時刻は夕暮れを過ぎ、バスに乗って淡島に帰る頃には既に太陽が沈んで夜になっていた。家に着いて一息つく僕に対し、姉さんは終始笑いをこらえてる表情が続いていた。
「姉さん。いつまで笑ってるのさ」
「だって、ダイヤの隠してたことが…」
それはダイヤさんが隠してることを追究した時のことだった。
~~~数時間前~~~
「…話って何です?。明日では駄目なのですか」
「やっぱりダイヤ。何か隠してるでしょ?」
「私は別に隠してることなんてありませんわ」
ダイヤさんはそう言って顔のほくろをかいていた。しかし、その行動は僕達にとっては答えを教えてもらうようなものだった。
「…どう?」
「bluffデース!」
姉さんと鞠莉さんの反応にダイヤさんは驚いていた。何故なら僕達はダイヤさんのとある仕草を知っているからだ。やはりこういう仕草や癖は周りが気付くものであって、それをやっている本人は気がつかないみたいだ。
「無自覚でやってるのかもしれないですけど、実はダイヤさん。何かを誤魔化している時は必ずほくろの部分をかいているんですよ」
それを教えると、ダイヤさんは思わず苦笑いがこぼれてしまっていた。更にそこへ追い打ちをかけるように姉さんと鞠莉さんは白状するよう進めていった結果、流石に堪忍したのか、隠すのを諦めたように重たい口を開く。
「…別に隠そうとするつもりはありませんでした。今から話しますが…笑いませんか?」
「笑う?」
「大丈夫ですよ。別に笑いませんから」
「そんなことする訳ありまセーン!」
僕達が笑わないと応えたことを確認してダイヤさんは話し始めた。
「以前の曲作り以降、果南さんや鞠莉さんは1年生や2年生達との距離が縮まり、お二人とも果南ちゃん、鞠莉ちゃんと呼ばれているのに対し、私だけダイヤさんと呼ばれるのはまだ皆さんとの距離があると思いまして」
ダイヤさんが話しているのを僕達は聞いていたが、真剣な話をしているはずなのに姉さんと鞠莉さんは既に笑いをこらえるのに必死だった。それを気にせずに僕は話を聞いて思ったことを質問した。
「…ってことはダイヤさんは1年生や2年生達と距離を縮めてダイヤちゃんと呼ばれたいということですか?」
「私が呼ばれたいわけではありませんが、メンバー間に距離があるのは今後の為にもよくないので…」
僕の質問にダイヤさんが答えてる途中で、笑いをこらえている2人に限界が来た。
「アハハハハ!ダイヤが…ダイヤちゃん…!」
「そんなことをあれだけ隠していたのね…!」
「お二人とも笑わないといったではありませんか!」
こうして2人がダイヤさんに怒られつつも笑っているとバス停に帰りの最終バスが来たので、続きは明日にしようと決めて一度話を切り上げてバスに乗って帰路につくが、バスの中でも2人の笑いが治まることはなく、ダイヤさんはバス内でずっと頭を抱えていた。
~~~そして現在~~~
「結局ダイヤさんが悩んでいる内容は分かったけど、どうやって解決するの?」
「それはダイヤが自分で解決するべきだと思うよ。ちょうど明日、良い機会があるし」
姉さんが言っている良い機会というのは恐らくアルバイトのことだろう。実は曜ちゃんから連絡があって明日、アルバイト先の水族館でイベントがあるから一日だけAqoursの皆で手伝って欲しいとの話があったので、これを機にダイヤさんが距離を縮めることができたら解決することになるだろう。だから今回の僕達はダイヤさんの当日の行動を見守る形になる。
「それにしてもダイヤちゃんか~」
「姉さんは気にしたりするの?後輩からの呼ばれ方とか」
「私は特に気にはしないけど、さんとか先輩とかで呼ばれたらちょっとむず痒いかな。ダイヤと祐から言われることにはもう慣れたけど」
姉さんはそう言ってリビングの椅子に着いて練習ノートを開いた。そして今後の練習内容を書いてると突然、何かを閃いたかのような顔をして僕の方を向いた。
「?どうしたの姉さん」
「さっきの呼ばれ方の話だけど、私の事を名前で呼んでみてくれない?初めて会ったときみたいに」
唐突に姉さんは僕にお願いをしてきた。確かに出会って最初の頃は家族になるとは思いもしなかったから病院にいた時はずっと果南ちゃんと呼んでいたけど、現在は姉さんの呼び名で定着してるから今になってそう呼ぶのは羞恥心が大きくなるからあまり言いたくはない。
「…急にどうして?」
「うーん…なんとなく。また聞きたいなーって思ったから」
「なんとなくならごめんだけど無理だよ」
「え~!いいじゃん別に!前は普通に呼んでいたんだから!」
僕が断ると姉さんは頬を膨らませる。どうして僕に言わせたいのか分からない。仮に果南ちゃんと呼んだら姉さんは満足かもしれないが、僕はただ辱しめを受けるだけになる。
「前と言われても数年前の話じゃないか。それを今になって呼ぶのは正直恥ずかしいよ」
「1回だけでいいからお願い!」
「こっちもお願いだから勘弁してください」
お互いが一歩も引かずに話が平行線のまま時間だけが過ぎていった。すると姉さんが奥の手を出してきた。それは、
「じゃあ言ってくれないなら、祐の黒歴史を千歌達にばらしちゃうよ」
「うわ!?姉さんずるいよ!」
なんと姉さんが脅しを使ってきた。しかも内容が黒歴史ときたので、それを使われたらもう反論や抵抗をすることができない。僕が思わず諦めたような表情をすると、姉さんは楽しみを待つかのような表情で待っていた。こうなったらもう腹をくくるしかない。何故ならばらされるくらいなら、自身の羞恥心を我慢した方がずっと簡単だから。
「…はぁ。じゃあ言うよ」
「うん♪」
「…果南ちゃん//」
溢れ出る恥ずかしさを我慢しながら僕は姉さんを名前で呼んだ。その時の僕は体温が上昇したかのように体が熱くなっていた。姉さんに満足したかを聞くために顔を向けると、姉さんの顔は満足というよりは赤面している状態だった。
「…何で姉さんは顔を真っ赤にしてるのさ//?」
「祐だって顔が真っ赤だよ//」
そう言って姉さんは手鏡を僕に向ける。鏡を映った僕は姉さんと同じく顔が真っ赤になっていた。それもよく見れば、今まで見てきた姉さんや善子ちゃんの赤面と同じくらい赤くなっている。ということは、あの時に向けられたのは恥ずかしさだったのかと僕の中で感じた。でも、何に対して恥ずかしさを感じたのだろうか。恥ずかしさを紛らわせつつ考えていると、姉さんが急に立ち上がって、
「…じゃ、じゃあ!もう夜遅いから私はもう部屋に戻ってるね//!お休み!」
と言って、部屋に駆け込むように入っていった。まるで今いる空間から逃げるように。姉さんが自室に戻った後、僕は急に力が抜けて机にうつ伏せになるような形になり、やがて目を閉じて意識が遠のいていった。
~~~~~~
「はぁ~…。何やってんだろ、私…」
電気もつけず暗い部屋の中、駆け足で自室に入った私はドアに背中を預ける形で座り込んだ。ただ名前で呼ばれたかっただけなのに。それを拒み続ける祐に脅してでも言わせたかったということは、まだ私の中に未練があるのかな。
「もう諦めているつもりなのに…」
夜空に浮かぶ月の光が窓越しで私の部屋に当たる。その時、机に置いてある写真立てに光が照らされる。中に入っているのは私に弟が出来た時に両親が撮ってくれたツーショット写真。そこに映るのは私が片思いをしている人。誰にも聞こえない声でその名前を呟いた。
「青夜君…」
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