「俺様のターン、ドロー! スタンバイフェイズに''手札から''罠カード≪無限泡影≫発動! こいつは俺様の場にカードが存在しない時、手札から発動できる! こいつでテメェの≪アモルファージ・イリテュム≫の効果をこのターンの間無効にする!」
「何という卑劣なっ!」
「テメェが言うなっ!」
後攻開始早々、ブラストは手札にあった罠カードをその特異な発動条件により手札から場に出す。その効果は『相手の場の効果モンスター1体の効果をターン終了時まで無効』というシンプルなもの。セットして使えば縦列のカード効果を無効、自分の場にカードがなければ先攻・後攻を問わず汎用性に富んだこのカードの有用性は言うまでもない。決して『カードイラスト機械族じゃん! 何だかよく分からんが入れたろ!』というブラストの安易な理由ではないのだ。
ブラストは先ず第一関門を突破できたことに内心で胸を撫で下ろした。正直、手札の内容的にもしも≪無限泡影≫の発動を無効化されていたら詰んでいた。一先ずは安堵し――次は''最終関門''。途中、エンプレスから身勝手な批判を食らうも、あっちがドラゴンソリティアなら、こっちは機械族ソリティアだ、と謎の対抗心を燃やしつつ手札のカードを力強くデュエルディスクへ叩きつける。
「手札の≪ジェット・シンクロン≫を墓地に送り、魔法カード≪ワン・フォー・ワン≫を発動! 手札のモンスター1体をコストに、デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する! 来なっ、≪ダークシー・レスキュー≫! 次いで魔法カード≪アイアンコール≫を発動! 自分場に機械族が居る時、墓地からレベル4以下の機械族1体を効果を無効にして特殊召喚する! 蘇りやがれっ、≪ジェット・シンクロン≫! さらにっ! 攻撃力0の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動! 自分の攻撃力500以下の機械族と同名モンスターをデッキから2体まで特殊召喚する! 追加で来いっ、2体の≪ダークシー・レスキュー≫!」
「ふぅむ…一気にモンスター4体か……」
得意とする魔法カードによるモンスターの展開でブラストの場には一気にモンスターが並ぶ。相対するエンプレスも感心したように呟く。ブラストの残りの手札は1枚だが、通常召喚権も未だ残っている。前のターンで自分がしたようにここでモンスターを5体並べるという手もあるが、ここからどう動くのかと興味深そうにブラストへ視線を移す。
(場にはレベル1のモンスターが4体――来るかっ…!?)
「俺様はレベル1≪ダークシー・レスキュー≫に、レベル1チューナーモンスター≪ジェット・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル2! シンクロチューナー、≪フォーミュラ・シンクロン≫!」
「そっちがあったか…」
てっきりランク1のエクシーズモンスター、もしくはリンク1~4のモンスターをエクストラデッキから出して来るとエンプレスは予想していたが、場に居た≪ジェット・シンクロン≫がチューナーモンスターであったことをすっかり失念していた。どうにもドラゴン族以外のモンスター知識が疎いエンプレスは自分を内心で叱咤する。また、レベルが低くてもエクストラデッキから呼び出されるシンクロモンスター、レベル1を並べてまで出す価値があるのだと、警戒するように≪フォーミュラ・シンクロン≫を睨む。
「≪フォーミュラ・シンクロン≫はシンクロ召喚に成功した時デッキから1枚ドロー、≪ダークシー・レスキュー≫はシンクロ素材として墓地に送られた場合デッキから1枚ドローする効果を持つ。よって俺様は計2枚のドロー! ガンガン行くぞオラァっ! 俺様は2体目のレベル1≪ダークシー・レスキュー≫に、レベル2、シンクロチューナー≪フォーミュラ・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル3! シンクロチューナー、≪武力の軍奏≫!」
「――むっ…」
ドローという分かり易いアドバンテージ確保効果に加え、2度目のシンクロ召喚。そして2度目のシンクロチューナーの登場にエンプレスは僅かに眉を顰める。1+1、1+2、とある意味順調に足し算的にシンクロ召喚を行い始めたブラストに対し、まさか、と言った具合に不安が過った。
「≪武力の軍奏≫はシンクロ召喚に成功した時、墓地からチューナー1体を効果無効にして特殊召喚する! 甦れっ、≪フォーミュラ・シンクロン≫! さらにシンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー! 続けてぇ――俺様は3体目のレベル1≪ダークシー・レスキュー≫にレベル3、シンクロチューナー≪武力の軍奏≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル4! ≪アームズ・エイド≫! さらにシンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」
F1カー、ブリキの人形と続いて現れたのは物々しい機械腕。先ほどまでは機械族にしては愛嬌のあるモンスターだったが、やや毛色が異なるモンスターの登場にエンプレスは気を引き締める。場にはレベル2のシンクロチューナー、≪フォーミュラ・シンクロン≫とレベル4の≪アームズ・エイド≫のみ。普通に考えれば、その2体を素材にレベル6のシンクロモンスターを出して来ると思われるが、手札は度重なるドロー効果で1枚から5枚にまで増えている。ここから新たにモンスターを召喚し、より高レベルなシンクロ召喚、デッキの内容によっては自分のようにリンク召喚やエクシーズ召喚も絡めて来ることも考えられる。自分のこのサフィラハーレムフィールド(命名:エンプレス)がそう簡単に崩されるとは思えないが、それでも目の前のブラストという男からは、異質な何かを感じてしまう。
「もう少しって、とこか。手札から魔法カード≪ダーク・バースト≫を発動。墓地の攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を手札に加える。俺様は墓地の攻撃力0の≪ダークシー・レスキュー≫を手札に加えて、そのまま召喚する!」
「ふぅむ――狙いはレベル7のシンクロ召喚か?」
「生憎だが、今日は
「まだシンクロするのか…」
自分の先のソリティアのことなどすっかり忘れ、本日4度目のシンクロ召喚にエンプレスは顔をげんなりとさせる。現れたのは男の子のロマンとでも言うように、赤いバイクが人型に変形したようなトランスするフォーマーなロボット。男子ってこういうの好きだなぁと、若干的外れ気味な印象を抱くエンプレス。
「シンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」
だがそんなエンプレスのことを今だけ意識しないでブラストは引いたカードを一瞥。緑色枠――つまりは魔法カード、それも目的のものを引けたことに思わずアイカメラがジオニック社よろしくグポォンと歓喜の効果音を鳴らす。
「ククク――フハハハハッ! やっとこいつが引けたぜぇ! 今からテメェのその綺麗なフィールドをぶっ潰してやる!」
「ほう、大した自信だな。余の盤面そう簡単には崩せるとは思えんが…」
「その余裕そうな面もこれまでだっ! 俺様は墓地の≪ジェット・シンクロン≫の効果発動! 手札1枚を墓地に送り、自身を墓地から特殊召喚する! 尤も、この効果で自己再生した≪ジェット・シンクロン≫は除外されるが……そして攻撃力500の≪ジェット・シンクロン≫を対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動! さっきも使ったから説明はいらねぇよなぁ!? その効果によりデッキから同名モンスターの≪ジェット・シンクロン≫を2体特殊召喚! さらにさらにぃ! 墓地の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に装備魔法≪継承の印≫を発動! 墓地に同名モンスターが3体居る場合、内1体をこいつを装備して蘇生する! 復活しろぉ! ≪ダークシー・レスキュー≫!」
「ワンターンファイブレスキュー…」
流石に5度目の登場ともなると、オールを漕いでいる≪ダークシー・レスキュー≫の表情に疲労が見える。1ターンで何度も呼び出し過ぎだろうと、エンプレスは≪ダークシー・レスキュー≫に憐憫の眼差しを向けて――フィールドの状況を見て、大きく目を見開いた。
ブラストの好きなようにやらせていたが、いつの間にかブラストのモンスターゾーンは6体全て埋まっているのだ。エクストラモンスターゾーンには≪アクセル・シンクロン≫。メインモンスターゾーンに≪フォーミュラ・シンクロン≫、≪ダークシー・レスキュー≫、3体の≪ジェット・シンクロン≫。現時点で合計レベルは11――だが、6体の内5体はチューナーだ。ここからまた段階的に足し算をしていくのかと、エンプレスは険しい表情を見せ、対照的にブラストは下種な笑みを浮かべていた。
「こいつで仕上げだ…! 俺様は≪アクセル・シンクロン≫のモンスター効果発動! デッキから『シンクロン』モンスター1体を墓地に送り、そのシンクロン分自身のレベルを上下させる! 俺様はレベル2≪シンクロン・エクスプローラー≫を墓地に送り、≪アクセル・シンクロン≫のレベルを3に下げる!」
「レベルを下げた…? 汝は一体何をするつもりだ?」
「こうすんだよ! 俺様は、レベル1≪ダークシー・レスキュー≫に――レベル3≪アクセル・シンクロン≫、レベル2≪フォーミュラ・シンクロン≫、レベル1≪ジェット・シンクロン≫3体を――
5体のチューナーが一瞬だけ半透明になり、すぐに緑色の歯車へと姿を転じる。その数は8――そしてその8つの歯車は水平に並び、中央に白星と化した≪ダークシー・レスキュー≫が追随。刹那、黄金の光が激しく輝き、フィールドに光が溢れる。
爆光が失せ、ブラストの場に1体の機械族がその姿を現出していた。竜のようであり、人のようであり、機械のような体躯。全身を黄金に輝かせ、機械仕掛けの竜人姿は見る者を圧倒する。その威圧感にエンプレスは無意識の内に息を飲み、頬に汗が滴り落ちた。
そんなエンプレスの反応にブラストは愉悦の感情を抱き、畜生の表情を張り付けたまま口を開く。
「≪グリオンガンド≫のモンスター効果発動ぉ! こいつがシンクロ召喚に成功した場合、シンクロ素材にしたモンスターの数までテメェの場・墓地のモンスターを対象に、対象にしたモンスター全てを除外するッ!!」
「なっ――モンスターの除外だとっ!?」
「テメェのドラゴンは次元の彼方に消えてもらう! 俺様の≪グリオンガンド≫は6体のモンスターを素材とした――よってぇ! 6体のテメェのモンスター――≪闇鋼龍≫、≪ダイナスターP≫、≪イグニスターP≫、≪マジェスターP≫、≪イリテュム≫、そして≪サフィラ≫の6体を除外する! 消え失せろォ!! グレッチャー・ファル!!」
≪グリオンガンド≫は垂らしていた右腕をゆっくりと胸の辺りまで上げる。次いで眼前の6属性6種類6体のドラゴンを標的と見定め――軽く、その右腕を振るった。何気ない、デュエリストがただデュエルディスクからカードをドローするような自然さ。ただそれだけで、エンプレスのフィールドに居たドラゴンは黒い球体に覆われ、瞬きする間もなくその姿を消失させる。
その光景を目にし、エンプレスはいつの間にか自分が救うように右腕を伸ばしていたことに気付いた。破壊効果であれば墓地にある≪祝祷の聖歌≫の効果で≪サフィラ≫と、同時処理の都合で耐性が付与されたペンデュラムモンスターである≪イリテュム≫は生き残っただろう。また、戦闘を介するのであれば≪ドラゴディウス≫、≪ドラゴノックス≫のペンデュラム効果で対応もできた。だが、除外となれば今のエンプレスに防ぐ手立てはない。無論、デッキには防御策として対効果モンスター耐性として≪スキル・プリズナー≫や≪ブレイクスルー・スキル≫といったカードを積んでいるが、生憎と現時点ではセットしていないし、墓地にもないため、ただむざむざと至高のフィールドを荒らされた。何故このタイミングで引き込めていなかったのか、何故破壊耐性だけで満足してしまったのか、何故あれだけのドラゴン達はフィールドから消失してしまったのかと、エンプレスは自分の不甲斐なさに対する憤りとドラゴンへの喪失感、怒りと悲しみが入り混じった複雑な感情を卸せず、呆然と空になったフィールドを空虚な眼差しで見つめる。
「ククク、これでフィールドのモンスターゾーンは綺麗さっぱり片付いたな――が、まだテメェには≪ドラゴノックス≫とかいう厄介なバトル終了効果を持ったモンスターが居やがる。次はそいつを除去するカードを引き込ませてもらうぜ? 俺様は速攻魔法≪マグネット・リバース≫を発動。俺様の墓地・除外されている通常召喚できない機械族、または岩石族を1体特殊召喚する。俺様は墓地からシンクロモンスターの≪アームズ・エイド≫を特殊召喚。そして場に機械族モンスターが2体存在することで、魔法カード≪アイアンドロー≫を発動。自分場に機械族が2体存在する時、デッキからカードを2枚ドローする。この効果の発動後、俺様はあと1回しか特殊召喚できないが――」
虚ろ目になったエンプレスを歯牙にもかけず、ブラストは淡々とプレイングを続ける。ドラゴン除去までは問題なくできた。しかし、このターンで終わらせるには戦闘ダメージを与えなければ勝利できない。ならばデッキにある魔法・罠除去カードを引き込めば良いと、魔法カードを駆使し展開とドローを並行して行い――
「――こいつを引ければ問題ねぇなぁ…! 俺様はドローした速攻魔法≪魔法効果の矢≫を発動! テメェの表側表示の魔法カードを全て破壊し、破壊した数×500ポイントのダメージを与える! さぁ、そいつらにも消えてもらおうじゃねぇの!!」
――すんなりと、除去カードを引き当てた。本来であれば≪サイクロン≫や≪ツインツイスター≫や汎用性の高いカードの方が有用性がある。しかし、ブラストは以前某青天使とのデュエルで凄絶なバーン合戦をやってのけた時、僅かな差で敗北した。あの時の起点となるカードを潰すため、そして嫌がらせのバーン効果付というだけでチョイスされたのがこの≪魔法効果の矢≫なのだ。幸いにして、ペンデュラムモンスターに対しても高いメタ効果がある。今の状況であれば一気にペンデュラムスケールの破壊と1000ポイントものダメージだ。死体に鞭打つとはこのような状況のことを言うのだろう――
「……罠カード≪ダメージ・ダイエット≫を発動。このターン、余が受けるダメージを全て半分にする」
「ハッ、それでも半分の500ダメージを受けてもらうし、ペンデュラムゾーンも破壊させてもらう!」
「構わん――が、余とてここで終わるデュエリストではないッ!! 余は手札から≪スピードローダー・ドラゴン≫のモンスター効果発動! 余が効果ダメージを受けた時、こやつを手札から守備表示で特殊召喚! さらに余が受けた500ダメージを汝に与え、その半分250だけ余のライフポイントを回復する!」
「なにィっ!?」
――しかし、事態は好転しなかった。エンプレスは虚ろ目になりつつも、デュエリストの闘争本能としてか、対策を講じる。ペンデュラムゾーンのカードを破壊して安全に戦闘できるようになったことは良い。だが、ブラストからしてみれば手札から新たに壁モンスターを出すことなど完全に予想外だ。しかも僅かとはいえバーン効果も実質4分の1にされ、半分のダメージを受けるという窮鼠猫を噛むを体言された。
エンプレスは場に守備力600の≪スピードローダー・ドラゴン≫が居るのみ。手札は5枚になり、ライフポイントは先程の減加で1250。
対してブラストは場に攻撃力3000を誇る≪グリオンガンド≫、準アタッカーとなる攻撃力1800の≪アームズエイド≫、手札は2枚あるが、どちらも万が一の時の防御札、ライフポイントは3500。
この状況であれば、先ず≪アームズ・エイド≫で壁モンスターを戦闘破壊し、≪グリオンガンド≫で直接攻撃すれば≪ダメージ・ダイエット≫でダメージを半減されようとブラストの勝ちだ。しかし、どうもそれがブラストには引っ掛かる。相手が手札誘発効果を持ったモンスターがまだ手札に居り、このターンで決めきれず、返しのターンで一気に反撃される可能性も充分にあると、ブラストの脳内で危険信号を送っていた。1度手札誘発を目にすると、どうしても疑心暗鬼になってしまう。順当に戦闘破壊をして良いのか。それとももう相手の手札にはこれ以上出せるモンスターは居ないのではないかと逡巡する。
時間にして5秒。それなりに時間を使い、考え抜いたブラストの答えは――
「……俺様は≪アームズ・エイド≫のモンスター効果を発動。自身を≪グリオンガンド≫に装備し、その攻撃力を1000ポイントアップ。よって攻撃力は4000だ。さらに、相手モンスターを戦闘破壊した時、その攻撃力分のダメージを相手に与える――やれぇ≪グリオンガンド≫!! ハイパーボリア・ゼロドライブ!!」
「ぐっ…!」
――モンスターを除去しつつ、ライフポイントを削る。エンプレスが≪ツイン・トライアングル・ドラゴン≫や≪デストルドー≫を活用してライフコストをふんだんに払うスタイルである以上、払わせるライフをなくしてしまえば良い。それにブラストの手には防御札が2枚あり、≪グリオンガンド≫の被破壊時の効果で戦線は崩壊しない。無理に攻め込む必要はないと、控え目の手を選んだ。
≪アームズ・エイド≫を装備した≪グリオンガンド≫の右腕が黄金色に輝き、物言わぬ機械として、ただ無言で手刀を振るう。守備力600の≪スピードローダー・ドラゴン≫は成す術なく爆散し、≪アームズ・エイド≫、≪ダメージ・ダイエット≫の効果でエンプレスは1200のダメージを受け、残りライフは僅か50。ライフコストはおろか、下手な超過ダメージさえ許されない状況となる。
しかし、それでもブラストは安心しきれていない。まだ何かある――確信めいた何かを感じ、ここから何かしらのアクションは起こすだろうとブラストは予見していた。
「ドラゴン族がカード効果、または破壊され墓地に送られた時、手札から≪霊廟の守護者≫を守備表示で特殊召喚する!」
「チッ、やっぱ手札誘発を持っていやがったか…」
出来れば外れて欲しかった予想。だが、ある意味では自分の危機察知能力でこのターンはダメージを与えられずに居た可能性もあった。それを考慮すればこの時点では最善の手ではあっただろうと、ブラストは自分に言い聞かせる。
「まっ、俺様の攻撃力4000を誇る≪グリオンガンド≫を倒せるとは思わねぇが、精々気張るこった。俺様はカードを1枚セットし、ターン終了」
慢心、ではなく虚勢。ブラストの場には攻撃力4000の≪グリオンガンド≫、防御札のセットカード1枚。手札も万が一の時の手札誘発型の効果モンスター防御札。ライフポイントも3500と8分の7も残っている。しかし、これだけ盤面を整えていても不安は拭えない。相手のエンプレスは場に下級ドラゴン1体、手札は4枚、ライフポイントは僅か50。カード・アドバンテージこそエンプレスが勝っているが、次のターンで勝つのは自分だ、そのハズだと、ブラストは何度も言い聞かせる。それだけ、それだけ目の前の相手が底知れぬ何かを有しているがために、ブラストは不安を――いや、恐怖を拭えないでいるのだ。
「余のターン、ドロー。余は場の≪霊廟の守護者≫を対象にライフを半分の25支払い、手札の≪デストルドー≫の効果を発動。≪デストルドー≫をレベル3で特殊召喚。次いで――現れよ、至高の龍道よ! 召喚条件はドラゴン族2体! 余は≪霊廟の守護者≫と≪デストルドー≫をリンクマーカーにセット! 現出せよ、リンク2! ≪天球の聖刻印≫!」
(…やべぇ、判断ミスったか…?)
そしてその恐怖は加速する。前のターンの内に手札に再び引き込んでいたであろう≪デストルドー≫で召喚権を使うことなくリンク2のモンスターを出すエンプレス。最早ライフポイントは飾りでしかなく、このターンで確実に倒すという明確な敵意がひしひしと伝わってくる。
「余は手札からスケール3の≪アモルファージ・オルガ≫とスケール5の≪アモルファージ・キャヴム≫でペンデュラムスケールをセッティング! 揺れよ龍魂の振り子! 星振に応じ、その眠りから目覚めよ! ペンデュラム召喚! 現れよ、余の精竜達よ! エクストラデッキより≪ラスターP≫! ≪ベクターP≫!」
前のターンの再現、とまではいかずとも再び展開されたモンスターにブラストは気を引き締める。まだモンスター2体。この状況ならばリンク3~4のリンクモンスター、もしくはランク4のエクシーズ辺りが妥当だろう。しかし、それだけで自分の牙城は崩せない。まだ何か、まだ何かやってくるとブラストは身構え――
「――余は、『竜剣士』モンスターである≪ラスターP≫、『竜魔王』モンスターである≪ベクターP≫をリリースッ! 光と闇交わりし時、至上の竜が現世に解き放たれる! 現れ出でよッ! ≪真竜剣士マスターP≫!!」
「なん…だと…ッ!?」
――予想外の一手に驚愕する。あれだけ切り札級エクストラデッキのモンスターを展開しておきながら、メインデッキにさえフィニッシャーを用意しているデッキの混沌性にブラストの脳が理解を拒む。あれだけ超重量級なデッキをガンガン回すなど正気の沙汰ではない。改めて、眼前の少女がドラゴンに対してかなりの狂人であることを再確認させられる。
「これで終いだ…! 余は魔法カード≪フォース≫を発動! 汝の紛い物の竜、≪グリオンガンド≫の攻撃力を半分にし、その数値分≪真竜剣士≫の攻撃力をアップする! さらにッ! 墓地の≪スキル・サクセサー≫を除外することで、≪真竜剣士≫の攻撃力を800ポイントアップ!!」
「オイ――オイオイオイオイッ!?」
自身のエースは弱体化され、相手のエースは大幅に強化されていく。4000という高い攻撃力を誇った≪グリオンガンド≫の攻撃力は2000となり、魔法・罠の効果で≪真竜剣士≫の攻撃力は5850まで上昇。その数値差は3750――まともに受ければ残りライフ3500のブラストは1撃で葬り去られる。
「バトルッ! 行け≪真竜剣士≫よ! その機械仕掛けの竜を一刀にて両断せよ!」
「させっかよォ! ≪グリオンガンド≫を対象に永続罠カード≪追走の翼≫発動! こいつは対象にしたシンクロモンスターが相手のレベル5以上のモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、その相手モンスターを破壊する! さらにッ! シンクロモンスターは戦闘、相手の効果では破壊されねぇ!!」
「≪真竜剣士≫の前で姑息な手は通じん! ≪真竜剣士≫のモンスター効果発動! 1ターンに1度、魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、その発動を無効にし――破壊するッ!!」
「なっ――っ!?」
無情。反撃の嚆矢となる罠を竜の剣士は踏みつけるように叩き潰す。完全に無防備、そして弱体化した≪グリオンガンド≫にこれ以上守る手立てはない。
一応、万が一破壊以外の方法で≪グリオンガンド≫が除去された場合、守りとしてブラストの手札には≪速攻のかかし≫があった。だが、今回は直接攻撃ではなく、モンスター同士の戦闘。手札の≪速攻のかかし≫は完全に死に札を化していた。≪速攻のかかし≫ではなく≪工作列車シグナル・レッド≫であれば。≪追走の翼≫を≪真竜剣士≫が出る前に発動していれば。シンクロデッキではなく、いつもの闇属性機械族デッキであれば――幾つもの後悔をブラストは胸に抱え。
「墜ちよ」
ただ、自身のエースモンスターが、相手の竜に無残に叩き斬られる様を見ながら、ブラストのライフポイントが0を示した。
― ― ― ― ― ― ― ―
「クッソがぁああああああぁっ!!」
「おっ、おぉう…」
デュエル後、ブラストは膝を地につけ、両手も叩きつけながら雄叫びをあげる。その突然の奇行にエンプレスは思わず引く。
「チィ…! ≪速攻のかかし≫じゃなくて≪シグナルレッド≫を採用すべきだったか? いや、でもレベル1と≪複製術対応≫の点で抜けねぇ。なら魔法・罠か? 今回は結局のところで防御札が足りずに守り切れなかった……もう1枚セットカードがあれば対応できていた――いや、どっとにしろターボしても足りなかった。じゃあもっとアド回復で≪シンクロキャンセル≫辺りを絡ませてアド稼いでおけば…」
敗北の悔しさ、その原因と今後の対応をその姿勢を維持したままブツブツと呟くブラスト。それに対しエンプレスはもっと引いた――ようなことはせず、意外、といったような表情でブラストを見る。デュエル前・デュエル中の態度的に傲慢で≪サフィラ≫を除外した最低屑野郎と評したが、腕前こそは実際に自分と遜色ないレベル。それに負けた上で原因を突き止めようとし、改善案まで即座に思案しているとことから、相当な向上心、もしくは負けず嫌いなデュエリストだと、その印象は変わった。自分もデュエル中は
「ふぅむ、中々面白いデュエルだったぞブラストとやら。余は満足した」
「テメェが満足しても俺様が不満足なんだよ! ちょっと待ってろ、少しだけデッキ調整するからすぐに再戦だ。勝ち逃げなんて許さねぇからな!」
「……汝、相当な負けず嫌いだな。まぁ良い、余は寛大だからな! 気が済むまで相手になってやろう!」
ふふん、とその仮想の巨乳を誇らしげに揺らし、エンプレスはドヤ顔で応える。何だかんだで自分も本気でデュエルが出来た上、展開ルートもまだまだあるのだ。それを全て披露しても良いだろうと、自身に満ち溢れた顔をする――
「よし、じゃあ朝までな」
「……ん?」
――が、ブラストの発言ですぐに崩れる。この男は今何と言った? 朝まで?
「ここ最近、デュエル出来なかったんだ。朝までとは言わず、
「えっ、ちょ、100!? いや、あの私、明日は仕事――」
「いやぁ、俺様は明日仕事休みで助かったぜ。気兼ねなく、好きなだけできるって最高だなオイ」
「あの、だから私、明日は仕事が――」
「関係ねぇよ。テメェが気が済むまで付き合うって言ったんだろ? 女に2言はねぇよなぁ?」
「それ男側の発言んんんんんん!!」
「よし、デッキ調整完了! オラァ! 2戦目やるぞオイ!!」
「いぃーやぁー!!」
つい
先攻全召喚VS後攻??????
↓
先攻全召喚VS後攻6体シンクロ
当初はハリファ絡ませてやっていましたが、「連続シンクロだからモンスターゾーン確保する必要ないじゃん!」と前半投稿してから気付きました。