電子の海でふたりきり   作:梶五日

1 / 7

――
Reloading...
――



1.午前五時のはじめまして

 やあ、ようこそ。はじめまして。

 こんなところまで、よく来てくれたね。

 見るものなんて海と女の子くらいしかないけど、まあ、ゆっくりしていきなよ。

 そういう冗談はやめろ?

 ところがこれが本当なんだよね。うちの特産品なんだ。

 ……嫌そうな顔だね。

 だってさ、仕方ないじゃない。

 ちょっとでも海に出たら、魚よりたくさん持ち帰るんだから。

 意思を持って。

 自分の言葉で喋って。

 それなのに、同じ顔で同じ声で、同じ歴史を語る女の子だ。

 十人くらいお土産にどうだい。近頃は、少子化が進んでるって話じゃないか。ははは。

 

 僕かい?

 僕は、提督とか呼ばれてる。

 ううん、そんなに大層なものじゃないよ。

 せいぜいが、行けか戻れか言っていたくらい。

 それで生きていけるんだから、ありがたい話だけどね。

 ははは。羨ましいかい。

 じゃあ、代わってあげるよ。

 帽子をきみにあげよう。

 

 よし。

 

 似合ってるよ。うん。 

 からかっているわけじゃないよ。本当さ。

 これで、どこからどう見ても、きみは提督だ。

 ……さあ、提督さん。

 きみの最初の仕事は、僕を殺すことだ。

 いいかい。

 ちゃんと狙うんだよ。

 きみが持っているそいつでさ。

 なんでって、きみは提督なんだから。

 説明不足。まあ、そうだよね。

 じゃあ、話してあげるからさ。

 納得したら、撃ってほしいな。

 

 

 何から話すのがいいんだろう。

 そうだね、朝ごはんの話からにしようか。

 最近は自分でも作るようになったんだよ。

 トースト一切れと一杯の珈琲。

 僕は少食なんだけど、まあ仕方ないことだよね。

 提督なんてそれくらいでいいんだ。

 どうせ昼からは、食欲なんてなくなるんだから。

 もそもそとパンを飲み込んだら、総員起こしをかける。

 秘書艦の子がやってくれるよ。まあ、みんな起きてこないんだけどさ。

 僕は起きなかった子を適当に選んで、艦隊を組む。

 紙にさらさらと名前を書いて、秘書艦の子に渡すんだ。

 彼女がひとりひとり名前を呼ぶと、やっとしぶしぶ起きてくれる。

 ……ね、提督なんてそんなもんさ。

 それから、みんなは海に出る。

 僕は秘書艦の子とお茶でも淹れながら待つ。

 進みますか。戻りますか。

 それとなくどっちかを選んで、また待つ。

 そのうち日が暮れる。

 行きますか。帰りますか。

 だいたい、僕は帰ろうって言うんだ。

 それで夜になる。

 誰かが帰ってくるまで、日がな一日、僕はお茶を飲む。

 静かなものさ。

 ……どうだい、撃つ気になったかな。

 わけがわからない。そうか。

 じゃあ、もう少し話すね。

 なんにせよ、きみは僕を撃つことになるだろうけど。

 秘書艦の子の話でもしようか。

 ここにはもういないよ。

 僕が殺したからね。

 

 

 やがて陽が落ちる。

 そのうち夜になる。

 お茶はもう冷めている。

 秘書艦の子は、おやすみなさいと言って寝てしまう。

 朝になる。

 総員起こしをかける。

 秘書艦の子は起きてこない。

 だから僕は彼女の名前を紙に書く。

 自分で読み上げる。

 彼女はしぶしぶ起きて海へと出て行く。

 僕はひとりでお茶を淹れる。

 進みますか。戻りますか。

 僕は答えない。

 行きますか。帰りますか。

 それにも答えない。

 そのまま僕は寝てしまったから、本当のところを言うなら、彼女がどうやって死んだのか知らない。

 進みも戻れもしないまま、包囲されたんだと思う。

 多分死んだ。そんなところ。

 ――なんで?

 きみは、どうしてだと思う?

 それがわかってたら、とっくに僕を撃ってるね。

 じゃあ、教えてあげよう。

 提督は肩書きじゃない。

 提督の仕事は、選ぶことだ。

 僕は、あの子を海に出すときまでは提督だった。

 あの子の名前を紙に書いたんだからね。

 今は何かって?

 言ったじゃないか。そんな大層なものじゃないって。

 

 さ――提督。

 きみの役割は、秘書艦である僕を殺すことだ。

 それで、そのままこの部屋を出ていってほしいんだ。

 こんな馬鹿げた話、もうおしまいにしたくてね。

 そうじゃないと、あの子も僕も報われない。

 

 

 ……そうか。

 

 それがきみの答えなんだね。

 今回も、ダメだったんだね。

 わかったよ。

 僕の名前を、紙に書いて。

 そうしてまた繰り返そうか。

 行ってくるよ。

 

 ねえ、提督。

 最後にひとつだけ教えてあげる。

 僕は秘書艦の子が好きだったんだよ。

 だからさ、僕はきみの命令ならなんだって聞いてあげる。

 本当だよ。

 ぜんぶ本当だよ。

 なぜって、きみは彼女と同じ顔なんだからね。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。