9人の少女と生き別れた姉弟   作:黒 雨

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自分から行かなきゃ始まらない

時刻は正午を回り、午後からのバイト再開に向けての休憩時間となったので、皆はそれぞれの場所で休憩をとっていた。ステージの観客席を清掃していた僕は、席に腰を下ろして一息ついているところに先程まで一緒にいた鞠莉さんが今度は姉さんを連れてやって来た。さっきの話の続きをするのかと思ったが、今回はダイヤさんについてだった。

 

 

「ダイヤは上手くやれてるのかしら…」

 

 

「いつもと同じだったら、まだ距離は縮まってないと思うよ。祐はどうだった?確かダイヤはステージの清掃だったから、近くで見えていたよね」

 

 

「そうだね…。どっちかというと上級生の風格が更に上がった感じだったかな。さっきもステージでアシカに追いかけられそうになった梨子ちゃんとルビィちゃんを助けたりしてたから」

 

 

そう話していると、作業を終えたダイヤさんがこちらにやって来た。浮かない表情をしていることから、今の所の進展は無いように見える。

 

 

「どう?1年生や2年生達と上手くいってる?」

 

 

「…いえ。上手くいかないですわ」

 

 

「まぁそうなるとは思っていたけどね。ダイヤは自分から近づこうとしないから」

 

 

「言われてみれば、ダイヤさんがルビィちゃん以外で自分から関わる事って少なかったですね」

 

 

恐らく姉さんは最初からこうなる事が分かっていたのだろう。ダイヤさんは小学生の頃から真面目で頼りがいのあるお嬢様だったので、きっと他の子たちは彼女が雲の上の存在に見えていたと思う。その思いに応えるためにダイヤさんもそう振る舞って自ら周りと距離を取っていった。本当は寂しがりやな自分を隠して。

 

 

「自分から行かなきゃ始まらないよ」

 

 

「そう言われましても…どうすれば…」

 

 

悩むダイヤさんに鞠莉さんが提案をする。

 

 

「簡単でしょ?まずはダイヤからあの子達に話しかける。それだけよ」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

休憩時間が終わり、姉さん達もそれぞれの場所に戻ったところで午後の清掃を再開すると、観客席の前を通る子供たちの列がやって来た。おそらくは水族館のイベントを見に来た子たちだろう。だが少し気になる点があった。それは、列で歩いてる子たち全員が黒い羽根を持っていたこと。そして子供たちの列の先頭で歩いてるのが先生でも保護者でもなく、僕と同じようにアルバイトをしている堕天使だったことだ。

 

 

「さぁ小さきリトルデーモン達よ!このヨハネについてきなさい!」

 

 

「はーい!」

 

 

ヨハネの声に導かれるかのように子供たちは後をついて歩いた。一体どうしてこうなったのか。僕は先頭を歩くヨハネ様に聞いてみた。

 

 

「善子ちゃん。これはどういう状況?」

 

 

「フッ。この者たちはヨハネと契約した新たなリトルデーモン達。あと善子ではなくヨハネと呼びなさい」

 

 

「子供たちに水族館の案内をするとは聞いていたけど、いつの間にかリトルデーモンの行進になってるよ…。それにあの黒い羽根って確かフリマで売ろうとしてた…」

 

 

「それは言うなー!あれこそがヨハネと契約したリトルデーモンの証なんだから!」

 

 

善子ちゃんの反応からして、子供たちが持っている羽根はおそらく昨日のフリーマーケットで出品した物だろう。だが当日は一つも売れず、更には撤収中に風が吹いたことで羽根が舞ってしまい集めるのに苦労したことを覚えている。そんな事を思い出しつつ善子ちゃんと話していると、

 

 

「ねーねー。おにいさんもりとるでーもん?」

 

 

小さいリトルデーモン?から質問が来た。それに答えようとすると、善子ちゃんが急に僕の腕を抱きしめて、横から入るように質問に答えた。

 

 

「えぇそうよ。この者はヨハネが最初に契約したリトルデーモン0号だから格上…簡単に言うとお兄さんよ。普段はヨハネの身の回りの世話をしているわ。貴方達も0号みたいな立派なリトルデーモンを目指すのよ」

 

 

「はーい!」

 

 

「身の回りの世話なんてしたことないけど…」

 

 

善子ちゃんの見栄を張って話す内容に困惑していると、観客席の上から声が聞こえた。そこには子供たちと一緒に来た先生と水族館のマスコットの着ぐるみ(曜ちゃん)がいた。

 

 

「子供たちー!先生が上で待っているよー!」

 

 

曜ちゃんの声が聞こえた子供たちは階段を駆け上がって先生のもとへ戻っていった。そして子供たちと入れ違うように曜ちゃんが着ぐるみのままでやって来た。

 

 

「お待たせ善子ちゃん!子供たちと仲良く出来た?」

 

 

「当然よ。ヨハネの手にかかれば造作もないこと」

 

 

「仲良くというより洗脳に近いような気がしたけど。2人はまた水族館を案内するんだったね」

 

 

「そうだよ。でも善子ちゃん。確か集合場所ってステージ前だったけど、どうして観客席にいたの?」

 

 

「えっ?それは…//」

 

 

善子ちゃんは一瞬固まった。言われてみれば、ステージは観客席の向かい側にある。だからわざわざここまで来る必要はないはずだ。曜ちゃんはそこにもう1つの疑問を投げる。

 

 

「あと…いつまで祐君の腕掴んでるの?」

 

 

言われてようやく気付いた善子ちゃんは恥ずかしかったのか、掴んでいた腕をすぐさま振り払って僕から距離をとった。急に離れるものだから虫でも止まっているのかと思い、払われた腕を見ても虫らしきものはいなかった。でも善子ちゃんの顔は赤面だったので何か恥ずかしいことでもあったのか、それとも思い出したのか分からないので僕は首をかしげた。それを見ていた曜ちゃんは着ぐるみ姿だからどんな表情をしているかは分からないが、やれやれと言いたそうに手で表現していた。するとそこへダイヤさんがやってきて、曜ちゃんに声をかけた。普段は「○○さん」と呼んでいるところを「○○ちゃん」と呼ぶことで距離を近づけようとしているのかな。

 

 

「よっ…曜…ちゃん」

 

 

「ダイヤさん。何か言いました?」

 

 

「いえ!…その…」

 

 

鞠莉さんからの助言通りに自分から声をかけるダイヤさんだが、その先のことを考えていなかったのか、次の言葉が浮かばず戸惑っていた。

 

 

「もし良かったら、ダイヤさんも一緒に子供たちと水族館内を歩きませんか?」

 

 

「えっ?」

 

 

「息抜きにどうです?。ステージの清掃は僕がやりますよ。観客席の方はもうすぐ終わるので」

 

 

曜ちゃんの急な提案や、良かれと思って出した助け舟にダイヤさんの戸惑いが加速していった結果、

 

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですので。それでは曜ちゃんも祐さんも善子ちゃんも、おアルバイト頑張りましょう~」

 

 

ダイヤさんはその場から逃げるかのように去っていった。あのリアクションだと2人はダイヤさんがどう見えていたのだろうか。

 

 

「2人はどうだった?さっきのダイヤさん」

 

 

「何…?今の背筋に冷たいものが走る違和感…!」

 

 

「分かる…!」

 

 

「別に恐怖を与えるつもりではなかったと思うけど…」

 

 

どうやら距離を縮めるどころか、更に遠くなっているようだった。しかもそれは2人だけでなく、別の場所では千歌ちゃん、梨子ちゃん、花丸ちゃんがルビィちゃんに相談をしていた。内容はダイヤさんが怒っている、悩んでいるなど全てが今日起きたことについてだった。しかし相談するも、今回はルビィちゃんも事情を知らないので、ダイヤさんが変と言われてる理由に全く見当がついていなかった。それを見ていた姉さんと鞠莉さんはこれ以上続けると皆が混乱すると判断し、1年生と2年生にダイヤさんの悩みと今回の目的を伝えた。

 

 

「ダイヤ…ちゃん?」

 

 

「皆ともう少し距離を近づけたいって事なんだと思うけど…」

 

 

「本当はダイヤさん自身で解決するつもりだったけど、思ったより誤解が生まれたからね…」

 

 

「じゃあ、あの笑顔は怒っているわけじゃなかったずら?」

 

 

「でも、可愛いところあるんですねダイヤさん」

 

 

「でしょ?ダイヤはああ見えて本当は寂しがり屋だから」

 

 

2人から聞いた話によって誤解をしていた5人はその後、ステージへ行ってダイヤさんの手伝いなどをして同じ時間を共有することを考えた。最初は急に来た5人に驚いていたダイヤさんだったが、一緒に作業をする事で少しづつ距離が縮まっていくのを実感したのか、アルバイトが始まった時に比べて笑顔の表情が増えていった。最終的には「ダイヤちゃん」と呼ばれるようになり、本人は呼び名を気にしないと言い続けているが、ほくろの部分をかく癖が出ていることから満更でもない様子が見えて、姉さんと鞠莉さんはクスッと笑った。




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