やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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少し間が開きました。

ちょっと入院の影響で体調を崩してまして・・・。

相変わらずの進行スピードですがよろしくお願いします!!


入学編10

 人間は自らより格下の人間に蔑まれることに高い嫌悪を抱く生き物である。正確には“格下だと思っている人間に”ではあるが、プライドと言う自らを形成する為に必要な安心を保つためにも、自分が底辺ではないと納得する為の言い訳としても、自らの下に人が居るという事実を触媒に劣等感を忘れ、優越感をもって安心を得るのだ。

 「天は人の上に人を作らず人の下に人を作らず。」かの有名な御仁の日本人ならば一度は聞いたことがある名言である。

 まぁ、確かに天とやらが人に上下を作らないのはあっているのだろう。と言うか天から見ればどっちにしろ下なんだから差別なく下だとか言いかねん気がしないでもないが、これを言った当の本人は自らの娘の結婚相手を身分で破談にしようとした、などの逸話が残っていることからも分かるが天は作らずとも“人間は人の下に人を作る”のだ。

 こと集団を形成している以上学校でもそれは例外ではない。特にこの第一高校ではスクールカーストとは別に学校公認差別助長制度こと“一科生と二科生の枠組み”まである。これで差別問題が起きないと思っているならその能天気さに失笑しか漏れない。

 さて、考え事をしている間に場もそろそろ煮詰まって来たな。諦めて現実を見るとしようか・・・。

 

「渡辺先輩、その一年生を風紀委員に任命するのは反対です。」

 

 そう叫んだのは以前話題に上った服部半蔵だっけか?まぁいいやここでは服部でいいか忍者ぽくてかっこいいし。

 問題はこの人、達也が二科生なのが気に食わないらしい。

 

「おかしなことを言う。司波達也君を風紀委員に推薦したのは生徒会長である七草だぞ。口頭でも指名の効力は変わらないはずだ。」

 

「本人が受諾していないと聞いています。」

 

「だとしても決定権は達也君にあって生徒会の決定は既に為されている。君に決定権があるわけではないよ。」

 

 ここで本来ならばこの話題の中心人物たる達也に話が行く流れだが服部は達也を見ようとしない。その姿勢からも達也に決定権があること自体に納得がいっていないことが分かる。

 当の本人は妹がいつ暴発しないかが気がかりであり服部の態度には(深雪の感情面での問題を除いて)欠片も興味が無いのか心底面倒くさいと思ってるのが付き合いの長さからか伝わってきた。

 

「過去、二科生(ウィード)を風紀委員に任命した例はありません。」

 

「それは禁止用語だぞ、服部副会長。風紀委員会による摘発対象だ。委員長である私の前で堂々と使用するとは、いい度胸だな。」

 

 このウィードと言う表現は“表向きは”使用禁止となっている。まぁ、ほとんど守られる状況になっていないのが実情だが。

 風紀委員と言えばこういった禁止行動(差別発言も含む)の摘発など構内の風紀を守るための組織と言うのが一般的だろう。

 だが、この学校においての風紀委員は少々毛色が異なる。第一高校での学校内の風紀を乱す事(主に暴動系)に対して実力をもって対応するための実働部隊である。だが、一般的な風紀委員に比べこの学校には“魔法の不正使用”に対しても対処する必要が出てくる。

 ぶっちゃけるならば魔法を使ってはっちゃける馬鹿を力技で黙らせることも仕事の内なのだ。

 であればこそ、その人選には魔法力高さや暴動鎮圧に向いた魔法力を持った生徒が選出されるのが一般的であり、“魔法力”をメインにする以上、魔法で劣るとされる二科生から選出しようと考える方が稀であろう。

 

「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか?

 一科生(ブルーム)と二科生(ウィード)の枠組みは学校が認めた区別であり、それを根拠付けるだけの実力差があります。

 有事には一科生(ブルーム)を実力で取り締まる必要がある役職だ。

 実力の劣る二科生(ウィード)に務まらない。」

 

「確かに風紀委員は実力主義だが実力にもいろいろあってな。達也君には展開中の起動式を読み取れる目と頭脳がある。

 これは使用された魔法によって罪状が変化する当校において今まで魔法をキャンセルさせたことで罪状が安定しなかった生徒に対する確かな抑止力になる。」

 

 この服部も普通の思考で考えるならば確かに理にかなったことを言っている。“実力が劣るから二科生”と言うのは純然たる事実なのだから。だが、エリート思想からかその方面での柔軟性が致命的に足りていなかった。

 

「・・・ありえない。基礎単一工程の起動式ですらアルファベット三万文字以上の情報量になる。それを展開中に読み取れるなんて出来るわけがない。」

 

「それが出来たからこそ任命しているのだ。実力で制圧するなら私が居るからな。私なら10人でも相手してやれるぞ?」

 

 驚きが勝るもののにわかには信じられない故に服部の反論は終わらない。それ故に兄への愚弄を黙っておけない妹がとうとうしびれを切らしたようだ。

 

「僭越ですが副会長。兄は実技成績が芳しくないですが、それは実技テストの評価方法が兄の力に適合していないだけなのです。

 実戦ならば、兄は誰にも負けません」

 

 その確信に満ちた顔に一同は驚いた。当の服部を除いては、だが。

 

「司波さん。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に見なければなりません。身内であれ身贔屓をするのは魔法師を志す以上やめるべきでしょう。」

 

 諭すような口調が深雪のヒートアップを加速させる。

 そろそろ不味いな。

 

「お言葉ですが私は身贔屓など・・・。」

 

「あー副会長?少し質問があるんすけど、いいですかね?」

 

 存在を完全に忘れていたのだろう。俺を見た服部は戸惑いつつも「君は・・・」と自己紹介が欲しいようだ。

 

「達也と一緒で風紀委員に推薦された比企谷です。

 さっきの話聞く限りだと、俺は達也に実戦で戦うと多分勝てないんですが、その場合風紀委員には不適格ですかね?」

 

「・・・ほう。二科生に劣る実戦能力ならば難しいだろうな。君も含めて再考した方が良いだろう。」

 

「そうなんですか。“入試成績次席”でも風紀委員になれないって相当な実力が要るんですね。

 深雪、うちの学年の人間は深雪以外で副会長のお眼鏡に叶う風紀委員は居ないみたいだぞ?」

 

 この発言に「ぎょっ」っとしたのか慌ててまくしたてる。

 おい、風紀委員長笑うな。

 

「ちょっとまて、君が次席入学なのは本当なのか?」

 

「ええ。特に魔法理論と魔法工学は達也君と同じで満点です。実技も文句なく次席。普通に見れば風紀委員としては文句ないわね。どころか生徒会に欲しいくらいの人材でしょうね。」

 

 生徒会長補足が入り俺にうまく乗せられたのに気が付いたのだろう服部が俺を睨む。

 おー怖い怖い。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

「なに・・・?」

 

 ここで今まで静観を貫いていた一番の当事者が動いた。

 やっと動いたか。だが、お前だけ悪目立ちするのは避けるべきだ。

 

「なるほどその手があったか。これでもし達也が負ければ今年が不作だったと証明出来ますしね。服部副会長も自分の発言の信頼度を証明する形になりますし良案なんじゃないですか?

 実力が足りない“二科生”ごときにまさか負けるなんてことないでしょうし?」

 

「おいおい、八幡。俺は深雪の目が曇っていないと証明しなければいけないんだが?」

 

 この発言から達也が“勝つ前提”だと察したのだろう。服部のプライドの限界はここまでだった。

 

「思い上がるなよ、補欠の分際で!

 お前もだ、比企谷。新入生が粋がるのも大概にしろ!」

 

「はいはい。言い合いはその辺りで。両者が納得するなら、模擬戦を承認するけれど?」

 

 ここがまとめどころと判断したのだろう。真由美が話に割って入った。

 

「俺は異論はありません。もともと私の提案ですし。」

 

「・・・いいだろう。身の程を弁える必要性を、たっぷり教えてやる。」

 

「わかりました。二人の模擬戦を了承します。」

 

 なんとかなったか。これで後は達也が勝つだけ・・・。

 

「比企谷、お前も準備しておけ。懸案事項は少ないに越したことはないからな。」

 

 渡辺委員長がいい笑顔でこっちを見ている。

 あれ、ミスったか?

 

 




やっと一巻の後半というところでしょうか。入学編いつ終わるのやら・・・。

今後も体調次第でありますが投稿していく予定ですのでよろしくお願いします。


誤字報告を毎度ありがとうございます!!
今後ともよろしくお願いします。

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