やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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2話連続投稿となってます。一応話数をご確認ください。


九校戦編21

 

 

 

 昨日の渡辺先輩の事故がもたらした影響は大きかった。

 怪我をした渡辺先輩本人は全治一週間かつ、10日間の運動禁止。同時にこれ以降の競技は出場を辞退せざるをえない状況。渡辺先輩の怪我についてもそうだが、先輩はバトルボードとミラージバットに出場する予定でかつ優勝候補。このまま棄権で終われば一校の総合優勝はかなり難しいだろう。

 当然一校としては対応を考えなければならない。

 まず一番の問題は本戦ミラージバット。バトルボードについてはどうしようもなく結果はどうあがいても覆らない。だが、ミラージバットについては対応できないわけではない。故に交代選手を立てる事は必然な流れで、渡辺先輩本人も交代選手選出の話し合いには積極的に参加していたらしい。だが、問題は補欠を用意していなかったことだ。作戦スタッフとしても渡辺先輩が抜ける事態など万に一つも考えていないのだからある意味当然と言える。

 故に急遽人員を補充する必要があり、そして選ばれたのが深雪だ。

 新人戦をキャンセルする事になるが、深雪ならば本戦でも優勝できる。それが起用の決め手だったらしい。

 この深雪が新人戦ミラージバットの出場辞退し、本戦ミラージバットに出場する話は既に各所で噂になっていた。昨日の夜に発表になったので本来なら噂の進行の早さに戦く事になるのだが、それもその筈。この選手変更の情報をニュースとして運営の広報が大きく取り上げたのだ。

 大会運営側としても昨日の事故によって起きる悪いムードを残したくなかった所に注目選手によるメンバー変更のニュースが舞い込み、これ幸いと派手に宣伝したんだろう。良い迷惑だ。

 だが、世間には”健気に先輩の代わりを勤める一年生”と映る為、有効な話題のすり替えでもあるし、深雪の容姿は折り紙付き。これほど便利なカンフル剤も無いだろう。

 お陰様で深雪の知名度は競技が始まってないにも関わらず高い。元々歩けば振り返られる超絶美人で視線を浴びるのはデフォルトだとしても、噂話がセットともなれば深雪としても鬱陶しいのだろう。ストレス解消の為、朝会った深雪はいつもにもまして世話焼きレベルが高かった。

 そんなこんなで今日は九校戦4日目。新人戦の初日である。

 俺自身は今日の競技に出る予定はないが、エンジニアで朝から晩までスケジュールが埋まっている。

 

 というか、今日から新人戦終了まで俺に休みはない。死ぬ。マジで死ぬ。

 

 えっと、たしか・・・。

 確か、今日はほのかのバトルボードだろ?

 明日は雫のピラーズブレイクと、俺がピラーズブレイク出ないといけないだろ?

 明後日も同じくピラーズブレイクだから雫はおそらく決勝行くし調整はあるとして、ほのかのバトルボード決勝もあるから調整ももちろんある。

 そしてその後はモノリス地獄と。

 なんでこんな無茶苦茶スケジュールになってんだ?正直朝から終わりまで動きっぱなしじゃねえか・・・。過労死するわ!!って言いたいんだが、アレ?なんでこんな事になってんの?

 確か、深雪や雫達の希望を聞いた我が儘スケジュールを市原先輩が実現可能かジャッジするって言ってて、俺の練習見に来たりCAD調整を見に来たりした結果そのまま採用されたんだっけ。なるほど分からん。

 人事関係をやってる作戦本部が言うには選手として忙しい新人戦を外して上級生の調整をする案があったが色々あって無理になったとか言ってたが、現実出来るので大丈夫だろうとのお達しだ。だが、正直出来るかもしれんがやりたくない。というか働きたくない。

 通ったときは仕事多くね?って思ったんだよ?思ったんだけど・・・減らすとすれば筆頭が雫のピラーズブレイクって話が出て色々あって流れた。まぁ、同じ競技だから外すならそこなのは分かる。・・・だが、あの捨てられた子犬みたいな目に耐えれる奴は居ないだろ。少なくとも八幡には無理でした。だって男の子だもん。

 とはいうものの物量だけで見れば無茶苦茶ではないか・・・。移動も最小限だしピラーズブレイクはすぐ終わる競技だし、会場を大きく移動する流れにはなってないみたいだから大丈夫だろう。たぶん・・・めいびぃ。

 まぁ、達也みたいに隅から隅まで微調整できるほどの腕はないから直前に出来る事なんてたかがしれてるし、やれることはほぼ行く前に終わらせてる。必要なものはあらかた渡したし、戦術も手伝ったからもう俺に出来ることほぼない。よって、サブに入ってくれてる中条先輩に概ね任せて良いんだが・・・流石に丸なげってのも気が引ける。・・・てか「先輩に仕事押しつけました」とか後で何いわれるか分かったもんじゃねえ。

 まぁ、モノリスコードは適当に流せば良いとして、調整デスマーチをどう乗り越えるか・・・。

 

「はぁ、働きたくない。」

 

「お前はまだそんなことを言っているのか・・・。」

 

 ん・・・?どっかで聞いたことがあるぞ、この独身女せ・・・。

 

「・・・すまない。なにやら不穏な気配を感じてな。

 私の勘違いだとは思うのだが、なにやら私を貶めるような事を考えてなかったか?」

 

「い、いえしょんなことあるわけ無いじゃないですか。平塚しぇんしぇい。」

 

 み、見えなかった。

 気がついたら俺の耳のすぐ横を拳が通過していた。す、鋭くなってやがる・・・。

 

「そうか、ならいい。

 ところでなんでこんなところで油を売っている?今日から新人戦だろう?」

 

「それはこっちの台詞ですよ。何故先生がこんなところに?」

 

「愚問だな。合宿の引率に決まっているだろう。

 とは言っても自由行動だからな。私も目立った仕事がない。」

 

 あーそういや小町達来てたな。昨日会わなかったから忘れてたが。

 担任ならそりゃ来てるか。

 

「楽そうで何よりですね。

 こっちは油売ってるんじゃなくてバトルボードの調整担当なんで向かってるところですよ。」

 

「む、調整担当?

 お前、学年次席だったのに出場しないのか?」

 

「・・・誠に遺憾ながら出場しますよ。

 なんの因果がエンジニアと選手両方なんです。」

 

 恩師に立派な社畜になりましたと報告する罰ゲームはこう言うのを言うんだろうな・・・。

 

「どんなスケジュールになってるんだ・・・。本来なら両立なんてあり得んだろうに。

 まぁいい。それでお前はどれに出るんだ?」

 

「出るって競技ですか?」

 

「選手名簿を全て見るほど時間が無くてな。この数日もお偉いさんとの諸々でろくに競技が見れていない。

 せめてお前の競技ぐらい見て帰らんと割に合わん。」

 

 割に合うとかそういう問題なのか?てか、見に来られてもなにもな・・・。

 

「いや、良いですよ見に来ないで。たいして見れるものじゃないでしょうし。」

 

「どうせ言わなくても調べていくんだ。手間を省かせろと言っている。

 それともなにか見られて困るようなことをするのか?」

 

「いや、しませんけど・・・あーはい分かりましたよ言います。言わせていただくので勘弁してください。

 はぁ、ピラーズとモノリスです。」

 

 すぐ人を殺せる目で見るの止めてくれませんかね?ちびっちゃうので。

 はぁ、適当に手を抜こうと思ってるのにどんどん外堀が埋められていく・・・。

 

「随分と花形競技だな。まぁ、次席入学者ならその人選は普通か。」

 

「良い迷惑っすよ。」

 

「今はそう感じるかもしれないが、それはしかるべき評価をされているという事だ。胸を張るといい。

 比企谷、お前が正当な評価に慣れていないのは分かる。だが、正当な評価を受け入れられないのは評価をする人間を蔑むのと同義だ。

 新たな環境で新たな問いを得たんだ。お前なりの答えを出すしかないだろう。」

 

 先生かよ。・・・先生だったわ。

 ほんと格好良すぎでしょ。文句も言えねえじゃねえか。

 

「まぁ、やるだけやってみます。」

 

 

 

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~ほのかside~

 

 

 

 雫の優勝で幕を閉じたスピードシューティング。

 それだけじゃなく首位3位を独占する結果になったので一校は今お祭り騒ぎになっています。

 達也さんのエンジニアとしての腕が認められる結果となり、私も嬉しいです。

 一校的には最良の滑り出し。新人戦で同じく1日目の私も続かないといけません。

 ここで負けたら勢いを殺してしまいますし、とても責任重大です。

 私の出るバトルボードの出場選手は私を含めて2人。もう一人は雪ノ下さんで、既に午前のレースで準決勝に駒を進めています。

 私以外は全員結果を残しています。私はこの後のレースですが絶対失敗できません。

 達也さんが雫達を優勝に導いてくれたのに私がもし失敗したら私のせいで八幡さんの腕が悪いと思われてしまうかもしれませんし、作戦を考えるのを手伝ってくれた達也さんにも顔向け出来ない・・・。

 だから、負けられない。そう、絶対失敗しちゃダメ。

 ・・・ってさっきも同じ事考えてたよね。

 えっと、要するに勝たなきゃいけないからえっと・・・。

 

パンッ!!!!!!!

 

「きゃあっ!!」

 

 え、何!?何が・・・。

 目の前には両手を合わせた八幡さんと心配そうに見ている中条先輩。

 えっと・・・猫だましされた・・・?

 

「やっと帰ってきたか。

 一点を見つめてぶつぶつ言ってるからなんのホラーかと思ったぞ。」

 

 え、そんな事やってたの私!?完全に変な人だよ、それ・・・。

 

「いや、面白いから写真撮ったんだが達也に見せて良いか?」

 

 写真・・・?え、写真!?

 

「だ、ダメです!!消してください!!」

 

 あんな姿を達也さんに見られたら死んじゃう!!

 

「・・・比企谷くん、その冗談はさすがに悪質すぎますよ?

 写真なんか撮ってなかったじゃないですか。」

 

 ・・・え?

 

「えっと、どういう・・・?」

 

「・・・まぁ、そんだけ騒げる元気があれば競技も大丈夫だろ。

 さて、遠からずバトルボードの、ほのかの予選な訳だが。達也程の出来映えじゃないがCADは調整済み、直せるとこはやれるだけやってみるから触って感触確かめてくれ。」

 

「あ、はい。・・・大丈夫そうです。」

 

 ・・・あ、そっか。私の緊張を解すためにあんな嘘を。

 よくよく考えれば八幡さんがそんな事する訳ないのに、一瞬びっくりして信じちゃうくらい緊張してたんだ。こんな状態だったら予選どころじゃない。

 けど、あんな言い方しなくても・・・。

 パソコンに向かう八幡さんを後ろから眺めてなんでああいう言い方になったのか考えてみる。八幡さんは無意味に誰かを傷つける人じゃないし、冷静になって考えれば冗談なのは分かりきってる。

 私の緊張を解すだけなら他にもやり方があると思うし。じゃあなんで・・・。

 

「光井さん。イヤならイヤだと素直に言えば良いのよ?

 そこの男の冗談は悪質極まりないのだから。」

 

 そう言って八幡さんを批判するのは雪ノ下さん。緊張で居たことにすら気がついてなかった・・・。

 雪ノ下さんのレースは終わってるし、ここにいる意味はないと思うんだけど・・・?

 

「そこの男が不埒な事をしでかさないか監視しに来たの。案の定趣味の悪い事をしていたけれど。

 光井さん。悪いことは言わないから、今から担当の変更を願い出るべきじゃないかしら?」

 

 顔に出ていたのでしょう。此処に居る理由を言いつつそう言ってくる雪ノ下さん。

 にしてもまた、悪口ですか。

 わざわざ出向いてまで言ってくる程の何かがあるんでしょうか。

 

「冷静になってみれば冗談なのは分かりきってます。

 それをわざわざ目くじら立てて文句を言わなくて良いと思います。」

 

「親しき仲にも礼儀あり。まぁ、彼に親しいと言える友人が存在するかは甚だ疑問なのは脇に置くとしても、言って良い冗談と悪い冗談があるわ。

 今回は後者に当たると思うのだけど?」

 

 ・・・確かにあまり良い冗談ではないです。ですがきっと、何かしら理由あっての物だと思います。

 問題はその理由が私には分からないのですが・・・。

 

「悪かったな、冗談が下手で。

 友達が居なかったから冗談言い慣れてねえんだよ。」

 

「下手どころか聞くに耐えないわ。エンジニアの仕事は選手のサポートであって足を引っ張ることでは無いはずよ?」

 

「そりゃごもっともだな。

 じゃあ残りは中条先輩に任せて撤退することにするわ。

 ほら、雪ノ下。ほのかの邪魔をする存在が消えるんだ。雪ノ下の監視も必要ないだろ。

 それとも”他の選手を冷やかしに来ることが選手としての仕事”なのか?」

 

 キッ・・・と睨むように八幡さんを見つめる雪ノ下さん。

 「おぉ、こええこええ。」と言いつつ部屋を出ていこうとする八幡さん。

 この時はっきりと分かった。雪ノ下さんをこの部屋から追い出すためにわざわざこんな言い方をしたんだ。

 雪ノ下さんが噛みついてくるように、退出を誘導するために。

 これは、私の為だ。

 緊張して自分で手一杯になってる私が不甲斐ないから、あんな事言わせてしまったんだ。

 

 パチンッ!!

 

「うぅ・・・、ちょっと強くしすぎました。けど・・・目はばっちり覚めました!!」

 

「み、光井さん!?いきなりどうしたんです!?

 ほっぺがちょっと赤くなってますよ!?」

 

 気付けにって思って自分のほっぺをパンってやったらちょっと力んじゃった。

 中条先輩が心配そうに見てます。

 八幡さんも雪ノ下さんもびっくりして固まってる・・・。けど、八幡さんが出ていく前に気がつけて良かったです。

 

「緊張吹き飛ばそうと思って。ちょっとヒリヒリしますけど・・・大丈夫です!!

 それより、八幡さん!!」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 深雪直伝。八幡さんは押しに弱いからどうしても話を聞いて欲しいときは少し強引目に、だっけ。

 

「作戦の最終チェックとか私一人だと抜けちゃうかもしれませんし、確認手伝ってください!!」

 

「お、おう。」

 

 そして。

 

「という訳で雪ノ下さん。今から集中したいので席外してもらっても良いですか?」

 

「・・・貴女はそれで良いの?」

 

「もちろんです。八幡さんは私のメインエンジニアですから。」

 

 私が自分で動かなきゃ。

 私が動かないと八幡さんがやってしまう。

 それじゃダメ。

 これは私の競技で、八幡さんにおんぶに抱っこだったら達也さんにも笑われてしまう。

 

「・・・そう。」

 

 そう言い残して雪ノ下さんは部屋を後にしました。

 その後を追うように八幡さんが部屋を・・・って。

 

「八幡さん、どこへ行くんですか?」

 

「え、いや、作戦の確認は中条先輩とやるので十分だろ。

 俺のがやるべき作業は終わってるし、雪ノ下の言い分も間違いじゃあない。となると俺が出ていくのが筋で・・・。」

 

「緊張を解すための冗談なのは分かってるので良いんです!!

 それより、さっきの緊張しっぱなしの時の調整だとズレちゃうかもしれないですし、最終確認お願いしますよ、八幡さん。」

 

 ため息一つついてそれでもちゃんと作業をしてくれる八幡さん。私の為に泥まで被ってくれようとした八幡さん為にも負けられない。

 

「私、絶対優勝します。雪ノ下さんには絶対負けません。」

 

 

 

 

 




こちら連続投稿の2つ目でございます。ワンチャン前の話飛ばしてる説ある方はご確認をば。

新人戦がちゃんとはじまったよ・・・。新人戦のネタ一杯あるよ!!
・・・長くなりそうアルよ。

と言うわけですでになりつつありますが細かいところや面倒な描写が増えかねませんので、質問ドシドシお待ちしております。
感想とかツッコミとか、頂けたら作者ガチで喜びます。
何卒。

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