9人の少女と生き別れた姉弟   作:黒 雨

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こんにちは、黒雨です。
猛暑が続いていて1日中汗だくな状態です・・・。
それではどうぞ!


回想 ~新しい家族~

~~7年前~~

 

 

前日に大雨が降ってあまり眠れなかった私は起きてすぐに外のテラスへ出た。そこから見た景色は昨日の事もあったか少し濁っていた。これはダイビングをしても魚達はいないんだろうな・・・。

 

次に岸の方を見ると流れ着いた漂着物やゴミがあるのを見て、今日はこの場所の掃除をするだろうなと悟った。

 

そして再び海に目を向けると、また漂着物が流れてきた。だが、その中に驚くものがあった。なんと、流れてる漂着物に人がしがみついていた。

 

助けようと私は迷わず海に飛び込んでその人を岸に運んだ。どうやら見た目からして男の子のようだ。

 

 

「ねぇ!大丈夫!?この声が聞こえる!?」

 

 

呼びかけても返事がない。胸に耳を当てるとまだ動いていたので、私は急いで父さんを呼んで病院に彼を運んでもらった。

 

医師に見てもらった結果、幸い彼の命に別状は無いと言われたので私はほっとして安堵の息をもらした。そして彼に会いたくなった私は病室へ向かった。でも、まだ彼は目を覚ましてはいなかった。私は彼が目を覚ますまでその日は近くで寄り添う事にした。

 

それにしても、この人は誰なのだろう・・・。

見たところ、私とあまり年は変わらないのかな。それに髪の色も私と同じような藍色をしている。あと、手に握ってあったペンダントだけど鍵が無いから中が見れない。それと、ポケットに入ってあったカードに(10才の誕生日おめでとう)と書かれていた。ほかの文字は水に濡れていて読めなかった。結局分かったのは、私の1つ年下だという事だけだった。

 

それから私は時間が空けば病院に顔を出すようになった。彼の事が心配で仕方なかったからだ。でも学校以外で顔を出さなかったせいか、千歌や曜、更にはダイヤや鞠莉にまで心配されるようになった。

 

数日経ったある日、いつものように病室を訪れると、そこにはベッドから起き上がってる彼の姿があった。私は嬉しかった。たとえ他人だとしても自分のように嬉しかった。

 

 

「ねぇ・・・ここは何処?君は誰?」

 

 

私に気づいた彼が私を見て聞いてきた。

 

 

「ここは病院だよ。数日前、君は海で漂流していたから私が岸へ運んで病院に連れていったんだよ。私の名前は松浦果南、君の名前は?」

 

 

「名前・・・・・・名前・・・・・・」

 

 

彼は下を向いて考え込んでしまった。そして再び顔を上げて、

 

 

「・・・分からない。僕は誰?君は僕が誰なのかを知っているの?」

 

 

「え・・・」

 

 

それを聞いて私は言葉が出なかった。これがテレビで見た記憶喪失というものなのか。

 

 

「・・・私は君の事を何も知らないんだ。ごめんね・・・力になれなくて」

 

 

私は少し俯いて答えた。

 

 

「そう・・・。果南ちゃんだっけ?ありがとう。こんな名も知らない僕を助けてくれて」

 

 

彼はお礼の言葉を述べた。私は嬉しかった反面悔しかった。せっかく目を覚ましたのに自分の事を忘れてしまって、更にはそんな彼の力になれない自分が。

 

 

「・・・果南ちゃん?どうしたの?」

 

 

彼はそう言って私に顔を近付けてきた。急すぎて私は思わず後ろに後ずさりしてしまった。男の子であんなに顔の距離を近付けられたのは初めてだったから。彼は自分が何したのかを分かってないように首をかしげる。もしかして、意外と鈍感・・・。

 

 

「わ//私//そろそろ時間だから帰るね!」

 

 

私はその場を逃げるように病室を出た。そしてトイレに駆け込んで鏡を見ると、自分の顔が少し赤くなっていた。

 

それから数日後、彼の退院が決まった事を聞いた私は入口付近で待っていると、彼が病院から出てきた。

 

 

「退院おめでとう!」

 

 

「ありがとう果南ちゃん」

 

 

「君はこれからどうするの?」

 

 

「医師からは僕の引き取り手が見つかったと聞いたからその人の待合場所へ行くところだよ」

 

 

「実はね・・・その引き取り手は私の家族だよ」

 

 

「え・・・?」

 

 

彼は私の急な発言に驚いていた。私も家を出る寸前に聞かされたから内心はとても驚いている。どうやら私が彼に会いに病院に行っているのを見て、父さんと母さんは彼を養子として引き取るために医師と話し合ってたらしい。

 

 

「さぁ早く行こ!」

 

 

そう言って私は彼の手を引っ張って走った。

 

 

「ちょ、ちょっと!いきなり過ぎてまだ話が掴めてないんだけど!」

 

 

「だ~か~ら~、君は今日から私達の家族になるんだよ!」

 

 

「家族!?」

 

 

驚いている彼を私は気にせずに家まで走って行った。そして家に着くと、父さんと母さんは歓迎会的なムードで家を飾り付けていた。

 

 

「ようこそ我が家へ!」

 

 

彼は終始困惑していた。私は彼を部屋に案内した。

 

 

「何かここまでしてもらうと申し訳ないよ」

 

 

「も~!今日から君は私達の家族であって私の弟なんだから!」

 

 

「弟?」

 

 

「そう!だって君は私の1つ年下だよね?」

 

 

「そうなの?」

 

 

「カードに10の誕生日おめでとうって書いていたし」

 

 

「・・・じゃあそうなのかな。・・・僕の名前はどうなるの?」

 

 

「名前かぁ・・・。ちょっと待ってね。う~ん・・・」

 

 

私は考えに考えた結果、

 

 

「・・・じゃあ(祐)ってのはどう?」

 

 

紙に名前の漢字を書いて見せた。

 

 

「祐?」

 

 

「そう、前に父さんから聞いたんだけど、この字は神様が人を助けるっていう意味なんだって。本当なら海を漂流してたら助かる確立は低いから君はきっと神様に助けてもらったんだよ。だからこの名前がいいと思うんだけどどうかな?」

 

 

「祐か・・・良い名前だね。いいよ」

 

 

「ホント!じゃあ今日から君は松浦祐だよ!よろしくね!」

 

 

「うん、よろしく。果南姉ちゃん」

 

 

こうして私の義理の弟、松浦祐が家族になった。




ありがとうございました。
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