遊戯王 徒然決闘集   作:紅緋

5 / 8
遅れて申し訳ない上にデュエル終わらなくて重ねて申し訳ありません。
ちょっとドラゴンメイドが可愛すぎて死んでました。


VRAINS:龍機妖鬼②

 

「ほな続けるで? ウチは手札から≪麗の魔妖-妲己≫を墓地に送り、魔法カード≪ワン・フォー・ワン≫を発動や。手札からモンスター1体を墓地に送ることでデッキからレベル1モンスターを特殊召喚するで。ウチはデッキから≪翼の魔妖-波旬≫を特殊召喚。ほんで≪波旬≫の効果発動や。自身が召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから同名以外の【魔妖】1体を特殊召喚。デッキから≪轍の魔妖‐俥夫≫を特殊召喚や。さらに≪俥夫≫の効果を発動。自身が召喚・特殊召喚に成功した時、墓地から【魔妖】1体を効果無効にして守備表示で蘇生する。ウチは手札コストで墓地に送った≪妲己≫を蘇生」

(この銀毛狐耳尻尾巫女服腹黒京女、魔法カード1枚で召喚権なしにモンスター3体展開しやがった…!)

 

 ≪皆既日蝕の書≫でリンクモンスターである≪闇鋼龍ダークネスメタル≫以外のモンスターが裏側守備表示にされ、ソリッドビジョンで現されないドラゴン達に膝を屈しているエンプレスに代わり、ブラストは葉子の場を険しい眼差しで見つめる。

 

 妖の翼を持った僧が現れたかと思えば、手にした錫杖を鳴らすなり、どこからともなく屋根付きの人力車が出現。

 次いで人力車の人足が駕籠の戸を畏まったように開け、中から紫髪の少女――『妲己』の名の通り、傾国の美少女と表する他ない少女が優雅な足取りでフィールドに参ずる。

 

「どや、キレイやろ? 少し前に出た新しめのカードなんやけど、純和風でええおべべ着て、その上ウチに似て美人――これはもうウチの分身と言っても過言ではないで、なぁブラストはん?」

「……ノーコメントで…」

「あん、いけずやわぁ。そん時は『お前の方が綺麗だ』の一言もあれば女の子は喜ぶさかい、覚えておいてや」

 

 ばちこん、と悪戯っぽいウィンクをブラストに向ける葉子。

 だがブラストはぶっきらぼうに答えて不動。

 自身の隣――はショックで俯いているので分からないが、相手方――葉子の隣に居るカメリアは自身の相方であるのにまるで親の仇の如く視線を向けている。

 下手な発言をしてデュエルに支障をきたすのはよろしくない。

 決して怖いとかではない、とブラストは自分に言い聞かせる。

 

「さて、ほんなら順々に行くで――現出しぃ、ウチの妖回路。召喚条件は【魔妖】モンスター2体。ウチは≪妲己≫と≪俥夫≫をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン――現出しぃ、リンク2、≪氷の魔妖‐雪女≫」

(先ずはリンク召喚か…)

 

 順当、といった体で葉子の場に見目麗しい白雪のような少女が姿を現す。

 ソリッドビジョンのモンスターにしては珍しく愛嬌があり、召喚された直後にブラストに向かって微笑を浮かべながら小さく手を振る。

 その可憐さに思わず手を振り返しそうになるブラストだが、何故か寒気を感じたのでやめた。

 重ねて言うが、別に隣のエンプレスや正面のカメリアが怖いからという理由ではない。

 何故かあのモンスター――≪雪女≫に所有者である葉子と同じ雰囲気を感じたからだ。

 見かけ上はクールビューティそのものだが、きっと内面は昼ドラよろしくドロドロと愛憎渦巻いているに違いないと、完全な独断と偏見で≪雪女≫に視線を向けるブラスト。

 当の≪雪女≫は手が振り返されなかったことがショックなのか、しょんぼりと肩を下ろしており、ブラストに罪悪感が込み上げる。

 

(……俺様悪くないよなぁ…?)

「なんやちっとぐらい愛想良くしてもええんやで? まぁすぐに動くからそっちの方見てもろうた方がええかもしれへんけど。ウチは墓地の≪妲己≫の効果発動。墓地に≪妲己≫がおって、EXデッキから【魔妖】モンスターが特殊召喚された時、自身を墓地から守備表示で特殊召喚。蘇りぃ、≪妲己≫」

 

 炎が狐の形を取り、業火の中からふわっと軽い足取りで≪妲己≫が再び葉子の場に姿を現す。

 自己再生効果持ちのモンスターかぁ、とブラストはその秀でた効果を少し羨んだ。

 同時に、大抵の自己再生効果持ちモンスターはよくフィールドを離れた際に除外されるデメリットがあるので、≪妲己≫もその1体だろうと軽視する。

 

「さてほんじゃあ――ここからがウチの’’百鬼夜行’’や。ウチはレベル1の≪波旬≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。進め先陣、残せ軌轍。シンクロ召喚、現出しぃ、レベル3≪轍の魔妖-朧車≫!」

「へぇ…」

 

 続けて≪雪女≫のリンク先に般若面の山車、≪朧車≫が姿を現す。

 如何にも、という純和風妖怪の連続登場にブラストは少し関心を寄せた。

 デュエルモンスターズでアンデット族モンスターは多数居るし、その中には和を感じさせるモンスターが幾つか存在するが、テーマモンスターとしては珍しいと感じる。

 

「墓地の≪妲己≫の効果を再び発動や。EXデッキから【魔妖】モンスターが特殊召喚されたから、自身を墓地から蘇生するで」

「何っ!? 自己再生効果持ちはターン1制限や除外デメリットがあるんじゃねぇのか!?」

「ないで。ターン1制限もないし、除外デメリットもないんや。まぁ場に【魔妖】以外呼べへんデメリットもあるさかい」

「どこがデメリットだっ!」

 

 秀でたなんてレベルじゃない。

 頭のおかしいレベルで優秀だ、とブラストは(ない)眉間に皺を寄せる。

 

「どんどん行くでーっ、ウチはレベル3の≪朧車≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。張るは蜘蛛糸、刺すは猛毒。シンクロ召喚、現出しぃ、レベル5≪毒の魔妖‐土蜘蛛≫! ほんで墓地から≪妲己≫を自身の効果で蘇生やっ」

 

 次いで現れるは全身鉄色の大蜘蛛妖怪≪土蜘蛛≫。

 併せて蘇る≪妲己≫。

 なるほど、’’百鬼夜行’’が如く順々に出てくるのか、とブラストは感心しかける――

 

「お次はレベル5の≪土蜘蛛≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。吹かせ旋風、荒べ妖嵐。シンクロ召喚、現出しぃ、レベル7≪翼の魔妖‐天狗≫! で、墓地から≪妲己≫ちゃん復活やっ」

 

 ――が、やはりこの連続シンクロ召喚は理不尽だと感じる。

 自分も以前エンプレスとのデュエルでレベル2からレベル5、レベル9の連続シンクロを行ったが、それに見合う分だけカードは消費したというのに、目の前の相手は単に自己再生効果があるだけでそれを容易に行う。

 これが種族格差か、と恵まれた機械族サポートを完全に棚に上げ、【魔妖】モンスターを睨み付けるブラスト。

 

「今度はウチのお気に入りやでぇっ! レベル7の≪天狗≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング! 舞うは焔、踊るは狐! 猛る妖炎で現世を嗤え! シンクロ召喚! 現出しぃ! レベル9! ≪麗の魔妖-妖狐≫!」

 

 お気に入り、と称するだけあって葉子の口上にも力が入る。

 中空に9つの妖星が妖しく光り、青白い炎と化す。

 次いで青炎は中央に集い、不規則に揺れていた焔が狐の姿を模していく。

 刹那――妖焔が弾け飛び、瞬く間に葉子の眼前にそれが降り立つ。

 絢爛な和装を纏い、妖しい蒼光を放つ焔を携えた狐人――≪妖狐≫が姿を現す。

 

「どや? ウチに似て凛々しくて。ウチに似てえらい別嬪で。ウチに似て高貴さがあるやろ? これはもう1人のウチと言っても過言ではないで。あっ、あともちろん≪妲己≫も自身の効果で蘇生させるでっ」

 

 自慢のエース召喚に葉子はふふん、と鼻を鳴らして満足そうな表情を浮かべる。

 まるで≪サフィラ≫を場に出したエンプレスのようだ、と既視感を覚えつつブラストは隣の相方へと視線を移す。

 相方たるエンプレスは未だに強制セットされたドラゴン達のショックが抜けていないのか、膝を地に付け、頭を垂れたまま拳を強く握り締めている。

 

 無理もないか、とブラストは軽くため息をつく。

 (ブラストの所為で)カード効果の対象耐性と、他諸々の超耐性盤面を作り上げたが、結果は魔法カード1枚で半壊。

 自慢の耐性も表側表示でなければ効力を成さず、裏側表示になった所為で≪闇鋼龍≫以外は効果対象耐性、効果破壊耐性、戦闘破壊耐性も失っている。

 これで裏側表示のまま破壊され尽くされれば目も当てられない。

 

 はぁ、と再びため息をつきながらブラストはうろんげな眼差しを葉子へ向けた。

 

「連続シンクロは大したもんだが、それでもエンプレスのドラゴンは6体居る。1体のシンクロモンスターでどうしようってんだ?」

「そんなん、こっからのお楽しみ次第やでっ。ウチはレベル9の≪妖狐≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。軋め骸骨、鳴らせ白骨。怨念纏いし淵骨で呪詛を撒き散らせっ! シンクロ召喚! 現出しぃや! レベル11! ≪骸の魔妖-餓者髑髏≫ぉ!!」

「オイまだ上が居たのかよ」

 

 エースを出したがこれで終わりではない、とでも言うように葉子は調律を重ねる。

 ≪妖狐≫が再び狐火へと転身し、それに併せて≪妲己≫も妖焔へ。

 計11の凶星が地を這い、紫毒色の霧が立ち込め、葉子とカメリア達の姿が霧に包まれたた途端、彼女らの背後にカクカクと壊れた玩具のような音が軋り鳴る。

 ぬらり、とでも擬音で表するようにそれ――巨大な骸、≪餓者髑髏≫が紫霧を撒き散らしながら姿を現した。

 

 お気に入りを出した途端に素材にし、初手から切り札的モンスターを出す辺り、思い切りが良い性格なのかもしれないと感じるブラスト。

 尤も、葉子としては新たに組んだデッキの試運転と同じ動きをしているに過ぎないのだが。

 

「EXデッキから【魔妖】モンスターが特殊召喚されたことで、墓地から≪妲己≫を自身の効果で蘇生やっ! ほんで≪餓者髑髏≫をリリースして魔法カード≪アドバンスドロー≫、チェーンして残った最後の手札1枚の≪馬頭鬼≫を捨て速攻魔法≪連続魔法≫発動やっ! 合計4枚ドローするでっ」

「えっ、アンタも≪連続魔法≫? 流行ってんのか?」

「余った手札を処理しつつ、ドロー枚数増やせるなら入れるやろ」

「……確かに」

 

 みんな大好き≪連続魔法≫。

 ブラストは過去に≪幻獣機オライオン≫を捨ててトークン生成と召喚権の追加を。

 エンプレスはダブついた≪輝白竜ワイバースター≫を捨てて純粋なドローターボを。

 そして葉子はアンデット族最高峰の能力を有する≪馬鬼頭≫を捨て、次に繋げる準備と手札増強を。

 

(まぁ便利だよなぁ…)

 

 うんうんと≪連続魔法≫の有用性に頷くブラストを余所に、葉子は新たに引いたカード4枚を目に、にっこりと妖しく嗤う。

 理想的なドローカード、この手札であれば相手の場をほぼ壊滅状況にすることができる。

 嗜虐的な笑みからか、つい昂る衝動を抑え切れず、葉子の繰るカード捌きについ力が入ってしまう。

 

「――ええドローカードやわぁ……ウチは場の炎属性の≪妲己≫と、墓地の炎属性の≪妖狐≫を対象に魔法カード≪炎王炎環≫を発動っ! 場の≪妲己≫を破壊し、墓地の≪妖狐≫と入れ替えるっ! 蘇りぃや、≪妖狐≫っ!!」

 

 先ほどは共に調律素材に。今度は身を犠牲に妖怪が蘇る。

 絶えることなく次々と特殊召喚される妖怪達にブラストはやや眉を顰めるが、自分もやっていることなのであまり強くは言えない。

 チッ、と眼前の状況と未だに項垂れて動く気配のない相方に苛立ちを覚えながら、葉子のプレイングに目を細める。

 

「さぁさぁさぁっ! 墓場から蘇った時こそが【魔妖】の真骨頂やっ! 墓地から特殊召喚された≪妖狐≫のモンスター効果発動っ! 相手フィールドのモンスターを1体破壊するでっ! ウチはセット状態の≪銀龍≫を焼殺っ!」

「――っ、チィっ…!」

 

 ≪妖狐≫は墓地から蘇生されるなり、操る妖焔をセットされたモンスターに放つ。

 裏側表示のまま、断末魔すら上げられずにただただモンスターが炎に焼かれる。

 

 未だ屈しているエンプレスはその破壊音にピクリと僅かに反応するが、それでもまだ立ち上がれない。

 そんなエンプレスを見て、『こんの軟弱者がァっ!』と内心で怒るブラスト。

 彼からしてみれば、折角整えた盤面を無茶苦茶にされ、さらには耐性も活かせず破壊される様は業腹ものだと理解も共感もしていた。

 だが、だからと言って下を向いて良い理由にはならない。

 

 立て。

 立って戦え。

 そして勝利し、この大会で優勝するんだろうが、と激励のようで、実際はただの罵倒を心の内で叫ぶ。

 

「お次はこれや。ウチは手札から≪氷の魔妖‐雪娘≫の効果発動。ウチの場に【魔妖】カードがある時、手札・墓地からこの娘を特殊召喚できるんや。しかもこの効果で特殊召喚したらデッキからアンデット族1体を墓地に送る効果もあるんやで。――ってな訳でウチは手札から≪雪娘≫を特殊召喚し、デッキから2体目の≪馬頭鬼≫を墓地に送る」

「クソがっ…! やりたい放題かよ…!」

 

 だが、無情にも葉子のカードプレイは終わらない。

 今度は藍色の幼子がぴょんっと姿を現し、葉子のデッキからカードを1枚無理矢理抜き出して、ポイっと投げ捨てる。

 まるで悪戯が成功した子供のように満足気な表情を浮かべるが、生憎と長い前髪の所為でその顔は推し量れない。

 

「さぁて――次はもうわかるやろ? ウチは墓地の2体の≪馬頭鬼≫の効果発動っ! 自身を墓地から除外し、墓地のアンデット1体を蘇生するっ! ウチは墓地から≪天狗≫と≪餓者髑髏≫をそれぞれ復活っ!! ほんで各々の効果発動やっ! ≪天狗≫は墓地からの特殊召喚に成功したら相手の魔法・罠カード1枚を破壊し、≪餓者髑髏≫は全てのカード効果を受け付けへん!」

「魔法・罠除去と完全耐性だとォ!? 実質手札消費なしでふざけた展開しやがって…!」

「いや、それはブラストはんの相方に言ってぇや……とりあえずそこなペンデュラムゾーンの≪ドラゴノックス≫は破壊するで」

 

 ≪妖狐≫に続いて≪天狗≫、≪餓者髑髏≫と妖達が連なるように墓地より蘇る。

 ≪天狗≫の突風でバトルフェイズを終了させるペンデュラム効果を持つ≪ドラゴノックス≫はEXデッキに表側で飛ばされ、≪餓者髑髏≫は怨念と思しき毒々しい黒紫色の瘴気を纏い、一切合切を受け付けようとしない。

 これで葉子の場にはシンクロモンスター3体と、≪雪女≫と≪雪娘≫の計5体。

 モンスターの数では同数だが、片や高攻撃力が並び、片や低守備力を隠し晒している。

 このターンでエンプレスのドラゴンは2体――いや、1体しか残らないかと、ブラストは無意識の内に金属音の歯軋りを鳴らした。

 

「リバースカードが2枚あるんがちょい怖いけど、これで何とかならへんかな? ウチは永続魔法≪魔妖壊劫≫を発動や。ほんで3つある効果の内、2つ目を使うで。≪魔妖壊劫≫自身と、場の【魔妖】モンスター1体を墓地に送って、1枚ドローや――アカン、これじゃ対処でけへんわ」

「そう簡単に対処されてたまるか」

 

 いくら大量展開が得意なアンデットとは言え、大量除去まで加えられたら流石に持ち堪えられる自信はない。

 とりあえずこのターンで大ダメージを負うことはないので、次の自分ターンで激痛となる一撃を与えたら、あとはエンプレスがやってくれる。

 そのエンプレスのためにも、不安要素は可能な限り排除しなくてはならない。

 早く自分のターンになれ、とブラストは焦燥した思いを胸に抱きつつ、平静を装う。

 

「まぁ、仕方あらへんわなぁ。ウチは――

 攻撃力1900の≪雪女≫で守備力0の≪ノーテス≫に、

 攻撃力2600の≪天狗≫で守備力1100の≪キングドラグーン≫に、

 攻撃力2900の≪妖狐≫で守備力1200の≪クィーンドラグーン≫に、

 攻撃力3300の≪餓者髑髏≫で攻撃力2800の≪闇鋼龍≫を攻撃や」

 

 効果対象耐性・効果破壊耐性・戦闘破壊耐性と三重の耐性を持っていても、それはあくまでも表側表示の時の話。

 裏側表示になってしまえばこれらの耐性は悉くが失われるばかりか、低い守備力で一方的に蹂躙される。

 一応、ペンデュラムゾーンの≪ドラゴディウス≫の戦闘時に手札1枚をコストに戦闘相手のモンスターの攻撃力を半分にするペンデュラム効果は生きているものの、低過ぎる守備力の所為で相手モンスターの攻撃力を半分にしても戦闘破壊は免れないばかりか、≪餓者髑髏≫に至っては一切の効果を受け付けないので弱体化すらできない。

 

 エンプレスの代わり、という訳ではないが、歯痒い状況にブラストは苛立ちを募らせる。

 ただただ彼女のドラゴンが僅かなダメージと共に破壊されていく。

 融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクモンスターと、EXデッキ関係のドラゴン達は全滅。

 残ったのは裏側表示の≪竜姫神サフィラ≫と、ペンデュラムゾーンの≪ドラゴディウス≫に、2枚のセットカード。

 あれだけ苦労して構築した盤面が無残にも壊されると、同じガン回しソリティア勢のブラストとしては酷く共感を覚える。

 

(チッ、徹底的にやりやがって…! 次の俺様のターンで相手の場を全滅させるこたぁ難しいが、それでもやれるだけのことはやってやる。待ってろエンプレス、俺様が仇を取ってやる)

 

 同情か義憤か。

 戦意を喪失し、ほとんど使い物にならないエンプレスに代わり、(別に死んでないのだが)強い復讐心を抱くブラスト。

 幸いにも、相手はここまでの大量展開でそれなりにカードを使った。

 ならば返しのターンは難しいハズだ。

 そうブラストが思っていた時――

 

「……余は、≪クィーンドラグーン≫のエクシーズ素材と……≪エクリプス・ワイバーン≫……効果が強制発動……自身が墓地…光か闇……レベル7以上…ドラゴン1体……除外…余は…闇…レベル8……………………を除外する…」

 

 ――ふと、エンプレスが幽鬼のようにゆらりと立ち上がる。

 ボソボソと消え入りそうな声で呟きながら、強制発動されたドラゴンの効果でデッキから1枚のカードを選択し、除外。

 完全に戦力外と思っていた葉子はキョトンとした顔でエンプレスを見る。

 

「なんやまだ戦意があったん? てっきり自分が好きなドラゴンやられて凹んでる思うとったわ」

「だ、大丈夫か…? (後が怖いから)無理しなくて良いんだぞ」

「……確かに、凹んでいる。だが、凹んでいても負けた訳ではない。余とてデュエリストだ。例え劣勢になろうとも、自分が信ずる最善のプレイングをする――それがデュエリストではないのか?」

「ふぅーん……中々根性があるやないか。ウチ、あんさんのこと少し好きになってきたで。まっ、次のターンはブラストはんやから、あんさんからウチに反撃はでけへんけど。ウチはカードを2枚セットして、ターン終了や」

 

 優雅なのも好きだが、泥臭くて見苦しくても、前に進もうとする人間は好ましい。

 そんな思いを胸中に抱きつつ、葉子は残った2枚の手札を魔法・罠カードゾーンに伏せてターンを終了――

 

「ターン終了? 何を言っている――汝のエンドフェイズはまだ終わっていないぞ?」

「……なんやて?」

 

 ――を宣言しようとしたところで、葉子は改めて場のカードを見る。

 自分の場には3体の【魔妖】シンクロモンスターと、1体のリンクモンスター。

 リバースカードが2枚あるだけで、手札は0枚。

 これ以上することはないハズ――と思っていたところで、エンプレスの場を見て納得。

 

「あぁ、そういえばそいつが残ってはったな。ええぇ、1ドローくらいサービスや。速攻魔法≪皆既日蝕の書≫の効果で裏側になっていた相手モンスターは、エンドフェイズに表側表示になり、その枚数分あんさんはドローできる。残ったのは≪サフィラ≫1体やから1枚ドローやな」

「その通りだ。≪サフィラ≫は表側守備表示となり、余はデッキから1枚ドローする」

 

 1ドロー程度なら別に良いだろうと葉子は楽観視していた。

 非ターンプレイヤーであるので手札枚数制限で捨てることもなく、エンプレスの手札は7枚になってしまうが、エンプレスのターンが来る前に自分の相方であるカメリアがフィニッシャーとなってこのデュエルは終わる。

 いくら手札を増やそうが構わない。

 そう、思っていた――

 

「じゃ、これで改めてウチはターンエンド――」

「――何度も言わせるな。まだ汝のターンは終わっていない…!」

 

 ――その瞬間、エンプレスの2枚のリバースカードが露になる。

 

「余は2枚の永続罠≪復活の聖刻印≫と≪竜魂の城≫を発動! ≪復活の聖刻印≫は相手ターンに1度、デッキから【聖刻】モンスター1体を墓地に送ることができる! 余はデッキから光属性の≪龍王の聖刻印≫を墓地に送る! さらに≪竜魂の城≫の効果! 自分の墓地のドラゴン1体を除外し、自分フィールドのモンスター1体を対象に、そのモンスターの攻撃力を700アップする! 余は墓地の≪エクリプス≫を除外し、≪サフィラ≫の攻撃力を700アップさせ、その攻撃力は3200となる!」

 

 『何してんだこいつ?』

 相対している葉子やカメリアはもちろん、観客や自身の相方であるブラストさえも同じことを思った。

 何故単体強化カードがあるなら≪餓者髑髏≫から≪闇鋼龍≫を守れたのではないか。

 何故相手ターンの終わりに発動するのか。

 何故こんな意味のないことをするのか。

 

「余は除外された≪エクリプス≫の効果発動! こやつが墓地から除外された場合、自身の効果で除外したドラゴンを手札に加える! さらにっ! ≪サフィラ≫の効果発動! 手札・デッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンの終わりに効果を発動できる! 余はデッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる! 余が捨てたカードは≪コドモドラゴン≫! このカードが墓地に送られた場合、手札からドラゴン1体を特殊召喚できる! 余は≪エクリプス≫の効果で除外されたこのドラゴンを特殊召喚!」

 

 その疑問に半分答えるようにエンプレスはプレイングで示し、この場のほぼ全員が納得した。

 ≪サフィラ≫は表側表示でしか効果を使えないため、≪皆既日蝕の書≫で表側になり、そのタイミングで≪復活の聖刻印≫で光属性モンスターの【聖刻】モンスターを墓地へ。

 次いで≪竜魂の城≫で≪エクリプス≫を除外することで、≪エクリプス≫の効果で除外したモンスターを回収。

 そして≪サフィラ≫の効果でデッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果により≪コドモドラゴン≫を捨て、墓地に送られた≪コドモドラゴン≫の効果で≪エクリプス≫の効果で回収したドラゴンを特殊召喚。

 相手のカード効果すら利用した一連の流れに、見事なコンボだと感心し――

 

「黒鋼の暴竜よ! 次元の狭間を破り、眼前の敵に滅びを与えよ! 顕現せよ――≪破滅竜ガンドラX≫!」

 

 ――一瞬にして呆気に取られた。

 ≪コドモドラゴン≫という愛らしいドラゴンが姿を現したかと思っていれば、実際に顕現したのは漆黒の破壊竜。

 全身が鉱石や宝石と見間違うような光沢に輝きつつも、その宝玉とも言うべき朱玉には恐ろしささえ感じる。

 さらには先程までの美しさや強さが感じ取れたドラゴン達とは違い、そのドラゴンに抱く印象は恐怖唯一つ。

 破壊、破滅、殲滅――そのドラゴンを目にしただけで、この場にいた全員がそんな印象に囚われた。

 

「手札からの特殊召喚に成功した≪ガンドラX≫の効果発動! 自身以外のフィールドのモンスターを全て破壊し、その中で最も攻撃力が高いモンスターの攻撃力分のダメージを汝に与える!」

「…………は?」

 

 思わず、葉子から呆けた声が出る。

 今何と言った?

 全て破壊して?

 攻撃力分のダメージを与える?

 誰に?

 相手に?

 相手は?

 自分だ――

 

「……はぁああああああぁぁっ!? そんなんあるんか!?」

「黙れ小娘っ!! 余のドラゴン達の赫怒を思い知れぇ!!」

 

 ――絶叫。

ターンの初めと終わりの立場が入れ替わったようだ、とブラストは憐憫の眼差しを葉子とそのフィールドに向けた。

 

 SF映画、もしくは怪獣映画のチャージよろしく≪ガンドラX≫の朱玉部分が光輝き、不穏な音を鳴らす。

 悍ましい光景にわたわたと慌てふためく葉子を尻目に、憤怒に駆られたエンプレスはただ一言、短く告げた。

 

「――やれ」

 

 瞬間、フィールドが赤光に包まれる。

 愛らしい≪雪女≫は髪の毛1本も残さずに光に飲まれ。

 精悍な≪天狗≫は両翼をもぎ取られ、顔面に風穴が。

 瀟洒な≪妖狐≫は腹部に一際大きな光砲を受け。

 巨大な≪餓者髑髏≫は瘴気に守られ。

 

 数瞬の後、フィールドに轟音が鳴り響き、爆炎と土煙に包まれる。

 あまりの熱量、暴風、衝撃に当事者達はもちろん、離れた位置に居た観客達でさえも身構えなければ体を持っていかれそうだった。

 

 ただ1人、エンプレスだけはその中で涼しい顔をしたままフィールドを見やり、唯一残ってしまった≪餓者髑髏≫に少しだけ眉を顰めるが、それでも相手ターン中に相手モンスターを3体葬ったのだから結果としては悪くないだろうと、内心で頷く。

 それに破壊できたモンスターの中で最も攻撃力が高い≪妖狐≫を爆殺し、その攻撃力分2900のダメージと、その攻撃力を≪ガンドラX≫は得たのだ。

まずまずの結果と言っても過言ではないだろうと、自身のプレイングに自画自賛。

 また、自身のエースモンスターである≪サフィラ≫もしっかりと墓地の≪祝祷の聖歌≫を身代わり除外することで健在だ。

 一転して自分達の方がモンスターの数の上では有利。

 相手の場には≪餓者髑髏≫1体と2枚のリバースカード。

 葉子の手札は尽き、LPは5100。

 対して自分達の場には≪サフィラ≫と≪ガンドラ≫。

 加えてペンデュラムゾーンに≪ドラゴディウス≫、魔法・罠ゾーンには≪復活の聖刻印≫と≪竜魂の城≫。

 エンプレスの手札は8枚もあり、仮に自分のターンまで回って来ても充分に対応可能。

 LPも7500とかなり余裕がある。

 これで後攻1ターン目の失態は帳消しになっただろうと、誇った笑顔を、信ずる相方たるブラストに見せる。

 

「やるだけのことはやった。後は任せたぞ、相方」

「……アッ、ハイ…」

 

 後日、ブラストはこの笑顔をこう評した。

 信用とか信頼とか、友情とか愛情とか、そんなものは微塵も感じなかった。

 ただ、『ここまでやったんだからきっちり殺れよ』、と脅迫めいた笑顔にしか見えなかったと語る。

 

 

 




ティルルちゃんきゃわわ(語彙力消失)
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