この作品のお気に入りが100を超えました。今までお気に入りにして下さった皆様ありがとうございます!
これからもこの作品をよろしくお願いします!
それではどうぞ!
~遡ること数時間前~
旅館をあとにした僕は花屋でいつものを買ってあの場所へ向かった。そこへ行く途中に姉さんからメールが来ていた。
「皆に話すね。私達の秘密を」
と書いてあった。まぁいつかは話さなければならない事であったし、姉さん達がそれぞれの心中を明かしているのに、自分だけが何も明かさないのは道理に合わないと思ったから秘密を話すことに否定はしなかった。
確かに僕は姉さんと血は繋がっていない。それでも僕は姉と慕った。あの時姉さんが僕を助けてくれなかったら、今頃僕はもうこの世を去っていたかもしれない。そんなどこの誰だかも分からないような僕にも姉さんは優しくしてくれた。だから姉さんの弟になると言われた時、僕は姉さんにこれまでの恩返しをしようと決心したんだ。
だけど、少し不安もあった。もしその事を話したら皆はどう思うのか。これまでどおりの関係でいられるのだろうか、僕と姉さんを今までと一緒のように接してくれるのだろうかと悩んだ。
そう考えているうちに、慰霊碑の近くまで来ていた。
慰霊碑に着くと、先客が前で手を合わせていた。ただ、よく見ると何処かで見た事がある人だった。その人は僕に気づいたのか、声をかけてくれた。
「貴方は昨日の・・・松浦祐さんでしたね」
「はい、そうです」
「改めて、昨日はありがとうございました」
女性はそう言って頭を下げた。
「お礼は昨日聞きましたから構わないですよ。それよりもどうしてこちらに?」
女性は少し考えてから口を開けた。
「・・・貴方がその花を添えてから少しお時間よろしいですか?話せば長くなりますので」
「えぇ、大丈夫ですよ」
僕はそう言って慰霊碑の前に花を添えて手を合わせた。気のせいかも知れないが、この日だけはいつものペンダントが少しだけ輝きを放ってるように感じた。
供え終わると、女性は近くのベンチに座っていたので僕はその隣に座った。そして女性は話し始めた。
「貴方はあの慰霊碑の事を知っていますか?」
「はい、嵐のクリスマスイブの亡くなった方や行方不明者の弔いと航海の安全を祈る為に出来た物ですね」
「はい、実は私、当時その船に乗っていまして無事に救出された乗客の1人なのです」
「・・・そうだったんですか。という事は昨日話していた事は」
「はい、私はその事故で大切な人・・・弟と離れてしまったのです」
そして女性は話し始めた。自分に起きた過去の話を。
「その日は弟の誕生日でした。あの子は海を見たいと言っていたので、父と母は船を使った旅行を考えて選んだのが例の船です。そして事故が起き、弟は行方不明者として処理される事となりました。それ以来、私はこの海と、弟を守れなかった自分自身に対して憎悪を抱くようになり、やがて自暴自棄になっていきました。それで両親や友達にとても迷惑をかけてしまった事もあります。でも、そんな私になっても皆は救いの手を伸ばしてくれたお陰で今の私があります。これが私の過去の話です。」
話し終えた時、女性は少し悲しげな表情をしていた。
「貴方はどうしてこちらへ来られたのですか?当時、この船に乗られていたのですか?」
すると僕に質問が返ってきた。僕は自分の事を話すべきか悩んだが、どういう事なのかこの人には全てを話せる。そんな雰囲気がした。だから僕はこの人に全てを打ち明ける事にした。
「実は僕、記憶喪失なんです。未だに昔の事を思い出せていません」
「記憶喪失・・・ですか」
「はい。7年前に近くの淡島で今の姉さんに助けてもらって、この名前も姉さんから名付けてもらったんです。ここに来るようになったのは、ある夢を見るようになってからですね」
「夢?」
「そこでいつも沈んでいく船の中に離れていく少年と少女が出てきますのでここでいつも2人の再開を願っているんですよ」
「少年と・・・少女・・・離れていく」
女性は下を向いて考え出した。
「どうかしたのですか?」
「いえ・・・お気になさらず話を続けて下さい」
そうは言っているがさっきと比べてずいぶん動揺してるように感じた。
「そして夢から覚めたらいつも不思議なことに、これを持っていたんです」
そう言って僕は首から下げてたペンダントを見せた。するとそれを見せた途端、
「貴方・・・それをいったい何処で手に入れたのですか!?」
女性は急に声を大きくして僕に問いただしてきた。
「・・・すいません、急に声を大きくしてしまって。それは私が誕生日プレゼントととして弟に買ったペンダントと同じ物なのです。まさか貴方は・・・」
女性はそう言って深く被っていた帽子を脱いで、僕に顔を近づけた。その時僕は初めてその人の顔を見た。藍色の髪、黄金色の目、共通点が僕と合致している。
やがて顔を遠ざけた女性は鞄からある物を取り出して僕に見せた。それは僕の持ってた物と色違いのペンダントだった。
「そのペンダントの中身を見た事はありますか?」
「いえ、無いですけど」
それを聞いた女性は持ってた鍵で自分のと僕のを開けて見せてきた。初めてペンダントの中身を見た僕に衝撃がはしった。
「これは・・・!」
中には写真が入っていてそれには中学生時代の女性と1人の少年が写っていたが、その少年は家で姉さんと撮った写真に写ってる人と似ている。それはまさしく僕だった。何故この人が僕と写真に写っているのか。まさかこの人が・・・。そして女性は写真と僕を見比べて、
「やはり貴方は・・・青夜なのですか・・・?」
僕に聞いた事のない名前を聞いてきた。僕はこの人がいったい何を言っているのか全く分からないから答えることが出来ない。
「貴方が青夜であるのなら思い出して下さい!貴方の過去の記憶を!貴方の本当の名前、園田青夜を!そして姉の私、園田海未を!」
女性・・・海未さんは今まで隠していた心の叫びを僕にぶつけてきた。その目には涙を浮かべていた。
するとその時、
「うっ!?」
僕の頭に頭痛がはしる。それもあの時の夜よりも強い痛みが。僕は頭を抱えてしゃがんでしまった。
それと同時に僕の頭に何かが入ってくるような感覚に見舞われた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕はその2つの事に耐えきる事が出来ず、やがて足にかかってる重力も感じれず、目の前が真っ暗になり意識が遠のいていった。最後に聞こえたのは、海未さんが必死に青夜と呼び続ける声だけだった。それはまるで、夢に出てきた少女のように。
ありがとうございました。
評価、コメント、誤字などがありましたらお願いします!