吾輩はキャッスルである   作:さるかに太郎

8 / 15
原作のゼタ戦で盗賊系統の描写が出た結果、この話の中のルピーの【盗賊】描写について原作との食い違いやらリソース的に狂ってないかという部分が大量に出てきましたが、ご了承ください。


開戦【盗賊】ルピー・ブロイラー

 静かな路地に移動すると、戦いの準備を整えるため、ヨウは一度ログアウトした。戦いの基本は情報である。ゆえに、向こうの世界で情報収集するのだ。

 

 具体的には、『アルター王国PK晒しスレ』と、『アルター王国PK討伐依頼スレ』を覗きに行った。

 

 デンドロにおいてPKは自由だから責められるいわれはない。しかし、それはそれとして迷惑なので、PKされた〈マスター〉は腹いせにそいつの手の内を晒しスレで暴露する。

 

 もう少し過激になると、PKされた〈マスター〉はPK討伐依頼スレにも書き込む。悪のPKをPKする正義の味方ロールはとても楽しいので、PK討伐依頼スレはいつでも無償で悪質PKの討伐依頼を待ち望んでいるのだ。

 

 言うなれば、プレイヤーによる指名手配。PKをする者は常に晒され、狙われる事を覚悟せねばならない。……まあ、強いPKは普通に返り討ちにしてしまうのであるが。有名PKのバルバロイとかどれだけ殺し返してるのであろうな。

 

 捏造と冤罪と私怨が渦巻くスレなのであまり利用したくない場所だが、今回は利用できる物は利用する方針で行く。

 

 情報収集とリアルの準備を済ませてログインしたヨウと、さっそく作戦会議を始めた。

 

「晒しスレにいくつか情報があったよ。【盗賊】……ルピーの方は非力なAGI型で、〈エンブリオ〉は、《窃盗》特化じゃないかって推測されてる。モヒカンの方は炎使いで間違いないみたい。〈エンブリオ〉は魔法強化で、被害者みんな焼き殺されてる。活動時間報告によると、今日の深夜まではログインしてると思う」

 

 PKの活動時間は、被害報告をまとめれば割り出せる。平日の夕方にあたる日付のみにログインする『学生、社会人型』や『休日のみ型』、ヨウのように一日中ログインの『引きこもり廃人型』などだ。

 

 『ちょうど良いであるな。明日の品評会直前までログアウトされていたらどうしようもなかったのである。討伐依頼スレの方はどうであった?』

 

「朝にやられてた〈マスター〉がもう依頼を出してたよ。そっちは一人、討伐者が来るみたい」

 

 『ほう、この〈マスター〉不足の時期に動く者がいるとは、ありがたいのである』

 

 今は、一人でも戦力が欲しい……というより、大概の〈マスター〉はレベル6の吾輩達より遥かに強い。下手したら任せきりで片付いてしまうかもしれない。

 

 本当は吾輩達自身の手で片付けたいところだが、最優先は品評会の防衛。優先すべきを間違えてはならない。

 

「討伐依頼を受けたのは、【聖騎士】の〈マスター〉だね。その人に便乗して戦うのがいいと思う。……後は、無償でPKを引き受けてくれる特殊なPKに依頼を飛ばしてみたけど、今は王都に居ないからって引き受けて貰えなかった」

 

『なんであるか、特殊なPKって』

 

「【なりきり殺し(ロールスレイヤー)】ってPK。キャラなりきりを憎悪してて、なりきりプレイヤー限定で無償PKしてくれるの」

 

 それはまた、変わった嗜好であるな。キャラが嫌いで殺すのか、好きだから真似してる者が許せないのか。どちらにしてもロクな人物ではなさそうである。

 

『そいつがいればモヒカンの方はなんとかなったであるな……。まあ、いない戦力を考えてもしょうがないであるな』

 

「そうだね。いま使える戦力だけで、戦わないと」

 

 ステータスを覗いて、吾輩達の能力を確認する。

 

『基本魔法が使えるレベル6【魔術師】の火力と、第一形態キャッスルの防御力と、ジェムとポーションがいくらか、資金が5万リル、後は……』

 

「愛と勇気と、《天照》が一発限りだね」

 

『火力が足りないであるな。一発のみの《天照》では二人相手にはできぬ。ちまちまHPを削っても、回復されて仕留められないのである。……だけど、デンドロにおける殺し方は、何もHP全損だけではないのである』

 

 一対一であれば【麻痺】や【石化】をかければ戦いは終わる。喉や心臓の致命部位を破壊してもいい。……つまりは、やり方次第で()り方はいくらでもある。

 

 『ヨウ、ルピーとの戦いは、吾輩に策があるのである。吾輩の防御力が活かせれば、非力な【盗賊】であれば文字通り完封(・・・・・・)出来るかもしれぬ』

 

「うん、任せるよ。なら、私はモヒカンとの戦いで頑張らないとね。じゃあ、準備を始めるよ」

 

 ヨウによれば、【聖騎士】が動き出すのは深夜。いかにも金持ってそうな格好をしてルピーをおびき寄せるという。

 

 だから、吾輩達は昼過ぎの今から深夜までモヒカン達を撃退するための準備を整える事にした。

 

 金は全て盗品市場でポーションやアイテムに変えてしまう。どうせ死ねば失う金である。使わない理由は無い。

 

 万全の体制を整えて、ブロイラー団を仕留める。そして、テトラの助けになる。そうしたら……少しだけ、ヨウは自分に自信を持てて、視線恐怖症も改善するかもしれない。吾輩は医者ではないので、どうすれば視線恐怖症が治るかなど分からないが、出来そうな事は全て試すのである。

 

 ○

 

 夜が来た。スラム街を見回っていると、場違いな【聖騎士】の……男?女?中性的で良くわからない〈マスター〉を見つけた。

 

「間違いなく、あの人だよね……」

 

『間違いなくアレであるな』

 

 きっと彼(暫定)が討伐スレの【聖騎士】だ。金を持ってそうな格好をすると言っていたらしいが、全身金ピカ鎧でアクセサリーにジャラジャラ指輪を着けてる所を見ると、間違いあるまい。

 

 尾行を開始して、戦いの時を待つ。【聖騎士】が勝つならよし。負けるようなら、吾輩達の出番である。共闘は出来ない。発見されたら死ぬからだ。

 

 しばらく尾行していると、朝と同じように、盗賊の少女……ルピーが現れて、【聖騎士】に背後から近づいた。

 

 ヨウが、即座に戦いを見渡せる位置へ移動する。事前に伝えた作戦通りに。

 

 ルピーは、【聖騎士】のアイテムボックスに触れようとして……【聖騎士】が剣に手をかけるのを見て、慌てて飛び退く。紙一重で、放たれた【聖騎士】の斬撃を躱した。

 

 距離をとって、向かい合う。先に、【聖騎士】が口を開いた。

 

「貴様がルピー・ブロイラーか」

 

 むう、声を聞いても男か女か分からんのである。

 

「お、アタシの事を知ってんだ。嬉しいね。『ブロイラー団』も名が売れてきたってことかい」

 

 盗みに失敗したのに、ルピーの方は嬉しそうだ。強敵と戦うのが楽しいタイプなのかもしれない。

 

 「私は、貴様が犯した罪を償わせる為にここに来た。大人しく投降して、PKの被害者に償いをするなら良し。断ると言うなら……」

 

【聖騎士】の身体が光に包まれる。悪趣味な装備が、まっとうな聖騎士っぽい装備に切り替えられた。《瞬間装着》だ。

 

 純白の鎧に身を包んだ【聖騎士】が、悪しき盗賊を睨みつける。

 

「二度と王都で悪さをしようと思わないくらい、痛めつけてやろう」

 

 そして、戦いが始まった。一方的な虐殺であった。

 

 ○

 

 □王都アルテナ スラム街 【盗賊】ルピー・ブロイラー

 

 デンドロのPKにおいて、最も楽しい戦いとはどんなものだろうか。何も知らない初心者を殺す時か、それとも近い実力の相手を殺す時か。

 

 アタシが思うに、最高の戦いとは、PKを殺しに来た格上の正義の味方様を返り討ちにする事だ。

 

 悪事とは許されないから楽しいのであって、それを実感させてくれる正義の味方様はありがたい物だ。殺し甲斐がある。

 

 そこに、相性差によるジャイアントキリングが加われば、楽しすぎて脳汁がドバドバ分泌されてハイになってしまう。ちょうど、今のように。

 

 アタシと、【ジェム】生産貯蔵連打理論の使い手は最高に相性がいい。

 

 「ハハハ!!楽しいなぁオイ!そらよ、もう一発!!今度は何十万リルのジェムかな!」

 

 目の前に転がる、【聖騎士】だったボロクズに【ジェム】を投げつけ、炸裂する。電撃系の中級【ジェム】だったようで、視界を派手な稲妻が埋め尽くした。

 

「ぐわぁぁぁぁ!」

 

 アタシより二回りはレベルの高い格上。無様に這いつくばるその姿は、とても【聖騎士】とは思えない。

 

 【聖騎士】は両足が【凍結】した上で粉砕、【欠損】して動けない。全身は焼き焦げている酷い有様だ。

 

 ここまでしてもデスペナルティにならないのは、HPが恐ろしく高い上に、回復魔法が使えるからだ。耐久ビルドにしているのだろう。メインが完全防御系の【鎧巨人】でないのは【聖騎士】の方が格好いいとか、有名ティアンのリリアーナとお近づきになりたいとかそんな理由だろうな。

 

 ステータスは大部分をENDに当てて、攻撃力をジェムに頼る。そんなビルド。すなわち、最高の的。アタシの〈エンブリオ〉にとっては、カモがネギ背負ってやってくるような物だ。

 

「止めろ……もう、止めてくれ……」

 

 【聖騎士】が懇願の涙を流す。痛覚はカットされているので、痛みで流している訳ではない。この涙はもっと生々しい……例えるなら、FXで有り金全て溶かした人間が流す涙だ。

 

「やだよ。素寒貧になるまでむしり取ってやる」

 

 ブロイラー団に歯向かう者には、死よりも酷い最後を。アイテム全てひん剥いて一文無しにしてから殺す。

 

「《お前の物は俺のもの(オール・フォー・ワン)》」

 

 スキルを発動させると、【聖騎士】のアイテムボックスからジェムがいくつか飛び出て、アタシの手に引き寄せられるように収まる。

 

 アタシの〈エンブリオ〉、ドドメキのスキルだ。

 

 目玉の付いた小手というイカしたデザインのコイツは、相手のアイテムボックスの中身を覗き見る能力と、中距離にある好きなアイテムを、アイテムボックスの内外問わず引き寄せる能力を持つ。他のリソースは速度補正と盗難対策をぶち抜く出力に振られている。

 

 これに《窃盗》なり《強奪》を組み合わせる事で所有権を奪い、相手のアイテムボックスから好き勝手にアイテムを使うことが出来る。

 

 普段は戦闘中に使うことはあまりないが……コイツが最高にハマる相手が存在する。この【聖騎士】のような、【ジェム】使いだ。

 

 何十万とする高級【ジェム】は、使用者の心に躊躇いを生ませる。相手は格下だから安い【ジェム】で済ませよう、なんて弱い心は、誰だって持っているものだ。

 

 そこに、つけこむスキがある。相手の投げる低級から中級程度の【ジェム】に対して、相手から盗んだ最高級品の【ジェム】を叩きつけるのだ。

 

 他人の【ジェム】で戦うアタシの心に、躊躇いなんて物は存在しない。連続で繰り出される上級職奥義クラスの【ジェム】の前に、【聖騎士】はあっという間に両足と百万リル以上の資産を奪われたのだ。

 

 まったく、他人の金で使う【ジェム】は最高の一言に尽きる。この世で一番美味い料理が、兄貴の焼いてくれるケーキか他人の金で食う焼き肉であるように、デンドロで一番楽しい競技は相手の【ジェム】を使ったPKだ。

 

「次行くぞ!!コイツは5万リルくらいかな!!」

 

 奪った沢山の【ジェム】をお手玉しながら、適当に叩きつける。風魔法。真空の刃が【聖騎士】の腕を切断した。

 

「がああぁぁ!」

 

 一発づつ、《鑑定眼》で大体の価値を見極め、価値を宣言した上で投げつける。

 

「1万リル!千リル!8千リル!5万リル!千リル!20万リル!1万リル!」

 

 あああ、脳内麻薬が溢れてくる。他人の金を湯水のように使うこの感覚。これが楽しくて【盗賊】をやっているんだ。盗んだ金をスラム街にばら撒く義賊ごっこも楽しいが、浪費はもっと楽しい。

 

 今投げた分だけでリアル換算だと280万円。多分、アタシの小遣い一生分より高い。それだけあれば少年ジャンプの回し読みなんてセコい真似しなくて済むんだろうな。

 

「待て、降参、降参だ!もう止めてくれ!これ以上俺のジェムを無駄遣いしないでくれ!」

 

 ボロボロになった【聖騎士】は、ある意味、命乞いより必死な懇願を始めた。〈マスター〉にとって、時に金は命より重い。お前、さっきまで気取ってて、一人称『私』だっただろ。素が出てるぞ。

 

「知ったことかぁぁぁぁ!!喰らえ必殺!!《総額7桁万リル超え・フィンガー・フレア・ジェムズ》!!」

 

 めぼしい物は大体盗んだので、盗んだ《クリムゾン・スフィア》【ジェム】を5つ纏めて投げつけた。

 

 オーバーキルにも程があるが、盗賊は宵越しの金を持たない。盗んだ【ジェム】は景気よく使ってしまうのが粋ってものだろう。

 

「あああぁぁぁ!!俺が、一生懸命貯めたジェムがぁぁ!!」

 

 圧倒的な火力の5連発攻撃が、【救命のブローチ】を破壊して、【聖騎士】を焼き尽くす。悲痛な叫びを残して、【聖騎士】は己の【ジェム】によってデスペナルティとなった。

 

 【救命のブローチ】は高価いのでぜひ盗みたかったが、あいにく相手が装備中の物は引き寄せられない。近づいて直接盗もうとすると、〈エンブリオ〉によって一発逆転を喰らう可能性もあったので、素直に破壊する事にした。

 

 後には、めぼしいアイテムを盗まれたので、しょぼいアイテムがドロップしてるだけだ。

 

 「まったく、相性も考えないでこのルピー様に挑もうなんざ、100年はえーんだよ。殺されるような雑魚は、すっこんでろっつーの。デンドロは弱肉強食なんだから」

 

 いやー、楽しかった。ここまで豪勢に他人のアイテムを使える戦いは、久しぶりだ。【ジェム】生産貯蔵連打理論様様である。獣戦士ガードナー理論よりこっちが流行って欲しかった。

 

「そうだ、兄貴と連絡とらねぇと。えーと、【テレパシーカフス】はどのアイテムボックスだっけな」

 

 ……あまりにも楽しい戦いだったものだから、油断してしまった。興奮のあまり、周囲の警戒が疎かになっていた。戦いの直後に、のんきに通話を始めようなんて。……だから、上から迫るそれ(・・)に気が付かなかった。

 

 『弱肉強食、まったく同感である。殺されるような雑魚はすっこんでいるべきである。だから、これから殺されても恨むでないぞ』

 

「変形スキル《陽炎》が崩し――《アマちゃん梱包牢獄モード》!!」

 

 頭上から2つの声がすると同時に、凄まじい荷重の何かが頭から被さって、膝をついてしまう。

 

 対抗しようとしても、STRの低いアタシでは支えきれない。地面に手をついて、

 

 「が、な、何だ!?」

 

 周囲を見渡そうとして、真っ暗闇である事に気づく。手を伸ばそうとして、伸ばしきる前に壁のようなものにぶち当たった。

 

 全方位に壁がある。それも、ものすごく狭い。頭上に壁があるせいで、立ち上がる事も出来ない。これは……

 

「閉じ込められた!?」

 

 箱型の何かが、自分を覆っている。

 

 即座にナイフを抜き放ち、壁を斬りつける。しかし、狭すぎて十分に腕を振る空間がなく、威力の乗らないナイフは壁に弾かれてしまった。

 

 そんなアタシをあざ笑うかのように、狭い空間に声が響いた。

 

『ようこそ吾輩の中へ。吾輩はキャッスルの〈エンブリオ〉【隠天岩窟 アマノイワト】。貴様を葬る牢獄である』

 

 ……面白れぇ。ラウンド2って訳か。突如現れた新たな敵。コイツもきっと、アタシを楽しませてくれるに違いない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。