吾輩はキャッスルである   作:さるかに太郎

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目指すはギデオン

□??? キャッスル【隠天岩窟 アマノイワト】

 

 吾輩が意識を取り戻すと、暗闇の中にいた。

 

 〈マスター〉がログアウトしてる間は、いつもこの状態だ。普段は意識を保っていてもつまらないので眠っているが、今回はとても寝付けない。

 

 身体が一度壊れて、再生した感覚がある。意識を失ってから、どれほどの時が経ったのだろう。ヨウはどうなったのか。今すぐにでも知りたいのに、取れる手段は何もない。

 

 ……デンドロの運営は、〈エンブリオ〉に対するサービスが悪いのである。せめて、ヨウの世界にあるネットのようなもので外部の情報が確認できればいいのに。

 

 ヨウ、大丈夫であるかなぁ。怖い目にあって、二度とデンドロやらないとか、そんな気持ちになってないといいのであるが。

 

 もしヨウがデスペナルティになったとしたら、戻ってくるまで三日。吾輩が再生するのに一日必要だったとして、あと二日待たないといけない。

 

 まったく地獄であるな。他の〈エンブリオ〉は〈マスター〉が心配で眠れない時間をどう過ごしているのか。

 

 しょうがないので、有り余る時間でこれからの進化について考える。せっかく思考能力を持って産まれたのだ。ぜひともヨウの役に立てる進化を考えねば。

 

 ヨウは、別に戦う為にこの世界に来たのではない。だから、隠蔽能力と居住性だけを伸ばせばよいと思っていた。

 

 しかし、この世界を楽しく生きるには、思ったより戦闘力が重要らしい。

 

 迷子の女の子を助けようと思ったら、最終的には上級職と戦う事になった。きっと、この世界では珍しい話ではない。

 

 物騒な世界である。人助けするにも力が、特にダメージソースが必要だ。

 

 しかし、吾輩の能力は隠蔽が基本。第二形態のリソースを普通に攻撃に回した所で、たかが知れている。もしも分厚い装甲を持つ敵と戦うとしたら、どうすればいいのか。

 

 そんな事を考えながら、48時間。待ち望んでいた感覚がやって来る。

 

 保管されてるどこかしらの空間から、いつもの紋章に引き込まれる感覚。

 

 ……ヨウが、この世界に戻ってきた感覚。

 

 何度繰り返しても、〈マスター〉に会えるこの瞬間の胸の高鳴りだけは、飽きないであるな。

 

『今行くのである、ヨウ!!』

 

 

□王都 アルテア

 

 目の前に広がるのは、夜明け前の薄暗い町並み。街の中心から離れた人気のないセーブポイント。即座に視界が動いて、路地に飛び込む。

 

 気がつけばヨウは既に吾輩の内部に居た。だんだん、ログインと同時に吾輩を召喚して路地に飛び込む動きが精錬されてきたようだ。

 

『お帰りである、ヨウ!また逢えて嬉しいのである!』

 

「ただいま、アマちゃん。私、やったよ!」

 

 ヨウは笑顔だった。ニッコニコである。誇らしげに笑うヨウから、吾輩が意識を失ってた間の記憶が流れ込んでくる。

 

 一人になってから、モヒカンに挑んだ記憶。炎の中、勇敢に敵に突っ込むヨウ。木っ端微塵になる吾輩。やっぱり《天照・超新星爆発》を使ったのであるな。我ながら、見事な吹き飛び方をしている。

 

 最後はどうやら自害してしまったようだが……目的を果たした以上、勝利と言っていいだろう。

 

『よく頑張ったのである。初クエスト、大成功であるな!』

 

「うん、アマちゃんのおかげだよ!」

 

 互いに喜びあって、それからデスペナルティの間に集めた情報……テトラが入賞した事や、王都包囲テロが終息したこと……を聞かせてもらう。

 

 一通り話すべき事を話し終えると、途端にヨウの顔が曇る。何か、言いづらい事を切り出そうとしているような、そんな表情。

 

『どうしたのであるか?』

 

 何か、問題でもあったのか。まさか、ゲームを初めてからやたら血生臭かったせいで、もうデンドロを辞めたいとか、そんな事を言い出さないだろうか。

 

「ごめんね、アマちゃん。自爆させちゃって……」

 

 『なんだ、そんな事であるか』

 

 ああよかった。引退宣言では無かった。

 

 確かに、〈マスター〉の感覚だと自爆スキルを使うのは酷い事をした気分になるかもしれない。なにせ、会話可能な意志のある存在を爆発させたのだ。

 

 ペットを爆破したと考えるとそれは気に病むだろう。後で再生すると分かっていても、実際やってみると物凄く後味が悪いにきまっている。トラウマものである。しかし、

 

『気にすること無いのである。主の役に立つのは〈エンブリオ〉の誉れ。自爆スキルだって、その為のもの。使うべき時に使ったなら、怒ることなんて無いのである』

 

 使うべき場面で自爆させられて怒る〈エンブリオ〉がいたら、ぜひその面を拝んでみたいものであるな。

 

 そう伝えると、ヨウはほっとした顔をする。

 

「そっか、なら良かった。お詫びに後で磨いてあげるね。アマちゃん磨くのって、ワックスでいいのかな」

 

『ぜひ頼むのである。それより、これからどうするであるか?』

 

 テトラの依頼達成という、当面の目標は終わった。普通のゲームなら次のイベントが発生する所だが、デンドロでは自分で新たに何をするか考えないといけない。

 

「それなんだけどね、王都周辺のPKが【超級】に全滅させられたでしょ。ようやく、外に出る事が出来るの。だから……」

 

 そこで、もったいぶるように一呼吸。そして、吾輩の〈マスター〉は次なる目標を発表した。

 

「王都を出て、冒険の旅をしようかなって」

 

 

 善は急げ、思い立った日が吉日。旅に出ると決めたら、即座に行動を始める。数時間かけて盗品市場で買い物したり、いくつかのギルドに忍び込んでいくつかジョブを取ったり、色々と冒険の準備を済ませる。

 

 やがて、朝日が登る。最後に訪れたのは、職人街のスターグ杖具店。王都を出る前に、テトラにクエストの報告と、挨拶をしようと思ったのだ。

 

 開店時間も来ている頃に訪れたのだが、店に入る事は叶わなかった。なぜなら、

 

「お客さん、増えてるね」

 

 開け放たれた店の入り口を覗き込むと、何人かの客が訪れている。閑古鳥が鳴いていた数日前と比べると、雲泥の差だ。

 

 客が手にした杖の解説を、テトラが一生懸命にやっている。要望を聞いて、条件に合う杖を見繕って……やがて、一つ売れた。

 

 まだ繁盛とまではいかないが、少なくとも第一歩は踏み出したようだ。

 

「この調子で軌道に乗るといいね」

 

『客が増えるのは良いことであるな。問題は、吾輩達が入り込むのが難しくなった事であるが』

 

 侵入するだけならできなくはないが、お客様と話しているのを遮ってテトラに話しかけるなど、引き籠もりのヨウには難易度が高すぎる。

 

 仕方が無いので、クエスト報告と挨拶を手紙に纏めて、郵便受けに放り込む。報酬の受け渡しは、直接会わなくても済むように指定の場所に埋めておいて貰っているので、問題ない。

 

 「手紙で済ますのはちょっと寂しい気がするけど、私、『次に会う時は、姿を晒してお客さんとして来る』みたいな事言っちゃってるんだよね。だから、これでいいのかな」

 

『いつか、有言実行出来ればいいであるな』

 

 これでやるべき用事は済ませた。後は指定した場所に埋めてある報酬を受け取って、旅立ちである。

 

 ○

 

□〈サウダ山道〉

 

 店を離れた吾輩達は、報酬を回収して、街の南門から出入りする業者の馬車に貨物として紛れ、王都を出た。

 

 旅の行き先は、ギデオンだ。近々大きなイベントが開かれるそうで、賑わっているらしい。

 

 〈サウダ山道〉を通り、ギデオン方面へ向かう馬車に揺られている間、報酬の確認をする。杖が一本と、手紙が一枚。

 

 まずは、手紙を広げる。書かれていたのは、テトラからクエスト受注のお礼と、無事に入賞出来た報告。そして、報酬の杖についての解説だ。

 

 「……今更だけどさ、テトラちゃん、口で約束しただけの〈マスター〉を信用しすぎじゃないかな。本当に私がPK倒しに行ったかも判らないのに、ちゃんと報酬埋めてくてれるし」

 

 『実は《真偽判定》を持っていて、言ってる事が嘘でないと見抜いていたのかもしれぬな。吾輩としては、人を見る目があっただけだと思うが』

 

 読み終わった手紙を丁寧に畳んで、慎重にアイテムボックスにしまう。思い出に永久保存するつもりである。

 

 次に、杖をあらためる。紅い鳥の彫刻が入った杖。スターグ杖具店に侵入した際に見かけた、テトラお手製の杖だ。

 

 その名を、【焦炎鳥葬 クリメイション・フェニックス】(テトラ命名)。

 

 一点物の自信作らしい。大仰な名前だが、〈UBM〉特典ではない。炎魔法を強化する《火炎適性》と、もう一つちょっと変わったスキルを持っただけの、普通の杖だ。

 

「格好いい……【焦炎鳥葬 クリメイション・フェニックス】……ふふ、これが、私の、初めてのユニーク装備……」

 

 初めての報酬を手に入れたヨウは、目を輝かせている。とても嬉しそうだ。デンドロでユニーク装備といえば普通は〈UBM〉特典の事を指すが、職人の一点物でも唯一品(ユニーク)であることには変わりない。

 

 世界でたった一つの、自分だけの杖。性能は〈UBM〉特典に及ばなくても、嬉しいであろうなぁ。

 

 適当に街から離れて人目の無くなった場所で、馬車から飛び降りた。このまま乗っていれば次の街に辿り着くが、それではあまりに味気ない。せっかくの旅なので、ゆっくり歩きで向かうことにしたのだ。

 

 王都アルテアとギデオンを繋ぐ、〈サウダ山道〉は、山道だけあってその辺に落石が転がっていたので、落石に化ける。

 

「初めの街から旅立つのに、ずいぶんかかっちゃったね」

 

『初心者のスタート地点を包囲して封じ込めるPKとか、悪質にも程があるのである。全滅したのは天誅であろうな』

 

 何はともあれ、ようやく冒険の始まり。景色のいい山道だ。歩きの旅も、きっと苦にならない。

 

「ギデオンまで、どのくらいかな……あ、敵!」

 

『さっそく杖を試すのである』

 

 見れば、50メテルほど離れた場所に、二足歩行の植物型モンスターが歩いていた。さすがに遠く、ここから魔法を命中させるのは、少し難しいかもしれない。……今までのヨウならば。

 

「火の王と契約せし魔術師、ヨウが願う!燃え上がれ地獄の業火!《ファイアーボール》!!」

 

 放たれる火球。距離があるせいで若干狙いが逸れて、このままでは命中しそうにないが……

 

 火球が、空中でその姿を変える。翼を持った、鳥の形。逸れていた狙いを、曲がって修正、命中させる。

 

 撃破。レベルアップ。植物型モンスターに炎はよく効いた。

 

 これが、この杖の持つ特殊効果。《魔法誘導(鳥)》

 

 魔法を鳥の形に変化させ、弱い誘導性能を持たせるスキル。

 

 魔法に軽い誘導性能を持たせる杖は、割とありふれている。『狙撃杖』とか呼ばれる分類だ。

 

 しかし、この杖のように魔法の見た目まで変えてしまう物は珍しい。テトラの職人としての腕前は、主に見栄えや楽しさを重視することに注がれているようだ。

 

「凄い……もっと撃ちたい……鳥型の炎、楽しい……!」

 

 お気に召したらしいヨウは、テンションが上がって、若干トリガーハッピーになってしまっている。

 

『慌てなくても、旅してればいくらでも撃つ機会はあるのである』

 

 そうやって、杖を喜んでいるヨウを見ていると、吾輩の中にある感情が芽生えてくる。

 

 あの杖を活かした進化をすれば、ヨウは喜ぶだろうか。

 

 今、吾輩の中には進化エネルギー的な物が渦巻いている。今日までの経験を元に、新たな力が生まれようとしている。

 

 そこに、語りかける。ちょっとこう、ヨウが喜びそうな方向で、こんな感じに進化してくれないかと。

 

 しかし、進化エネルギーは「リソースが足りねえよ」と言わんばかりに反逆……してる気がする。どうしたものか。

 

 ……そういえば、【襲撃者(レイダー)】というジョブが、下級職にも関わらず、全ての攻撃に3倍の補正がかかるというとんでもないパッシブスキルを有していた。

 

 あれは、『未発見』という限定条件を付けることで、少ないリソースで強力な効果を実現しているのだ。それを参考に出来ないか。

 

 進化エネルギーにその方向で相談すると、納得して貰えた気がする。さっそく、進化の構成が始まった。

 

 ブロイラー団との戦いで痛感した火力不足、始めての報酬、隠蔽を得意とする吾輩の特性、暗くて狭い場所が落ち着くヨウ。

 

 なんとなく、次の進化の形が見えてきたであるな。

 

「どうしたの、アマちゃん。ボーッとして」

 

『ああ、ちょっと進化が始まってたのである。そのうち完成するから、ゆるりと待っていて欲しいのである』

 

 「進化……そっか、アマちゃん、進化するんだね。お祝い、何がいいかな。等身大のアマちゃんの石像とかどうかな」

 

『それはただの立方体の石材である。お祝いなんてしなくても、吾輩は使って貰えるのが一番嬉しい……11時の方向に敵影である』

 

「煉獄より舞い上がれ、不死鳥よ、《ファイアーボール》」

 

 発射、鳥型に変形、命中、撃破。歩き狩りをしながら、ゆっくりと旅をする。急ぐ旅ではない。

 

 道中、美味しそうな木の実を見つけたら採って食べたり(ヨウによると、まあまあの味だが毒だった)

 

 池を見つけたら釣りをして魚を食べたり(不味かったが毒は無かった)

 

 美味しそうなキノコをデスペナルティ覚悟で焼いて食べたり(もの凄く美味かったが猛毒だった)

 

 ドロップしたモンスター肉を焼いて食べてみたり(焼いただけでは血生臭くて食えたものでは無かった)

 

 ポメラニアンを見かけたので、餌付けを試みて逃げられたり

 

 大量に失敗しながらも、引き篭もったままでは出来ないことを楽しんで進む。

 

「ギデオンに着いたら何しよっか。超級激突っていう凄いイベントやるそうだから、覗いて行こうかな」

 

 『出来れば不穏な事件など起こらないで、まったりと過ごさせて欲しいのである』

 

 目指すは、ギデオン。辿り着く頃には吾輩も進化している筈だ。

 

 ……内部で、吾輩が進化する先のイメージをぼんやりと感じる。この形状は……扉? 全体の形状は分からぬが、扉が付いてる事だけは分かる。

 

 ついに吾輩も扉付きの建物に進化であるか。ダンボールから大出世であるな。

 

 紙と木枠で作られていて、横にスライドさせて開ける方式の扉。……確か、天地や日本の建築様式。超有名な猫型ロボットの格納庫の扉がこれだった筈だ。

 

 この扉は、『ふすま』というのだったか。

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