~雫side~
「何度も言っていると思うが、その件は俺がライセンスを取ってからな。」
また断られた。
私がこうやって達也さんをエンジニアとしてヘッドハンティングしようとするのはこれが初めてじゃない。
というのも、前々から凄いとは思っていた達也さんの調整の腕が本格的に凄いと気がついたのは九校戦の練習が始まってから。達也さんが持ってきたCADの練習用の試作プログラムを使った段階から異常さにびっくりした。
だって、自分のCADより使いやすい試作品っておかしいよね。
私のCADだって、パパが雇ったプロの魔工師に私専用にチューニングして貰った一点物。その人ともそこそこ長い付き合いだし私のこともよくわかってる人だからそう簡単に上回れる物じゃない。
私のパパは私の魔法の為になることなら結構我が儘を聞いてくれる所がある。何より、パパの”優秀な人間好き”は娘の私がよく知ってるし、八幡にしても達也さんにしてもパパのお眼鏡に叶うのは保証できると思う。
そう思って何度か”うちで雇われない?”とアプローチをかけてるんだけど・・・なかなか首を縦に振ってくれない。
うちなら必要な機材や伝手も用意できるから達也さんとしてもメリットは大きいと思うんだけど・・・ライセンスを取ってからの一点張り。
確かにライセンスの有無は重要だけど、達也さんの腕なら変なライセンス保持者より余程信用できるから気にしなくて良いと思う。特に、うちで雇うということは個人契約になるから文字通り”腕さえあれば”が通ってしまうし。
「それより、八幡は呼ばなくて良かったのか?雫が呼ぶのを止めたと聞いたが。」
「凄く寝不足な顔してたし、昨日のうちにハードの確認終わったから今日する事無いって言ってたから。
ダメだった?」
八幡は昨日徹夜で会長のCADのデータ見てたとかで、夜見たときには顔色が悪くてゾンビかと思うレベルだった。
そんな中、何をやっているのかと思えば私達のCADの最終チェックとハード上の問題点の確認で、終わった後机で泥のように寝ているのを起こして部屋まで連れて行ったのが昨日の夜。正直大丈夫なのかなって思ったけど、八幡が言うにはただの寝不足らしくて寝れば大丈夫って言ってた。だからほのかの調整の時まではゆっくりして貰った方がいいかと思ったんだけど・・・やっぱりちょっとは見て欲しかったとも思ったり。
我が儘だよね。
「いや、八幡の分の仕事に関しては終わっているし、此処から先は俺の仕事だからな。
だが、見ていて欲しかったんじゃないのか?」
「うん。
だけど、ただでさえハードワークな八幡を無理させてまで言う我が儘じゃないと思う。」
我が儘で体調を崩して、八幡の競技に影響が出たらいけないし、何よりも八幡にはもう私が勝つためのものは全部用意してくれた。
だから、私に出来るのは結果で感謝を伝えること。
「八幡が起きたら良い報告がしたいから、バックアップよろしく。達也さん。」
「任された。最善を尽くそう。」
憧れの舞台で憧れのポジション。
欲しい結果と、それを伝えたい人もいる。
私の夢の幕が上がる。
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~真由美side~
能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)。
この雫さんが披露した新魔法の解説をリンちゃんから聞いた時、その高度さとやっていることの異質さに驚きを通り越して呆れている自分がいる。
おかしな事、凄すぎること、常識が覆される瞬間。この春からの短い間でどれだけあっただろうか。
特に筆頭の八幡くんは今回のスピードシューティングではサブエンジニアとして参加しているので、今回のは達也くんの功績。文句なく凄いし、そもそも新種の魔法が九校戦で開発された、なんてそんなに簡単に起きて良い物じゃない。
確かにそういったケースは無くはないものの、九校戦も今年で10年目。
学生が思いつくような物はあらかた出尽くしているし、新種の魔法といっても何かの類似が殆どで、既存の物を改良したのがせいぜいといったところ。
だけれどこれは完全に新たな可能性を示す新種魔法と言っていいもの。そもそも0から起動式を作ってる段階で学生としてはオーバースペックな部分もあるのに、完全に新しいアプローチともなれば同学年でどれだけの人間が出来るのやら・・・。
達也くんに言っても謙遜するんだろうな。自信満々な所とか全然想像つかないし。そつなくこなして当たり前の結果を当たり前に受け入れて自分で納得しておしまい、ってなる未来が容易に想像つくわね。
まぁ、とはいえどことなく何かやらかすと思って構えてたから新しい魔法くらいじゃお姉さん驚かないんだから。
なんて、思ってたのが数時間前。驚かないつもりでいようなんて、彼等を舐めすぎだったわね。
「あれ、もしかして、汎用型CADじゃない?」
「・・・いや、真由美。照準補助がついているんだからそんなわけ・・・無いだろう?」
摩利、否定するならもう少し自信を持って否定しなさいよ。
って言いたいのは山々だけれど、言葉を濁したくなる摩利の気持ちも分からなくはないのよね。
リンちゃんの能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)の説明から数時間後。もうすでにスピードシューティングの準決勝が始まっていた。
ここからは個人ではなく対戦形式。戦法によってはそれ専用に対応する必要があるので番狂わせが起きやすい難しい試合でもある。
当然ながら雫さんも対応して、戦法を少し変えているみたい。
というかそもそもCADを変えてるみたい。
CADには照準補助システムという物がある。
これは、言わば魔法を撃つときの的に当てやすくするための装置の事で、便利な反面いくつか制約がある。
その一つが基本的に”特化型CADにしか組み込めないもの”とされている事。
理由は単純。そもそも”汎用型CADに組み込むようにつくられていない”から。
そもそも汎用型と特化型ではシステムが全くといっていいほど違う。例えば汎用型を一般的な乗用車とするなら、特化型はレーシングカーや戦車、重機などを扱う工事車両といった一部の専門的な所で扱う車両のような扱いになる。
汎用型はその名の通り汎用性が高くて普段のように用途が限定的ではない場合は有効だけど、こういった既にやることが決定した競技などでは使う魔法が固定化できるから特化型を使わない理由が特にない為、選手は特化型CADで出場する場合が多い。
そして、照準補助システムは特殊車両のクレーンやレーシングカーの空力を良くするための後ろについた羽なんかのオプションに当たるもので、一般的な乗用車につければ何かしら不具合がでるか、意味を成さない結果となるのは想像に堅くない。
更に、そもそもくっつける想定がないから互換性がないので、繋ぐことその物が無理だと考えて問題はない・・・筈だったのだけど。
「流石ですね会長。
あれば汎用型CADに照準補助を付けたデバイスです。
これはオリジナルではなく1年前にドイツで発表された新技術らしいのですが。」
「リンちゃん。確かにその補足は大事だけど、やってることの異常性を擁護しきれていない事実は変わらないわよ。」
去年の技術をまともに技術転用できる高校生がいかに異常であるか達也君は理解してるのかしらね?現に市販化されていないあたり超最先端技術と言って差し支えないわよ?
「というか競技の為にわざわざCADを一つ組んだのか?市販されてないだろ?あんなゲテモノ機体。」
言われてみれば・・・くっつけるプログラムに目がいっていたけどあれ、どう見ても自作CADよね。見た所無理やりくっつけた感じではないし・・・まさか。
「・・・ねぇ、リンちゃん。
あんなゲテモノ機体を作りそうな子に心当たりがあるんだけど?」
「おそらく想像している通りの人物だと思いますよ。
あのCADは比企谷君と司波君の合作です。」
やっぱり・・・!!
な に が 、働きたくないよ。自分で仕事増やしてるじゃないの。しかも一つでもあったら悲鳴を上げる様な物を普通の仕事に上乗せしてやってるのよね・・・。これについては達也くんも同罪か。
全部終わったら慰労も兼ねてとっちめてやるんだから。
「因みにですが、司波君はまだ隠し球を持っているので、これくらいで驚いていたら心臓が持ちませんよ?
比企谷君に関しては彼自身の競技が残ってますからね。」
予想外を提供できる人間本人が、予想外な行動を取らないわけがない。
イヤな信頼ね・・・。
「しかし、この試合の流れでは北山の勝ちは揺るがないな。
確かもう片方の準決勝は両方うちだったよな?」
「はい。この試合で北山さんの勝利が決定した段階で上位3位独占となります。」
「こう言ってはなんだけれど、達也くんや八幡くんが担当した選手の相手は不憫に見えてくるわね。
あのデバイス、そんじょそこらの下駄じゃ利かないほどの上げ底よ?
正直同じ土俵かどうか心配になってくるレベルね。」
2人が返答を苦笑いでしか返せていない辺り、この問題はなかなかに深刻ね。
新人戦始まりました。遅くなり申し訳ないです。
わりとガチに忙しかったので時間がとれず、台風のおかげで時間が急遽発生して書いたのですがそれが今話とほぼ同時投稿される21話目になります。(白目
書いてる途中で間に色々差し込む必要が出たためこの話は次話より後にかかれた物になりますねw
これの投稿後に次話をどっせーいするのでそちらもよろしくお願いします。