雲の無い青空が澄み渡る休日、僕たちを乗せたバスがとある場所に向けて走っていた。だが、僕は行き先を聞かされていないため何処へ向かっているのかがわからない。隣に座っている企画者に聞くも、
「落ち着きなさいリトルデーモン0号。そんなに焦らずとも、目的の地まではあと僅かよ」
「…もうすぐ着くという訳ね」
とはぐらかされていた。事の発端は昨日の夜、いつもと同じく電話していた時の善子ちゃんの提案から始まった。
~~~昨日~~~
「ねぇ。祐は明日の予定とかもうあったりするの?」
「特にはないけど、どうかした?」
「それじゃあ・・・その・・・2人で遊びに行かない?//」
「遊びに?うん、いいよ」
「いいの!?」
「そんなに驚かなくても・・・。それで、何処に行くの?」
「それは…その…明日になったら教えてあげる!//じゃあお休み!//」
その言葉を最後に善子ちゃんとの電話は終了した。
~~~~~~
そして現在。バスに乗って数時間が経過した頃、目的地に着いたのか善子ちゃんが降りるボタンを押した。バスを降りてから更に歩くこと数分、ようやく目的地に到着したようだ。
「さぁ、着いたわよ。リトルデーモン」
「ここって…ロープウェイ?」
どうやら善子ちゃんが決めてた場所は、沼津より南に位置するとある滞在施設だったようだ。ここでは目の前にある山の山頂と僕たちが今いる山麓をロープウェイで繋いでおり、山頂に行くと富士山が綺麗に見えることから、遠くから観光客が来るほど人気の場所だ。それにしても、善子ちゃんが此処を選ぶのは意外だった。てっきりゲームセンターか黒魔術に関わるお店巡りをするのかと思っていたから。
「珍しいね。善子ちゃんがこの場所を選ぶなんて」
「フッ、このヨハネにも大空が恋しくなる時だってあるのよ。それじゃあ行くわよ!」
こうして善子ちゃんに腕を引っ張られながら僕は施設内へと入っていった。そんな2人を少し離れた位置から見守る影が2つ…。後をつける2人の声は僕たちの耳には届いていなかった。
「さてと、遂に始まったわよ。ユウと善子のデートが♪」
「これで少しは進展があるといいずらね…」
施設内に入った僕と善子ちゃんは山頂に向かうためのロープウェイに揺られていた。流石に山の頂上に繋がってるだけあって、乗ってまだ数分しか経っていないのに既に地上からは大きく離れている。こういった経験が少ない僕には新鮮な楽しさの半分、少しの緊張感を肌で感じていた。そんな僕を見て善子ちゃんはクスッと笑っていた。
「祐は初めてなの?ロープウェイ。最初に座った場所から動こうとしないけど」
「うん、こんなに高いところまで登ったことは一度もないから。窓から下を見たときはちょっと怖かったよ。そりゃ姉さんが行きたがらないわけだ」
「えっ?果南って暗い場所だけじゃなくロープウェイも苦手なの?」
「あっ…」
善子ちゃんとの会話の中で思わず口を滑らせてしまった。周りの人に自分の弱いところを見せたくない姉さんだから秘密にすべきことなのだろうなと思ってたけど言ってしまった。ごめんなさい、姉さん。
「ロープウェイというより、高いところから見下ろすのが苦手なんだよ姉さんは。山とか屋上なら大丈夫だけど、足元から下の景色が見える建物とか乗り物は無理だから、多分これに乗ったら僕と同じ体制になってると思うよ」
「なんか、私の中で果南の印象がどんどん変わっていくんだけど…」
「逆に善子ちゃんは姉さんにどんな印象を持ってたの?」
「ヨハネ。最初に会ったときはちょっと怖い先輩で、Aqoursで一緒になってからは面倒見の良くて体力が凄い先輩だったけど、さっきの話で可愛い年下みたいな先輩になったわよ」
「第一印象からがらりと変わったね。でも今ので合ってるよ。姉さんは子供っぽくて可愛いから」
すると善子ちゃんは一瞬だけ考える仕草をしたが、決心がついたかのように口を開く。
「…じゃあ、私は?」
「はい?」
「だから!祐は私にどんな印象を持ってたのか聞いてるの!//」
「善子ちゃんの印象か…」
そう問われて僕は初めて会った時のことを振り返る。
「第一印象というよりあの時は不安しかなかったよ。ぶつかっちゃった後、急にヨハネになるんだから最初は頭でも撃ったのかと思ってたし」
「なっ!?ヨハネを痛い子だと思ってたわけ!?」
「そういう訳じゃないよ。でもそれから電話とかで話していくうちに堕天使が好きなのはよくわかったし、動画配信でヨハネとして生き生きとしてる善子ちゃんを見て、「あぁ、この子は自分の好きなことに噓をつかないんだな」と思った。だから、今の印象は正直で真っ直ぐな子かな」
僕が思っている今の印象を伝えると、善子ちゃんは嬉しかったのかヨハネとして気高く振る舞う。
「流石リトルデーモン0号。このヨハネのことをよく分かってるわね♪」
「…そういうところが善子ちゃんの可愛いところだけどね」
すると、さっきまでの元気なヨハネとは一変、急に顔を赤くして俯いてしまった。
「善子ちゃん大丈夫?」
「大丈夫よ。ちょっとね・・・//」
「もしかして乗り物酔い?」
「違うわよ!」
「じゃあどうしたのさ?」
「あ〜もう!少しは察しなさいよ//!この鈍感野郎〜!」
そう言いながら善子ちゃんは隣に座って僕の左肩を強く叩き続ける。
「痛い痛い!ごめんって善子ちゃん!悪かったから!」
僕の謝罪の言葉も虚しく、善子ちゃんの攻撃はロープウェイが頂上に登りきるまで続いた。
一方、僕達の乗ってる台とは違う次の台では後ろを付いて来ている2人が乗っており、前にいる僕達を観察していた。
「見て、花丸。善子がユウの隣に座ってアピールしているわよ。善子もやれば出来るじゃない♪」
「あれはアピールしているのかな?マルにはいつもの祐さんの無自覚な言葉に動揺している善子ちゃんにしか見えないずら。それに、祐さんも気づいてなさそうだし」
「そうなの?はぁ〜、全く…少しは感づきなさいよね〜もう!」
鞠莉さんはそうふてくされつつも手に持ってる双眼鏡を再び目に当てて観察を再開した。
「着いたわよ。リトルデーモン」
「まさか頂上に到着するまで善子ちゃんに肩を叩かれ続けるとは思わなかったよ・・・」
「ヨハネよ。確かに私も少しやり過ぎてしまったわ。ごめんなさい」
「別に大丈夫だよ。それよりも凄い景色だね」
僕はそう言いながら辺りを見回していた。ロープウェイから降りると目富士山や駿河湾を始めとした静岡の景色が広がっており、下を見下ろしてみると僕の家がある淡島や沼津の港が小さく見えていた。
「そうね。ヨハネも初めてここに来たけど、今日が晴れていて本当に良かったわ」
「善子ちゃんも初めてだったの?」
「えぇ。どこに行こうか迷ってた時に鞠莉が教えてくれたのよ」
「そうだったんだ。じゃあ鞠莉さんに感謝だね」
そんな会話をしていると施設内の従業員がこっちにやって来た。
「そちらのカップルのお二方。もし宜しければ記念に写真などいかがですか?」
「カ、カップル!?」
「記念写真か~。善子ちゃんはどうする?」
「私と…祐が…カップル…//!。つまりリア充…ってことは今はデート中…クックック…」
従業員からの記念写真のすすめに何故か動揺している善子ちゃんにどうするか尋ねるが、いつのまにか一人の世界に入っていたのでこちらの声は全く聞こえてはいないようだった。
「彼女さん…大丈夫ですか?」
「多分…大丈夫だと思います。ほら善子ちゃん、そろそろこっち側に戻ってきて」
そう言いながら僕は善子ちゃんの両肩を揺らした。すると暫くしてようやく善子ちゃんは自我を取り戻した。
「…はっ!?ヨハネはいったい何を!?」
「自分の世界に入り込んでた。それでどうするの写真は?」
「写真?あぁ、確か記念写真だったわね。じゃあ撮りましょ」
こうして富士山をバックに記念写真を撮ってもらい、従業員とはここで別れた。出来上がった写真は下山時に渡すとのことなので、それまで園内を見て回ることにした。
まず最初に向かったのは頂上に着いてすぐ近くにある茶店。そこでソフトクリームを買った僕たちは近くのテーブル席に座って目の前の富士山を眺めていた。
「のどかねぇ。こんな絶景を前にしてソフトクリームを食べる、至福のひと時だわ…。ところで祐は何味のソフトクリーム食べてるの?」
「僕のは抹茶味。食べてみて美味しかったから今度ダイヤさんに勧めてみようかな」
「そんなに美味しいの…?ヨハネも一口欲しいな~…」
「一口欲しいの?じゃああげるよ」
「ありがとっ、リトルデーモン♪」
欲しがるように僕のソフトクリームを見ていたので、一口上げることを提案したら善子ちゃんは笑顔で感謝の言葉を伝えてきた。よっぽど嬉しかったのかな。とりあえずはソフトクリームをあげるべく、持ってるスプーンで一口分すくって善子ちゃんに近づける。すると善子ちゃんは驚くように動揺した。
「ちょっと何してるのよ//!?」
「だって善子ちゃんが一口欲しいっていうから…」
「それは言ったけど、なんで祐がスプーンを持って近づくのよ!ヨハネに渡せばいいだけじゃない//!」
「そういうものなの?普段は食べないものを食べるときはいつも姉さんがさっきの善子ちゃんみたいに欲しがる仕草をしてたからてっきり」
「あ~もう//!果南のバカ~~~!!」
どうしてそんなに怒っているのか分からないが、善子ちゃんの叫び声は富士山の方向へ飛んで行った。そしてようやく落ち着いたので、ソフトクリームが溶けるまでに確認をする。
「…結局いるの?ソフトクリーム」
「………いる//」
顔を赤くしながらも善子ちゃんは一言頷いたので、もう一度ソフトクリームをあげる準備をする。どうやら姉さんとのやり取りだと怒るみたいだから、次はすくったスプーンをそのまま渡すことにした。
「はい、落とさないでね」
「………さっきみたいに」
「えっ?」
「…さっきと同じように…頂戴//」
善子ちゃんから意外な答えが返ってきた。さっきそれで怒っていたのに急にどうしたのかな。ますますわからなくなってきたが、そうして欲しいというので同じようにスプーンを近づける。
「はい」
「あ~ん…//」
「…どう?」
「…美味しい(正直、味がわからない。だってさっきのはリア充がするやつ…//。それを私と祐が…//!)」
「気に入ってくれたようで良かったよ」
それから僕達は茶店でもう少しくつろいだ後、「この園内で行きたいところがある」と顔の赤さがなくなった善子ちゃんが言うので茶店を出てその場所に向かうことにした。
一方、後ろから観察をしている2人は先程のやり取りを見ていてあきれていた。
「善子へ一口あげるのを恋愛の自覚なしで出来るのは男の子の中でもアイツだけじゃないかしら…」
「ここまでくると、ある意味祐さんは凄いずらね。あっ、このお店のおはぎ美味しいずら~」
「ホントどうやって普段過ごしてたらあんな事を平然とやれるのよ」
「さっきの会話を聞いてみたら、果南ちゃんとよくやってるみたいずら」
「一体何をしてるのよ果南は。私やダイヤの知らないところで」
「そういえば鞠莉ちゃん。どうして善子ちゃんにこの場所を勧めたずら?祐さんと一緒に遊ぶだけなら他にもあったはずだよね?」
「それは後でわかるわよ。ほら、あの2人が動いたわ。追いかけるわよ、花丸」
「待つずら!まだマルのおはぎが残ってるずら~!」
再び尾行を再開する鞠莉さんに花丸ちゃんは急いでおはぎを食べ終えて追いかけるのであった。
茶店を出た僕達は善子ちゃんの行きたい場所がある園内の奥地へと向かうために木々が生い茂る遊歩道の中を歩いていた。さっきまで見ていた富士山が見える開放的な景色とは一変、中は紅葉の木で真っ赤に染まっていて、まるで別世界に辿り着いた感覚になっていた。
「紅葉が綺麗だね。他の季節の時に来たら見え方も変わったりするのかな」
「季節が変われば葉の色も変わるんだから。でも、この景色はずっと見ていたいわね…」
「そうだね。…そういえば、今思い出したんだけど」
「どうしたのよ?」
真っ赤な空間内を進み続けていた時に、ここに来てから気になってたことを思い出す。
「…今の僕達って周りからカップルだと思われている?」
それを聞くと善子ちゃんは足を止めて怒っているのか、それとも照れ隠しをするかのような表情をしていた。
「今更何を言っているのよ!頂上に着いた時からずっと思われてたわ//!」
「そうだったんだ。なんかごめんね。勘違いさせちゃったみたいで」
「なんで謝るのよ。別に気にしていないし」
「だって今日の善子ちゃん。ちょっとぎこちなかったような気がしたから大丈夫かなと思って」
「…私は平気よ」
そう言って遊歩道を抜けると小径が続いており、善子ちゃん曰く行きたい場所はこの先らしいので、また歩くのを再開する。木漏れ日が照らす小径には僕達しかいないので、まるで陽射しが歓迎するかの如くこの先の道を照らしていた。
「それにしてもカップルというのは今日の僕達みたいな感じのことを言うんだね。初めて知ったよ」
「何よそれ。羨ましくなった?」
「そういう訳じゃないよ。ただ、僕にはきっと出来ないだろうなと思っただけ」
「…どういうこと?何が出来ないのよ?」
「恋愛として人を好きになることがだよ。今日の僕達を周りからはカップルに見えてたみたいだけど、僕自身は普段と変わらず友達と遊びに来たような感覚だったから違いが全くわからないんだ」
僕は歩きながら今感じている不安を口に出す。偶然なのかもしれないが、ここ最近は恋愛の話題をよく聞いているような気がしていた。最初は水族館での鞠莉さんとの会話。次は姉さんからの相談。それによって僕自身も恋愛について考える機会が増えていった。いつかは姉さんみたいに好きな人で悩んだりすることもあるのかなって。でも、どれだけ考えても恋愛の好きと友達の好きの違いが分からなかった。友達以上の関係が恋愛というみたいだが、そうなる転機が今のままだとずっと気づけないから、そのことを考えていると僕は皆とはずれていておかしいのかなと思う時があった。
「僕の中ではカップルと友達が同じ意味だと思っているから。それっておかしいことなのかな?」
「別におかしくないわよ」
僕が話した不安を善子ちゃんは一瞬で否定した。
「それってただ祐が恋愛で好きな人がまだいないだけでしょ。気にすることないじゃない」
「そういうもんなの?」
「そういうもんよ。…っていうか絶対に分からせてやるわ」
「…分からせる?」
「なんでもない。ほら、着いたわよ」
そう言って善子ちゃんが歩く足を止めた。僕も立ち止まって前を見ると、そこには最初に見た富士山を背景に鐘が建っていた。よく読んでみると、「幸せの鐘」と下に書いてあった。
「幸せの鐘?」
「そう。この鐘を鳴らすと幸せが訪れると言われているの」
「ここが善子ちゃんの行きたかった場所なんだ。どうして行きたかったの?」
「…必勝祈願よ。ヨハネの祈りが地区大会に勝利をもたらす!」
「必勝祈願は神社だけどね」
「うるさい!とにかく鳴らすわよ!」
そう言いながら善子ちゃんは鐘の前に立つ。せっかく来たので僕も後で鳴らそうと順番を待っていると、善子ちゃんが僕に向けて謎の手招きをしていた。鐘は1人でも鳴らせるはずなのだが、
「何してるの?。こっちよ」
「こっち?」
「いいから早く」
「善子ちゃんが1人で鳴らすんじゃないの?」
「これ以上言わせないでよ//!2人で鳴らそうって言ってるの//!」
「そういう意味だったの?言ってくれればよかったのに」
「言えるか!」
善子ちゃんは本音を伝えると、少しずつ顔が赤くなっていった。最初は何をしているのかわからなかったが、ようやく僕も意図が理解できたので善子ちゃんの隣に並び、鐘に着いてある紐を2人で手に取った。後は鳴らすタイミングを待っていると善子ちゃんが今日の感想を聞いてきた。
「ねぇ祐。今日は楽しかった?」
「楽しかったよ。ロープウェイはちょっと怖かったけど、山頂を散策するのは新鮮で気持ちよかった。誘ってくれてありがとう」
「別にお礼なんていいのよ。私だって楽しかったし」
善子ちゃんが楽しかったと言って僕は一瞬驚いた。最初のロープウェイや昼のソフトクリームでの僕の素行に対して怒っているような感じがしていたけど、その言葉が返ってきたのは意外だった。
「そうなの?カップルと勘違いされたときは凄く動揺していたからてっきり嫌なのかと」
「嫌な訳ないでしょ!むしろ…嬉しかった。2人で来ることができて//。祐こそどうなのよ。私と付き合ってると勘違いされて嫌じゃなかった?」
「僕も嫌じゃなかったよ。一緒にいて楽しかったけど、不思議な感じがしてね。この時間がもう少し続けばいいのになと思ってたらなんだかいつもの友達とは違う感覚がしたんだ。どう言葉にしたらいいのかわからないけど」
「なによそれ。言葉に出来ないんじゃヨハネにもわからないわよ」
「そうだね。でも悪い意味じゃないから。だからさ、もし善子ちゃんが嫌じゃなかったらまた誘ってほしいな」
「…!?//、もちろんよ!。次のヨハネの旅に必ずついてきなさい!リトルデーモン0号!」
そう言って善子ちゃんは照れ隠しをするかのように持っていた紐を急に後ろへ引っ張る。一緒に持っていた僕の手は振り回されるような形になってしまったが、結果的に2人で鳴らした鐘の音は山頂から富士山へ飛んでいった。そして時刻は閉園時間を迎えて僕達は降りのロープウェイに乗って山頂を後にするのだった。
「…結局、今日のデートは大成功だったずら?」
「どうかしら。それは2人にしか分からないわね」
「そういえばさっき調べたけど、ここって「恋人の聖地」と呼ばれているずら。だから鞠莉ちゃんはこの場所を善子ちゃんに教えたんだね」
「Correct!!前に善子から相談されてね。「ユウと遊びに行きたいけど何処かいい所ないか」ってね」
「善子ちゃんも随分積極的になってきたずらね」
「そうね、善子は十分頑張っているわ。後はユウが気付くだけよ。善子の気持ちに。そして、自分の本心に」
麓に向かって降りるロープウェイ内では、海に沈んでゆく夕日を眺めている僕とその隣ですっかり眠っている善子ちゃんの姿があった。最初は眠らないように必死にこらえていた善子ちゃんだったが、睡魔には勝てずにやがて眼を閉じてしまい、本人は気づいてないだろうが僕の肩に寄りかかる形で眠ってしまった。
「よっぽど楽しかったのかな…。とりあえず今日はお疲れ様」
僕は眠っている善子ちゃんを起こさないよう静かな声でそう呟いた。それから暫くすると眠りが深くなったのか、善子ちゃんから寝言が聞こえてきた。
「祐………好き………」
その言葉を聞いて僕は今日に起きた不思議な感覚をまた感じていた。善子ちゃんとは中学時代からの友達。今まではそれが変わらず続いていくのだろうと思っていたけど、今日だけは違っていた。いつもと同じように接して遊んでいただけなのに、僕が今日見ていた善子ちゃんはいつもの友達とは違う、異性としてみていたのかも知れない。でも、どうしてそう見えてしまったのかわからない。もし理由があるとするならば、それは善子ちゃんのことが…、
「まさかね…」
僕はその先を考えるのを止めた。きっとなにかの勘違いだろうと割り切って窓の外から見る景色に目を背けた。そんな僕の隣で善子ちゃんはまだ目を覚まさずに眠り続けていた。寄りかかっている方の僕の手を握りしめたまま。それに僕は気づかないままロープウェイは麓まで降りて行った。下山後に貰った写真には僕と善子ちゃんの笑顔がツーショットで写っていた。それはまるで今日のデートを楽しみにしていたカップルのように。
読んでいただきありがとうございました。
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