蒼茫英雄都市 東京   作:枯葉坂

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遅れてしまい申し訳ございません。
私情で以降の投稿日時もランダムになることをご了承ください。


天駆

 白い—— 白い、白い世界が目の前に在った。

 

 体に容赦なく吹きすさぶ氷雪は、つけた足跡も何もかもをたちどころにかき消してしまうほどの。

 

 その白銀世界に浮かぶ白と黒のシルエット—— 

 

 ヒトだ。 

 

 それを人だと認識したとき、彼らを中心に白銀世界が二色に塗り替えらた。

 

 屈強な体つき。

 それを覆う、棘を生やした鎧。

 フルフェイスの仮面からは天を突くがごとく四本の角が突き出している。

 二人の外見の違いは体色の白と黒。黒と赤の目の色ぐらいだ。

 

 白が立つのは闇。

 真逆の配色でありながら何もかもを呑み込む漆黒を喰らい、延々と産み出し続ける永久機関。

 

 対して、黒が立つのは蒼天。

 どこかで見たような姿を塗りつぶす霞んだ黒とは似ても似つかないはずの青空は、不自然なほど溶け込みよく似合っている。

 

 相対する二人の背景色は互いの距離の中間で境界を作りせめぎ合っている。

 

 青空の上に立つ藤丸は自身の経験から理解した。

 ここが夢の世界であり、世界を二分する背景色は彼らの心象風景なのだと。

 

 ゆっくりと、白が黒に向けて手を翳す。

 瞬間、黒が火ダルマと化した。

 僅かに揺れ動く蒼の背景。

 燃え盛る火炎はその熱量で周囲の空間をもねじ曲げ、人体を焼く時独特の不快な臭いが散らばる。

 

 しかし、黒はその突然の現象に驚き身をよじりはしたものの、焦ることなくその右手を白に翳す。

 

 まるで鏡写し。

 白からも同様に炎の手があがった。

 

 世界にも、白自身にも動揺は一切見られない。

 白は自分の身を一瞥後、興味が失せたように眼前の目的地へ向けて走り出した。

 それは、黒も同じ。

 

 両者の身体の火は疾駆したためか、はたまた別の要因か、

 燃え跡一つ残さず消え失せた。

 二人の俊足は互いの距離を一瞬で埋め、やがて影を重ねる。

 

 宙を舞う二色。

 舞う鮮血。

 激しくブレる青と黒の世界。

 

 おおよそ肉体同士の衝突とは考えられない程の鈍重な激突音が何も無い世界に響き渡る。

 揺れる世界に心が侵され霞むのを感じるのはただの視覚効果だけではないだろう。

 

 そこで終わるべき苦痛を伴う破壊音はなおも終わらない。

 

 相手が殴ればこちらも返す。こちらが蹴れば向こうも同じに。

 傷は直ぐに完治するが、その身は平等に赤に着色され続ける。

 凄惨な血の描写がなければ子供の喧嘩にも思えるほどの拙い殴り合い。

 技術の欠片もないぶつかり合いはおそらく彼らがこの世の最果て、究極の位置に在る二柱に他ならないから。

 

 地獄の方がましに思える戦いに身を置くのはきっと、負ければ自分が自分でなくなるため。

 二色の精神世界は相手を壊す度にその均衡を破り、塗り潰しあう。

 どちらかがどちらかに染り切った時どうなるかなど、想像に難くない。

 

「アハッ、あはは!!」

 

 白は仮面下で笑う。

 触れても壊れない遊び相手に、

 それに殴られ傷つく自分の身体に、

 この世の楽しみ全てを内包したプレゼントを、無邪気にはしゃぐ子供のように。

 

「ひぐっ!! う゛ぅ・・・、あ゛ぁ゛ああ!!!」

 

 黒は仮面下に涙を流す。

 絶対に為さなければならないことと、絶対にやりたくは無かったことは同じで、

 理想と現実の摩擦に捻り狂いそうになりながら、

 振り上げた拳は必ず勢いよく振り下ろす。

 

 止めることは不可能。

 二人は藤丸が出会った全てにおいても1、2を争う別格。

 英霊という格落ちした存在ではまともに歯が立たないだろう。

 

 彼は涙した。

 それは心に容赦なく入り込んで来る孤独感でも、今にもショック死しそうな痛みでもなく、

 無力な自分を嘆くのもおこがましい隔絶された世界を前に、それでも、もう少し前にあの人に会っていたならば、この悲しい結末を少しは変えられたのではないかという愚考ゆえだった。

 

「フグっ!? ・・・アハハ!」

「ガっ!? ・・・あぐぅ・・・」

 

 ガラスを割ったような清廉な音が耳を占有し、世界がかつて無いほどブレる。

 

 おそらく、弱点であろうベルトのバックル部に互いの攻撃が直撃し、今までにない苦痛の声が二人から漏れる。それでも白はより透き通った笑い声を発し、黒は一層声を涙に濡らす。

 

 破壊に笑い、破壊に泣くデッサンは止むことなく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が過ぎただろうか。

 やがて、凄惨な戦いは決着し、元の豪雪の風景に戻った地には雪より白い純白と、深みを増した漆黒だけが残された。

 

 —終わった・・・

 

 地獄のような心を擦り減らす時間も、終われば残るのは虚無感だけだった。

 

 —ん?

 

 ふと、涙を拭いながら横に視線を向けると、そこには白く薄いドレス姿の女性が立っていた。

 彼女は藤丸と同じように二人を見つめていて、表情は確認できない。

 

「・・・」

 

 —あなたは・・・

 

 女性は声に気づき藤丸に顔を向けた。

 

 —なっ

 

 藤丸はその女性の美貌に息を呑む。恐ろしい程整った黄金比の顔つき。目は鋭く冷酷で、白い口紅とバラを象ったタトゥーを額にしている。

 

「・・・ぁ・・・」

 

 鋭利な視線が藤丸の身を貫き声も出ない。

 

「・・・タァ・・・」

 

 ゆっくりと冷たい白の唇が開き・・・・・・

 

「マスター!!」

 

 —ハッ!?

 

 意識を一気に覚醒し起き上がる。目の前に広がるのは一般的な日本のバスの内装風景だ。

 

「大丈夫ですか? 酷くうなされていましたが」

 

 —大丈夫・・・

 

 今はレイシフトから一日が経っている。空は雲が散らばる陽気な晴れだ。

 メディアと別れた後セイバーの召し替えをしつつ貸家に行き、藤丸は何事もなく一夜を過ごした。(アルトリアは彼の制止も聞かず一晩中外で見張りを強行した)

 現在は二人は朝日を浴びながら、昨日メディアに示された場所へ向かうバスに揺られている。

 アルトリアの装いは昨日購入した白いブラウスにコルセットのついた青いスカート、茶色のブーツを履いている。今日の天気に似合う清楚で自然とアルトリアに似合う出で立ちだ。

 ふと、藤丸が横を向くと左の男性が広げていた新聞の記事が目に入った。

 

 

あれから13年 消えた仮面ライダーは今!

 

 —仮面ライダー?

 

「おや、君は知らないのかね? それとも若い人の間でも未確認生命体第4号で通っているのか。これは2号の通り名が長いこともあってついた名称だ。なんでも13年前に都市部でバイクを走らせる姿が度々目撃されて、その背格好とあわせてつけられたそうだ。バイク乗りの私としてはこちらの方が好きだがね、ハッハッハ」

 

 新聞の持ち主のもみあげが長い特徴的な髪に太い眉、引き締まった肉体の男性が藤丸の疑問に答えた。

 

「私は本郷。城南大学で教鞭をとっている。君たちもうちの大学に向かうのかい? もし初めてなら途中まで学内を案内しよう」

 

「4号? 2号ではなかったのですか?」

 

「ん? ああ、2号は4号の色が変わった姿だよ。未確認と4号の区別がついたのは一連の事件の終盤でね。ナンバリングは未確認と変わらずつけられていたんだ。他にも青や緑や紫にも変わっているらしいが勉強不足でね、すまない」

 

 —いえ、ありがとうございます

 —メディアの情報の場所で色々わかるかも

 

「私は反対です。あ、いえ、本郷さんのご厚意を無下にしたいのではなく。いくら彼女が見知った仲であろうとも、一度契約が切れた彼女を信用するのは早計が過ぎます。罠の可能性が高い」

 

 —他に頼れる情報がないし・・・

 —メディアと何かあったの?

 

「さあ、何でしょうか。彼女の視線を受けると、こう、手首が締め付けられるというか、無性に聖剣を振りたくなるというか!」

 

『城南大学前、城南大学前でございます』

 

 アルトリアの根拠の無い私怨を聞くうちに目的地へ到着した。

 バスを降り、学内で本郷さんと途中で別れ考古学研究室のある棟に向かう。

 暫く歩いていくと茂みと植物の蔓に覆われた赤レンガの建物があった。

 

 —ここにメドゥーサが?

 

「お気を付けください。あの建物の窓から見える無数の仮面からはなにやらただならぬ気配が・・・っ!? マスター! 後方から高速で何かが来ます!」

 

 藤丸が振り向くと、車並みの速さでこちらに向かってくる一台のクロスバイクが居た。

 

 —ぶっ、ぶつかるー!

 

 藤丸は顔を咄嗟に両手で顔を覆い来る衝撃に耐えようとしたが、あろうことか彼の直前で自転車が跳躍。空中で3回きりもみした後、彼を跳び越す形で華麗に着地を決めた。

 同時に周りの通行人から拍手喝采が巻き起こった。

 

「おや、マスターにセイバー、奇遇ですね。今日はとても良いサイクリング日和です。私の自転車1号と共にサイクリングロードに駆り出しますか」

 

 全身黒尽くめのウェアとヘルメットに身を包んでいて一瞬わからなかった(理解りたくなかった)が女性には珍しい長身とその背丈ほどある髪、眼鏡を着用していてこのような場所で藤丸たちに声をかける人物など一人しかいない。

 彼女こそギリシャ神話の数々の英雄が挑み、そのことごとくを石に変えた怪物。その美貌で神の一柱であるポセイドンを魅了し、その妻と親戚に恨まれ化け物にされた悲劇の女神。

 別名ゴルゴーン、メドゥーサである。

 

 

 

 

 メドゥーサに連れられて、一行は長い廊下を歩く。

 

「わたしとキャスターがこの世界に召喚されたのは二日前なのです。一応見知った仲ではあったのでお互い殺し合いへの発展だけは避けました。ですが彼女との関係、性格ともに反りが合わず香だけもらって離れることにしたのです。たまたまその香をかけたのがここの准教授だったわけですね。まあその彼女がなぜか放っておけなかったのもありますが。マスターたちはこの世界の情報と未確認生命体について調べているのでしたね。それでしたらお役に立てると思います」

 

『本当かい?』

 

「ええ。なにを隠そうここはこの世界の未確認生命体、略称で『未確認』と人の古代文明に迫る研究をしているのですから」

 

 言いつつ、一行がたどり着いたのは古代の欠片も感じられない植物園だった。 

 多様な植物に囲まれた温室を抜けると突然違和感を感じる『管理者 考古学研究室』と書かれた高床式の小屋が現れた。

 メドゥーサは慣れた手つきでIDカードを翳しドアを開ける。

 

『ここに一体何が・・・!?』

 

 そこにはクワガタを象った銅像が、静かに横たわっていた(・・・・・・・)

 

「芸術家にはこれの本質がわかるのですね」

 

『当然だ!! これは工芸品なんて生易しいモノじゃない。人の生命へのエゴがつくりだした一つの生命体だ! この巨像の力強い見た目とは相反した砂の城を砂から作ったような精密さ。私は製作者の生への執着心に恐怖してしまうよ。見た限りでは1000年以上の年季物のようだが?』

 

「はい。これは『ゴウラム』と呼ばれるもので、この世界の人類の祖先であるリントの高度な技術により作成されました。全長は3m、重さは150kg。驚くべきことにこのゴウラム、魔術などの神秘が一切ないにも関わらずある条件下で意思を持ち、時速500kmで自由飛行します」

 

 —へー・・・

 

『マスター君は色々な神秘に遭遇しすぎて今更驚けないのも無理ないが、これは流線型でもないのに魔術を一切使わずリニアモーターカー並みの速さで飛び回るということだよ。それも古代の科学力で、だ』

 

 —えっ、それって・・・

 —当り前じゃないの?

 

『・・・あー、うん。そうだね。君も魔術世界に染まってしまったということだね』

 

 不思議と周りが諦めムードに包まれていることに藤丸は首を傾げた。

 

「・・・本題に入りましょう。この世界のリントと未確認と呼ばれているグロンギ族の関係。グロンギのゲーム。そして噂のクウガ、五代雄介について」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これが13年前の真相です」

 

 聞き終えた藤丸は、映画視聴後のような言いようのない虚脱感に襲われた。

 

『その・・・、五代さん・・・という方は今?』

 

 マシュも藤丸同様そこが気になったようで恐る恐る聞いた。

 

「いえ、依然消息は・・・」

 

『そうですか・・・』

 

 ゆっくり落ちる声のトーンに空気も落ちていく。

 

「・・・それで、ここからはわたしの考察ですが」

 

 重い空気を断つようにメドゥーサは切り出した。

 

『碑文の内容かね?』

 

 ホームズが聞き返す。

 

「ええ、おそらく貴方の見解と一緒です。人を生物兵器へと変身させ、装着者の意思で肉体強化を続ける性質。『聖なる泉』という碑文。我々がよく知る戦争に酷似した最後の一人になるまで殺し合うゲーム。体系は違いますが・・・」

 

 メドゥーサは確信を持って言った。

 

 

 

「『ゲゲル』は聖杯戦争と同じであり、

究極の闇と同位となった時点で体内の魔石は装着者の願いを無差別に叶える願望器・・・、

我々で言う聖杯に変質するものと考えられます」

 

 

 

 

 

「・・・これで再契約は完了です」

 

 右手の令呪を通して、よく知るメドゥーサとの繋がりを強く感じる。

 

 —そういえば、アルトリア

 —大人しかったね

 

「その、彼女は掴みずらい性格で、少し苦手なのです。だから殺気だけにしておきました」

 

 —えぇ・・・

 —そっちはちゃんとやるんだ!?

 

「当然です。サーヴァントですから!」

 

 誇らしげに胸を張るセイバー。

 

「それで、この後はどうされるのですか?」

 

『当面の目標はクウガ、五代雄介君の捜索になるね。日本警察が行方を知らないにも関わらず、グロンギの所在に偶然居合わせて戦闘したとは考えにくい。今その時代で起きていることを何かしら知っていると見るべきだ』

 

『いや、どうやらそれも直ぐに解決しそうだ』

 

「マスター」

 

 —エミヤ?

 

 ホームズの言葉と共に、藤丸の耳に皮肉屋の声が響く。

 彼には念のためあの白い怪人を追ってもらっていたのだ。

 

「足取りは掴めた。今すぐ発つか?」

 

 —うん、行こう

 

 ドアから見える穏やかな青空に藤丸は足を向け、ゆっくりと一歩を踏んだ。

 

 

 

 

「ここですか?」

 

アルトリアがいぶかしげに尋ねる。

尋ねられた藤丸本人も少し目を疑ってしまった。

一行の眼前には・・・

 

 

「わかば保育園」

 

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