やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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おそ・・・く・・・なり・・・ました・・・。

本日は連続投稿になっておりこちらが最初です。


九校戦編25

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~雫side~

 

 

 

 昨日までのアイスピラーズブレイク種目最速記録は本戦で千代田先輩が出した記録。

 これは本大会どころか歴代大会の最速記録で、一校全体でも盛り上がるビッグニュースになった。

 だけれど、大会が終わって千代田先輩と話したとき、嬉しそうであると同時に少し安心した顔をしていたのが、私には印象に残ってる。

 そしてここにいるメンバーでこの気持ちを共有できる数少ない私にこう呟いた。

 

「大会最速記録は”今このタイミング”じゃないと一生取れないから出せて良かったわ。

 まぁ、数日だけの最速だけど。」

 

 千代田先輩は分かっていた。正確には一校のピラーズブレイクに関わる人間全員は千代田先輩の見せた最後の意地に賞賛し、同時に今年度新人戦で起こる事態に達観した目線を向けていた。

 そうと言わせるほどの圧倒的な速度で。

 初見殺しであって、なのに分かっていても対応が難しくて。

 場合によっては勝負の土俵にすら上がらせて貰えない。

 八幡の凄さを実際に試合という物差しで測るとこれほどまでに差が付くのだと、おそらくみんなは思ってる。けど八幡の本当の凄さはそこじゃない。

 確かに八幡の魔法は凄い。けれど真似できない程じゃない、準備さえすれば。

 八幡の魔法は技術が凄いんじゃなくて発想が凄い。

 魔法という概念では才能という壁でこういった事例はいくらでもあるけど、八幡の場合は才能ではなくルールの穴をついた競技そのものの否定と言って差し支えないから、相手は想定できてないし、状況によっては刃向かう事すら許されない。

 

 普通に考えて、行動する前に勝利宣言されたらどうしようもないよね。

 

 各校のピラーズブレイク関係者は今対応に大忙しなんだろうけど、こんなの下準備も無しに出来るものじゃないし、たまたま対応出来る選手がたまたま当たるのを祈るくらい。

 それくらい大きな影響を与えて、なんなら、現行のルールじゃ競技が成り立たなくなる一歩手前な所業を仕出かした本人は。

 

「あー脱ぎてぇ。この袴目立って死ぬわ!

 あーけど脱いだら着れねえし・・・。」

 

 自分の服に文句付けて周りの視線にビクビクしてる。

 

「八幡。多分目立ってるのは袴じゃなくてさっきの試合のせいだよ?

 大会最速記録を分単位で更新してるんだから。」

 

 うん。凄くめんどくさそうな顔してるね。

 

「俺からしたらむしろ、今まで誰もやらなかったのが信じられねえ。

 追加で言うならそれを予想して対応を準備してないのも謎なんだよなぁ。」

 

「普通そんなギャンブルみたいなプレー学校側に止められるから当たり前だよ?

 それに、氷全体に魔法をかける術式をあんな速度で撃てる八幡は十分凄いよ。」

 

 頭をかきながら「出来る奴結構居ると思うんだがなぁ」とか言ってるけど、実はあながち嘘でもない。八幡と同じ事を、八幡程の速度じゃなくても良いからやってって言われたら私は出来る。私はあんまり早打ちはとくいじゃないけど、練習して一回騙し討ちするくらいなら、たぶん出来ると思う。問題は、失敗した後の事が全然出来そうにないから私には向いてない。

 けど、九校戦に参加するような人達がそれ専用に練習してたら話は別。

 八幡と同じレベルの事をやれる人は少なからず出てくると思う。”相手の氷を全て破壊する魔法”を全体にってなると、ほぼ無理だけど”取りあえず上に浮かせるだけ”だから。

 なのに、今まで誰もやらなかった。

 先入観って本当に怖い。

 

「まぁ、俺の話はまぁいい。ただの初見殺しだ次からは通用しないだろ。

 CADの調子はさっき確かめて貰ったし大丈夫っぽいが、他なんかあるか?」

 

 雑談をしてるけど一応今は私のピラーズブレイク第一試合の直前。CADの事前チェックは、八幡の試合もあってギリギリになるかと思ったけど、試合が数秒で終わったからゆっくり出来てしまった。

 だとしても雑談し過ぎてちょっと気を抜きすぎてたかも。

 あ、そうだ。

 

「八幡。最初の2人で練習した時の質問、覚えてる?」

 

「あぁ。

 正直、俺には絶対出来ない選択だから純粋に凄いと思うぞ。あのタイミングであんなこと言えるのは。」

 

 そう、私は今回の九校戦でとても大きな我が儘とかなり無理難題な大言をしてる。

 

 

 

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<雫 Recollection>

 

 

 

 

 九校戦のメンバーに選ばれて、更には2種目も出場できて。

 そしてちょっとだけ我が儘を言ったら、八幡が叶えてくれた。でも、無理させちゃったからお返しは結果で返さないといけない。

 そんな決意とやる気に満ち満ちている今はもう直ぐ夏休みが見えてくる夏真っ盛り。授業も粛々と終わって今から九校戦の練習がメインの時間。選手は担当エンジニアに上手く分かれて戦術や調整の相談を行うべく色々なところに散っている中、今日はアイスピラーズブレイクの初ミーティング。

 担当は八幡。私の得意なこととか、出来そうな戦術は事前に伝えているけど細かいところとかはこれからな感じ。

 八幡だからきっと私の思いのよらない戦術を考えてきたり、びっくりすることを提案される。

 そんな風に考えてたから、これはある意味想像にしていない質問だった。

 

「雫はどこまで勝ち上がりたい?

 いや、この聞き方だと語弊があるか・・・。」

 

 えっと、普通は優勝目指すよね?ふざけて聞いた内容には見えないけど、質問の意図がよくわからない・・・。けど、補足されて何が言いたいのかはっきり分かった。

 

「要するにアレだ。”雫は深雪に勝ちたい”か?」

 

 びっくりした。

 みんな心のどこかでは思っていても現実的じゃないとある種、諦めている内容だったから。

 確かに深雪が目標だし、深雪に勝てれば言うことはない。だけれどみんなそんな事は口が裂けても言わない。・・・ううん、違う。言えない。

 それ程までに圧倒的な差を感じて口に出すことは自分の実力も分からない恥ずかしい人間の様な、そう言った類の発言。深雪との差はそれ程までに大きい。

 だけど「はいそうですか」とは言いたくない。

 そんな密かに思ってた野望、野心を見抜かれたみたいな、そんな気分もあったけど、それ以上に。

 

 八幡は私が深雪に勝てるかもしれないって考えてくれてるのにびっくりした。

 

 勝てるわけがないなら質問もしないし、そもそも話題にすら出さないと思う。けど、その可能性があるから私の目的を聞いてくれている。

 入学して今までで一番嬉しい事かもしれない。

 

「勝てる、と思う?」

 

「・・・正直難しいだろうな。少なくとも俺には無理だろうし、エンジニアは達也だからなおのこと。

 だけど、メタはって対策して騙し討ちしたら・・・まぁ、驚かせるくらいは出来るんじゃね?」

 

 今はまだ難しい・・・か。

 でも、”出来ない”じゃないんだね。普通だったら絶対に無理って言われるだろうし、普通の神経ならそう解答が帰ってくるのが自然なんだろうけど、出来ないとは言われなかった。それだけで十分恵まれてるし、正直に現実を言ってくれた八幡には感謝・・・かな。

 だけど、やっぱり。

 はい、そうですか、はやっぱり嫌。

 悔しい部分もあるけど、それでも八幡が可能性を否定しなかったんだったら、手段はきっとある。

 だったら・・・!

 

「・・・驚かせるくらいは、出来るんだよね?」

 

「雫次第だが・・・まぁ、出来なくはないんじゃないか?」

 

「じゃあ、目標は深雪に”もしかしたら負けるかも”って思わせる事にする。」

 

 結構な大見得だとは思う。実際に深雪の練習は見てないし、どれくらい凄いのかは分からないけど、それでも競うことは止めたくない。

 

「大きくでたな。

 まぁ、やるだけやってみるか。」

 

 

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「まぁ、準備はしたしメタも張ったから勝てなかったらエンジニアの技量差だ。

 達也と俺ではレベルが違うからな。」

 

「達也さんが凄いのは分かってる。

 けど、八幡。あのときの言葉は嘘じゃないし、これだけお膳立てして出来なかったら私の技量不足。」

 

 実際、対深雪の為だけにCAD一つ作ってくれてるし、これ以上甘えられない。

 

「ん・・・まぁ、一応前哨戦だが、油断しないようにな。無いとは思うが模倣犯対策もしっかりしとけよ?」

 

「大丈夫、そう簡単に八幡の真似とか出来る人いないよ。ちゃんと用心もするし。」

 

 八幡は本当に過保護。この過保護を受けて育ったのなら小町ちゃんがあそこまでお兄ちゃん子になるのも頷ける。

 と言いつつも、もうすぐ試合が始まる。八幡も時計をみつつ、私の一番ほしい言葉をくれた。

 

「まぁ、・・・なんだ。

 とりあえず頑張れ。」

 

「うん、頑張る。」

 

 

 

 

 

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~??side~

 

 

 

 

「そんな事言われても知らないって。私は必要な情報は渡しましたよ?

 ・・・はぁ、まぁ、私の仕事はしましたので以降はそちらの方でどうにかなさって下さい。

 それでは。」

 

 この携帯も廃棄だなー。まぁ、元々その予定だったけど。

 そう思いつつこれ以上の連絡を遮断するために物理的に電源を外す。これであいつ等とはもうおさらばだね。

 私の計画に必要だったから少し利用した組織で、正直どうなろうが知ったことではないけど、正直無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)には少し同情するかな?

 犯罪シンジケートだし、求められた情報的に九校戦で賭とかしてたんでしょうけど、想定外の出来事が多すぎる。何より一条将輝を筆頭に置いた三校がリードどころか表彰台レベルの成果がほとんどない。

 今年の一校が特別優秀?一条将輝が鍛えた子達より?そんなわけ無いよねぇ。

 となれば一条将輝と同等以上のドーピングが必要。そんな都合良い存在想定する方がどうかしてるよ。

 彼らにとって比企谷君っていう存在は、些か刺激が強すぎたみたいだね?

 結構お尻に火がついた感じを受けたし、派手な妨害とか来そうかなぁ。まぁ、止める気もないけど。この分だと一校は目の敵にされちゃうかな?みんな比企谷君の巻き添えになるんだから救われないね。

 それにしても本当に見てて飽きないなぁ、比企谷君は。ピラーズブレイクでは死ぬほど目立ってたしバトルボードのフラッシュもそうだよね。

 枠にはまらないし、空気も読まないし、型破り。

 そのまま世界も壊しちゃうんだろうなー。

 壊して、壊して、焼け野原にして。みんな助けたフリをして自己満足に浸るんだ。

 

 ほんとに凄い。凄いけどほんと、そういうところ本当に嫌い。

 

 この九校戦だってそうだよね?

 発想は凄いけどその凄さに誰もついてこれてない辺り傑作だよ。みんな必死で頑張ってるのに一人だけおままごとやってるんだもん。才能を誇らない天才と同列に比べられる凡人達は不憫この上ないし、正しさに縋ろうにも結果が伴ってしまっては逃げ道もない。

 比企谷君が今までしてきた自己満足は”見かけ上正しくないからこそ”許されてたのにね。

 まぁ、私は良いと思うよ?またそうやって一人で、独りで全部やっちゃえばいいんだよ。

 独りで全部出来るんだもんね?だって効率がいいんでしょ?

 全部独りで、なんでも出来ちゃうんだもんね。

 

 ほんと、そういう所。お姉さん、大っ嫌い。

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりました。

設定の再確認とか物理の確認とかやり始めて止まらなくなった雑魚でございます。
まとめているうちに2話になったので連続でどっせーい致します。

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