やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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やっとたどり着きました。
本当に入学編で30話弱かかってびっくりしましたが、とりあえず次章スタートです。


九校戦編
九校戦編1


 

 ”誤解は解けないだろ、もう解は出てるんだからそこで問題は終わってる。”と、あいつに言ったのは何時だったか。噂やレッテルの押し付けが始まり、俗世に蔓延した段階で一人の人間がそれに対して出来ることなどたかが知れている。ぼっちともなれば皆無に等しいだろう。

 言い訳なんて意味はない。人間、大事なことほど勝手に判断するのだから。

 ただでさえテロリストの襲撃、校内の差別問題の表面化、と校内の不安は最高潮だ。いくら、高い魔法技術を持ったエリートの集団であっても所詮は高校生。表に出さなくともこんな筈ではない理不尽に不満を持っているし、解決したとはいえ被った負債をどこかで精算したいと考えるのは自然な感情だ。そんなおり、分かりやすいほど敵に回しやすい奴が現れたらどうなるか。とても簡単だ。

 分かりやすい責任転嫁先にすべて押しつける。

 あいつは、雪ノ下は似たような場面で「もう一度問い直すしかない」と言っていたか。

 だが、うちの妹様の選択は。

 

「八幡さん。九校戦に出ましょう。」

 

 反論の余地無く真正面から叩き潰す。

 深雪は絶対零度の微笑みと、魔法の発動兆候がないのに完全に空気が冷え切っているA組の教室で静かに提案(宣言)した。

 

「え、いや出ないけど。

 ・・・で、九校戦ってなに?」

 

 八幡のノータイム拒否に、その場にいたA組の人間は凍死を覚悟したとか、しなかったとか。

 

 

 

 

 

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 話は少し遡る。

 ブランシュ事件が解決した魔法科高校で、俺は一部の人間から悪感情を向けられていた。

 と言うのも、第一高校では表向きこそ七草会長の演説によって差別是正の方針に舵が取られある程度学校が一つにまとまった風になったが、結局の所その直後のテロリスト騒ぎは多数の二科生が参加していたエガリテが手引きに参加しており、差別ではなく批判的な方向での溝が形成されつつあった。だが、テロリストの手先筆頭の壬生先輩が実は精神汚染の被害者であることが伝わり必ずしも加害者と言いきれない部分から同情的な空気が漂うと同時に、とある噂が流れた。

 

"壬生先輩を保護した目つきの悪い一科生がその戦闘の際、彼女に言い掛かりのような誹謗中傷を言ったらしい。"

 

 振り上げた拳の落とし所が無くなった二科生や、差別的な行動に多少の罪悪感を抱いていた一科生などを中心に瞬く間に広がったこの噂はその"目つきの悪い一科生"を即座に特定し、表向きこそ何もしないもの遠巻きから悪感情をさらされる結果となるまで時間はかからなかった。一校ではしばらく、昼食の話題には困らないだろう。

 不幸中の幸いか、共通の敵が出来たことで一科生と二科生の溝は少しづつだが狭まっており、会長の意向に沿っている事もあったため、”七草会長の意志の元やっている”と言う連帯感のような物が生まれる結果となった。

 しかし、幸いと言うべきか例外も存在する。

 特に、うちのクラスことA組は俺への理不尽な差別は妹様の不況を買うことがよく分かっており(実際に公開処刑が発生した。哀れ滝崎・・・栗崎だったっけ?)結果、その様な自殺願望者はもういない。更に、噂の内容に不可解さを感じて詳しい説明を深雪から聞いた雫と光井が”これは精神汚染のダメージ緩和を目的とした自己犠牲に基づく善行”(深雪の説明が元になっている為、八幡擁護の極致のようになっている)だと、クラス内に周知したことで比較的俺への感情は肯定的だ。

 だが、それが更に面倒な状況に拍車をかけた。

 単純に言えばA組の綺麗どころが揃って俺の味方をしている状況に俺への悪感情を向ける人間の嫉妬心やらプライドやらを刺激する結果となり謎の敵愾心が渦巻き始めたのだ。俺としても変ないじめに発展した場合に深雪達が巻き込まれるのは本意じゃない。上手く深雪達と距離を取ろうとしたが案の定読まれ、逃げようとする度に捕獲か行き先に先回りされるといった謎の捕り物を繰り返す結果となった。結果、俺の入学からせっせと発見していたベストプレイス(ぼっち飯出来る場所)は深雪達に完全にマッピングされてしまった。

 この追いかけ回される状況もただの知り合いが困っているが故のお節介なのだが、そこは思春期真っ盛りの高校生。あらぬ勘違いが勘違いを量産し最終的にはA組以外の人間からは"精神汚染された女生徒に誹謗中傷をかけるだけでなく、A組の綺麗どころ3人に護られるクズ野郎"が完成するに至った。

 それに加え状況を混乱させたのが、この騒動の発端である壬生先輩本人の行動だ。壬生先輩はこの八幡の誹謗中傷について責めるどころか、噂をこれ以上流すのを止めるよう皆に呼び掛けて回っているらしい。流石にこの行動は予想外だった為どういうことか調べたところ壬生先輩とあの桐原先輩はこの事件を期に交際を始めたらしく、その桐原先輩が壬生先輩から聞いた話の内容に違和感を感じ、達也を通じて真相を聞きに来たらしい。

 退院後、学校の状況を見た壬生先輩はこの噂を是正する事が最初の罪滅ぼしだと言っていろいろ動いてくれているらしい。・・・・・・八幡予想外。

 紆余曲折あったが最終的には"何らかの理由があったにせよ、やり方が不味すぎる"というのが大多数の生徒の見解として浸透し、一部は未だにやっかみの視線を向けてくる状態がデフォルトとなった。まぁ、ざっくり言ってしまえばこんなクズが深雪達と行動を共にしているのが許せない、何様だ?といった感情が学生の総意となってある意味学校がまとまっている。

 

 その代償として周りの悪感情に比例するように深雪達の機嫌が悪くなっていくのだがな・・・。

 

 

 

 

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~雫side~

 

 

 

「え、いや出ないけど。

 ・・・で、九校戦ってなに?」

 

 え・・・内容知らずに断ったの・・・?

 断られる可能性は予想してたけど、まさか内容を理解する前に拒否されるのは予想外。おかげで少し絶句してしまった。

 そもそもの発端は八幡の不名誉な噂だ。

 噂なのだからあること無いこと尾ひれが付くのは今更だがそれにしたって限度がある。何より、今回の事件の功労者であり、実際にテロリストと戦って私達を守ってくれた人間を何もしてないその他大勢が取り囲んで攻撃するなんて言語道断。

 なのに、八幡に言ったら「いや、まるで俺にでけえ影響力があるって勘違いしそうだわ。普段認知されないぼっちには新鮮。」とか言ってるし。元々影響力大きいでしょ、学年次席なんだから。

 そこで、深雪達(深雪とほのかと私)で話し合った結果、この不名誉を払拭するには八幡の実力を叩きつけるのが一番早いって結論になった。そもそも、この悪い噂も八幡が壬生先輩をケアするだけの力があるのか疑問に思っている部分と、八幡の実力も見ずに見た目(八幡の基本的な印象は目つきが悪くて猫背で愛想が悪い)で判断しているのが多大な原因だと思う。見た目に関してはみんなで改善していくとして、能力に関しては素直に格の違いを見せれば良いだけなんだから本気を出させたら良い。

 後は、本気を出せる場所に連れて行くだけなんだけど・・・。

 

「魔法科高校に通ってて九校戦を知らないのはどうかと思う。」

 

「聞いたこと無いですか?

 モノリスコードとかアイスピラーズブレイクとか?」

 

 ほのかが補足説明をしてくれてる。

 本当に八幡は物知りなのか世間知らずなのかよく分からない。

 

「あーなんかテレビでやってたな。て言うか、それって出るの3年じゃないのか?」

 

「新人戦がある。

 それ抜きにしても実力で選べば八幡と深雪は出ることになったと思う。」

 

 凄くめんどくさそうな顔してる。普通は九校戦に出れるって名誉な事だし、魔法科高校に通う人なら憧れるものだと思うんだけど・・・。少なくとも嫌がったりするのは相当少数派だと思う。

 

「ていうか、どの話の流れで九校戦に出る話が出たんだ?」

 

「八幡はそろそろ本気出すべき。そうすれば少なくとも侮った目で見られることはないと思う。」

 

 八幡は「気にしなくて良いんだがな・・・」って呟いてるけど、友達がこうも見下されるのは凄く不快。目標にしてる人なら尚更。

 

「それもあるのですが、そろそろ八幡さんの活躍が見たいと思いまして。」

 

「いや、別に俺なんk・・・。」

 

 

「八幡さんの活躍が見たいと思いまして。」

 

 

「・・・・・・はい。」

 

 八幡に自殺願望がなくて良かった。私達も不快だったけど、深雪は殺気を押さえるのに必死と言わんばかりで不快感を溜め込んでたからどうにかしないとって動いて良かった。

 ・・・・・・後、八幡。私まだ死にたくなかったから、とてもとても助かった。

 

 

 

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~戸塚side~

 

 

 

『そろそろ俺は罪悪感で死ぬ』

 

「深雪さんたちは良いとしても、壬生先輩のあの行動は予想外だったね・・・。」

 

 僕も下手人だからそこはかとないダメージがあるね、うん。

 と言うのも、この"壬生先輩を八幡が誹謗中傷した。"って言う噂を流す計画は八幡の指示の元、僕がセッティングしたもの。「差別是正をどうにかするなら、互いに遠慮を孕んでるこのタイミングで団結する様に仕向けるのが一番手っ取り早い。目には目を、マッチポンプにはマッチポンプを、だ。」の発言の元、分かりやすい共通の敵を製作することでまとまる下地を作るのが目的だった。要するに、達也への差別意識をどうにかしたいみたい。

 

『壬生先輩には真相はどうあれ、普通に俺のこと嫌いになるようには言ったはずなんだがな・・・。』

 

「壬生先輩のメンタルの強さが八幡の予想を超えてきたって事かな?」

 

 計画自体は概ね順調だったし、独断ではあるけど"あの行為はある種の医療行為"って内容も撒いて八幡自体の能力を見せればそういった配慮が出来るのも肯けるって方向へ持って行くアフターケアの準備もしてたんだけど、まさか本人直々の否定が入ってまとまりきる前に八幡否定派と肯定派で二分化する予想はしてなかった。

 被害者本人であり、さらに壬生先輩本人が結構人望があることも追い風となって二年生の二科生はかなり噂には懐疑的になってるみたい。はっきりと物を言う性格なのも信憑性を上げてる。

 まさか、騒動を招いたのが渦中の八幡本人とは誰も思わず、善意の行動によってあらぬ方向へ学校はまとまっていってしまったのが今回の事件の真相だったりする。

 

「まぁ、でも結果として一科生と二科生が混ざり合った謎の徒党があちこちで発生してるし、結果オーライなんじゃない?」

 

『いや、確かにそうだがなんでその結論の果てに俺は九校戦に出ることになってるんだよ・・・。』

 

 あ、文句を言いたいのはそっちなんだ。

 

「・・・それは逃れられない運命だと思うよ?」

 

 この指摘に反論したいが、理性的にみれば事実なのは八幡も分かっているためただ唸るしかないみたい。

 

「まぁ、夏の課題が免除されるみたいだから役得だと思っとこうよ。」

 

 そう言って報告を終わった。

 八幡は自分の影響力が無視できるほどの小さな物じゃないってそろそろ認めていかないと。

 そう自分でも思えるようになるまで、何処までだって付き合うからさ。

 




思いの外速く書けたのでどっせーい致しました。

まだまだ導入ですがここから九校戦に向けてどんどん設定マシマシになっていきますのでご不明点やご指摘、感想。ツッコミ、違和感、質問などなどお待ちしております。

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