吾輩はキャッスルである   作:さるかに太郎

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モヒカン、トサカにくる

 □スラム街 【魔術師】 ヨウ

 

 夜のスラム街、井戸の側。ルピーをじっくり焼いてる間、私はその辺の木箱に潜んでいた。

 

 むぅ、この木箱は入り心地がイマイチだ。やっぱり、ジャストサイズに変化できるアマちゃんでないと。落ち着かない気分で5分ほど待つと、井戸からドカンと大きな爆発音。同時に、システムメッセージが私のレベルアップを告げる。

 

 どうやら、アマちゃんはルピーを仕留めたみたい。だけど、あの予定にない爆発音はなんだろう。胸騒ぎがする。まさか、ルピーは特撮怪人のごとく死に際に爆発するタイプの敵だったのだろうか。

 

 急いで井戸に駆け寄る。バックドラフトに気をつけて、焼却炉にした井戸の蓋を開け、水魔法を放って消火。有害な気体が満ちてるので、風魔法で換気。それからロープを使って井戸の中に降りると……

 

「アマちゃん?」

 

 井戸の底に、アマちゃんは居た。初期状態のダンボールの姿で、全体にヒビが入っている。かろうじて割れていないといった状態。これじゃあ、あと一発まともに攻撃を受けたら、砕けてしまう。

 

 だけど、そんな事よりも、アマちゃんから返事が無い事が気になった。

 

 手を触れて《陽炎》を発動すると模様が変わる。〈エンブリオ〉としての機能は生きてるのに、返事が無いということは、

 

「もしかして、気絶してるの?」

 

 ……アマちゃんって、気絶出来るんだ。脳とかそういうの持ってなさそうなのに。

 

 疑問はさておき、激戦を超えたアマちゃんに声を掛ける。

 

「お疲れ様。あとひと頑張りだけ、お願いね」

 

 ここまでボロボロになったアマちゃんだけど、休ませてあげる事はできない。むしろ、もっと酷使することになる。モヒカンとの戦いで全損するだろうけど、再生したら謝ろう。

 

 このまま井戸の上に引き上げるのは難しいので、紋章の中に収納する。すると、井戸に残されたのは、私一人。急に静かになった気がして、心細くなってきた。

 

 考えてみたら、デンドロをプレイしてから一人になるのは始めて。いつもアマちゃんが側にいた。私の心から生まれたせいか、アマちゃんとは話しやすくて、一緒にいて心強かった。PKに挑む勇気だって湧いてきた。

 

 そのアマちゃんが、今はいない。

 

 あ、駄目だ、この考え方は駄目だ。これからPKと戦うのに、どんどん怖くなってくる。もうログアウトして、お布団に包まって眠ってしまいたい。

 

 無意識にメニューを呼び出してログアウトを選択しようとする右腕を左手で抑え込む。

 鎮まれ、鎮まれ私の右腕。言うことを聞いて。

 

 自分を奮い立たせる為に、戦う理由を思い出す。負ける訳にはいかない。テトラちゃんの、品評会を守らないといけない。

 

 このゲームでまともに会話したティアンは、テトラちゃんが初めてだ。

 

 ティアンが高度なAIなのか、本当に生きてるのか。〈マスター〉の間では意見が分かれているけど、そんなのはどっちでもいい。

 

 AIでも生命でも、テトラちゃんは自分の夢を持って頑張っている。その夢を掴むために、戦っている。

 

 そして、明日の品評会こそが、絶対に失敗出来ない、最大の機会なんだ。

 

 人には、絶対に失敗しちゃいけない機会がある。失敗すれば、心が折れてしまって、人と顔を合わせるのが辛くなって、引き篭もって、しばらくしたらすっかり視線が怖くなってしまうような、そんな機会だ。

 

 きっと、テトラちゃんにとっては品評会がそうなんだと思う。だから、力になりたい。失敗させたくない。

 

 心を奮い立たせると、暴走して勝手にログアウトしようとしようとしていた右手が止まった。

 

 大丈夫、私は、戦える。怖くない。

 

 深く深呼吸して、心を落ち着ける。今は、やるべき事がある。

 

 次の戦いに備えて、周囲に落ちていたルピーのドロップアイテムを確認する。

 

「これは……大当たりかな」

 

 まずは、【救命のブローチ】。これがあれば、一発はどんな攻撃にも耐えられる。今の状況において、これほど良いドロップは考えられない。

 

「ありがとね、アマちゃん」

 

 なんとなく、アマちゃんが命がけでもぎ取って残してくれた……そんな気がする。実際は乱数の賜物なんだろうけど、いい方に解釈したい。

 

 他には、【魔術師】でも着れる軽い素材の布系防具、通信機、それと……

 

「なんで【盗賊】がこんな大斧を持ってるんだろ」

 

 一際存在感を放つ、長い柄の付いたバトルアックス。装飾が一切なく、刃こぼれとサビが目立つ。

 

 【大鬼の手斧】……だと思う。大鬼モンスターの落とす、大きくて、重い斧。大鬼にとっては手斧だけど、人間大の〈マスター〉にとってはバトルアックスのサイズというアイテム。

 

 確か、wikiによると、攻撃力こそ高いけど、あまり性能の良いアイテムではない。装備にレベル制限はないけど、STRが足りなければ装備したところでまともに動く事も出来ない。そして、これを取り扱えるSTRがあるなら、もっといい装備を使えてしまう。

 

 使いにくい上にアイテムボックスを圧迫するので、ドロップしたらその場に捨てられる事もあるアイテムだ。

 

「とりあえず、貰っておこうかな」

 

 振り回すのは無理だけど、かろうじて持ち上げられたので、アイテムボックスにしまった。

 

「これで全部、かな?」

 

 取り残したアイテムが無いことを確認して、井戸を出る。

 

 外に出てすぐに、アマちゃんを召喚して中に入った。ダメージを受けているせいで、入り心地は普段より悪い。安心する手触りだった内部は、焦げやヒビで酷い事になっていた。

 

 それでも、やっぱりアマちゃんの中は安心感が違う。姿形を変えて、堂々と道の隅を隠れ潜みながら進む。

 

 目的地は、対モヒカン決戦の地。歩きながら、ルピーがドロップした通信機を取り出す。

 

 「ええと、通話はこのスイッチかな」

 

 あのモヒカンは、ルピーとパーティを組んでるだろうから、死亡メッセージは伝わっている。今頃、やっきになって私を探しているはず。

 

 そのことを踏まえ、通信機を起動した。周波数はすでに合わされていたようで、モヒカン・ブロイラーに繋がる。

 

 『……ルピーの通信機から連絡するってこたぁ、テメェがルピーを殺った野郎か』

 

 ドスの聞いた低い声。口調は静かでも、明らかに怒ってる。嫌だ、怖い、開口一番からこれなんて。

 

 大丈夫、思い出せ、掲示板に、怖いPKと相対する時に怖くなくなるおまじないが書いてあった。

 

『どんなに怖いPKも、リアルではきっと普通の人。あくまでこれはアバター。この人はコスプレイヤーのようなもの』

 

 自分に言い聞かせると、少しだけ勇気が湧いてきた。

 

 気持ちで負けちゃいけない。この人を踏み台にして、変わるきっかけにしてやるぞ、そのくらいの気持ちで戦わないと駄目だ。

 

「そうだよ。貴方の相棒を仕留めたのは、私。ルピーの仇を討ちたいなら、勝負してあげる」

 

 相手は目上だろうけど、挑発のため敬語は使わない。

 

『中央の広場に来い。決闘だ。落とし前をつけてやる』

 

「嫌。戦いたければ、こちらの指定する場所へ来て」

 

 戦場を選ぶ主導権はこちらにある。相手は、カリスマ悪役キャラのロールプレイヤー。仲間を殺され面子を潰されている以上、不利な戦場でも私を仕留めたいはず、なんだけど……

 

『そんな見え透いた罠に、乗るとおもうか?テメェは明らかに準備して俺たちを狙ってる。そんな奴の指定した場所で戦えるかよ。戦場は中央の広場。それ以外は受け付けねぇ』

 

 もっと、激情して勝負を受けると思ったんだけど、思った以上に冷静だ。煽ってみよう。

 

 「逃げるなら、それでもいいよ。『ブロイラー団』の無様を言いふらすまでだから。あそこのリーダーは、妹分が殺されたのにしっぽ巻いて逃げた腰抜けだって」

 

 『はっ。安い煽りだな。どうぞご自由に。どうせPKされた奴の負け惜しみとしか思われねぇよ』

 

 ……交渉って難しいなぁ。しかたない、同じゲームを好きな人間としてやりたくないけど、やるしかない。

 

「へぇ、敵陣には怖くて踏み込めない?しょせんモヒカン・ブロイラーなんて、戦車を持ち込めない基地の奥で待ち構えて、白兵戦で戦って強者ぶってるだけだもんね。戦車と生身で戦える他の四天王の方が、ずっと強いよ。実力で言えば、お猿さんよりは強いくらいじゃないかな。四天王のナンバースリー。蛙の方が、ずっと強いよ」

 

 〈マスター〉のモヒカン・ブロイラーではなく、彼がなりきっているキャラの方を貶める。

 

 辛い、心苦しい。敵を挑発するためとはいえ、好きなゲームのキャラを貶めるのは辛い。自分で自分の言ってる事に反論したくなる。

 

 だけど、効果はあった。モヒカンのトサカにきたようで、

 

『……場所をいいやがれ!!焼き殺してやる!!』

 

 演技とかキャラ付けじゃない、中の人から本物の殺意が伝わってきた。ちょっと言い過ぎたかもしれない。

 

 一度しかキャラメイク出来ないデンドロで、キャラなりきりするくらい好きなんだもの。そりゃあ、怒るよね。

 

 挑発に乗った相手に対決場所を伝えて、すぐに通話を切る。有利なポジションに陣取るため、対決場所に急いだ。

 

 ○

 

 ルピーを仕留めた井戸から少し歩けば、対決に指定した場所に到着する。スラム街の中のゴミ溜め。ちょっとした闘技場程度の広さを持った、ゴミの不法投棄場だ。

 

 廃材やらなにやらの処分に困った違法なゴミ回収業者がゴミを捨てて、スラム街の住民がそれを漁る。ある意味、とてもエコな場所。私にとっては潜むのに最適な場所。ここなら、何に化けたって溶け込める。

 

 そういえば、最初にこの世界に来たときも、ゴミ捨て場に逃げ込んだんだっけ。私はどうも、ゴミ捨て場に縁があるみたい。

 

 モヒカンが到着するまで、もう時間は余り無い。戦いの準備をしないと。

 

 「どこに潜むのがいいかな」

 

 相手の行動を考える。こういう時、自分が相手の立場ならどうするかを考えるといいって、何かで読んだ気がする。

 

 隠れる場所の多い不法投棄場に呼び出され、自分の能力は強力な炎魔法。【紅蓮術師】なら、炎耐性装備もしている。

 

 私が、モヒカンなら……最初にするのは……

 なら、私が取るべき戦法は……。

 

「うん、これならいけるかな」

 

 考えた結果、ここぞという場所に潜んで、待つことにした。

 

 ○

 

 待つこと十分程度。不法投棄場の入口付近に、ドスドスと荒い足音を立てて全身青タイツのモヒカンがやって来た。上方を用心深く見渡しながら、歩いてくる。

 

 相手はどのくらい、こちらの情報を掴んでるかな。一度ログアウトして、現実のルピーと情報交換してると考えた方がよさそう。

 

 つまり、上方からの奇襲は知られていて使えない。まず警戒されてる。

 

 やがて、不法投棄場の入り口、ゴミで自然に出来上がったアーチに辿り着いて、中に向かって、モヒカン・ブロイラーが口を開く。

 

 「おい!キャッスル野郎!聞こえてるか!今から十秒だけ時間をくれてやる!おとなしく出てきて、土下座して詫びを入れるんなら、許してやらんこともねえぞ!」

 

 許すというのは嘘だ。《真偽判定》は持ってないけど、あの剣幕はどう考えても姿を表した瞬間に攻撃してくる。

 

(お断りします。そんなことするくらいなら自害したほうがマシです。それより、早く戦いましょう。どうぞ中へ)

 

 《天の声》で声の出処を誤魔化して返答。声で居場所がバレたら全てが終わる。

 

 「そうか!じゃあ、死にな!」

 

 モヒカンは〈エンブリオ〉……6つの杖を砲身としたガトリングガンを召喚する。

 

 私も声を潜め、詠唱を開始。

 

風精(シルフ)風精(シルフ)、ちょいと力を貸しとくれ……」

 

 モヒカンがガトリングガンを不法投棄場に向けて構え、

 

「隠れ場所ごとふっ飛ばしてやらぁ!!《マルチプル・マジック》《ナパーム・ファイア》ぁぁぁぁ!!」

 

 6つの砲身から、一発づつ《ナパーム・ファイア》が飛び出す。あの《マルチプル・マジック》というスキルはwikiにのって無かったから、〈エンブリオ〉特有のもの。

 

 一発の魔法を六発に増やすとか、そんな効果だろう。威力増幅と共に、複数攻撃になることで【救命のブローチ】【身代わり龍鱗】を破壊した上でダメージを与えられる。分かりやすい能力を持った〈エンブリオ〉だ。

 

 一瞬で、不法投棄場が炎に包まれる。魔法が直撃した場所は吹き飛び、その周囲が燃え上がる。

 

 相手がどこかに潜んでいるなら、フィールドごと吹き飛ばすか、炙り出せばいい。理にかなった選択だ。

 

 私も同じ考えに至ったから、最初から中には潜んでいなかった。

 

 不法投棄場の入り口前……もし全体を燃やすために魔法を撃つなら、ここだろうなという位置の、さらに背後を取れる場所。

 

 モヒカン・ブロイラーの真後ろに私は潜んでいた。

 

 背中を向けるモヒカンに対し、《詠唱》で効果を高めた魔法を打ち込む。

 

「《トルネード》!!」

 

 紡ぐ魔法は、風魔法。破壊力は極小だが、物を吹っ飛ばす事に長けたもの。

 

 ダメージを与える魔法では、不意打ちでも殺しきれない。なら、貴重な不意打ちの機会は相手を移動させるのに使う。

 

 背中から風魔法を打ち込まれたモヒカンが、吹き飛ぶ。筋肉だるまに見えても、非力な後衛職。踏ん張る力は持っていない。飛ばす先は、正面の燃え上がる不法投棄場。

 

「後ろか、畜生がぁぁ!!」

 

 モヒカンが空中で振り返りながら、やみくもに何発か魔法が撃つ。私の位置を特定できていないのに、危うく命中するところだった。カンがいいみたい。

 

 山なりに打ち上げて、不法投棄場の中心近くに落とす。これで、すぐには脱出できない。

 

 炎のフィールドに落ちながら、モヒカンが絶叫する。だけど、相手は【紅蓮術師】。自滅しないように、炎耐性の装備はしている。この程度の炎では殺しきれない。

 

 だから、直接乗り込んで、この手で仕留めないと。

 

「《エンチャントファイア》」

 

 私もアマちゃんに炎耐性を付けて突入する。

 

 常に揺れ動く炎の中なら、炎に包まれた私が動いても目立たない。効果は実証済みだ。

 

 長かった今日一日、最後の戦いのフィールドは、炎に包まれた不法投棄場。

 

 ……勝てるかな。

 

 勝利の鍵を握るのは、アマちゃんの持つ《陽炎》《天の声》に続く、第三の隠密スキル(・・・・・)《天照》。

 

 私に勝ち筋があるとしたら、それだけだ。

 

 それだけだけど……勝ち筋があるなら、その可能性に、賭けてみよう。

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