なんとか私は元気です。
―・・・また、か
二度と来たくは無かった、と。
彼は再びの足元が黒く染まった大地に足を降ろした。
目の前でまた飽きるほど繰り返される寸劇を観続けなければならないのか。
彼は前と同じように思考を止め、あの人の
横から氷雪より冷たい声が掛かり、彼は急速に意識を引き戻される。
向けば青の背景、そこには例の白い装いに額に薔薇のタトゥーのある女性が居た。
「まさかリントがここに来るとはな。いや、お前はリントではないか」
女性が何でもない言葉を口にする度、それが鋭利な刃物のように彼の心を突き刺し、侵し掠める。
―なぜ・・・?
「アレの心に浸れば立ち所に最果てに堕ちる。気付かないか? 自分の腕を見てみろ」
―なにが・・・っ!?
―腕が・・・怪物に!?
彼は自身の腕に驚き尻餅を着く。
彼の腕は人間のそれではなく、黒く濁った体色に赤い血脈で装飾された巨腕へと変質していた。
「ここに至ったお前には何か資格があるのか。お前が『ダグバ』になるか『クウガ』になるかは私の知るところではないが、何れにしても究極に堕ちる気の無いお前がアレらになれば人では無くなるな」
女性は今なお鮮血を塗りあう二人を指差しながら言った。
―貴女は何者ですか?
「・・・何者でも無いな。ここでは私もお前もアレらにとっては平等に価値がない。ただ、現実世界の私は――」
表情は変わらず、絶対零度の声音は少しだけ暖かくなり紡がれる。
「全く、この世界の実情が分からない今、こんなことをしている場合ではないでしょう」もぐもぐ
「同感だ。たまの息抜きはして然るべきだが、緊急時の緊張の弛緩は命取りだぞ」
「あなたたちがそれを言いますか・・・」
和気あいあいとする彼らが居るのは敷地面積約13万平方メートル、室内プールと遊園地の複合型レジャーランド『東京マリン』の温水プール内だ。
ガラス天井から覗く空はわた雲が浮かぶ陽気な気候、周囲はどこに目を向けても大人も子供もはしゃぐ姿が見受けられる。
賑やかな雰囲気に当てられたか、騎士王は白い水着を身につけ先程露天で買ったホットドッグを上品に頬張り、未来の英雄は黒のブーメランパンツを着用、その筋肉を見せつけるようにストレッチをしており、それにツッコむ女神もまんぜらではないようで黒のビキニを嬉々と着こなしている。
―みんな楽しそうだね
『はい、五代さんも楽しそうで何よりです』
藤丸達から少し離れた距離で数人の子供と遊んでいる五代の姿が在る。昨日の夜と変わらない笑顔と共に。
『・・・昨日の出来事は流石に肝を冷やしたよ。聖杯モドキの権能は確率の果て、因果律に干渉するほどの代物だったとは』
インカムから聞こえてきたのは珍しく疲労を表に出したダ・ヴィンチの声だった。
どうやら天才芸術家からしてもなかなかに衝撃的な事件だったようだ。
『彼が望みを叶える時、彼の体内に莫大なエネルギーの発現が観測された。その熱は摂氏にしておよそ十万度。周囲への影響がないことから体内の熱を外部へ逃さない完璧な隔壁があるのだろう。身体すべてを用いて権能を行使できるほど霊石と同化している彼は、言わば彼自体が願望機。人どころか生物かどうかも怪しい存在だね』
―・・・
果たして、彼は既に人ではない何かに変質してしまったのだろうか? と、藤丸は考える。
彼の笑顔も、息づかいも、仕草も、完全な人のソレだ。だから、内に秘める想いもきっと、人間らしいものなんだと勝手に考えていただけなのか、と。
『聖杯に起因する力について戸惑っているように見えたから彼は自身の能力を理解せずに行使しているのかもしれない。だが彼からその話題が出てこないあたり何か隠しているのか、それとも楽観視しているのか。いずれにしても彼にはこれ以上の未知の力の行使は避けるよう言っておいてくれ。戦士クウガの姿ならどうかわからないが昨夜の力を行使以降目に見えてに疲労もしていたし、何か起きてからじゃ遅いからね』
藤丸は同意し頷く。
『それと平行して発覚した問題だが・・・』
—?
―っ!?
―まさか・・・またゲーティアが!?
『いや、それはない。我々は彼の霊基崩壊を確認している。人理焼却は彼ありきで成立するものだ、仮に因子が残っていても世界を焼き切ることなどできない。これは以前よりそちらの世界との繋がりが強くなったことで判かったことだが、生物反応、Z座標軸、時空間座標など、世界の構成体のあらゆる証明ができないんだ。でも、こうして藤丸君と話していられるということは、単に未来が行き止まりなのではなく、君たちのいる世界が現在進行形で構築され続けているということだね』
―つまり、現在以降が見えないだけで・・・
―特に問題は無いってこと?
『いや、言っただろう? 問題が発覚したと。我々カルデアは人理保証を目的としてシヴァを完成させ百年後の未来を見通したことで分岐はどうあれ既に完成された未来が有ることが証明された。要するに必ず未来があって、幾つかの分岐の果てに決められた場所へ必ず向かうことが分かったわけだ。だが根が同じ筈ながら未来定義が違うという明らかに異常な平行世界との融合。これにより考えられる最悪の可能性は…』
—ど、どうなるの?
―!!
藤丸は背中に嫌な汗を流す。彼の目に映るのは笑顔ではしゃぎ回る子供たち。そのすべてが近く、失われようとしているのだ。
―・・・タイムリミットは?
『最短であと一ヶ月』
—一ヶ月・・・
『・・・はいはい、そう落ち込まない!あくまで我々の世界を基準にした場合での話だからここまで存在定義が違う世界同士の融合、そもそも平行世界同士の干渉なんて絶対にあり得ない虚構の筈だったんだ。まだ確実に消滅すると決まった訳じゃない。それに、こんなに世界同士の融合が進んでるのにカルデアスにもシヴァにもなんの影響も出ていないことも含めてまだわかっていないことも多い。むしろ目下の問題は計器の不具合とロマン直属の元部下数人の当直サボりぐらいだから心配しなくていいよ。・・・それと、昨日の会話の内容についてだが』
―!
『・・・ごめん、この件が片付いたら少し話そうか。今は焦らず事態の究明に努めてくれたまえ』
―・・・はい
『? 私の睡眠中に何かあったんですか?』
『いや、何でもないよ。ようは何時も通りに事態を解決して帰ろうっていう話さ。あ、そうそう。先日のスタジアムの一件はギルガメッシュが諸々動いてくれているみたいだね。仕方がなかったとはいえこちらはいくらか魔術を行使していたからどう対処するか迷っていたんだ。『実験ついでだ、我がやっておく』って言ってたけど不安だなあ、何を企んでいるのか。とりあえず我々は目先の問題の解決から進めていこう。ホームズ』
『・・・』
『ホームズ!』
『ん? ああ、すまないな。なんだい?」
『推理も良いが、今回は君にもバリバリ働いてもらうからね。嫌ならアフタヌーンティーは抜きだからそのつもりで』
『・・・やれやれ、探偵遣いの荒い芸術家だ』
重い腰を上げつつ、探偵の思考を深めなおす。
『(聖杯に類似した性質の霊石。科学的理論上、無限に近いエネルギーがあれば思い通りの量子的確立操作も可能か? いや、ならば周囲のエネルギー変動が一切なく、 外部の特定の事象にだけ影響を与えているのはどういうことだ? あるとすれば体内の偽聖杯の力はあくまで副次的なもので、我々では観測不可能なほど高次元の事象が起きているのか・・・。過程を飛ばして結果を得る、科学というよりはまるで・・・)』
『ミスターホームズ? 先程から沈黙されていましたが如何されました?』
『・・・うん? あぁ、すまない。少し考え事をしていてね』
『その内容についてはまた、いつものですか・・・』
『ああ、いつも通りだ。』
『やはりですか』
ホームズはゆっくりと息を吸い込みお決まりの言葉を口にする。
それから――
「『
「「「ぎゃあーーー!!!」」」
「嘆かわしい。大会があると聞いて出てみればなんたる弱さ。さぁ、立ちなさい! 男子たるもの肉を食し誇りを懸けて試合に挑まなければ!」
―・・・一応聞くけど本当に宝具使ってないよね?
水辺の
「人口波のサーフィンですか・・・なんと、ボードは全て貸し出し中?良いでしょう、私の騎乗スキルはA+。このビート板でどんな荒波も乗りこなしてみせましょう」
―ちょっ、メドゥーサ!
―係員に怒られてる・・・
珍しく落ち込む女神を慰めたり――
「なんだぁ↑? 文句があるなら言ってみろ」
「いやなに、このような場所で君と遭遇するのは私も予想外でね。てっきり犬掻きでもしに来たのかと」
「ハンッ! 上等だ! アルスター最速の泳ぎを見せてやる。吠え面かくほど後悔するぜ、手前ぇ!」
チンピラといがみ合う弓兵を諌めたり――ん?
―もしかしなくても・・・
―クーフーリン?
「お、やっと気がつきやがったな坊主!ちっとこの弓兵と決着つけるからもう少し待っててくれや!」
ボクサータイプの水着にアロハシャツ、無駄な筋肉が一切ないボディと蒼い髪の長身二枚目。周囲の老若男女問わず視線を集める見かけは好青年。
正体はアイルランド、ケルト神話にて最強の一角。一撃必死の魔槍、ゲイボルグを操る一生不転の大英雄、ランサー『クー・フーリン』であった。
『では、クー・フーリンさんはギルガメッシュさん達とほぼ同時期に召喚され、既に五代さんともお会いになられていたのですね』
クー・フーリンと再会した一行はプールで一しきり遊んだあと、今は彼の案内で併設されている遊園地を巡っている。
「まあな、五代の兄ちゃんがあのいけすかねえ金ピカに連れられて来たときは身構えたが話の分かる良い男でよお。顔に免じてアイツの持ってきた仕事を引き受けたわけよ」
そう言うと五代の背中をバンバン!と叩いた。結構、いやかなり痛かったようで五代も顔に苦笑いをたたえている。
「にしても――」
クー・フーリンは何かを見定めるように五代の顔を覗きこんだ。
「ど、どうかした?」
不安げな表情で見返す五代を他所にまじまじと見つめていたクー・フーリンは、一転ニカッと笑った。
「いやな、雄介。以前お前と会ったときと比べていい面になったと思ってな」
「そう?」
「ああ。あん時のお前は確かに淀んでたよ、目に破滅的な光を浮かべてな。正直俺はそんなお前が嫌いだったが今はどうだ、よく笑えてるじゃねえの! 差し詰めうちのマスター効果だな」
「そうかな・・・うん、そうかも」
五代はゆっくりと日溜りのような笑顔を浮かべる。
『話の腰を折るようで悪いが英雄王にプール監視員の職を斡旋されるまでは何をしていたんだい?』
ダ・ヴィンチがそう、割って切った。
「俺か? 俺は戦ってたよ」
『誰と?』
「そりゃ、一緒に召喚されたヤツとだよ。ヤツとは特別因縁も無かったんでな。こっちが誘ったら案外乗り気で刀を抜いたんで金ピカ達が来て気が削がれるまでの三日三晩ガチで殺りあった。ああ、一切魔術は使ってないぜ、元より使う気は更々無かったがな。だが正直一対一じゃ俺ぁ二度と戦いたくないね。やりにくいったらありゃしない」
『その方は今どちらに?』
「今向かってる露店だ。共々にここの仕事を任されてな。あの金ピカ、俺らの戦いが終わった直後に現れて開口一番『曲芸は終わったか? ならば犬の手も借りたい我の仕事場で働け』だとよ」
―英雄王らしいね
『もう一人のサーヴァントか。こちらから消えた英霊は八騎、マスター君が再契約したのは七騎だから最後の一騎は・・・』
道脇の『たこ焼』の幟がたつ露店。そのカウンターからまたしても聞覚えのある落ち着いた男性の声がかかった。
そこには上半身だけ見える白いタンクトップの男の姿が。長い紫の髪を後ろで束ねた二枚目だが額のねじり鉢巻と合わせて台無しになっている。
彼は『佐々木小次郎』。
史実の本人の逸話の一つとして召喚された元農民の英霊だが、その剣の腕は本人を越えると噂されるほどの実力者である。
「お久しぶり・・・と、言いたいところですが。アサシン、貴方『ござる』口調を使うようなキャラ設定でしたっけ?」
「仕方がなかろう。只でさえ剣士でありながら暗殺者のクラスの拙者が格好さえ遠退いてしまえば、あいでんてぃてぃが無くなってしまうではないか」
「案外女々しいですね。もとより影の薄い貴方が今更キャラ立てに走るのは滑稽です」
「カハッ!! なかなかに重い一撃だなセイバー! だがこれは好機と見た。この吐血を期に、あの病弱な人切りのお株を・・・」
『・・・これで全員の契約が戻ったね』
「拙者はもう少しばかりたこ焼屋の店主として愛らしい花を愛でたかったものだが・・・、何故か女子衆が近寄らんのでな」
「そりゃ残念だったな! 俺は今日だけで十人に声かけられたぜ!!」
「なっ!? 拙者の何処が悪かったのだろうか?!」
「テンションだろ」
『無理なキャラ付けですかね?』
―格好だね
『そんなことより他の皆を待たせるのも悪いし早く戻ろう』
藤丸たちは塞ぎ混む農民を置いて人通りのない裏路地を後にした。
「あっ、帰ってきた。おーい!」
人垣の喧騒から少し離れたところにある飲食店のアウトドアテーブルに五代たちが待っていた。
―お待たせしました
―何の騒ぎですかね?
「何かのイベントかな? ああ、どうやらヒーローショーのようだね」
騒ぎの方向に目をやれば、道路を挟んだ向かい側の簡易ステージを中心に人集りが出来ていた。
看板には『仮面ライダーショー』と書かれている。
―仮面ライダー・・・
「おや、君は仮面ライダーに興味があるのかい?」
藤丸がまじまじとステージを見つめていると、隣のテーブルに座っていた男性から声がかかった。その正面に座る子供の父親だろう。
「あ、ごめん。驚かせてしまったね。君ぐらいの年の人で未だに仮面ライダーに興味を持つ人が思いの外少なくてね。つい声をかけてしまったんだ」
―いえ
―あなたは仮面ライダーがお好きなんですか?
「ああ、そうなんだ。テレビで特撮として放映されてから見始めたんだけど、子供向けながらこれがなかなか面白くてね。基となっている4号に少し縁があるのも相まって、すっかりハマってしまったよ」
―へー・・・
藤丸もそれなりにサブカルチャーを嗜んだ経験から同意の相槌をうった。
「パパはね、みかくにんから4号に守ってもらったことがあるんだって!」
ビクッ、と五代が身震いをしたような気がした。
―え、そうなんですか?
「あ、ああ。事が事なだけにあまり人には言っていないけど中学の頃に転校先の学校が未確認に狙われてね。最後の標的になった私をヤツらから守ってくれたんだ。その時からバイクで荒地を疾走する4号の後ろ姿に憧れて、有難いことに今は交機隊の任に就かせていただいているよ」
そう言いながら男性は右手を頭にやり、笑顔で敬礼のポーズをとった。
―警察の方だったんですね
―警察というと夏目さんから連絡先もらったままだった
「夏目? それって夏目実加かな?」
―ご存知なんですか?
「うん。彼女は警察学校時代の同期だよ。歴代の成績トップ2で卒業した秀才だ。一位の人の成績を必死に抜こうとしてたからよく覚えてる」
―そんな人が今ではメイド服を・・・
―女性警官の制服がメイド服になってたりします?
「め、メイド? 知らないな。確か彼女の配属先は新設された主に未確認等の未知の不安分子への対策を行う部署だった筈だが。彼女はご家族の不幸で未確認への憎しみは人一倍だったから。これと言った趣味もないと言っていたし、そんな可笑しな格好してるとは思わないのだけど……うん?」
男性は遠くの混雑でなにか嫌なものを見たように眉を潜めた。
見やると、行楽地では明らかに浮いているスーツ姿の男性二人がなにかを探すように忙しなく動いていた。
ーお知り合いですか?
「あ、ああ。同じく同期だよ。所属は警備部だったかな。こんなところでは見たくない顔だから、なにも起きなければいいけど…」
その時、話を割るようにステージ側から歓声が上がった。どうやらショーが始まったようだ。
「おや、ショーが始まってしまったようだね」
「パパ、行こうよ」
子供に急かされ、男性は慌てながらテーブルのゴミを纏め立ち上がった。
「少しだけどお話ができて楽しかったよ。また機会があればその時にでも続きを」
「あのっ!」
軽い会釈をし立ち去ろうとする男性を、今まで沈黙していた五代が引き留めた。
「なにか?」
「その、君にとって4号はどんな存在だったのかな?」
突然、矢継ぎ早にしゃべる五代に面食らったのか男性は少し考え、
「正義の味方ですよ」
と、言いきった。
「正義の味方です。彼の正体が何であれ。
勿論、私のために命をかけてくださった両親や警察官、事件に関わった全ての人が私にとっては同等の存在ですが。この職を志したのもそんな正義の味方への憧れからです。
まぁ、この夢を決定付けたのは未確認のような絶対に相容れることができない存在とどう向き合うかを教えていただいたある人がきっかけなのですが・・・あれ? そういえば貴方のお顔に見覚えが・・・」
「ねぇ、パパ。 早くしないと仮面ライダーが出てきちゃうよ!」
「あ、ああ、うん。行こうか。それではまた」
親子は再度会釈をし、人混みの中に消えて行った。
「・・・」
親子が向かったショーステージを見つめる五代。
目線の先にはクウガと思われる仮面ライダーと怪人が戦いを繰り広げ、子供達が必死に仮面ライダーを応援している。
それを、羨望にも失望にも取れる表情を浮かべながら。
―五代さん・・・
「・・・ねぇ、藤丸くん」
―はい
「あれ、乗ろうか」
―・・・はい?
藤丸に笑顔を向けたその指先にはそびえ立つ巨大な建造物が一つ。
テーマパークの目玉と言えるアトラクション、所謂観覧車が在った。
「いやー、観覧車なんていつ乗ったか覚えてないよ!」
ゴンドラの外の眺めを無邪気な子供のようにはしゃぐ青年。
今、ここには藤丸と五代の二人きり。残りは一つ後ろのゴンドラにぎゅうぎゅうに詰まって入ったらしい。
差し込む夕陽に照らされて彼の笑顔の横顔が良く見える。
数えて三十代らしい、少し伸びた髭と野暮ったい髪の好青年を見ながら藤丸は予てよりの疑問を口にする。
―五代さんは俺たちに何か隠してませんか?
「・・・」
単刀直入、ストレートに疑問をぶつける。
「・・・はは、ばれちゃったか。まぁ俺も隠す必要もないと思うんだけど、ごめんね」
少し肩をすくめ、苦笑いをしながら頭をかく正面を向く五代。
彼も説明していないことに少なからず罪悪感を感じていたようだ。
「君の言う通り、君たちに言ってないことが色々ある。だけどある人から口止めされててね」
そんな事をする愉快犯に該当するのはこの世界では一人しか居ない。
―ギルガメッシュ王ですね
回答の代わりに苦笑いが返ってきた。
「…じゃあ、答えられるかは分からないけど質問があれば聞くよ。今回の件に関わるほとんどのことは言えないんだけど、それ以外のことは全部答えられるよ」
そういうことならと笑顔の彼に、藤丸は一つの疑問を一つ口にした。
「え、なぜ俺が度々自分が笑っていることを聞くのかって?ああ…、うん。これは言っても良いことかな」
そういうと表情は笑顔のまま、五代は藤丸へまっすぐ向き直した。
「質問に質問を返して悪いけどこの間のスタジアムでの戦い。君は来て早々あの事件に直面したわけだけど何故戦ってるゲラグとクウガ…、ああ、ゲラグはあのクラゲのグロンギね。二人のうちクウガを真っ先に助ようと判断したのかな?俺はクウガがカッコいいと思ってたんだけど、いくら言いつくろっても同じ怪人にしか見えないはずだよね」
それは…。
藤丸は質問に答えるために少々長考する。
理由は探せばいくらでもありそうだが…いや、理由など考えず助けようと自分は思っていただろうし。そもそも判断はアルトリアに任せている。そして並行世界に遍在するどの彼女でも同じ判断をした筈だ。いくらマスターとサーヴァントの精神が似通おうとも。
「つまり君たちは状況的に助力する方を判断したわけだね。うん、じゃあ、そうなんだろうね」
―あの…
―この質問に何の意味が?
「ようは戦ってた二人のうち加勢する方を選んだのも、善悪も君たちから見た判断で結論付けられてるってこと。少なくとも戦いを見た人は君たちしかいなかったからその解釈の域から外へ事実は出なかったけど、もっと多くの人が見ればクウガが悪者にもなっていたんだよね。わかりづらい?まあ、クウガ自体はふわふわした存在って思ってくれればいいよ。そして、君の目の前にいる俺も解釈の一つでしかない」
「藤丸君には俺がどう見えているだろう。年齢は30代、身長は176㎝ほど、髭が生えてて野暮ったい髪。冒険が好きで暴力が嫌いな笑顔の好青年に見えてるかな。事前に俺の特徴を聞いていたなら、その外聞を元に君がイメージしたクウガの変身者が居るはずだよ」
藤丸の背中に嫌な汗が流れる。
理屈を理解すればするほどわからなくなるのだ。
では、五代は。
五代雄介という名前の、みんなの笑顔を守るため戦いに身を投じた人は――
「俺は
― ――!?
確か、彼はそんなことは一言も発してはいない。
藤丸たちが呼ぶ五代の名に反応していただけ。彼の名を示した筈の名刺も、渡してくるその行動も、思えば想像通りではなかったか。その想像通りの彼を五代雄介と考えただけだ。
でも、ここで納得してはいけない。
納得してしまえば五代雄介という存在はこの世から消えてしまうような気がするからだ。
―……あなたは五代さんだった人ですか?
「どうかな。この世界でアレに至った存在が一人だけならそうだったかもしれないけど…、あ、これ以上は言えない。口止めされてる話の根幹に関わっちゃうからね。とにかくこんな感じで世間から形作られたクウガが今の四号ってこと。最近はクウガのことを仮面ライダーっていうらしけどなるほど、仮面というのは言い得て妙だね。見る人誰もが自分の描いた仮面をつけ変えられるから」
先ほどまで夏の太陽を思わせる笑顔に見えていたはずの顔が、
いつの間にかとても、――とても寂しそうに笑う顔がある。
夕陽に照らされていなければ跡形もなく消えてしまいそうな程の。
「こんな得体の知れない不気味な奴で悪いんだけど一つ君にお願いがあるんだ」
困ったような顔をしながら彼はお願いしてきた。
―なんですか?
「俺を、五代雄介かもしれない俺を
―!
「さっきの話を聞いてからこんなこと難しいと思うけど、彼は誰かにこの世界にいると思っててもらわなきゃ存在できない。度々笑顔か聞くのも、彼のトレードマークだからさ。これは人の理想や思想を受け入れるクウガになった、なってしまった彼の当然の末路であっただろうけど、中身があやふやなクウガだからこそ、芯は通っていてほしいという誰かの願いだ。俺はそれを叶えたいと思ってる。だから、お願いできる?」
藤丸は考えるまでもなく頷いた。
目の前の存在が何者なのかなど関係ない。五代雄介という存在が人であることには変わらないし、自分のイメージは変わらず目の前の彼のままなのだから。
ポツリと、
綺麗な笑顔が降った。
「…ありがとう。その言葉だけで十分だ。とても安心するよ」
彼の安堵の表情に藤丸も顔が弛んでしまう。
なぜだろう、この人に頼られるというだけでとても誇らしく感じる。
「そろそろ地上だ。こんなに綺麗な夕陽だと明日は雨かな?ホントは晴れが好きなんだけどね。でも明後日はきっと、綺麗な青空になるよ」
彼はサムズアップをする。
当然返すのもサムズアップで。笑顔を付け加えるのも忘れずに。
明日もきっといい日だろう。
園内スピーカーからモノ悲しげな民謡が流れ始めた。
楽しい時間は終わりをつげ、それを笑って迎える人、惜しんで駄々をこねる子供など様相様々だが、沢山の人が同じ出口を目指していつもの日常へ帰って行く。
それにおされてゆっくりと一行は進む。
「いやー、終わってみればあっという間だったな!」
「同意だな。燕と戯れるより余程楽しい」
「あなた達、バイトは宜しいのですか?」
「こまけーことはいいんだよ。どうせマスターが来るまでの暇つぶしだったからな。という事でマスター。俺たちは宿無しだ。今日は厄介になるぜ」
「こんな大人数入るスペースはありませんよ、英雄王の所にでも厄介になりなさい。…? アーチャー、何を悩んでいるんですか?」
「今日の献立だ。高級食材に頼らない庶民の腕をみせてやろう」
「昨日の夕食にナニ対抗心燃やしてるんですか…」
「君の周りは賑やかでいいね」
―ハハハ、はい
この往来の中、改めて前を歩く自分のサーヴァント達を見て少し恥ずかしげに藤丸は笑った。
―………………え?
藤丸は何が起きたのか理解できずに困惑した。
自分を取り巻く人の喧騒や生活音が一切消え、隣で笑いかけている青年を含めた全ての動きが突然スローになったのだ。
自分だけ異常に思考が引き伸ばされ、深く、暗く、冷たい海底の世界に取り残されたような感覚。
体の自由は効かず口も開かない。絞り出す息は焼けるように熱く、滑る汗やカタカタと震える音は自分のモノではないようで大変気持ち悪い。
わかってる。原因などとうに。
わからない。何故あんなものがここに。
先程から背後に感じる異様な存在感。現実感のなさ。このような行楽地とは余りにもかけ離れ、笑ってしまいそうな程場違いな『ソレ』は、恐怖でなのか興奮でなのか、藤丸はどこか懐かしく感じた。
押され弾き出される。
「大丈夫?!」「大丈夫ですか?マスター!?」
突然前のめりに倒れかけた藤丸に仲間たちは慌てた。
―大丈夫…
―何でもない…
今、とてつもないことがあった気がしたが何も思い出せない。
残るのは異常な倦怠感と吹き出る汗、ただそれだけ。
何気なく背後の高台に目をやるが、特に何も居ない。藤丸は気のせいだと自分に言い聞かせた。
―帰ろうか
何事もないと皆を促して帰り路につく。
先ほど、自分が見やった方向を五代も見ていたような気がしたが気のせいだろう。
……後から思えば、この時に無理にでも五代に聞いていればあんなことにならなかっただろうに。
熱い。
熱い。熱い。
燻る臭いに巻かれ明滅する思考を無理やり繋ぎ止めながら周りを見る。
辺りは無残な瓦礫。視界は炎に埋め尽くされている。
そうだ、仲間たちは…
無事とは言えそうにない。
皆肩で息をしており、立っているのもやっとという感じだ。
炎が全てを焼き尽くし、屈強なサーヴァントたちが無力化されるまで、
まさに一瞬の出来事だった。
なんで
そんな言葉しか浮かばない。まともな思考ができるほどの余裕もない。
疑問を目の前の存在に投げかける。
そこにいるのは黒、
徹頭徹尾全身が黒で、見るだけで身の毛がよだつ、針の
なんでこうなった
なぜ
どうして
仮面ライダー、シュレーディンガーの猫説
皆さまは冬映画はご覧になられたでしょうか。
私的には満足のいく作品でしたが、クウガに関する感想、解釈なら何でもウェルカムですので、よろしければ映画についてもまだ見ていらっしゃらない方のためにネタバレにならない程度にお寄せください。もちろんFGOについても同様です。
今後ともこの作品と気長にお付き合いいただけますようよろしくお願いいたします。