VRAINSの世界観での出来事と思って読んで頂ければと。
あとソリティア注意です。
2019/8/3追記
存外長くなりそうなので、前半ではなく①にサブタイ修正
ブラストはいつものように根城としているスラムエリアで一般デュエリストに辻デュエルを仕掛けたり、ハノイの騎士相手に≪クラッキング・ドラゴン≫無限回収と称して両者合意の下アンティデュエルで≪クラッキング・ドラゴン≫を順調に増やしたり、それなりに充実した日々を送っていた。
丁度≪クラッキング・ドラゴン≫が36枚ほど集まった頃だ。ブラストは≪クラッキング・ドラゴン≫を活用したデッキをどう仕上げようかと、闇属性や機械族関係を検索するため何気なくネットサーフィンをしていた時、とある広告に目が留まる。
それは大会の広告だった。普段であれば適当に読み飛ばしていただろう。
しかし、その広告に記載されていた優勝賞品に視線が釘付けになった。
賞品:限定リンク4モンスター
限定リンク4モンスター。
通常のレギュラーパックや期間限定パックで購入できるカードとは違い、イベントでしか入手できないカードだ。それも2種類。さらにはその内の1種類が自身の愛用している機械族であり、この大会には何が何でも参加し、優勝しなければと、(特に意味のない)使命感さえ覚えた。
こうしちゃいられねぇ、と注意事項や参加要項をロクに読まず、笹を食っていたパンダが笹を放り投げ、柵を飛び越え駆け出すような勢いで参加申込のWEBページへと進み――
【①: 】
【②: 】
――参加者名の入力画面で指が止まる。
『何だこの①と②は』と、ブラストは頭上にクエスチョンマークを36個ほど浮かばせ、首を傾げた。
一旦、ウィンドウを新たに開いてから改めて参加要項を確認する。
・大会は負け抜け戦
・タッグデュエル
・10連勝した’’チーム’’が優勝
「ははーん、なるほどタッグデュエルでの大会で10連勝すれば優勝できるのか――って、タッグデュエルだとぉ!?」
優勝条件の10連勝というシンプルさに余裕の顔になるも、すぐに参加条件のタッグデュエルという文字でブラストはアイカメラを黄色く発光させ、困惑の表情を作る。
「くっ、10連勝すりゃ優勝っていう単純な大会なのにタッグデュエル…!? 孤独にして孤高(ぼっちで寂しがり)の俺様に対する当て擦りかコンチクショウっ!」
いつの間にか膝を屈し、怒りで拳を地に叩きつけるブラスト。
自称:孤高さんのブラストにとって今大会の参加条件はあまりにも残酷だった。
別に仲の良い知人が居ない訳ではない。
何だかんだでヒール役とベビーフェイス役で互いに役割を理解しているGO鬼塚やブルーエンジェル、リアルの友人でもあるリンクヴレインズの責任者、そしてその責任者の知人と、片手で数えられるくらいには知人が居る。
――片手で数えられないくらいしか居ないとも言えるが。
「クソッ! しかもタッグデュエルだと全員と相性悪いじゃねぇか…! 何だよ戦士と天使と悪魔と魔法使いって! どうせなら機械とシナジーあるデッキにしてくれよ…!」
完全に八つ当たりである。
一応、デッキの相性として属性だけならば悪魔族使いの某責任者と一致するが、いかんせん戦術的に相性がよろしくない。
彼のデッキは酷い言い方をすれば圧迫面接デッキと言っても過言ではないだろう。
最初は相手の出方――という名の自己PRを軽く受け流し、その後は意地悪な質問――という名のロック盤面で相手を委縮させ、最後にお祈りメール――という名の敗北を相手にプレゼントする、彼自身の見た目とあまりにもギャップがあるデッキなのだ。
対して自分、ブラストは『とりあえず攻撃と効果で相手のLPを0にすれば良くね?』という脳筋機械族デッキ。
守る暇があれば殴る。
コンボを整える暇があれば焼く。
潰せる時には一気に、徹底的に、圧倒的な力で、完膚なきまでに壊す。
暴力と不条理を現したデッキなのだ。
このタッグだと、言ってしまえば、会社の役員と暴力団が手を組むようなもの。
現実的には相性が悪いとは言いきれないが、デュエルモンスターズ的には致命的なまでに相性が悪い。
しかも互いにエクストラモンスターゾーンを取り合うような様まで簡単に予想できる。
ここまで(デュエル限定で)相性の悪い人間が居ようか?
いや、いない。
「あー……せめて、俺様のデッキも、組む奴のデッキも最大限の力を発揮できるような奴が居れば…」
ぐでん、とブラストは半ば諦観した気持ちで仰向けに転がった。
自分の所持カードを立体ウィンドウで可視化し、ぼーっとした眼差しで眺める。
大体は機械族関連のカードだ。
『ガジェット』、『クリストロン』、『列車』、『幻獣機』、『A・O・J』、『マシンナーズ』、『ギアギア』、『サイバー・ダーク』――と、流して見ていたブラストの目が止まる。
「――『サイバー・ダーク』…?」
ここ数年近く使っていなかったため、その存在を忘れていたブラスト。
『サイバー・ダーク』は機械族・闇属性のカテゴリ。
特徴としては、レベル3以下のドラゴンを自身に装備し、相手を殴る。
場が整っていれば融合召喚で大型ドラゴンを装備してステータスを上げ、一気に相手のLPを削り切る等、当初こそは脳筋至上主義のブラストにマッチしていた。
だが時が経つにつれ、今は殴って焼いて野郎オブクラッシャァアアアアッ! ばかりしていたので、自ずと使用回数が減っていったのだ。
同時につい先日デュエルしたあのドラゴン狂いを想起。
デュエルの腕前は――申し分ない。それどころか敵に回ると厄介だ。
性格も――ドラゴン狂いでデュエル狂いだから自分と相性は良いだろう。
優勝賞品は――ご丁寧に機械族とドラゴン族、それぞれのリンク4モンスターだ。
「…………」
情報を整理し終えたブラストは、無意識の内にアドレスから『ドラゴン狂い女帝』を選択。
続けて通話の発信コールボタンを迷いなく押下。
トゥルルル、トゥルルル、と一昔前のコール音が何度か鳴り――
『――何用だ?』
「来週のタッグデュエルの大会で優勝賞品がドラゴン族と機械族の限定リンク4モンスターだから俺様と組んでくれ」
『阿呆。申込初日に余と汝の名で申し込んでいるぞ』
「……えぇ…」
――ドラゴン狂いの行動力の高さにドン引きした。
― ― ― ― ― ― ― ―
「ふぅむ、大会など久方ぶりだな。昔はそれなりに出ていたのだが、いつの間にか運営から『殿堂入り』扱いされ、最近出ることが叶わなかったのだ。うむっ、実に久しい」
「それ殿堂入りじゃなくて出禁だ」
「ふふ、嫉妬か? まぁ汝程度じゃ分からんだろうな……余のレベルには」
「……いや、何かもういいわ…」
大会当日。
会場となるリンクヴレインズ内の大規模ホールに数十――いや、数百人ものデュエリスト達が集っていた。
その中には当然、我らがデュエル狂い2人の存在も。
大会の特有の緊張感と殺意に似た空気にエンプレスは懐かしさを覚え、ブラストはそんなエンプレスにマジ顔マジレスで返すも、本人は幸か不幸かその皮肉に一切気づかず。
変にあれこれ言ってモチベーションが下がったり、タッグデュエル中に不仲になっては困るのでブラストはお口チャックで閉口。
内心でため息を零しつつ、ワクテカと期待に満ちた眼差しではしゃぐ相方を見守る。
その一方で何気なく大会参加者達に視線を移す。
ブラストにとっては大半が顔も名前も知らぬ有象無象だが、たまに以前デュエルしたことがある者や、ランキングに名を連ねる者も何人か居たことに大会の水準に期待した。
楽しいデュエルができそうだ、と三流下っ端のように舌なめずりをする。
尤も、マシーン的アバターなので舌は存在しないが。
〈お待たせしました。大会参加者の方はホール中央にお集まり下さい〉
開始時刻丁度5分前、各所に設置されたスピーカーからアナウンスが流れる。
とうとう始まるのか、と参加者達は好戦的に目をギラつかせながら指示されたホール中央へと一斉に移動。
〈本日は振るってのご参加、誠にありがとうございます。本来であれば、この場で大会の規定・注意事項をご説明させて頂きますが、当初予定していた参加人数を大幅に超えたため、詳細につきましては事前にメールで送付した内容の通りとさせて頂き、この場では割愛させて頂きます〉
そんなに参加者が増えたのか、とこの場に居た者達はほぼ全員が顔を見合わせる。
確かに限定リンク4モンスターと聞けば腕に自信のある者はもちろん、コレクターとしても絶対に入手はしておきたい。
しかも今回はタッグデュエル。通常規模の大会よりも参加人数が増えることも自ずと頷けるだろう。
〈それでは、早速ですが映えある第1戦目の方々――エンプレス様、ブラスト様の【チーム龍機】。葉子様、カメリア様の【チーム妖鬼】の4名は中央のデュエルフィールドにお越しください〉
運営側も時間を巻いているのか、細かい挨拶等は一気に省き、早速とばかりにそのまま進行。
これには参加者達も幾分か面食らったが、それ以上に先ほど名前が挙がった1人のデュエリストに顔を顰める。
ブラスト。
噂ではリンクヴレインズのスラムエリアを根城としている、悪役系中ボスデュエリスト。
時折カリスマとのデュエルではニチアサ感溢れるやりとりで王道とも、テンプレートとも言える内容で観客を沸かせる――が、たまに過激なきらいがあり、ブラストと実際にデュエルをした一部のデュエリストからは非常に嫌われている。
ロールプレイだとは分かってはいるが、警告やアカウント停止一歩手前の煽り発言・行為、最後の最後で屈辱的な敗北、最初のターンで何もできずに焼殺されるなど、数え上げればキリがない。
何でアイツが出ているんだ、と一部の者は顔を青ざめているが、逆にまた一部の者はさっさと負けてしまえとさえ心の中で罵倒する。
また、ブラストの相方たる人物の名前もリンクヴレインズでは見たことも聞いたことがない名前だったので、おそらく数合わせで無理矢理参加させられた可哀想な子なのだろうと、同情の念を送った。
見た目は完全に≪ドラゴン・ウィッチ‐ドラゴンの守護者‐≫の髪色を蒼に染め、小柄な体をそわそわと振るわせている。
その様子を見た多くの参加者は、こんな舞台に強引に付き合わされた可哀想な少女。
ブラストのクソロリコン野郎。
(結婚しよ…)
アバターでは山のように盛っているが、リアルでは草原のように平坦なのだろう、等々好き勝手な思いをそれぞれ抱く。
尤も、エンプレスが体を震わせているのは単に武者震いであり、新たな先攻展開を試せる機会が披露できることに歓喜しているからだ。
「ブラスト、先に余が動くぞ?」
「……一応、理由を聞いとく」
「今回は汝が余のために。そう、余のためにデッキを合わせてくれたことのだ。ならば汝が余計な下準備をせず、最初から墓地を整えておく必要がある。そのために余が’’全力’’で汝を万全の状態にしたいのだ」
「……んじゃ、任せた」
デュエルフィールドに向かう途中、エンプレスはふぅん、とドヤ――誇ったような顔でブラストにそう説明する。
戦術的にも、理由としても別段おかしいことはない。
……長いポニーテールを犬の尻尾のようにブンブンと揺らし、孤独(ぼっち)が初めて人に頼られて嬉しそうにしているような印象も拭えないが。
ブラストとしてもある程度下準備をしてもらえるのならそれに越したことはない。
若干の不安を覚えつつ、ブラストはエンプレスの案を了承。
自分のターンは来るのだろうかと、訝しげに思いつつ、デュエルフィールドに着いた。
相手方は既に到着しており、向かい合う形でその姿を視認。
1人は巫女服を改造したような和服の銀髪狐耳和服少女。
1人はゴスロリ服の金髪エルフ耳真紅眼八重歯吸血鬼然とした少女。
(――こいつら属性盛りすぎだろっ!)
外見だけ見て、ブラストは素直にそう思った。
さらにどことなく気品さがあり、和と洋のお嬢様といった感じの雰囲気がある。
これがカリスマデュエリストであれば、ごく一部の奴が好きなんだろうなぁ、とブラストは目を細めながら目の前の少女2人に視線を合わせた。
するとそんなブラストの視線に気づいたのか、狐耳の少女の方が年不相応に妖艶な笑みを浮かべてブラストに向けて小さく手を振る。
「今日はよろしゅう。ウチは葉子でこっちが相棒のカメリアや。ウチら、最近リンクヴレインズに来たばかりやさかい、お手柔らかにや」
「は? 大会なんだから手加減なんかする訳ねぇだろ。全力で叩き潰すつもりで行くから、アンタらもそのつもりで来いよ」
「ああん、イケずやわぁ。まぁでもウチはあんさんみたいな強引で真っ直ぐな人嫌いやあらへんよ? むしろ好みやわぁ」
「余の相棒を誘惑するでない女狐が…!」
「んん? もしかして男取られる思うとるん? かあいらしい子やねぇ」
「そんな訳なかろう阿呆。こやつは余の忠実な僕。僕を誑かそうとする悪女めいたムーヴをする汝に嫌気と吐き気と催し、憎悪と嫌悪を抱いているのだ」
「……なんや、意外と言うやないか――小娘風情が」
何だこの女の戦いめいたギスギスした空気は、とブラストはアバターに存在しない胃が痛み始めたことを感じた。
いつの間にか、何故か自身の立ち位置が何世代か前のライトノベルやシミュレーションゲームの主人公のそれに近い。
というかブラスト自身はそんなものを望んでいない。ノーセンキューだ。
デュエルが出来れば良いんだから、俺様を変にラノベ主人公やヒロインポジションにしないでくれ、ともう1人の方――カメリア、と紹介された全身真っ黒ゴスロリ吸血鬼の方へ助けを求めるようにアイカメラを向けるブラスト。
自分に視線が送られたことに気付いたカメリアはどこかブルーブラッドみを感じさせる高貴な笑みをブラストに向け、優雅にスカートの端を軽く摘まんで一礼。
「よろしくお願い致します、ブラスト様」
「あぁ、よろしく頼むぜ」
良かった、こっちは見た目通りにまともそうだとブラストは安堵の息を漏らし――
「ところでブラスト様とエンプレス様は恋仲なのでしょうか? あぁ、申し訳ありません、無粋な質問でしたね。エンプレス様の態度を見れば分かります。しかもかなり溺愛されているご様子――ブラスト様のことを僕、と仰っていますが、おそらく『僕』という言葉は、離れたくない、繋がっていたい、拘束したい、という想いの裏返しなのでしょう。えぇ、わかりますとも。私も殿方をそうしたいという気持ちはありますし、何より『相手から慕われている殿方』をそうしたいという気持ちがありますので。ところでこの大会の後、お時間はありますか? よろしければ私達の優勝祝賀会にリアルでお招きして、是非ともお話をしたいのですが――あぁ、移動に関しては何のご心配もいりません。私の方から車でも船でもヘリでも飛行機でも、いくらでもお出しできますので、例え地球の裏側に居ようとお迎えに上がります。おや、不思議そうなお顔ですね? そうですね、はしたない女と思われるかもしれませんが――私はブラスト様をお慕いしているのです。堂々と悪役然としたお人柄、善者を圧倒的な力で嬲る残虐性並びにその実力。我が家の家訓として『絶対強者』がありまして、ブラスト様はまさにその通りの殿方――率直に申し上げれば、一目惚れです。私自身、つい先日婚姻できる年齢になりましたし、両親からこうしてリンクヴレインズに入ることを許された身ですので、この機会――大会という舞台、それも映えある1戦目で巡り逢うなど、これは運命と言っても過言ではないのでしょうか? そう、これは運命なのです! あぁ、まさか初めてリンクヴレインズに来て、初めてデュエルするお方がブラスト様だなんて……そうだ、ブラスト様は何人子供が欲しいですか? 私としましては最低でも男の子と女の子を1人ずつ、いずれは子供だけでもこういったデュエルの大会を開けるほどの人数を望んでいるのですが…」
――かけたが、息が止まる。
ポッと頬を赤らめながら、まるでガトリングのように紡がれるカメリアの言葉に、ブラストは9割9分9厘理解できなかった。
何のことだ、まるで意味が分からんぞ! と声を大にして叫びたかったが、恍惚としながら熱い視線を送り、暴走機関車のような状態のカメリアにどう言葉をかければ良いのか――というか言葉を発したくない、とブラストは普段のヒールロールを忘れ、素で恐怖した。
(ふえぇ……超が付くほどヤベー奴だよぉ…)
未だに自分に対して恋だの愛だの乙女座故にセンチメンタリズムな運命を感じているなど、妄言がこちらに飛んでくるが脳が理解を拒む。
恐る恐る、といった形で助けを求めるように隣の相方へブラストは視線を移し――
「ほぅ……汝は異性に好かれる星の下にでも生まれたのか?」
(ひえっ…!)
――その様子に身を縮ませた。
エンプレスはビキビキとこめかみに血管を浮き上がらせ、爬虫類――ではなく、竜のように瞳孔は縦に長く伸び、明らかに怒っている。
それもただの怒りではない。
激怒、憤怒、赫怒、激怒――尋常ならざる怒りの表情を浮かべ、怒気が可視化されたオーラとして見えかねない上、言葉尻もどこか怒声を孕んでいる。
鉄壁のポーカーフェイスを装うが、ブラストも心中穏やかではない。
むしろこの状況で穏やかであってたまるか。
「……ふんっ! まぁよい。今この場で汝は余の番だ。例え駄狐や妄言蝙蝠に何を言われようが、この場においては余が汝を守る――絶対にだ」
トゥンク――と、女性であれば心に響きかねない台詞に会場の当事者以外の会場の女性陣はエンプレスに発言に胸をときめかせた。
ブラストは異様な空気に胸が苦しんだ。
「へぇ…言うやないか。羽根つき爬虫類風情が」
「そうですね。私の殿方を誑かせたトカゲには誅罰が必要かと」
対して相手方の2人はそんなエンプレスの発言に苛立ちを隠そうともせず、デュエルディスクを構える。
言葉は不要。
こうなれば力づくでも奪い取る――否。
妖らしく、力づくでも攫っていくまで。
「ゆくぞブラスト。あの色情箱入り娘どもに余と汝が力で以て屈服させる。火遊びが過ぎる幼子には大人の仕置きが必要だ」
「言い方ァ!!」
明確な殺意3人。
明確な恐怖1人。
いつの間にか会場は当事者4人の殺伐とした空気に声援はおろか野次すら上げられず、緊張した面持ちで静観を決め込んだ。
――下手に発言してもヤバそうであるから閉口を決め込んだとも言えるが。
「「「デュエルっ!!」」」
「で、デュエっ…」
― ― ― ― ― ― ― ―
「余の先攻だ。魔法カード≪竜の霊廟≫を発動。デッキからドラゴン1体を墓地に送り、それが通常モンスターであればさらに1体墓地に送る。余はデュアルモンスターの≪ダークストーム≫を墓地に。追加効果で≪エクリプス・ワイバーン≫を墓地に送る。≪エクリプス≫の効果。こやつが墓地に送られた場合、デッキからレベル7以上の光・闇のドラゴン1体を除外する。余は≪神龍の聖刻印≫を墓地に送る」
いつものようにエンプレスはデッキを圧縮し墓地を肥やす。
何度もデュエルしているブラストからすれば見慣れた光景であり、同時に今回はどんなルートで、どんな盤面になるのか楽しみにしている節もある。
「余は墓地の闇属性≪ダークストーム≫と、光属性≪エクリプス≫を除外し、手札から≪ワイバースター≫と≪コラプサーペント≫をそれぞれ特殊召喚。除外された≪エクリプス≫の効果を発動。自身の効果で除外したドラゴンを手札に加える。余は≪神龍の聖刻印≫を手札に加える。余はドラゴン族の≪コラプサーペント≫と≪ワイバースター≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、リンク2! ≪ドラグニティナイト-ロムルス≫!!」
おや、とブラストは新顔の登場に新鮮な気持ちになる。
つい先日までは≪ツイン・トライアングル≫や≪天球の聖刻印≫といった展開系のリンク2ドラゴンばかりだったので、この≪ロムルス≫は完全初見だ。
それも普段とは違うカテゴリ系のカードなので、新たな戦術を披露してくれるのかと、やっと痛かった胸が期待に膨らむ。
「墓地に送られた≪コラプサーペント≫、≪ワイバースター≫の効果発動。≪ワイバースター≫、≪コラプサーペント≫を手札に加える。次いで≪ロムルス≫の効果発動。リンク召喚に成功した時、デッキから特定の魔法・罠カードを手札に加える。余は装備魔法≪ドラグニティの神槍≫を手札に」
サーチ&サーチ&サーチで3枚だった手札が一気に6枚に。
内4枚は既に公開されているので、相手からしたらそこまで恐怖ではないだろう。
――初めの内はブラストもそう思っていた。
「余は≪ロムルス≫に装備魔法≪神槍≫を装備。≪神槍≫の効果。1ターンに1度、装備モンスターにデッキから【ドラグニティ】チューナーを≪ロムルス≫に装備させる。余は≪ドラグニティ-ファランクス≫を装備。次いで魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキからカードを2枚ドローし、手札の≪コラプサーペント≫を除外。さらに手札からレベル8の≪神龍の聖刻印≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動する。手札のレベル8モンスターを捨てデッキから2枚ドロー」
サーチ&ドロー&ドロー。エンプレスにはこれがあるから恐ろしいのだ。
相手に公開したカードの4分の3を即座に使用・コストにすることで情報アドバンテージを消していく。5枚の手札で相手が分かっているカードは≪ワイバースター≫のみ。
エンプレスならばさらにここから新たに――それも理不尽に展開していくだろうと、ブラストは相方の一挙一動に注目する。
「≪ファランクス≫の効果。【ドラグニティ】の装備状態のこのカードを魔法・罠ゾーンから特殊召喚。次いで手札から≪ホワイトローズ・ドラゴン≫を特殊召喚。このカードは自分場にドラゴン族・植物族チューナーが存在する場合、手札から特殊召喚できる――さぁ、ここからが余のドラゴンフェスティバルだっ! 余はレベル4以下のドラゴン族≪ファランクス≫と≪ホワイトローズ≫をそれぞれリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、2体のリンク1! ≪守護竜エルピィ≫! ≪守護竜ピスティ≫!」
≪ロムルス≫の左右下のリンク先に新たなドラゴンが姿を現す。
片や右翼だけ存在する竜。
片や左翼だけ存在する竜。
その攻撃力は1000と心許ないが、デュエルモンスターズにおける低攻撃力は警戒対象。
ブラストはもちろん、対峙している葉子・カメリアも表面上は余裕な笑みを浮かべているが、その眼差しは真剣そのもの。
何か恐るべき能力は有しているだろうと、身構え――
「≪エルピィ≫の効果発動! 2体以上のリンクモンスターのリンク先に手札・デッキからドラゴン1体を特殊召喚する! 現れよ! ≪ドラグニティアームズ‐レヴァテイン≫!」
「――っ、ノーコストでリクルートかいな…!」
「これだから贔屓されているトカゲは…!」
――その凶悪な効果に2人は顔を顰める。
実質召喚制限のないドラゴンを手札・デッキから呼び出せるのだ。
弱い訳がなく、現にエンプレスも一気に最上級モンスターを呼び出した。
「≪レヴァテイン≫のモンスター効果発動! 召喚・特殊召喚に成功した時、墓地のドラゴン1体を装備する! ≪ファランクス≫を装備! そして≪ファランクス≫を自身の効果で魔法・罠ゾーンから特殊召喚! カードを1枚セットし――≪レヴァテイン≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫、これにチェーンして手札の≪ワイバースター≫を捨て、速攻魔法≪連続魔法≫を発動! ≪アドバンスドロー≫は場のレベル8モンスターをリリースすることで2枚ドローでき、≪連続魔法≫は手札全てを捨てることでチェーンした通常魔法の効果をコピーする! よって余はデッキから4枚ドローする!」
(あぁ、やっぱり全部の情報アド消しやがった…)
ある意味いつも通り。
手札自体は普通に発動した時と変わりないが、それでも現状では不要なカードをコストにし、ドロー枚数も増えたことでさらにデッキを圧縮。
文字通り自分の手足のようにデッキを繰るエンプレスにブラストは安心感を覚える。
「手札の≪ドラグニティ‐クーゼ≫を捨て、魔法カード≪調和の宝札≫を発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨て、デッキからカードを2枚ドロー。次いで墓地の≪レヴァテイン≫の効果発動。≪神槍≫を装備した≪ロムルス≫を除外し、自身を墓地から復活させる。≪レヴァテイン≫の召喚・特殊召喚成功時の効果で墓地の≪クーゼ≫を装備。≪クーゼ≫も≪ファランクス≫と同じ効果を持つ――よって≪クーゼ≫を特殊召喚。再度≪レヴァテイン≫をリリースし、2枚目の≪アドバンスドロー≫を発動。デッキから2枚ドロー」
ブラストは呑気に『デッキ回ってるなー』と半ば観客のようにエンプレスのプレイングを観ていた。
≪レヴァテイン≫はデッキ・墓地から呼び出され、その度に【ドラグニティ】を装備。その度に自身は手札補充用のコストとなり、装備されていた【ドラグニティ】が場に移動。
エンプレスのことを言えた義理ではないが、≪レヴァテイン≫さん忙し過ぎて可哀想、と最上級モンスターなのにその扱いにブラストは欠片ほどの良心を痛める。
「次は≪ピスティ≫の効果発動! 2体以上のリンクモンスターのリンク先に墓地・除外されているドラゴン1体を特殊召喚! 余は除外されている≪ダークストーム≫を帰還! そして墓地に送り≪馬の骨の対価≫を発動! ≪ダークストーム≫はデュアルモンスター、よって効果無効か再度召喚されない限り通常モンスター扱い。つまり効果のないモンスターとなっているため、≪馬の骨の対価≫の効果で墓地に送り、2枚ドローできる!」
あぁ、また最上級モンスターが犠牲に、とブラストは折角異次元から帰還した≪ダークストーム≫が3秒と経たずに墓地に行ったことに演技めいた涙を見せる。
その間、エンプレスのグルグルソリティアを初めて目にした観客は目を丸くし、相対している和洋お嬢様2人に若干の焦りの表情が出てきた。
それもそうだろう。
いくら何でも5分近く経っても未だにターンが回って来ないのだ。一体いつになったらこの展開が終わるのか。いつになったら自分のターンが来るのかと、不安に感じることは何も間違いではない。
何を隠そうブラストもそうだった。
最近は慣れた。
「このまま一気にいくぞ? 余はドラゴン族の≪ファランクス≫と≪クーゼ≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、リンク2! ≪守護竜アガーペイン≫! して、≪アガーペイン≫の効果発動! 2体以上のリンクモンスターのリンク先にエクストラデッキからドラゴン1体を特殊召喚する! 顕現せよ、レベル7! 融合モンスター≪竜魔人キングドラグーン≫!!」
「何やそのインチキ効果!?」
「しかも対象耐性モンスターを出して来ましたか…」
訂正。
ブラストは慣れたつもりだったが、容赦のないプレイングに流石に同情を禁じ得ない。
リンクモンスターのマーカー先さえ合っていればノーコストでドラゴンを呼び出せるのはやはりおかしい。
しかも魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にならないという、耐性でも最高峰に近い。さらには攻撃力も2400と上級モンスター並なのでそう簡単には倒せないだろう。
(味方で良かった…)
えげつないと内心で思いつつ、心強い盤面にブラストは心底ホッとした――
「余は同属性・同種族の効果モンスターである、リンク2の≪アガーペイン≫、≪エルピィ≫、≪ピスティ≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、リンク4! ≪闇鋼竜ダークネスメタル≫!! そして伏せていた魔法カード≪儀式の下準備≫を発動! デッキから≪祝祷の聖歌≫と≪竜姫神サフィラ≫を手札に加える!」
――そう、心底ホッとした。
「≪祝祷の聖歌≫を発動! 手札のレベル5≪聖刻龍-アセトドラゴン≫と≪聖刻龍-ネフテドラゴン≫をリリース! 祝福の祷りに応え、神聖なる歌で我が身に栄光を! 儀式召喚! 顕現せよ、レベル6! 我が半身! ≪竜姫神サフィラ≫!!」
まだ満足できないぜ、とばかりにまだ展開していても――
「リリースされた≪アセトドラゴン≫と≪ネフテドラゴン≫のモンスター効果発動! 手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する! 余は≪神龍の聖刻印≫と≪ガード・オブ・フレムベル≫を特殊召喚! そしてこの2体を墓地に送り、2枚目・3枚目の≪馬の骨の対価≫を発動! デッキから計4枚ドロー!!」
――また、場に出るだけ出て、すぐにコストでドラゴンが墓地に行っても――
「手札から≪ドラゴラド≫を召喚! こやつが召喚に成功した時、墓地より攻撃力1000以下の通常モンスター1体を復活させる! 甦れ、≪ガード・オブ・フレムベル≫! さらに≪闇鋼龍ダークネスメタル≫の効果発動! こやつのリンク先に墓地・除外されているモンスター1体を特殊召喚する! 帰還せよ、≪エクリプス≫! この効果発動後、リンク召喚はできない。まぁするつもりもないがな」
――やっと通常召喚したと思ったら、間髪入れずにモンスターゾーンが全て埋まっても――
「余はレベル4の≪ドラゴラド≫と≪エクリプス≫でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 顕現せよ、ランク4! ≪竜魔人クィーンドラグーン≫!! さらに≪クィーンドラグーン≫の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、墓地からレベル5以上のモンスター1体を復活させる! 甦れ、≪神龍の聖刻印≫!」
――エクシーズ召喚でドラゴンが減ったかと思えば、即座に効果でまたモンスターゾーンが埋まっても――
「余はレベル8・通常モンスターの≪神龍の聖刻印≫にレベル1の≪ガード・オブ・フレムベル≫をチューニング! 顕現せよ、レベル9! ≪蒼眼の銀龍≫! ≪蒼眼≫の効果発動! こやつが特殊召喚に成功した時、余の場のドラゴンは汝らのターン終了時までカード効果では破壊されない!」
――今度は対象を取らない破壊耐性から守るドラゴンを出しても――
「そして手札からスケール2の≪魔装戦士ドラゴディウス≫とスケール7の≪魔装戦士ドラゴノックス≫をペンデュラムゾーンにセッティング! 揺れよ、大いなる竜魂よ! 龍天より現世に現出せよ! 顕現せよ、レベル6! ペンデュラムモンスター、≪アモルファージ・ノーテス≫!」
――仕上げとばかりにペンデュラムゾーン、ペンデュラムモンスターを出してモンスターゾーンに全種類のモンスターを出しても――
「余は残った2枚の手札をセット。そしてターン終了時に≪サフィラ≫の効果発動。デッキからカードを2枚ドローし、内1枚の≪魂食神龍ドレイン・ドラゴン≫を捨て、最後の手札である速攻魔法≪超再生能力≫を発動。このターン、リリース・手札から捨てたドラゴンの回数だけデッキからカードをドローする。余は7枚ドローし、枚数制限で1枚捨てる――うむ、これで余のターンは終了だっ!」
――モンスターゾーンを全て埋め、魔法・罠カードゾーンを4枚箇所埋め、未だ手札が6枚あるという状況。相方として頼もし過ぎてやることが――ちょっと待て。
「……おい、ちょっと待て」
「むっ、どうかしたか?」
「このままじゃ俺様がモンスター出せないんだが」
「うむ、全て使っているからなっ!」
「魔法・罠カードも1枚しか空いてないんだが」
「フィールドゾーンもあるから実質2枚だなっ!」
「俺様のデッキ、【サイバー・ダーク】なんだが」
「ふむ――別にそやつらを出さずに倒してしまっても構わんのだろう?」
「これタッグデュエルなんだけどっ!?」
いくら何でも任せ過ぎた、とブラストは今更ながらにエンプレスの盤面に怒声を上げる。
相方であるブラストのカードを出すスペースはほとんど存在せず、ほぼ全てがエンプレスのカードのみ。
仮にこの状態のままターンが回ってきても、ブラストは魔法カードを使うか、フィールド魔法を発動するしかない。
罠を伏せ、万が一に発動機会がなくなってしまえばあらゆる魔法・罠カードを使うことができないので実質不可能だ。
何だこの盤面は、とブラストは頭を抱えてため息をつく。
「むっ、何をそんなに項垂れているのか分からんが、この盤面は限りなく美しく、それでいて至上の防御を誇るのだぞ? ≪キングドラグーン≫による対象耐性、≪クィーンドラグーン≫による戦闘耐性、≪蒼眼≫による効果破壊耐性、≪ノーテス≫によるエクストラデッキからの召喚封殺、≪ディウス≫による戦闘時相手モンスターの攻撃力半減、≪ノックス≫によるバトルフェイズの強制終了――言わば、効果の対象にできず、対象を取らない効果で破壊されず、戦闘でも破壊されず、エクストラデッキから展開できず、満足な戦闘もできず、というこの盤面に何の不満がある!?」
「あっ、ごめんなさい。ないです」
鬼畜だ。
説明を聞くだけでブラストは別の意味で頭を悩ませた。
戦闘・効果で破壊できず、対象に取られず、エクストラデッキから展開もできない。
仮にメインデッキのモンスターで戦闘を行おうにも、2体のペンデュラムモンスターのペンデュラム効果を回避せねば満足に戦闘を行えない。
説明だけ聞いても、下手な詰めデュエルよりも厄介だ。
同時に、本当に。本っっっ当に、味方で良かったと、ブラストは心の底から思った。
そんなブラストの表情に満足したのか、エンプレスは花が咲いたような満面の笑みを浮かべ――
「ふふんっ、どうだ駄狐っ! これぞ余が誇る最高最硬盤面! キング、クィーン、プリンセスが守る鋼が如き鉄壁! 対象に取れず、効果破壊もできず、戦闘破壊もできず、エクストラデッキからの召喚もできず、満足な戦闘もできないこの牙城を崩すことなど――」
「ウチのターン、ドロー。手札から速攻魔法≪皆既日食の書≫を発動や。これであんさんのリンクモンスター以外は全部おねんねや」
「――まあ゛ぁ゛あぁあぁあああぁぁっ!!」
――一瞬にしてその笑顔が泣き顔になった。
あれだけモンスターを出したのに。
あれだけキーカードをドローしたのに。
あれだけキレイにカードを揃えたのに。
先攻1ターン目のエンプレスの努力を全て否定するかのように、葉子はたった1枚のカードで全てをひっくり返した。
≪皆既日食の書≫
場の表側表示モンスターを全て裏側守備表示にし、ターン終了時に各自場の裏側守備表示モンスターを表側にし、その分だけ相手にドローさせる速攻魔法。
普通に使えばデメリットでしかない。
だが、今回のエンプレスの築いた盤面を崩すには呆れるほど有効な戦術だ。
相手にドローをさせるかもしれないが、その前に全て処理すれば問題ない。
そしてそれだけのことが葉子のデッキでは可能なのだ。
「さぁて、結構好き勝手やってくれはったけど、今度はウチが暴れさせてもらうえ? あんさんのモンスターは陽の当たる場所から、陰へと落ちた……この逢魔ヶ刻こそが、ウチのカードが一番力を発揮するさかい――覚悟しいや?」
妖しく笑う葉子。
項垂れているエンプレスは無視するとして、ブラストは目を細める。
普段は誰も使わないようなカードをデッキに入れる慧眼。
それもたった1枚と、エンプレスの心を折るには充分過ぎるほど。
ゴクリ、とない喉から生唾を飲み込み、葉子を見据えるブラスト。
(この女――間違いなく強い…!)
次の自分のターンまで回ってくるのか。
(ブラストにとって)少々邪魔なこの盤面をどれだけ荒らされるのか。
ブラストは葉子の一挙一動に警戒する――
今回の盤面の最適解
≪超融合≫でF・G・D
後半は来月