吾輩はキャッスルである   作:さるかに太郎

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レギオン戦隊ムゲンジャーの登場は延期になりました


《まったり展開は星の彼方へ》

 □ギデオン 北門前 キャッスル 【陰天岩窟 アマノイワト】

 

 【亜竜甲蟲】を倒してから歩き続け、吾輩達がギデオンの北門に辿り着いたのは、ちょうどお天道様が東から登る頃だった。

 

 まだ朝早いというのに、門の前には大量の人だかり。皆、〈超級激突〉を観戦に来たのだろう。テロ防止の為か、簡単な入国審査と荷馬車の検査も行われている。その結果、混雑が生じていた。

 

 「ねえ、貴方はフィガロとジンウ、どっちが勝つと思う?」

 

 「そりゃあフィガロに決まってんだろ。ジンウだかジンバだか知んねえけど、黄河のランカーなんぞにフィガロが負けるかよ」

 

 「いや、俺はジンウちゃんを応援するね。俺の感が言っている、あのアバターは、実は可愛い幼女の姿をしていると」

 

 「レジェンダリア民が言うと説得力があるな」

 

 ギデオンに入る為に並ぶ人々の話題は、どちらの超級が勝つか、どちらを応援するか、そればかり。誰も彼もが、今日のイベントを楽しみにしていた。

 

 さて、そんな微笑ましい光景を、涙目かつ顔面蒼白で距離を取って警戒しているのが、我が〈マスター〉たるヨウである。

 

「人が……人が多すぎるよ……あんな所に近づいたら死んじゃう……」

 

 人間範疇生物の共通スキル《視線》には、ヨウに対して【恐怖】と【即死】の状態異常を付与する効果がある。

 

 となれば、あの人波に紛れて門からギデオンに入るのは困難。荷馬車の検査のせいで、普段のように荷物として運ばれる手段も使えない。

 

 おとなしく、人が減るまで待つしか……と、今までなら諦めるしかなかっただろう。

 

 だが、今は違う。進化した吾輩がいる。この程度の困難、打ち破ってしまえばいい。

 

 『ヨウ、こんな時こそ吾輩の新スキルを使うのである』

 

 「えーっと……《岩戸開き》のこと?そっか、こういう時に使うんだ」

 

 この状況を切り抜ける手段がある事を思い出したヨウは、北門へ続く道を外れて、ギデオンを囲う城壁の中で最も警備の薄い場所……門の存在しない、ただの『壁』の部分に向かう。

 

 当然、人目は無い。ただの壁に用がある人間なんて、そうは居ない。

 

 分厚い石で造られた城壁は、実に頼りがいのある堅固な造りだった。亜竜の攻撃くらいなら耐えられるように作ってあるのだろう。

 

 その壁に、ダンボールからふすまに変化させた吾輩をくっつける。そして、

 

「世界を閉ざす古の扉よ、番人たるヨウが願う。幻想と現実、2つの世界を繋ぐ、禁忌の道をいざ解き放ちたまえ……《岩戸開き》!!」

 

 特に必要もない《詠唱》を唱えながら、スキルを発動、吾輩をスライドさせた。

 

 吾輩の内部が、作り変わる感覚。取り付いた壁の中に、《岩戸こもり》とは違う空間が作り出される。

 

 誰かに見つかる前に、内部に飛び込むヨウ。扉を閉めると、外からの光が遮断され、中は闇に包まれた。

 

 「わ、真っ暗。非常灯とかないの」

 

 『明かりはセルフでお願いするのである』

 

 今回の進化は機能多めだったので、所々コストカットを受けている。照明機能は真っ先にカットされた部分だ。

 

 「欠陥建築だ……《ファイアーボール》」

 

 地味に精神に来る一言を発しながら、ぼう、と火の鳥を杖の先に呼び出し、明かりとするヨウ。

 

 炎に照らされた内部構造が、ヨウの目に映る。それは、人一人分の幅だけを持った、狭い通路だった。材質は、取り付いた市壁と同じ石造り。長さは10メテルほどで、城壁の幅と一致する。

 

 《岩戸開き》は、建物に取り付き、壁の反対側へと抜ける為の『隠し通路』に変化するスキル。変化している間は、常に一定のMPを消費する。

 

 ヨウが歩けば、カツカツと小気味の良い足音が内部に響く。通路サイズになると、いつもよりヨウが小さく見えるであるな。

 

 「これ、便利だけど悪用すれば酷いことになりそうだね。要人のいる王城に侵入して暗殺とか、宝を隠してる金庫室に侵入とか」

 

 確かに、盗賊や隠密系統の〈マスター〉がこの力を持てば、真っ先にそのような利用法を考えるだろう。しかし、

 

 『ヨウは、そんな使い方がしたいであるか?』

 

 「重犯罪者プレイはしたくないなぁ。ティアンに被害は出したくないし、重圧に耐えられないよ」

 

 この能力を持っているのがヨウである限り、問題はあるまい。犯罪者プレイはけっこう図太い神経が必要なのだ。遊戯派であっても、ティアンから犯罪者扱いされるのが辛いという理由で窃盗などの犯罪をためらう<マスター>はいくらでもいる。

 

 「でも、もし悪用しそうになった時は、止めてね。ちょっと自制出来るか自信ないから」

 

 『覚えとくのである』

 

 話してるうちに、ヨウは通路の出口に辿り着く。出口部分の吾輩をわずかに開いて向こう側を確認すると、そこは城壁の内側、壁と建物に挟まれた、狭い小道。

 

 周囲に人が居ないことを確認して、外へ。吾輩を壁から取り外せば、後に残るのはただの壁。侵入の痕跡は一切残らない。

 

 「侵入成功、だね」

 

 『これなら、もう転職にも苦労しないであるな。ギルドくらい楽勝で侵入できるのである』

 

 思い出すのは、最初にギルドに侵入した時のこと。もう、あんなに面倒くさい手間をかける必要は無くなるのだ。

 

「お姉ちゃんとの待ち合わせ場所に向かう前に、ギルドに寄って転職しておこっか」

 

 ヨウは既に【魔術師】をカンストしている。本来の予定であれば、王都で事前に取っておいた他のジョブにセーブポイントで切り替えるつもりだった。

 

 しかし、道中で亜竜級モンスターを撃破した事により、予定を変更。【魔術師】のレベル50到達、亜竜級の討伐、累計火炎与ダメージが一定以上。これらの条件を満たした今、つくべきジョブは一つ。

 

 足取りも軽く、市街地へ向かって歩き出す。目的のジョブは、【魔術師】系統の上級職。最強の攻撃力を誇る、【紅蓮術師】である。

 

 ○

 

「見て見てアマちゃん、【賢者】が使える最強の炎魔法、《ヒート・ジャベリン》」

 

 転職を済ませ、待ち合わせ場所に向かう道中、ヨウは新しく覚えた魔法を自慢したいらしく、何度も《ヒート・ジャベリン》を使って見せた。

 

 狙う場所は、ただの地面。鳥型に変化した《ヒート・ジャベリン》が、鋭いくちばしを地面に突き立てて、何の抵抗もなく潜って行く。一瞬で、焼き焦げた穴がぽっかりと空いてしまった。

 

 『おお、流石は上級職の魔法であるな。貫通力が段違いなのである』

 

 「ね、すごいよね!これなら火力で困る事はないよ!」

 

 吾輩としてもヨウが喜ぶ姿は最高に見たい物なので、魔法を使うたびに《ヒート・ジャベリン》を褒めているが、流石に5度目ともなると褒める部分が尽きてくる。

 

 次にヨウが魔法を使うまでに、新しい褒め言葉を考えねば。MP消費のコスパの良さあたりはまだ褒めていなかった筈だ。

 

 まったく、こうしてヨウが喜びそうな言葉を悩む時間の、なんと楽しいことか。嬉しい悩みと言うやつであるな。

 

 

 そうして移動していると、周囲の街並みが変わってきた。古びた建物が増えてきて、人影はまばらに。お祭り騒ぎの中央区からの歓声も遠くなり、とても静かだ。

 

 ヨウが重宝している『人見知りでもデンドロしたいスレ』の情報によると、ギデオンで一番人が少ない区画が、この『取り壊し予定区画』である。

 

 近々、大規模な都市計画により取り壊しが行われるらしく住民のティアンは大部分がよそへ引っ越している。

 

『気を引き締めるのである、ヨウ』

 

「どこからPKが襲ってきてもおかしくないからね」

 

  ティアンが少ない地区には、PKが多い。戦闘でティアンを巻き込む心配がないので、安心して町中PKができるからだ。

 

 そんなPKの巣窟に、ヨウの姉は拠点を構えていた。待ち合わせ場所に指定されたのも、その拠点だ。

 

 地図を見ながら歩いていたヨウが、その足を止めて、眼前の建物を見つめる。

 

 「ここ、だよね? お姉ちゃんの拠点」 

 

 地図で確認する限り、位置は間違いなく合っている。しかし、確認するヨウの声にはいまいち自信がない。

 

 なぜなら、指定された場所に建っていたのは、所々が朽ちて崩れた、木造の一軒家。ホームレスでさえ、こんな倒壊の危険のある家には住もうとはしない。

 

 果たして、こんな場所を拠点にする人間がいるのか。人目に付かないことくらいしか、取り柄はないだろうに。

 

 念の為、壁に耳を当てて、《音波探知》で内部を探る。建物の中にPKが潜んでいる可能性を考慮してのことだ。

 

「……動いてる物はないかな。お姉ちゃん、まだ来てないみたい」

 

 『とりあえず、中に入ってみるのである。最悪、建物が倒壊しても、吾輩の中にいれば無傷で済むのである』

 

「生き埋めになっても、魔法があればなんとかなるかな」

 

 中に入ると、ギシリと床板が嫌な音を立てる。いつ床に穴が空いてもおかしくない。

 

 しかし、ボロボロの外観ではあるものの、ある程度の清掃はされていた。蜘蛛の巣は張っていないし、ホコリも積もっていない。どうやら、拠点として使われているのは本当らしい。

 

  少し探索をすると、一部屋、ダイヤル錠のかかった部屋が見つかった。ヨウは事前に姉から伝えられていた番号に合わせて開錠する。

 

 中を覗けば、コーヒーメーカーやらテレビモニター、ゲーム機、電子レンジ、大型の通信装置など、おおよそアルター王国には存在しない家電製品で溢れている、実に近代的な部屋が現れた。

 

『ゲームの中でゲーム機とか、どんだけゲーム廃人なのであるか』

 

 試しにゲーム機のスイッチをいれると、ヒゲの配管工が亀の魔王と戦う名作レトロゲームのパチモノが起動した。

 

 この時代のゲームはプログラムが単純な事もあって、気合さえあればデンドロ内でも再現できてしまう。著作権の問題でキャラがパチモノになっていたり、ステージの構成が変化していたりするが。活動に資金が必要な生産職が、リアルで人気の商品の海賊版を作って売っているのだ。

 

 リアルの法に触れそうなゲーム機はさておいて、こんな家電製品が入手できる国は、デンドロにおいて一つしか無い。

 

 「ドライフ皇国の〈マスター〉なのかな、お姉ちゃん」

 

 『えっ、大丈夫であるか、それ』

 

 ドライフ皇国とアルター王国の関係は非常に険悪。アルター王国にドライフ所属の<マスター>が入ってくるというのは、あまりいい顔をされない。

 

 そんな敵対国家の〈マスター〉が、大イベントの開催される都市にいるとなると、それは、ちょっと、あんまりよろしくない事態を連想させる。テロとか。

 

「んー、多分、そこまで心配しなくても……あれ、これは」

 

 ヨウが見つけた物は、机の上に置かれた【テレパシーカフス】と、一枚のメモ書き。

 

 メモは、姉からヨウに宛てられたものだ。内容は、『もし自分が時間になっても待ち合わせ場所に来なければ、これで連絡して欲しい。連絡がつかなければ、すぐにギデオンから逃げるか、デンドロ内で一日経つまでログアウトして欲しい』というもの。

 

『なんか、穏やかでない文面であるな』

 

「とりあえず、連絡しよっか」

 

 さっそく装備して、起動。すぐにカフスから音声が聞こえて来た。

 

『あ、ヨウちゃんですか!?ごめんなさい、待ち合わせ場所に居なくて!!ちょっと今、立て込んでいまして!!』

 

 通信の相手はヨウの姉で間違いないだろう。切羽詰まっているようで、声に余裕が無い。

 

 ドカンドカンと何かが爆発する音に、ヴゥゥンとエンジンが唸る音が、カフスの向こうから聞こえてくる。

 

 「お姉ちゃん、もしかして戦闘中!?」

 

 『ええ、ちょっと敵に追われていまして!……ヒィ、危な!』

 

 悲鳴と、銃声。続いて轟音。

 

『ヨウちゃん、ごめんなさい、ケジメをつけるのに失敗しました!私は多分デスペナになります!今日はもう、一日ログアウトした方がいいです!』

 

 カフスからの音声に、ヨウは少しだけ面食らった顔をして……すぐに、やるべき行動を決めた。

 

 「お姉ちゃん、敵と戦ってるなら、援護するよ! こっちは【魔術師】50で【紅蓮術師】が1!〈エンブリオ〉は隠蔽型、出来ることは!?」

 

 『えっ、でも、ヨウちゃんを巻き込むわけには……』

 

 「お姉ちゃんが指示をくれなくても、私は勝手に戦ってる場所を探しに行くよ! だから、どうせなら連携させて!久しぶりにお姉ちゃんに会えるのに、デスペナルティなんかにさせない!」

 

 普段と比べて、ずいぶん強気なヨウの言葉に、カフスの向こうから迷う気配が伝わってくる。数秒の間の後、

 

『……助かります!その廃墟から北に行った広場が覗ける位置で、隠れていてください!敵を引き連れて行きますから、殲滅をお願いします!』

 

「了解!待っててねお姉ちゃん、すぐに行くから!」

 

 それだけ会話すると、通話が切れる。

 

 「そんな話になったから、戦いに行くよ、アマちゃん」

 

 ヨウは即座に部屋を出て、外へ向かおうとする。

 

 姉の危機とあって、かなりやる気のようだ。 しかし、吾輩としてはどうしても確認しなければならないことがある。

 

 『いいのであるか、ヨウ。 ここの様子を見る限り、お姉ちゃんはドライフの工作員でかもしれぬ。助けるなら、アルター王国に敵対することになるのである』

 

 単にドライフ製品を持っているだけでは、工作員とは決めつけられない。

 

 しかし、こうも人目を避ける場所に拠点を構え、現在何者かに追われているとなると、だいぶキナ臭くなってくる。

 

 姉が戦っている相手は、アルター王国を守る何者かかもしれない。いくら姉妹といえど、そんな相手に手を貸してしまえば指名手配される可能性もある。

 

 アルター王国以外にセーブポイントを持たないヨウが指名手配されれば、監獄行きの危険はすぐそばだ。

 

「大丈夫だよ。何をやってるのか知らないけど、助けてもアルター王国の損にはならないよ」

 

 『なんで、そう言い切れるのであるか?』

 

 「姉妹だから、かな。ずっと一緒だったから、なんとなく分かるの。お姉ちゃんは、昔から私に対して、もの凄く甘いんだ。私がアルター王国所属って知ってるなら、敵対するような行動はしないよ」

 

 その表情は、確信に近い物を持っている。

 

「だから、ドライフの工作員だったとしても、助けるよ。お姉ちゃん、私と一緒に遊べるように、ケジメを付けてくるって言ってたの。 きっと、ドライフを裏切って戦うとか、そういう意味だと思う。……お願い、力を貸して。絶対悪い事態にはならないって、保証するから」

 

 むう、そうまで言われては、信じるしかない。ズルいのである、ヨウにここまで信頼されてるなんて。

 

『お姉ちゃんの事、信じてるのであるな』

 

「ずっと妹やってるからね……行くよ、アマちゃん!お姉ちゃんを助けに!」

 

 『応である!!』

 

 ギデオンではまったりとイベントを楽しむつもりだったが、そんな展開は星の彼方へ消えてしまったらしい。さっそく、戦いがヨウを呼ぶ。

 

 だが、たとえどんな困難が待ち受けていようと、進化した吾輩とヨウの力があれば、切り抜けられる。

 

 そんな確信を抱いて、吾輩たちは新たな戦場へと駆け出すのであった。




次回 お姉ちゃん頑張る (予定)
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