする直前に「提督さん!」と呼ばれて、けっきょく間に合わず母港へ……。
 思わず「え、あ、うそ、ちょ待てよ!」とキムタクってしまいました。紛らわしいんじゃーい!
 これからクリアする方は、ぜひ気をつけて下さい。

 それはさて置き、今回は物欲センサーが優秀過ぎて、ドロ限定艦の入手に手こずりました。
 まぁ最終的には全員ゲットしたんですが、特に狙ってなかったレアドロのせいで、常に母港もキツキツ。イベント中はよくある事ですけども、海防艦はHP上げに使えるから解体できないし、一体何隻の夕雲型と海風と天津風と時津風と十七駆と大鯨を改修に使ったか。
 あ、二隻目のガン姉さんとかスパ子さんとか松風とか、三隻目のZ3とか大淀さんも拾いました(自慢)。
 あわよくばアイオワ二隻目とかサラトガ三隻目もゲットしたい所ですが、突破の時点で356隻で、三隈牧場を早く終えないと出撃すら出来ないという。
 お布施するからもっと母港を開放してー。

 とりあえず、日振・大東は先行公開されてたので省くとして、ガンちゃん(オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィアじゃない方)可愛い。マジで可愛い。700円払ってでも嫁にしたい。
 タシュケントをたしゅけんのは時間掛かりました。浜波をたしゅけんのにはもっと時間掛かりました。具体的には二隻目のジャヴィ子ちゃん掘っちゃうくらい。
 誰か忘れてる? ああ、E-7突破報酬のF6F-3ちゃんですね。貴重なF6F-5の材料、助かります! ……どうしてこうなった……。

 さてさて、本編にもサラッと触れますと、アクィラさんとグラ子さん、なんだか仲良し。そして鹿島さんは通常営業。
 本編ではグラ子さんの事を「ツェッペリン」と表記していますが、こちらでは「グラーフ」と表記します。
 ブレた理由? 今更ですが、なんだか文字数稼ぎしてるみたいに思えてきまして……。
 主人公も基本的にこちらでは「提督」、あちらでは固有名詞でいきます。ご了承下さいませ。
 次回更新は出来るだけ早めにしたいですが、ちょっと見通しが立たないので、確約は難しいです。申し訳ない。
 それでは、失礼致します。

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