今回は善子ちゃんの誕生日のお話です。
時系列は24話「真実と仲直り」と25話「新たなるスタート」の間になります。
改めて善子ちゃん誕生日おめでとう!
それではどうぞ!
【7.13津島善子誕生日記念】ヨハネの幸運な一日
とある部屋の一室
現在の時刻:7月12日23時59分
その同時刻では動画配信でカウントダウンが行われていた。そして時計の針が12の位置に重なる時に配信内のカウントも0になり日付が変わった時、配信者である部屋の主が声を上げる。
「フフッ、遂に来たわね。この日が!今日は堕天使ヨハネがこの地に舞い降りし日。さぁ、祈りなさいリトルデーモン達よ。このヨハネが大いなる祝福を進ぜよう!」
この言葉を最後に堕天使ヨハネは持ってたロウソクの火を消し、今回の配信は終了した。火を消したことにより、部屋は電気をつけておらず真っ暗な空間だ。その中で唯一、部屋の光を照らしていたのは通知のたびに開く携帯画面だった。
「凄い…!。リトルデーモン達からこんなにもお祝いしてもらえるなんて…」
携帯画面に映る「善子ちゃんお誕生日おめでとう!」の言葉に、堕天使ヨハネこと津島善子は嬉しさを隠せずにいた。Aqoursの皆や学校の生徒たち。そして、
「あっ、今年も祐からきてるわね」
メッセージ欄にある名前「松浦祐」。彼は善子が浦の星に入学する前からの知人で善子曰く「最初のリトルデーモン」である。中学時代はヨハネのこともあって友達が出来なかった善子には彼が当時堕天使ヨハネでも自分を受け入れてくれた唯一の存在であるので恩義を感じているほか、彼に対して不思議な気持ちを持ち始めていた。
「今年もありがとう。ほんと祐には感謝してるわ」
ベッドで横になってメッセージを見ながらつぶやいたところで眠気が来たのか、善子は目を閉じて夢の中に入っていった。
~~~~~~
カーテンの隙間から光が差し込む。その光はベッドで眠っている私に起床を催促するかのように照らす。
「う、う~ん・・・はっ!。まさか遅刻!?」
私はすぐさま起きて近くの目覚まし時計を見る。ところが時計は6時30分を指していて、遅刻どころか目覚ましのアラームよりも早く起きてしまった。
「ホッ、良かった~。誕生日の日は絶対に何かあるから用心しないと。・・・にしても、私がアラームよりも早く起きるなんて珍しいわね」
と言いながら私は学校の用意をする。用心というのは私に起きる不幸に対してだ。私の誕生日の日は毎年不幸な事が起きる。当日の大雨は毎年で学校に行く途中で傘が壊れてびしょ濡れで通学したり、酷い年は風邪をひいて誰からも祝われず家族に看病される形で誕生日を迎えた事もあったりと。そんな事を思いながら準備は出来た。
「これでよし。まずは外の確認ね。まぁ雨だと思うけど」
そう呟きながらカーテンを開けると、なんとまさかの雲ひとつない晴天日和だった。私は驚きを隠さずにはいられなかった。
「嘘!?晴れてる!今まで一度も無かったのに!いったい今年はどうなってるの?もしかして嵐の予兆?」
例年と違う展開が続いてる事に何故か不安になってくる。そして驚けるほど元気な事から体調不良もない。このまま何事もなく1日が過ぎたら不幸な私から脱却出来るのかしら。そんな事を思いながら家を出て学校行きのバスに乗った。
学校に着いて教室に入ると、
「善子ちゃんお誕生日おめでとう!」
とクラスの子達からお祝いされて誕生日プレゼントのお菓子をたくさん貰った。その結果、私の机はお菓子に占領されている。
「こんなに大量のお菓子。嬉しいけど食べきれるかしら…」
「フフッ。善子ちゃんもすっかりクラスの人気者ずら」
「良かったね善子ちゃん」
「ヨハネよ。2人もプレゼントありがとう。部室でいただくわ」
ずら丸、ルビィからもプレゼントをもらった後に先生が教室に入って来て授業が始まった。
「(誕生日当日になってから現在まで、私に起きた不幸な出来事は今の所なし。このまま何事もなく今日が終わったら不運から解放されて堕天使ヨハネは大天使ヨハネに…。クックック…)」
普段の誕生日とは違う出来事が続くせいか、私は今までの不運もすっかり忘れて浮かれていた。そんな状態のまま時間は刻々と過ぎてゆき、いつの間にか放課後になっていた。私は直ぐにカバンを持って教室を後にする。その道中でも浮かれたままなのは変わらず、廊下でスキップをしながら部室に向かっていた。すれ違う子たちが私の姿を見てくるけど、そんなことは気にしない。何故なら今日の私は幸運の大天使ヨハネ。皆の視線はきっと天使となった私を祝福してくれてるのよ。そう思っていたらいつの間にか部室に着いていた。扉を開けるとAqoursの皆がクラッカーを鳴らしてお祝いしてくれた。
「善子ちゃんお誕生日おめでとう!」
「あっ、…ありがとう//」
家族以外でこんなにもお祝いされたのが初めてだったからか、呼び名を訂正するのを忘れて素直に言葉を受け取った。それからは練習を始める時間を少し遅くして私の誕生日パーティーをAqoursの皆が開いてくれた。目の前にあるケーキのろうそくの火を吹き消すと皆が拍手をする音が聞こえてくる。それを聞いて私は感謝の気持ちと同時に初めての感覚を感じていた。
「(大勢からお祝いされるってこんなにも嬉しいんだ…。今日は本当にありがとう。クラスの同級生達、Aqoursの皆、そして…)」
そう思いながら私は拍手をしている皆の顔を見回すと少し違和感を覚えた。いつもなら目の前に私以外のAqours8人ともう1人がいるのだが、今はAqours8人しかいない。もう1人は?。
「ねぇ、祐はまだ来ていないの?」
私が質問をすると、祐の姉である果南が申し訳なさそうに応えた。
「あ~…、祐は今日の朝から熱があって学校を休んでるよ」
果南の言葉を聞いてさっきまで高揚していた私の気持ちが一瞬で地に落ちてしまった。まるで、天上に登っていく天使が羽をもがれて落ちていくように。
「そう…なのね。…全く、このヨハネが地上に降り立った日だというのに現れないなんてホントしょうがないわね!」
私は今の気持ちを皆に悟られないよう、何とかいつもみたいに振る舞う。せっかく皆が私のために準備をしてくれたのだから、その雰囲気を壊すわけにはいかない。そんな私を見て皆は気を遣うかのように苦笑いをしていたが、その笑顔は更に私の気持ちを沈めるには十分過ぎるものだった。
「(何が幸運の大天使よ。やっぱり私は不幸の堕天使なのね…。どれだけ今日が私に何も起きなかったとしても、今ここにアンタがいないのは私にとって最大の不幸なのよ!)」
私は心の中で叫んでいた。
空気が鎮まる部室。もうすぐ練習時間が近づこうとしている中、この重たい雰囲気を壊すかのように1人が口を開いた。
「それじゃあ、善子は今からユウのお見舞いに行く?」
「え…?」
「ちょっと鞠莉さん!この後は練習がありますのよ!」
「分かってるわよ。だから行くのは善子だけで、マリー達は今から練習するの」
「ヨハネだけ!?どうしてよ!?」
鞠莉の唐突な提案に私は思わず聞き返す。
「あら?せっかくの誕生日なのに善子はユウからのお祝いの言葉は欲しくないのかしら?」
「それは…」
私は言葉を返答の言葉を返せず不思議と動揺していた。今から練習の時間だから着替えなきゃいけない。だけど祐にも会いたい……あれ?、どうして私はこんなにも祐に会いたがっているの…?。友達だから?でもそれなら別に明日以降でも会えるのに何故か今日じゃなきゃいけないと決断を拒んでいる。どうしたらいいのか悩んでいると、鞠莉は私に近づいてきて耳元で囁いた。
「それに、今行かないと後できっと後悔するわよ」
そう言うと私にだけ見えるようにウインクをして離れていく。その言葉を聞いて私の中で答えが決まった。
「…祐のお見舞いに行きたい」
「善子さんまで!?私達がライブを披露する花火大会は今月末なのですよ!」
「分かってる!だけどお願い!今日じゃなきゃダメなの!」
私は強くお願いをする。それでもダイヤは首を縦に振ってはくれない。長時間の戦いを覚悟の下で粘っていると、横から突然の助け舟がやってきた。
「…仕方ないなぁ、今回だけだよ」
「果南さん!?」
「だって善子ちゃん真剣だし。それに、祐も家で1人は寂しいと思うから」
「えっ!?いいの!?」
「その代わり、明日の練習は善子ちゃんだけうんと厳しくするからね」
「うっ…、分かったわよ!ありがとう果南!」
私はお礼を伝えるとき直ぐさま鞄を持って部室をあとにした。後ろからダイヤの呼び止めようとする声が聞こえるが、それに耳を貸さずに中庭を走り抜ける。向かう先は淡島のダイビングショップへと。
~~~~~~
「ねぇ鞠莉」
「なぁに果南」
「どうして善子ちゃんの背中を後押ししたの?それを聞く私も止めはしなかったんだけど」
「う~ん、善子がユウに会いたそうにしてたから?」
「それだけ?」
「それだけよ。にしても善子は分かりやすいわね」
「なにが?」
「それはマリーだけの秘密♪(多分…いや、確実に善子はユウのことが好きみたいね♪)」
~~~~~~
「ゴホッゴホッ、退屈だ…」
静かな自室で一言呟く。いつもだったらこの時間は授業が終わって部室に向かっているところだが、朝起きると体調がすぐれず熱も出ていたので今日は休んでいた。姉さんが学校に行くのを見送ってから僕は安静にすべく、部屋のベッドで横になっていた。
「…そういえば今日は善子ちゃんの誕生日だっけ。確か前日にサプライズパーティーの準備をしてたから今ごろは盛り上がっている最中なのかな…。寝る前におめでとうのメッセージは送ったけど、やっぱりパーティーに参加できなかったのは悪いことしたな…」
僕はベッドの中で少し悔やんでいた。1年に一度しかない誕生日。それを迎える友達を目の前で祝ってあげることができない事に罪悪感を感じている。それも善子ちゃんならなおさらだ。何故なら去年、仲良くなってから初めての誕生日の日に善子ちゃんは熱が出て一緒に祝うことが出来なかったからだ。今年こそは万全な状態でお祝い出来たらいいのになと思っていたら今回は僕が体調不良を起こしてしまった。今年の善子ちゃんは大丈夫なのかと考えていると、外から扉をノックする音が静かな家中に響いた。
「一体誰だろう…?」
その音を聞いて取り敢えず応答だけはしておこうとベッドから起き上がって玄関に向かった。その途中で僕は誰が来たのかと考えていた。姉さんは学校だから違うし、父さんも怪我が治ったとはいえまだ病院にいるから。ってことはダイビングのお客さんしかいない。もしそうだったら姉さんがいないので気の毒だが帰ってもらうしかなさそうだ。そう決めて玄関の戸を開けると、目の前にいたのはダイビング体験のお客さんではなく今日の主役である堕天使だった。
「善子ちゃん…?どうしてここに?」
「…お見舞いにきたのよ」
「お見舞い?でも今日は部室で誕生日パーティーや、その後には練習があったはずだけど…」
「誕生日は皆に祝ってもらえたわ。練習が始まる前に果南に頼んで今日だけお休みを貰ったの」
「そうだったんだ。わざわざ来てくれてありが…」
ありがとうと言おうとした瞬間、まだ熱があったせいか急に目眩が起きて思わず後ろにのけぞってしまった。
「ちょっと大丈夫なの!?」
「ゴホッゴホッ、大丈夫…とは言えないかな」
そう言いながら僕は壁にもたれかかるような形で立ち上がる。こんな状態だと最悪の場合、善子ちゃんに風邪がうつってしまうかもしれないので、そうなる前に善子ちゃんには帰ってもらおうと声をあげようとすると、
「え~っと、リビングはどっちかしら?」
いつの間にか善子ちゃんは靴を脱いで家に上がっていて僕を支えている体勢になっていた。
「なに…しているの?」
「なにって、病人は寝てなきゃいけないからとりあえずリビングなら横になれる場所があるかなと思って」
「それはありがたいけど、そこまでしてもらうのは流石に…」
「いいから大人しくしてなさいよ!」
こうして僕は善子ちゃんに支えられたまま、リビングへと運ばれていった。ソファで横になっている僕を横目で見ながら善子ちゃんは冷蔵庫から飲み物を取り出して渡してきた。
「冷蔵庫、勝手に開けさせてもらったわよ」
「いいよ。それにしても何から何までしてもらってるけど善子ちゃんは大丈夫なの?熱とか移ってたら大変じゃないかな」
「平気よ。何故なら今日のヨハネはリトルデーモン達からの祝福を受けているからどうってことないわ!」
善子ちゃんは自信ありげに答える。リトルデーモンの祝福というのはおそらくAqoursの皆やクラスの子たちからお祝いの言葉を貰ったということだろう。去年までと比べて、今年はたくさんの人達からお祝いして貰ったということは善子ちゃんにとって最高の誕生日になったのかなと僕は思う。
「それはよかったね。身体も今年は元気そうだし」
「でしょ~?今年のヨハネ生誕祭は万全の状態で迎えられているの!寝坊もしてないし、天気も晴れてるし!」
確かに言われてみれば、今までの善子ちゃんの誕生日は体調不良の他にも台風や雷雨の日でもあったっけ。でもそれもないということは、今日で善子ちゃんが前に言っていた堕天使ヨハネから大天使ヨハネになったということなのかな。
「ってことは、今日から善子ちゃんは堕天使ヨハネから大天使ヨハネになったということなの?」
それを聞くと、善子ちゃんは先程の元気さから少しずつ表情が曇っていった。
「それは違うわよ。私は今でも堕天使ヨハネのまま」
「でも今日の善子ちゃんに不幸なことは全くなかったんでしょ?」
「確かに私にはなかった。でも…」
すると善子ちゃんは座っていた椅子から立ち上がって僕のいるソファに歩いてきた。そして目の前に座りこんで一言呟いた。
「今日だけ祐に会えないのが一番の私の不幸だったわ」
「どうして?」
「だって、私が堕天使になってから唯一誕生日を祝ってくれる人に今年は目の前で会えると思っていたのよ。それが出来なかったのは不幸以外の何物でもないわ」
「…ごめんね。せっかく楽しみにしていたのに」
「別にいいわよ。病人だけど今日会えたから無茶したかいがあったということ。それじゃあ私はもう帰るわね。早く元気になりなさいよ」
善子ちゃんはそう言うと学生鞄を持ってリビングを出ようとしていた。その後ろ姿を見て僕は善子ちゃんが帰るまでに渡さなければいけない物があったので呼び止めた。
「待って、善子ちゃん」
「なに?」
「渡すものがあるから、ちょっと部屋まで取って来るよ」
そう言って僕はソファから起き上がって少しふらふらしながらも自室の机に置いてある箱を持って戻ってきた。そしてそれを善子ちゃんに手渡す。
「善子ちゃん。誕生日おめでとう」
「えっ…!//もしかして、誕生日プレゼント!?開けていい?//」
「うん。いいよ」
善子ちゃんは丁寧に扱うように箱を開ける。そして中に入ってある物を手に取った。
「これって…キーホルダー?」
「うん。善子ちゃんの好きな堕天使をモチーフにした黒い羽根のキーホルダー。身につける物がいいかなと思って選んだけど…どうかな?」
「…嬉しいに決まってるでしょ//!ありがとう祐!ずっと大切にするから!」
「それは良かった」
子供みたいに喜ぶ善子ちゃんを見て、僕は今年の誕生日をなんとか成功で終わることが出来たかなと感じていた。それと同時に来年こそは、お互いが万全の状態で祝うことが出来るようにとも思っていた。
その後、善子ちゃんは帰りの船の時間が近づいてきていたので急ぎながらも僕に笑顔で手を振りながら帰っていった。それを見届けた僕は、明日は学校に行けるようにしないとと思い、部屋に戻って安静にすることにした。
~~~~~~
もうすぐ7月13日が終わろうとする夜中、今日の主役の堕天使は家に帰って来てから部屋でずっとプレゼントのキーホルダーを眺めていた。
「祐からの誕生日プレゼント…。こんなに嬉しいのは生まれて初めてかも」
そう呟きながら彼女は学生鞄にキーホルダーを取り付ける。
「お揃いにするのもいいかもしれないわね。明日祐に何処で買ったか教えてもらおうかな。それで祐の誕生日に…フフッ、楽しみね」
するとその瞬間、彼女にふと異変が起きた。
「あれ…?。何だか胸が苦しい…」
少しだけ違和感を感じていたが、時間が経つと胸の苦しさは次第になくなっていった。ほんの一瞬だったのでなにが原因なのか、今はまだ何も気づいていなかった。
「一体何だったのよ…。それに体も少し熱いし…」
そうぼやいて、部屋のベッドで横になる。
「祐に会いたいな…。早く明日にならないかしら…?」
その呟きを最後に彼女は眠りにつく。こうして今年の津島善子の誕生日は終わりを迎えた。
しかしその翌日、彼女は昨日の祐の風邪が移ってしまい、学校を休むことになるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
評価、コメント、誤字などがありましたらお願いします!