「ジリリリ…」
早朝の時刻に朝日が昇ろうとするなか、目覚まし時計のアラームが部屋中に鳴り響く。その音に気付いた僕は少し寝ぼけながらもアラーム音を止めた。それから辺りを見回すと自分の部屋ではなくリビングにいることに気が付いた。
「そっか…。あの後、すぐに寝てしまったんだ…。あれ?でも、これって僕の部屋に置いてあるものだけど…」
目の前にある目覚まし時計に疑問を浮かべていると、リビングのドアが開いて姉さんが入ってきた。
「おはよう祐。よく眠れた?」
「おはよう。この目覚まし時計って姉さんが置いたの?」
「うん。本当は起きるまでそのままにしようと思ってたけど、遅刻をするわけにはいかないからね」
姉さんはそう言って、外出の準備を始めていた。今日は曜ちゃんのアルバイトを手伝うために水族館に行かなければならないため、僕も急いで支度を済ませて何とか姉さんを待たせることなく同時に家を出ることができた。
船で淡島から本島に着いた後、バスに乗って水族館に着くまでの間に昨日のことを思い出していたが、僕の中では新たな黒歴史となっていた。姉さんに弱みを握られていたとはいえ、言った後の恥ずかしさときたら小学生の頃よりもはるかに上だ。この話は当然のことながら僕の口からは誰にも話したくない。だが、当事者である姉さんは昨日のことをどう思っているのか。面白かった出来事として皆に話すとしたらそれだけは避けたいため、口外を禁止させる方法を考えていると、姉さんが声をかけてきた。
「祐。昨日の事ってよく覚えてる?」
「うん。はっきりと」
「その事なんだけどさ…私達だけの秘密にしない?」
姉さんの提案に僕は少し驚いた。予想では皆に話すか、弱みを握るのかと思っていたので、それを阻止しようとしていたところを向こうから口外禁止の相談をしてきたことが意外だった。
「もちろんだよ。僕も姉さんにお願いして秘密にしてもらおうと考えてたから」
「よし、決まりだね!私は誰にも言わないから、祐も言っちゃ駄目だからね!…特に鞠莉には」
「…わかりました」
姉さんは最後の部分を強調するように僕へ念を押した。鞠莉さんには絶対知られたくないという意志の強さに圧迫さで押しつぶされそうになる感覚で僕は了承の返事をした。
それからバスは目的地である水族館に到着した。館内では、以前からここでバイトをしていた曜ちゃんが皆に指示を出した後、それぞれの位置に分担して作業をすることになり、僕の担当はステージで使われる観客席の清掃となった。清掃中は一人の時間が多いため、作業しながら昨日の出来事を思い出し後悔する。弱みを握られていたとはいえ、新たな黒歴史となるなら言わない方がよかったのかなと。
「はぁ…、何であんなことしちゃったんだろう…」
「そうね~、一体ユウは何をしちゃったのかしら?」
後ろから声が聞こえて振り向くと、鞠莉さんが満面の笑みで僕のすぐ後ろの観客席に座っていた。
「チャオ~♪」
「…いつからそこにいました?」
「まあまあ、細かい事は気にしないの。それより、さっきの独り言は何の話?」
鞠莉さんは興味を持つようにして僕に追究を始める。姉さんとの約束通り、絶対鞠莉さんに昨日のことは話してはいけない。知られたら最後、からかわれるのが目に見えているからだ。しかし、質問をされてる以上は何かしらの答えを出さなければと思い、以前に姉さんと話していた内容を使うことにした。
「小学校の時に僕が女の子と勘違いされた時の話ですよ」
「そんなこともあったわね~。ユウちゃんと呼ばれてたのをマリーは鮮明に覚えているわよ」
「早急に忘れて欲しいですけど…。それで、僕に何か用でもありました?」
話を切り替えるべく、僕は鞠莉さんに後ろにいた理由を聞いてみた。
「フフッ。ちょっとユウと話がしたくてね。とりあえず席に座りましょ」
鞠莉さんはそう言って自分の隣の席を空けて僕を座らせた後に話しを始めた。
「話っていうのは、ユウの好きな人についてよ」
「僕の…好きな人ですか?どうして急に…」
「ガールズトークではよくある話だけど、男の子に聞けるのは浦女で貴方だけじゃない?ユウは好きな人や気になる人とかいないの?」
好きな人。それは以前に善子ちゃんから聞かれたことだが、今はそういった話が浦女で流行っているのだろうか。とりあえず前回と同じ内容で応えた。
「僕は姉さんや海未姉、Aqoursの皆の事が好きですよ」
「それはlikeでしょ。私が聞きたいのはloveの方よ」
僕の答えに鞠莉さんは訂正を入れる。likeは友達としての好き、loveは恋愛としての好き。聞かれていたのはどうやら後者の方だったようだ。でも僕は恋愛というのをしたことがない。今までの好きはきっとlikeで止まっていたのだろう。だからloveとしての好きになると正直分からないというのが答えだ。
「…今はいないと思います。僕自身もloveの好きがよく分かっていませんから」
「だったら私達からloveになる子は今後いたりするのかしら?likeからloveになることもあるというし。試しにちょっと目を瞑って」
「え~っと。こうですか?」
「えぇ。そのままの状態で私達をイメージしてみて」
鞠莉さんの言う通りに僕は目を閉じてイメージに集中した。すると頭の中で9人の姿が浮かんだ。
「出来たかしら?では、中から1人だけを今度はイメージしてみて」
次は9人から1人だけを選ぶのだが、その途端に浮かんでいた9人のイメージが消えてしまい、頭の中には誰も浮かんでは来なかった。やはり、loveの意識がないから選べなかったということだろう。僕は諦めて閉じていた目を開けた。
「…失敗しました。どうやら僕はlike止まりのようです」
「それはまだ恋を見つけていないだけ。とりあえずはユウがloveで好きな人がいないことはわかったわ。それだけでも大収穫よ」
鞠莉さんはこの時間で得たものに納得したのか、少し笑みを浮かべて立ち上がった。
「でも、これだけは覚えておいて。今はまだユウが気付いていないだけで、もし貴方を好きになった人がアピールをしているのなら、それに気づいてあげなさい。それじゃあ私は元の場所に戻るわね」
そう言い残して持ち場に戻っていった。最初は鞠莉さんの好奇心で聞いてきたのかと思ったが、話す時の一人称がマリーから私になっていたことから後半は真剣さが含まれているように感じた。そして最後の言葉、自分の恋愛すら分かっていないのに相手のアピールに気づけるものなのか。そもそも僕に対してアピールしている人がいるのか。そんなことが気になりつつも、僕は清掃の作業を再開していった。
「(これで鈍感なユウも少しは周りに気が付けるようになるかしらね…。後は頑張るのよ、善子。)」
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