やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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エタったと思われてた方、なんとかかんとか生きております。

次話を楽しみに思って下さった方は土下座も辞さない構えです。(土下座

実習あったり体調崩したりと色々ありましたが詳しいことはあとがきにいたしましょう。
どうぞ本編へ。


九校戦編2

 トーラス・シルバー。

 その存在は日本に、いや世界においてこの名前を知らない魔法関係者はもぐりだと言える程有名な天才魔工師(魔工師とは魔法関係の技術者)。シルバーがもたらした技術や理論の世界への影響は凄まじく、今全世界の魔法技術関係者が最も注目している人物の一人だろう。

 

 ループキャストの実現。

 特化型CADの起動式展開速度の20%向上。

 非接触型スイッチの誤差認識率の低下。

 

 ざっくり言えばただでさえ高速化が進んだ現代魔法において、速度を重視した魔法デバイスの魔法発動速度を2割速くしたり、高速使用に便利なデバイスの最大の欠点であった”たまに誤反応する”という点を使用に耐えうる物にしたり、そもそも新しい理論で動かす魔法を編み出したりなどだが、これらの技術一つでも十分に人類史に名が残るレベルの偉業であり、今上げたものだけでも技術者として一生暮らせるどころか各方面に引っ張りだこになる事は間違いない。

 要するに、トーラス・シルバーとはそれ程までに大きな影響力を持つ人物であり、その動向は世界が注目していると言っても過言ではないのだ。

 ところが、そのトーラス・シルバーは登場からまもなく一躍時の人というだけの話題性を与えていながら、当の本人は顔見せNGで引きこもっており、センセーショナルな魔法技術に加えてそのミステリアスさから一時は特集記事まで組まれる様なお祭り騒ぎにもなったらしい。その為、トーラス・シルバー本人が専属にしているメーカーFLT(フォア・リーブス・テクノロジー)も予想外の取材対応でてんてこ舞いになったとか。

 そんな話題性の塊こと、トーラス・シルバーが実際にCADの開発、研究を行っているのがフォア・リーブス・テクノロジーCAD開発第三課。

 そして、そこの主任を務めるのが。

 

『あ、比企谷主任ですかい?今構わないですかね?』

 

「・・・いや、主任は俺じゃなくて、貴方でしょうが。」

 

 電話口で俺は毎度繰り返されているツッコミを入れた。

 

 

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 俺が九校戦に出るのに渋っていたのには非常に深い、深ーい理由がある。

 その理由は単純かつ純粋に忙しいからだ。・・・いや、冗談ではなく。

 将来の夢として不労の象徴とも言うべき"専業主夫"を掲げる俺だが、それが易々と達成できる程世界は俺に優しくなかった。産まれた家系や環境上"最低限身に付けなければならないあれこれ"や"自分の力を十全に使えるようにするためのあれこれ"など生きていくだけでもなかなかに過密スケジュールであった俺なのだが、それに追加でとある趣味にそこそこ時間を割かれるためなかなかに忙しいのだ。

 本日もその趣味が出来る場所に向かって、現在俺と水波は2人でとあるビルの窓のない通路を歩いていた。

 俺たちの目的地はその突き当たりにあり、俺はそこに呼び出しを食らっている。・・・え、呼び出される友達居ないだろって?・・・違えよ仕事だよ。そこの「何かやらかしたんですね?」とか思った奴、怒らないからこっちに来なさい。

 

「本日はどの様な作品をお作りになられるのですか?八幡兄様。」

 

「今日はおそらく達也の新デバイス用の試作機のテストだと思うぞ?

 俺の作る玩具とはレベルが違う代物。」

 

 水波は俺の付き添い兼護衛としてここに来ることになっている。

 本来ならば小町のガーディアンである水波は小町と行動を共にしているのが普通だが、俺が”ここ”に来る場合だけ例外で俺の護衛をする事になっているのだ。そもそもの発端が小町の護衛業の休みの無さがブラックの域を越えすぎているため休みを導入したところ、当時中学1年生だった水波はあまりの暇さに耐えきれず家事を開始。それは仕事だと言って止めると終いには半泣きなる事態に発展したという事件があった。

 水波のプロ意識の高さはワーカーホリックに近い域に達しており、何かにつけて理由を作って休ませるしかなく、当時から趣味のために通っていた場所であるここへ向かう時のみ八幡専属の護衛として一緒に向かう事にして仕事から少しでも遠ざける案が提案され、可決されたのだ。

 因みに、この場所が選ばれたのはここに来ているときが一番水波の機嫌が良いらしいからだ。(小町調べ)

 その際、小町は家でお留守番となる訳だが、小町からしても一人の時間は大いに価値がある時間であり、水波を常に拘束し続けるのは本意ではない事からある意味winwinの関係と言えるだろう。

 

「その試作品の設計は八幡兄様ですよね?」

 

「構想と前の試作品の問題点の洗い出ししただけで、一連の組み立てから図面引きまでやって、今日のテストまで漕ぎ着けたのは牛山さんだぞ?」

 

 そう、今日は先程も言ったとおり試作品のテストを行う、紛う事なくお仕事なのだ。・・・そう、お仕事なんだよな。この単語だけで気が滅入る・・・。

 嘆いているうちに目的地にである部屋に到達。ドアを潜って中に入る。

 

「・・・休日出勤とはなんてブラックな。」

 

「あ、主任!お待ちしてました!」

 

「だ、か、ら、主任じゃねえっての!!」

 

 というわけで本当の主任こと、牛山さんに呼び出された俺はFLT・CAD開発第三課の開発室に来ていた。

 

 

 

 

 

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~水波side~

 

 

 

 FLT・CAD開発第三課の方々が八幡兄様のことを主任と呼び、それを訂正する毎度恒例の歓迎を受けています。

 本来ならば従者として割って入るところですが、研究所の方々が八幡兄様の実力に尊敬をもってこの呼び名を使っていることが分かっているためあえて何も言いません。

 なにより、こうやって八幡兄様の実力が認められ、活躍する姿を見ることが出来る貴重な場面です。八幡兄様はあまり自分のお力を誇示しようとはなさらない為こういった機会はあまりないのです。

 ”私の我が儘”を聞いて下さった比企谷家の皆さんには感謝の念が堪えません。

 ですので、その恩に報いるためにもいつも通り八幡兄様を補助しなければ。

 

「たいしたものではありませんが、簡単な焼き菓子になります。

 あまり粉が散らばらない物にしたので、良かったら皆さんで食べて下さい。」

 

 遠巻きに立っていた研究者の方に朝方作ってきた焼き菓子をお渡しします。

 

「いつもありがとうございます!

 おい、メイドちゃんがお菓子作ってきてくれたぞー!」

 

 この「メイドちゃん」というのはこちらの研究者の方達においての私のあだ名で、私が八幡兄様についてくるときは大抵こういった差し入れを持ってきている事から浸透してしまいました。

 私としましても、心情的にはメイドでありたいとは思っているので、あまり嫌な気はしていません。

 

「いやーいつもいつもすいませんねぇ。

 主任もわざわざ呼びつけてすみません。」

 

「もうツッコむのもめんどくせぇ・・・。

 で、この前の試作品のテストっすよね?いろいろ動作を”見る”事は出来ますけど、これ以上はほぼ微調整の域ですし、素人が介入して良いものでは無いんじゃないですか?」

 

  八幡兄様の趣味はCAD制作です。

 趣味とは言いつつも、必要性にかられたものが趣味に転じた側面が強く、実用性の高い事から四葉に縁がある企業のFLT研究室を使える様に手配して貰っています。本来ならば子供が出入り出来るような場所ではないのですが、ここの実質的トップが八幡兄様と同い年の少年であったこともあって大きな問題も無く受け入れられたとか。

 

「私達プロが死力を尽くして用意したデバイスの問題点と改善方法をサクサク指摘したあげく、あのミスターシルバーのプログラムにハード目線での改善を要求できる人間を素人扱いしたら世界中の研究者が失業しちまう。

 もし主任が居なかったら、あのシルバーのプログラムに見合ったハードが作れなくて研究者として全世界に恥晒す所だったんですぜ?

 どころか御曹司の看板に泥塗っちまう様な事になれば俺たちゃあ死んでも死にきれませんよ。そうでしょう?ミスタートーラス。」

 

「・・・その名前は俺には荷が重いっての。

 それに、天才なのは達也であって、俺は”目”が良いだけだ。」

 

 あのトーラス・シルバーは世間では知られていませんが、実は2人組でその正体は八幡兄様と達也兄様のチームとしての名前です。しかもその両方が未成年という事もあり完全に正体を伏せています。

 八幡兄様はその中でも主にハード担当で、世に出ているシルバーモデルの基本構造やデバイスの初期設計は八幡兄様のアイデアを元に作られています。

 達也兄様はその逆でありソフトがメイン。過去の数々の功績は達也兄様のアイデアを元にしたものが多く、世間の目はそこに行きがちです。

 現在FLTの第三課では基本業務に加えてトーラス・シルバーが考えた術式の為の試作デバイスの開発も行っており、どちらかと言えばこちらの方がメインであると言っても過言ではありません。事実、トーラス・シルバー監修のデバイスの売上が全体の数割を占めていることでいかに企業として価値が大きいかが伺えます。

 もちろん、トーラス・シルバーの試作用デバイスも開発が進めばそれによってバージョンアップしていくのが基本なので、その度に八幡兄様は製品のチェックや指摘などを行っています。

 

「失礼ながら八幡兄様。その天才である達也兄様の起動式にまともに耐えうるハードを制作できる方がこの世でどれだけ稀少な存在か、目を向けてみても良いと思うのですが?」

 

「いや、牛山さんなら出来るだろ?むしろ余裕まである。」

 

「出来ないたぁ言いませんが、それを趣味の範囲でやってのける主任と同じ仕事ができてると言えるほどの恥知らずじゃ無いですぜ?

 それよか、仕事の話にしましょうや。」

 

 




お待たせしてやっとの事で本作品の作品紹介の複線拾えました。読多裏闇です。

この1ヶ月ちょっとですが学校の実習へ行ってガッツリ忙殺されておりました。
まさか何も出来なくなるほど過酷だとは・・・。

と言うわけで、そろそろ本格的に執筆再開です。
ガンバリマスヨー。

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