時刻は夕暮れ時。今日の空は雲で覆われ、雨が降りしきる。沼津での練習を終えたAqoursと僕はそれぞれの帰路に就こうとしていた。内浦組は千歌ちゃんや鞠莉さんの家から車を出してもらえたので、帰りのバスが来るまで雨の中を待つ必要はなくなった。
「果南ちゃんと祐君と梨子ちゃんは家の車ね。曜ちゃんも乗ってかない?」
「いいの?」
「うん!善子ちゃんはどうする?」
「拠点は至近距離にあります。いざとなれば瞬間で移動できますので」
「…どういうこと?」
千歌ちゃんの誘いに善子ちゃんは応えるが、応え方だけに内容が千歌ちゃんには理解できていなかった。
「翻訳すると、「家は近くだから、歩いて帰る」ってことだよ」
「訳すな!」
「お~なるほど!それじゃあまたね善子ちゃん!」
こうして皆は解散して帰路に就いた。内浦に向かう前に曜ちゃんを家まで送った後、車内から外を見てみると、練習が終わった時よりも雨や風が強くなっている。この天候の中で歩いて帰ってる善子ちゃんは大丈夫だろうか。そんな心配をしていると梨子ちゃんが尋ねてきた。
「そう言えば祐君。さっきの善子ちゃんの話してた内容。どうして分かったの?」
「今までずっと聞いてきたからね。普段から使ってる言葉もあったし。日常会話を善子ちゃんの言葉に置き換えたら分かるようになるよ」
「いや出来ないわよ…」
「後は夜にやっている善子ちゃんの配信を見るとか」
それを言うと、話を流すように聞いていた姉さんと千歌ちゃんが僕の方に視線を向けた。
「えっ?祐君、善子ちゃんの占い見てたんだ。いつから?」
「浦女の入学前だからもう二年経つね」
「二年!?だから祐君と善子ちゃんが初めから仲良かったんだ」
意外にも年月を聞いて千歌ちゃん達は驚いていた。てっきり姉さんは知っているものと思っていたが、よくよく思い出してみると善子ちゃんの配信をやっているのが夜遅いし、その時間は僕も姉さんも自室に入っているから知らなかったのにも納得がいった。すると千歌ちゃんに続いて姉さんも質問してきた。
「じゃあ祐は善子ちゃんのどんなところが好きなの?」
「好きなところ…」
一瞬だけ僕は答えるのを躊躇した。以前に鞠莉さんと好きについて話していた時にlikeとloveで違う事を思い出し、どちらで答えるのが良いのか迷った結果、今回は姉さんだからきっとlikeの意味で聞いてきたのだろうと思って質問に応える。
「自分の好きを貫いているところ…かな。配信の時の善子ちゃん、生き生きとしてるから。好きなことに嘘をつかない真っ直ぐな姿勢が僕は好きだよ」
「…そっか」
姉さんが納得したところで車は淡島近くの船着き場に止まり、僕と姉さんはそこで降りて千歌ちゃん達を見送った後、船に乗って家に帰った。
~~~その夜、とある通話にて~~~
「2人に聞きたいんだけど、祐君と善子ちゃんってその…もう付き合ってるの?」
「ないわよ」「ないずら」
「えっ…まだだったの…」
「そんなに早く善子の気持ちに気づくわけないでしょ。ユウの鈍感さは果南のスキンシップでも全然動じないんだから」
「祐さんの鈍感もあるけど、善子ちゃんのヘタレ具合も相当だからまだまだ時間はかかるずら」
「曜ちゃんから聞いたんだけど、水族館の時に善子ちゃんが祐君の腕を組んでたみたいだからてっきりもうそんな関係になってたのかと」
「その時のユウはどんな感じだったか、曜からは聞いてるの?」
「何も分かってなさそうだったって」
「What!?こんなに分かりやすいアピールしてるのになんで気づかないのよアイツは!」
「鞠莉ちゃん落ち着くずら。それだけで祐さんが気づかないのはいつものことだし、善子ちゃんは何か言ってた?」
「…何も言わずに顔を赤くしてただけって」
「なんでそこで何も言わないずらか!あのヘタレ堕天使は!」
「花丸も落ち着きなさい。これだけ進展がないとか、両方とも筋金入りね」
「善子ちゃんのアピールが失敗してるだけだけど…」
「あ~もう!早く善子のアピールにユウは気づきなさいよ!」
「あ~もう!早く善子ちゃんは祐さんに告白するずら!」
~~~~~~
「へっくしゅん!」
就寝前に電話をしていた僕だったが、室内が寒いわけでもないのに何故かくしゃみが出てしまい、その音が電話相手にも聞こえていた。
「どうしたの祐?風邪でもひいた?」
「風邪はひいてないよ。どちらかというと、誰かが僕の噂をしているような気がする…。それも何故か怒られてるような感覚がするんだよ」
「奇遇ね。私も同じような感覚で今いるわよ。何者かがこのヨハネの噂をしているような気配がするわ」
「一体誰が噂をしているのやら…。それよりも善子ちゃんは僕達と別れた後に何かアクシデントとかは無かったの?車の後ろから見ると傘が飛ばされてたみたいだけど」
「フッ、あれは飛ばされてなんかいないわ。導かれていたのよ。デスティニーによってね」
すると善子ちゃんから写真が送られてきたので見てみると、ケージの中にいる犬の写真だった。
「……犬?善子ちゃん犬を飼い始めたの?」
「飼ってないわ。出会ったの」
「出会った?ってことは捨て犬で、これから飼う予定なんだね」
「…家のマンション。動物を飼うのが禁止なの。それで祐にお願いがあるんだけど…少しの間だけでいいからこの子の面倒を見て欲しいの」
善子ちゃんは僕に少しの間、犬を世話して欲しいと頼んできたのだが、僕の家はダイビング機材などが置いてあるので、お店の営業中に支障がきたす可能性もあるから犬などの動物は飼えない。
「ごめんね。僕の家はお店でもあるから飼うことは出来ないんだよ」
「…そうよね。急なお願いして悪かったわ。今日はもう寝るわね。おやすみ祐」
「善子ちゃんもおやすみなさい」
そう言って電話は終了した。それにしても善子ちゃん、家が動物禁止なのにこれからどうやって犬の世話をしていくのだろうか。そんなことが気になりつつも、僕はベッドに入って眠りについた。
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