今回は作者のウボァーさんからのご厚意で、私がこっそり構想していたデュエルを書かせて頂いている次第です。
執筆中に何度かバイトハノイ読み直してはいますが、キャラクターの口調や性格など、違和感がありましたら即座にご対応させて頂きたいと思います。
また、私の癖で文字数がちょっとアレなことになって読み辛くなりそうだと思い、今回は10,000字程度で前半となっております。
後半については今週末(2020/12/26)までに投稿できるよう、尽力する所存です。
薄暗いホールを照らす無数の立体ウィンドウ。
それらの画面にはある男──というよりは男性型の機械のデュエル映像だけが映し出されていた。
『≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫の効果発動ォ! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、テメェに2000のダメージを与える!』
『
『墓地の【サイバー・ダーク】5種類を除外──現れろ、≪鎧獄竜‐サイバー・ダークネス・ドラゴン≫』
そのデュエルは鮮烈にして苛烈。
いともたやすく大型の機械族モンスターを繰り出し、相手の戦線とライフポイントを蹂躙する様は悪鬼さながら。
相手となっている白装束と仮面──ハノイの騎士らの悉くは彼に辱められ、ライフポイントはおろか敬愛するリボルバーから賜った≪クラッキング・ドラゴン≫すら奪われている。
彼らのデュエルタクティクスは決して低くはない。
むしろ一般的なカリスマと呼ばれるデュエリストらとも遜色ない実力だ。
しかし、それでも──たかだかランキング10位のデュエリスト、ブラストを相手にした場合、必ず負けてしまう。
同じ機械族主体のデッキなのに何故負けるのかと、彼に敗北したハノイの騎士数10名──改め、100余名。
何故勝てない、何故負けてしまうのかと、その原因を解明するため多くの同志が募り、会議という名の反省会を行っていた。
先ず自分達のデュエルログ──という名の敗北記録で現状の共有。
次にブラストの公式戦映像──という名の蹂躙劇で人間性を疑い。
締めに先日のタッグデュエル──では、ブラストよりもその相方と相手の女が色んな意味でやべー奴だという認識を持った。
「結局あいつは何デッキなんだよ! 【列車】なのか【幻獣機】なのか【闇機龍】なのか【サイバー・ダーク】なのか一体全体わからんぞ!」
「メインはそれらのテーマで展開力に長けた奴を取捨選択して、エクストラでバカスカやる感じじゃないか?」
「待て。オレこの間≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫出されたから、メインにもフィニッシャーは積んでる」
「≪クラッキング・ドラゴン≫返して」
「それな」×100余
しかし、いくら反省会で議論を重ねても結論は出ず。
あーだこーだと騒いで嘆いて悲しんで怒っても何も変わらない。
どうしたものかと全員が首を傾げる中、その中の1人にニュータイプ的直感が走る。
「──っ! みんな聞いてくれっ!! オレ達はあることを忘れていないか!!」
「あること?」
「何だ、何か見落としがあったのか?」
その一言で周囲は騒ぎ、互いに顔を見合わせる。
発言したハノイの騎士はコホン、と軽く咳払いし(仮面で半分見えないが)キリッと表情をキメて口を開く。
「あいつとデッキが似ているヴァンガード様に聞こう」
瞬間、全員に電流が走る──ッ!
ヴァンガード。
バイトハノイ。
ハノイの騎士の死神。
中間管理職。
ヒャッハノイの保護者……等々、ハノイの騎士における数多の呼び名を持ち、リボルバーからの信頼が篤く、スペクターからのソレはアレな上司。
そうだ、ヴァンガード様も多くの機械族を使っていたじゃないか!
オレ達がここまで戦えるようになったのもヴァンガード様のお陰じゃないか! と一部漂白されそうなセリフを口にしながら沸き立つ敗北ハノイ達。
「ヴァンガード様に聞けばよかったんだ!」
「天才かよお前」
「ヒャッハー! こうしちゃいられねぇ! ヴァンガード様呼んでくるぜ!」
「もう居るけど」
「……ゑ?」
変な盛り上がりになったと思ったところで突然の静寂。
一般パリピ男子的なアホ騒ぎから一転、まるで夜間ゲーセンで教育指導の先生に見つかってしまった時のような、変な気まずさが流れる。
「う゛、ヴァンガード様…? い、いつからここに…」
「最初から。リボルバー様から『一般ハノイが弛んでるから喝を入れて欲しい』と頼まれて来たんだけど……」
「……だけど?」
「この映像観るとみんなすごい負けっぷりだね。一体何枚の≪クラッキング・ドラゴン≫が奪われたのやら…」
「ゴハァッ!!」×100余
隠しようがない出来事。
第三者からの容赦のない事実にハノイの騎士ら100余名は一斉に吐血。
尊敬する上司からの指摘に全敗を喫しているハノイの騎士のメンタルライフは0。
ワンターンワンハンドレッドキルゥ…され、意気消沈。
そんな彼らの情けない姿を一瞥し、ヴァンガードは立体ウィンドウに視線を戻す。
自分と酷似したデッキを使うデュエリスト。
基本は機械族・闇属性を主体としつつも、機械族全般であれば自分の手足のように繰るプレイングも類似。
またデッキも自分と同じように機械族主体であれば別テーマを複数持っている。
流石に人格まではあそこまで傲岸不遜ではないが、自分とあまりにも似たデッキを使うブラストにヴァンガードはあることを率直に思った。
(……めっちゃデッキ被ってる…!)
自分のアイデンティティの危機を。
デッキとしては酷似しているものの、細かい点で言えば異なる。
機械族・闇属性を主体にし、種族・属性サポートで戦うスタイルは同じだが、プレイングは全くの別物。
ヴァンガードは最上級機械族を安定して場に出し、エクストラデッキから状況に合わせたモンスターを出す万能型。
対してブラストは爆発的な展開力を以て場を蹂躙、エクストラデッキから制圧・除去に長けたカードを出す特化型。
その違いはあるのだが、今回敗北しているハノイの騎士らはあくまで一般的ハノイの騎士のそれ。
自分を慕うヒャッハノイの【霊使い】や【蠱惑魔】、【ネフィリム返しておじさん】らと比べると、どうしても実力が1枚か2枚は劣る。
そんな彼らに『デッキ似てるから対策もわかるべ!』と安易な発想をされてもヴァンガードとしては困るのだ。
というかそれだと自分のデッキの弱点も晒すことになるので、アドバイスは極力控えたい。むしろしたくない。
「はあ……行きますよ」
「い、行くってどこにですか?」
「決まっています──」
それ故、ヴァンガードが取る選択肢は自ずと限られてしまう。
ため息混じりで転移の準備をするヴァンガードに、一般敗北ハノイが恐る恐る聞き、ヴァンガードはあっけらかんと──
「──≪クラッキング・ドラゴン≫を取り返しにです」
「…………おぉおおおおおぉっ!!」
──さながら『ちょっとコンビニ行ってくる』、とでも言うような気軽さで言ってのける。
一瞬、ヴァンガードが何を言っているのか理解が遅れたハノイの騎士100余名。
だが途端にその意味がわかるや否や、仮面を付けていてもわかるほどに満面の笑みを浮かべ、声を荒げながらヴァンガードの後へと続く。
「さて、ここですか…」
ヴァンガードらが転移した先はリンクヴレインズ内のスラム街。
転移座標を教えてもらい、部下100余名をさながら修学旅行の引率の先生の如くヴァンガードは歩を進める。
目的は傍若無人系小物中ボス悪役デュエリスト、ブラストただ1人。
普段からこのスラム街を根城にしているのは本人曰く『ここに居た方がそれっぽいじゃん?』という実に浅はかな理由。
人気もなく、常に彼が居るという廃墟と化した屋敷へと向かう。
特に何の障害もなく目的地に着き、ヴァンガードは門陰からこっそりと屋敷を覗くと──
「バトル! 余は≪イビリチュア・リヴァイアニマ≫でダイレクトアタック! チェック・ザ・トリガー!」
「何が『ザ』だ! カッコつけやがって!」
「ドローカードは≪ヴィジョン・リチュア≫! ゲット! リチュアトリガー! よって相手の手札をランダムに1枚確認する!」
「チィ…! 手札は≪機械複製術≫だ…!」
「なんじゃ事故っとったのか。なればそのまま終わりじゃ」
「ぐぉおおおおおおぉぉっ!!」
(えぇー……)
──そこにはドラゴン系少女に敗北し、地面をコロコロしている男性型機械の姿があった。
今まさに部下達の敵討ち兼≪クラッキング・ドラゴン≫の返還に意志を固めてきたヴァンガードにとっては困惑する状況だ。
「くっ、おま、それドラゴンじゃなくて【リチュア】じゃねぇか! 普段のドラゴンはどこいったんだよ!?」
「は? 阿呆か汝は? 見よこの≪イビリチュア・リヴァイアニマ≫の姿を──どこからどう見てもドラゴンじゃろうが」
「どっからどう見ても水族・水属性だよ!!」
「この見た目でドラゴンじゃない訳がなかろう──むっ、そこな物陰から見てる者が居るな。出てまいれ」
「ナズェミテルンディス!」
(あっ、見つかっちゃった)
2人のやりとり──という名の漫才に警戒心が薄れてしまったヴァンガードはあっさりと発見されてしまう。
やれやれ、とため息をはきつつ半身だけ出していた姿を現し、トコトコと2人の方へ歩を進め──
「「えっ、多くない?」」
──その後ろからザクザクと100余名のハノイの騎士らも後に続く。
『カルガモの親子でもそんな数居ないだろ!』と2人が思う中、いつの間にかハノイの騎士らは2人とヴァンガードを囲うように配置。
『閉じ込められた!』、『罠か…』とシャトルの中に逃げ込んだ訳でもないのに、2人はハノイの騎士ら、そして眼前のヴァンガードに警戒の眼差しを向ける。
「はじめまして。私はヴァンガード──彼らの上司にあたる者です」
「ほぉ……リボルバー以外の上役は初めて見たぜ。俺様はブラスト、よくそいつらの≪クラッキング・ドラゴン≫をアンティで奪っている」
「知っています」
「余はエンプレス。≪クラッキング・ドラゴン≫のことはドラゴンだと思っている」
「機械族ですよ」
コホン、とヴァンガードを軽く咳払いしてからブラストの方へ視線を移す。
このまま相手の漫才ペースに付き合っていては話が脱線しかねない、隣のエンプレスというドラゴン系少女には申し訳ないが、ささっと目的を済ませようと毅然に振る舞う。
「私がここに来た理由は単純です。あなたが奪った≪クラッキング・ドラゴン≫の返還要求です」
「断る。俺様はちゃあんとデュエル前に、お互いアンティデュエルでの≪クラッキング・ドラゴン≫を賭けることを承知でデュエルしてんだ。んなもん負ける方──いや、負ける雑魚の責任だろうが」
「き、貴様ぁ…!」
「落ち着いて下さい……確かに、あなたが言うことにも一理ありますが、それはそれとして我々ハノイの騎士にも面目というものがあります」
「わからねぇでもねぇが……なら、やることはわかってんだろうな?」
ヴァンガードの言にブラストは(機械マスクで表情はわからないが)口角をニヤリと上げる。
それに合わせて自身の左腕……デュエルディスクも構えて臨戦態勢に。
「構いません。むしろこれが目的で来たようなものですからね──では、この場に居る100余名の≪クラッキング・ドラゴン≫とあなたが持つ100余枚の≪クラッキング・ドラゴン≫をアンティとすることで異存はありませんね?」
「ヴぁ、ヴァンガード様!?」
「あぁ、問題ねぇ……ククク、一気に100枚近く増えるたぁ気前が良いじゃねぇか」
「テメェ!」
「落ち着いて下さい。私が負けると思っているのですか?」
「そ、そんなことは……」
「であれば大人しく観ていて下さい。そちらのエンプレスさんもよろしいですね?」
「構わぬ。こやつらから仕掛けてこなければ手出しはせんよ」
「感謝します。では…」
ヴァンガードの言葉にハノイの騎士らは一瞬動揺するも、ヴァンガードの二の句を聞いては閉口するのみ。
警戒対象として加算していたエンプレスの手出しもないとなれば純粋にデュエルに集中できる。
互いに一定の距離を保ち、ほぼ同時にデュエルディスクを起動。
ソリッドビジョンでプレイヤーネーム、ライフポイント、手札が表示され準備が完了する。
「「デュエルッ!!」」
今、ここに中々見られない、同じデッキタイプ同士のデュエル──ミラーマッチが始まった。
「俺様の先攻だ。手札からレベル8の≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動。デッキから2枚ドローする。さらに墓地へ送られた≪デスペラード≫の効果。こいつが墓地に送られた場合、デッキからコイントス効果を持つレベル7以下のモンスター1体を手札に加える。デッキから≪リボルバー・ドラゴン≫を手札に加えるぜ」
(へぇ…)
ヴァンガードは素直に感心した。
荒っぽい言動とは裏腹に、ブラストの初手は堅実。
手札交換のみに留まらず、最上級モンスター含みと言えど先攻1ターン目の初期手札を5枚から6枚に増やした。
デュエリストの数だけ戦術は異なり、手札の数だけ可能性がある。
その可能性を1つでも増やされるとなれば厄介だ。
生憎とヴァンガードの初期手札では手札誘発等でブラストを妨害する術はないため、ここは大人しく彼のプレイングに注視する。
「魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキから2枚ドローし、その後手札から闇属性1体を除外する。さっき手札に加えた≪リボルバー・ドラゴン≫を除外だ」
(情報アドも消してきましたか…)
しかし続く手も手堅いそれ。
デュエルログを傍目で観ていた故に詳細こそわからないが、序盤は堅実に動くタイプなのだろうかとヴァンガードが思案していたところ──ブラストのアイカメラが下卑た赤色に発光する。
「さぁてお相手がハノイのお偉いさんって言うなら遠慮なく飛ばさせてもらおうか! 手札から≪ネジマキシキガミ≫を特殊召喚! こいつは通常召喚できず、自分の墓地のモンスターが機械族のみの場合手札から特殊召喚できる! そして≪ネジマキシキガミ≫を対象に魔法カード≪エクシーズ・レセプション≫を発動ォ! ≪ネジマキシキガミ≫と同じレベルのモンスター1体を攻守0、効果を無効にして特殊召喚する!」
「──っ、まさか…!」
「察しが良いなぁ上司さんよぉ! 俺様は手札から──≪クラッキング・ドラゴン≫を攻守0、効果を無効にして特殊召喚ッ!!」
堅実から一転、稼いだ手札を潤沢に使ってブラストの場に2体の最上級機械族が姿を現す。
片や白装束のカラクリ人形。
そしてもう片方はハノイの騎士らが彼に奪われているカード──≪クラッキング・ドラゴン≫。
巨大な漆黒の体躯、ライトグリーンに発光する各アイカメラや基部。
全身が鋭利な刃物の如き棘に包まれ、他者を一切寄せ付けない、孤独にして孤高の機械竜。
ハノイの騎士の象徴とするカードがよもや先攻1ターン目で、それもこんなにもあっさりと出たことにヴァンガードは驚愕──しない。
彼女が警戒すべき点はただ1点──召喚制限のない機械族が、''攻撃力500以下''で場に居ることである。
「続けて行こうじゃねぇの! 攻撃力0の≪クラッキング・ドラゴン≫を対象に、魔法カード≪機械複製術≫を発動ォ!! 場の攻撃力500以下の機械族と同名モンスター2体をデッキから特殊召喚する! さぁ、出てこいよ。2体のぉー──≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」
「くっ…!」
やはり、というか予想通り。
機械族得意の≪機械複製術≫によりブラストの場には追加で2体の≪クラッキング・ドラゴン≫が現れる。
1体でも厄介な≪クラッキング・ドラゴン≫が2体ともなれば、ステータスダウンはもちろんのこと、効果ダメージも生半可な数値ではない。
仮にこちらが≪クラッキング・ドラゴン≫を出そうものなら瞬く間に攻撃力は0、そのダメージも3000と異常な火力を生み出す。
「お次は攻撃力0の≪クラッキング・ドラゴン≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫発動だ! 自分場のレベル8以上のモンスターをリリースし、2枚ドロー! さらにさらにぃっ! 手札から≪ジャック・ワイバーン≫を通常召喚だッ!」
「──っ、2体では満足しませんか…!」
「悉く察しが良いなアンタっ! んじゃあお望み通り、場の機械族≪ネジマキシキガミ≫と≪ジャック・ワイバーン≫を除外し、墓地の闇属性≪クラッキング・ドラゴン≫を対象に≪ジャック・ワイバーン≫の効果発動ォ! 墓地から対象にしたモンスター──≪クラッキング・ドラゴン≫を復活させるッ! さぁ、戻って来な≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」
これで締め、とばかりにブラストの場に3体目の≪クラッキング・ドラゴン≫が現れる。
最初の≪エクシーズ・レセプション≫で弱体化していない、ステータスも効果も元通りの完全復活した姿だ。
3体の≪クラッキング・ドラゴン≫は両端と中央それぞれに配置され、ヴァンガードを威嚇するようにグルルと唸り声を上げる。
レベル8・攻撃力3000のモンスターが3体。
それも自身と部下が愛用する≪クラッキング・ドラゴン≫。
3体が先攻1ターン目から並び、自分に向けて牙を剥く様は通常であれば恐怖だろう。
周囲のハノイの騎士らも『あんなのどうやって対処するんだ…』と半ば絶望、諦観したような状況だ。
だが、1人──いや、2人ほどそんな状況に全く諦めていない……というより、全く別の感想を抱く者達が居た。
((……やっべ、≪クラッキング・ドラゴン≫3体並ぶとカッコいい…))
ハノイの騎士の死神ことヴァンガードと、雑な汝はドラゴン判定するエンプレスだ。
片や≪クラッキング・ドラゴン≫を愛し、愛されるデュエリスト。
片や見た目がドラゴンなら手当たり次第何でも愛すデュエリスト。
性格も容姿もデッキも異なる2人だが、この時だけは本人達の知らぬ間に思いがシンクロしていた。
普段は後ろ姿でしか≪クラッキング・ドラゴン≫を見ていないヴァンガードとしては、正面から3体並ぶ状況は壮観にして眼福。
時折≪クラッキング・ドラゴン≫を目にするエンプレスとしては、3体並ぶと
そんなことを思いつつも、この2人は同時にこの状況を覆す術も''瞬時に''理解していた。
「ハッ、呆けたところでもう遅ぇ。3体の≪クラッキング・ドラゴン≫が居ればレベル12のモンスターだろうが、その攻撃力を7200下げる。並大抵のモンスターじゃ太刀打ちできねぇぜ? 俺様はこれでターンエンドだ」
そのことを知ってか知らず、ブラストはそのままターンを終える。
場には3体の≪クラッキング・ドラゴン≫のみ。
手札は2枚残し、ライフポイントはコストを払う行為もなかったため無傷の4000。
(リバースカードなし…? あっ、いや手札に≪速攻のかかし≫とか居るのかも)
リバースカードすら出さない状況にヴァンガードは一瞬侮られているのかと思ったが、機械族には幾つか手札誘発のモンスターが居るため即座にその考えを払拭。
また魔法・罠カードによる妨害がないのなら、こっちもこっちで好きに動ける上、今の手札なら''突破も容易''だ。
「私のターン、ドロー。リバースカードを2枚セット」
「オイオイ守備重視か? そんなんじゃ勝てねぇぞ?」
「守勢に回ったつもりはありません。手札のレベル8、≪クラッキング・ドラゴン≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動。これに合わせて残った1枚の手札を捨て、速攻魔法≪連続魔法≫を使います」
「……ハ?」
「≪連続魔法≫は直前に発動した通常魔法の効果のみをコピーします。よって私は≪トレード・イン≫の効果2回分、合計4枚ドロー」
「えっ、何この直近の≪連続魔法≫採用率。流行? トレンドなの?」
自分、エンプレス、葉子と、3人も≪連続魔法≫を使用している者が現れて困惑するブラスト。
正直使い勝手悪いのに何で入れているんだ、と『お前が言うな』と言われかねない。
そんなブラストには目もくれず、ヴァンガードは新たに引いた4枚を一瞥。
≪クラッキング・ドラゴン≫3体の突破に新たに引いた4枚は一切の必要はないが、後の展開を考えると理想的なカードを引けていたことに仮面の下で笑みを浮かべる。
「先ずセットした1枚目の通常魔法≪冥王結界波≫を発動。このカードの発動後、あなたが受けるダメージはこのターン全て0になりますが、3体の≪クラッキング・ドラゴン≫の効果はこのターン無効になります」
「チッ、だがそれでも攻撃力3000が3体だ。生半可な方法じゃ突破はでき──」
「次にセットした2枚目の通常魔法≪死者蘇生≫を発動。あなたの墓地の≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を私の場に復活させます」
「──テメぇええええぇっ!!」
「瞬く間のフラグ建てと回収じゃのう…」
あれよあれよと形勢が傾いていく。
当初はモンスターを召喚すれば大幅なステータスダウンと効果ダメージで襲うハズだった3体の≪クラッキング・ドラゴン≫は全て効果が無効化。
さらに3体の攻撃力3000に対しては、素直に自分のカードを使うのではなく、丁度ブラストの墓地に眠っていた≪デスペラード≫が解決してくれる。
「ま、まだだっ! 確かに≪デスペラード≫にはコイントスで表になった数まで表側モンスターを破壊する効果があるが、早々3回も表が出る訳が──いや、待てよ? まさか、テメェ…!」
「察しが良いですね。バトルに入り、≪デスペラード≫の効果を発動。さらに墓地の罠カード≪銃砲撃≫を除外し効果適用」
「テメ──≪連続魔法≫のコストで…!」
「その通り。墓地から除外した≪銃砲撃≫の効果により、2回以上コイントスを行う効果のコイントス結果を全て表として扱います──ガン・キャノン・ショット・デスペラード、
頭部・両肩が回転式拳銃を模している≪デスペラード≫のシリンダーが高速回転。
モーター音と聞き違えられないほどの回転後、スロットマシンの如くピタリと静止。
それぞれの弾倉に充填された弾丸がセット&ロックオン。
3つの銃口から同時に閃光が放たれ、それら全てが3体の≪クラッキング・ドラゴン≫の胴体を貫く。
ヂヂヂ、とショート音が鳴ったかと思えば、その直後に轟音。
巨大な3つの爆発が起こり、両者はもちろん観戦者のエンプレスとハノイの騎士らを爆風が襲う。
モクモクと立ち込めていた黒煙が晴れると、そこには当然≪デスペラード≫のみが雄々しく直立。
≪デスペラード≫が奪われた時点でこの最悪な状況は予測に入っていたブラストだったが、それでもいざ実際に目の当たりにすると悔しさと怒りが込み上げてくる。
蘇生系の罠があったら≪デスペラード≫を奪われずに済んだかもしれず、効果破壊耐性を付与できれば、と''たら・れば''と考えるが、それらのカードを引き込めていない自分に落ち度があるだろう。
むしろ少ないカード消費で3体の≪クラッキング・ドラゴン≫を突破したヴァンガードの手腕が見事だったと思わざるを得ない。
だが、それと同時に何故ヴァンガードのデッキに≪銃砲撃≫というピンポイントなカードが入っていたのかと疑問に思うブラスト。
強力なカードではあるが、コイントスを行う効果を持つカードはさほど多くはない。
ただの偶然か、それとも──と考えていたところでヴァンガードの口が開く。
「先攻で3体の≪クラッキング・ドラゴン≫を揃えるプレイングは流石だと言いたいところでしたが、そのコンボを成立させる仕様上、こうなることも考えられるでしょう。あぁ、あと≪デスペラード≫の3回表になった時の追加効果で1枚ドローしますね」
「……≪死者蘇生≫で奪った割には随分と≪デスペラード≫の効果を理解しているなァテメェ」
「えぇ、私のデッキにも入っていますからね、≪デスペラード≫」
なるほど、と思うと同時に歯軋りするブラスト。
確かに自分も採用しているカードであれば≪銃砲撃≫が最初から入っていても何ら不思議ではない。
それどころか自分はわざわざ相手に突破させやすいカードを用意させてしまっていたのかと、ブラストは再度自分に憤る。
「このまま≪デスペラード≫を維持しても制圧力は高そうですが……墓地に送られた場合あなたにまたカードをサーチされては困りますので、処理させてもらいましょう。手札から≪ジャック・ワイバーン≫を召喚」
「なっ──テメぇ!!」
「叫んだところで無駄です。≪デスペラード≫と≪ジャック・ワイバーン≫を除外し、≪ジャック・ワイバーン≫の効果発動。墓地から闇属性モンスター1体を特殊召喚します──さぁ、復活なさいっ──」
ヴァンガードの場に新たに機械飛竜が現れたかと思えば、すぐに≪デスペラード≫と共に異次元へ。
そして地面に濃紫色の円陣が現れ、その中央からゆっくりと浮上する影が1つ。
先のブラストと同じく、巨大な漆黒の体躯、ライトグリーンに発光する各アイカメラや基部。
全身が鋭利な刃物の如き棘に包まれ、他者を一切寄せ付けない、孤独にして孤高の機械竜──
「──≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」
──≪クラッキング・ドラゴン≫。
≪ジャック・ワイバーン≫が現れた時点でこうなることはブラストも理解していた。
だがそのコストにヴァンガードのカードではなく、自分のカード──それも墓地に送られた場合に効果が発動する≪デスペラード≫を使われて、となれば声を荒げるのも無理はない。
そして同時に理解した。
目の前の相手はハノイの騎士の上司を名乗るだけあり、既知の一般ハノイの騎士とはデュエルの次元が違う。
さらに驚くべきは彼ら有象無象とは異なり、闇属性・機械族に特化させたデッキ構築になっていること──つまり、
言わば、これはミラーマッチ──もう1人の自分とのデュエルと言っても過言ではない。
「最後にリバースカードを2枚セットし、ターンエンドです……どうかしましたか?」
締めにセットカード2枚を出したところで、突然沈黙したブラストを訝しむヴァンガード。
饒舌で粗暴な人物が黙ると薄気味悪いためつい声をかけたが、その声に呼応してブラストの首がゆっくりを上がる。
「いぃや、なぁに……まさか、こういうデュエルできるたぁ思わなくてな」
「こういう……? あぁ、なるほど。私も同じですよ。まさか──」
互いに示し合わせたでもない。
片やマシンマスク。
片やハノイの仮面。
共に相手の表情が見える訳がないこの状況で、2人はそれぞれが被る面の下で口角を吊り上げ、同時に言葉を発する。
「「ミラーマッチになるなんて(なァ!!)」」
※ミラーマッチと言っていますがシングル戦です