9人の少女と生き別れた姉弟   作:黒 雨

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学校説明会

日曜日。本来であれば学校は休日だが、この日に中学生の子たちが浦女に続々と訪れていた。今日は待ちに待った学校説明会。雨の影響で通れなかった学校に向かう道も復旧を終えて一週間遅れての形で当日を迎えることとなった。そして来てくれた子たちに学校の案内や良さを伝える在校生たちは朝礼のため体育館に集まっていた。全体の進行をとる僕は今回の手伝いで集まってくれた生徒たちに感謝の言葉を伝えた。

 

 

「在校生の皆さん、おはようございます。遂に学校説明会の当日を迎えました。休日であるにも関わらず、学校のために力を貸してくれて僕は嬉しく思っております。本当にありがとうございます。皆で力を合わせ、来てくれた方々にこの学校の素晴らしさを伝え、あわよくば来年の新入生になってもらえるように今日は頑張っていきましょう!」

 

 

言葉の終わりに礼を終えて生徒たちから拍手が上がったところで朝礼が終わり、皆が体育館を出ていくと入れ替わるかのように続々と中学生の子たちが体育館に集まった。そしてその子たちの前で始まりの挨拶をして学校説明会が開催した。挨拶を終えて体育館を出ると、僕のスマホに通知が入った。相手は千歌ちゃんからで、ライブ会場に到着したとの報告だった。本来は一度学校に集まってから会場に行く予定だったのだが、会場が学校から遠く離れているため、千歌ちゃん達の予選組は会場での現地集合という形で、全員集まったら連絡を入れるようにお願いしていた。それを確認した僕は、屋上で本番直前のリハーサルをしている姉さん達の元へ向かった。

 

 

「千歌ちゃんから会場に着いたって連絡があっ…」

 

 

屋上に着いて声をかけようとしたが、姉さん達はリハーサルの途中で聞こえてはいないようだった。しかし気のせいか、4人のリハーサルから大きな緊張と不安を感じた。前に姉さんが言っていた通り、歌や踊りは大丈夫なのだが、表情のぎこちなさから今の4人が抱えているプレッシャーが僕にも伝わってくる。もしかしたら千歌ちゃん達の方も同じ様な状態なのだろうか。そうだとしたら披露している時に会場や学校に来ている人たちがそれを感じ取ってしまい、結果は悪い方向に向かってしまうかもしれない。やはりAqoursは9人でなければ。そう思った僕はすぐさま時間を確認し、とある決断をした。その時、リハーサルを終えた4人が僕の存在に気付いた。

 

 

「どう?リハーサル」

 

 

「うん。いつでもいける」

 

 

「YES!マリーもいつでもOKよ!」

 

 

「フッ。このヨハネに任せておきなさい!」

 

 

「マルも準備万端ずら!」

 

 

4人は元気よく応えるも、先程と同様に表情が引きつっている。不安を感じ取られないようにしているつもりかもしれないが、リハーサルの一部始終を見ていたから現にその不安を感じ取ってしまっている。だから僕は4人に決断したことを伝えることにした。

 

 

「…ラブライブ予選に向かって欲しい。今ならまだ千歌ちゃん達の番までに会場へ間に合うから」

 

 

僕の決断。それは4人が千歌ちゃん達と合流して9人で予選を突破してほしいという内容だ。しかしそれは学校説明会を諦めて欲しいと同じ意味になる。当然、すぐには納得してもらえない。

 

 

「…つまり、私たちだけでは駄目とユウは言っているのね?」

 

 

「それは違っ!…いや、そうですね。リハーサルを見ているときに4人からの緊張感や不安を感じていました。それが来てくれた人たちにも伝染するかもしれない。それに、前に姉さんから千歌ちゃん達も同じ緊張感や不安があると聞いているからきっと今、予選会場でも千歌ちゃん達が姉さん達と同じ様になってるはず。だから、姉さん達が合流して予選を9人で挑んで学校に戻ってきて欲しいと考えました。だって、Aqoursは4人でも5人でもない。9人だから」

 

 

僭越ながら、僕が気になったことを伝えると、姉さんが諦めたかのように応えた。

 

 

「…アハハ。やっぱり祐には気づかれちゃったか。当日までには切り替えられると思ってたんだけどね。でも、私たちが行ったとしてその後の説明会はどうするの?会場からだと間に合わないんだよ?」

 

 

「そうだね…」

 

 

姉さんから指摘されたことは僕が悩んでいることだった。本来は最後にAqoursのステージをスケジュールに入れていたが、それがなくなるということだから空いた時間をどうするべきか。その時、屋上前の階段から声が聞こえた。

 

 

「大丈夫!きっとAqoursならやってくれるよ!」

 

 

階段の方へ振り向くと、むっちゃんがいた。それに続いてよしみちゃんといつきちゃんもやって来た。

 

 

「そうそう!だから学校は私たちに任せて!」

 

 

「必ず説明会までには戻ってこれるから!」

 

 

そう言って姉さん達に部室においてあったラブライブ予選で着る予定だった衣装を渡す。

 

 

「…もう。そんなこと言われたら断れないじゃない」

 

 

「…そうずらね。ほら、善子ちゃんも速く行くずらよ」

 

 

「ヨハネ!さぁ待ってなさい!彼の地のリトルデーモン達よ!」

 

 

衣装を受け取った3人は屋上から降りて行った。最後に姉さんも衣装を受け取って降りようとしていたが、

 

 

「姉さん!」

 

 

不意に僕が声を出して呼び止めた。呼ばれた姉さんも足を止めて振り向く。

 

 

「…必ず予選を突破してね。僕はここで応援しながら帰りを待ってるから」

 

 

「…うん!任せて!」

 

 

姉さんは少し赤面ながらも笑顔で返して屋上を後にしていった。去り際の笑顔はさっきまであった不安が無くなり、まるで噓のように満面の表情だった。

 

姉さん達が行った後の屋上で僕たちは説明会に戻ろうとしたが、ふと気になることが思い浮かんだ。それを確かめるべく、降りようとするむっちゃん達を呼び止めた

 

 

「3人とも。ちょっと待って」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「よしみちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「私?」

 

 

「うん。さっき、必ず説明会にまでには戻ってこられると言ってたけど、会場から学校まで距離があるから説明会までには間に合わないよ」

 

 

「えっ?でも千歌は間に合うって言ってたよ」

 

 

よしみちゃんの返答に思わず首を傾げた。確か千歌ちゃんは間に合わないと分かってたはずだが、ますます疑問が増えた。

 

 

「もしかして祐君。千歌から何も聞いてないんじゃ…。それとも千歌が誰にも言ってないのか…」

 

 

「千歌ちゃんから?僕も何も聞いてないし誰にも言ってないと思う」

 

 

「実は私達。千歌から頼まれごとを頼まれてて。そのために後で私の家のみかん畑に向かう予定なの」

 

 

それを知って内容を聞いた僕はむっちゃん達と別れた後、生徒会室で地図を開いた。千歌ちゃんの作戦は予選でのライブを終えた後にすぐさまよしみちゃんの家のみかん畑に向かって、そこで使ってる農業用のモノレールで山を下りて説明会に間に合わせるといった内容だった。かなりの無茶な作戦に見えるが、それでも千歌ちゃんが諦めずにまだ足搔いているのなら、まだ諦めるにはいかない。先生たちによる校内の案内が行われている中、僕は他の生徒たちとグラウンドでAqoursが使うステージを設営していた。作戦を聞くまでは中止を考えて撤去も視野に入れていたが、今は必ず間に合うと信じて作業の手を進める。そしてステージの設営が完了した同時刻に予選でAqoursの順番が来たと聞いたので、すぐさま配信の画面を開いた。そこには9人でパフォーマンスをするAqoursの姿があった。

 

 

「良かった…。ちゃんと間に合ってて」

 

 

僕はひとまず安堵した。それからAqoursのパフォーマンスを見る。学校にいた時の姉さん達の不安は、画面越しから見るに全く感じなかった。きっとそれは9人でいるからだと思う。二手に分かれた時は、お互いがいない子の分まで頑張らなくてはいけないプレッシャーがあったために不安が大きくなっていった。でも今は9人、その不安も安心に変わっていった。だからAqoursは9人でなければならない。9人だから大きな輝きが放てるのだと感じたところでパフォーマンスは終了した。

 

一通り見終えた僕は体育館へ歩き出す。学校案内の時間が終わり、僕の準備ができた時には皆が体育館に集まっていた。そこで僕は最後の挨拶、そしてスピーチを行う。この学校説明会までを通して感じたこと、共学化テスト生から見た学校の素晴らしさを皆に知ってもらうために。

 

 

「受験生の皆様。保護者の皆様。こんにちは。私は現在、ここ浦の星女学院の共学化テスト生として本校に在籍をしています2年生の松浦祐です。この場でお時間をいただいて、私が本校を受験した経緯について少しお話をさせていただきたいと思います。当時中学生の私は具体的な進路や目標を考えてなく、自分のやりたい事を探しつつ志望校を探していました。そんなある日、姉から浦の星女学院共学化テスト生の誘いを受けました。まだ決まっていなかった私は姉に、「浦の星に行けば見つかる」と言われ、その言葉を信じて受験を決意しました。入学して初めて生徒たちと顔を合わせた時は、学校で唯一の男子生徒ということもあり不安もありましたが、在校生達はそんな私を分け隔てなく新入生の1人として受け入れてくれました。それから約2年半が経ち、私は今、本校の生徒副会長として生徒たちがより良い学校生活を送るために活動をしています。あの時、私を受け入れてくれた学校や生徒達に少しでも恩返しや貢献が出来るよう、今も努力を続けています。浦の星女学院は生徒達の助け合いが盛んです。今日もこことは別の場所で、本校の生徒たちがそれぞれの目標に向かって頑張っています。その子達を助けようと、同じ学校の生徒達で協力しあう姿は本校の一番の強みだと私は思っています。受験生の皆様。もしよければ、私達と充実した高校生活を送ってみませんか?浦の星女学院には、皆様の目標を応援し、手助けをしてくださる先生方や先輩達が待っています。大きな期待を胸に進学してください。以上で私のお話を終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました」

 

 

その言葉を最後に深く礼をして体育館を後にした。来てくれた人達にどう伝わったのかは僕には分からないが、体育館には拍手の音が全体に響いていた。

 

体育館を出てグラウンドに戻ろうと足を進めると、目の前に人が立っていた。その人は僕に気づいて労いの言葉をかける。

 

 

「祐さん。学校説明会、お疲れ様でした」

 

 

「ダイヤさんも。間に合ったんですね」

 

 

「えぇ。千歌さんの作戦には驚かされましたが、そのおかげもあってこうして間に合うことができました。ですが、貴方も大概ですわよ。まさか果南さん達を学校から会場に向かわせるなんて」

 

 

「あの場で決断したことですから。姉さん達も合流して9人のライブ。凄く良かったですよ」

 

 

「ありがとうございます。祐さんこそ、スピーチはうまくできたみたいですね」

 

 

「そうですか?僕には分からないですよ。良い印象で伝わってたらいいんですけど…」

 

 

「きっと伝わっていますわよ。外に響くまで拍手があがっていたわけですから」

 

 

お互いの結果を話し終えながら歩いていると、グラウンド内のステージ付近には既に人だかりができていた。きっとAqoursのライブを待っている人達だろう。

 

 

「では、私は先に行きますね」

 

 

「はい。僕は観客側から見ていますから」

 

 

ダイヤさんはふと笑みを見せてステージ裏に戻っていった。その後に始まったAqoursのライブは、来てくれた人達の笑顔と声援を受けて、学校説明会と共に大成功で幕を閉じた。




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