正義の味方が着任しました。   作:碧の旅人

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第9話 灰色の海/地球

「私は吹雪型駆逐艦、五番艦の叢雲よ。こっちは――――」

「金剛型戦艦の一番艦、金剛デース!」

「まずそこからもう何がなんだか……」

 

 駆逐艦、戦艦という言葉は知っている。

 軍隊を持たない現在の日本では、護衛艦という銘に変わっているが、世界各国が保持している艦艇のことだろう、と思う。戦艦は……ヤマトなら知ってる。正直詳しい違いなんて分からないが。

 しかし少女らの口から、自らを指す言葉としてそれらが出てくる事には、強い違和感を感じる。

 これはカルチャーショックみたいな物だろうか。いや並行世界(多分)だからワールドショックか?

 先ほど叢雲に襲われた際に、彼女が纏った装備を思い出した。もしかして、あれが何か関係があるのだろうか。

 

「疑問はもっともだけど、取りあえず先に全員紹介するわね」

 

 先ほどプロペラ機を操っていた、薄紅の着物に割烹着姿の女性は鳳翔、白と青の和装の女性は加賀で、共に『空母』を名乗った。刀を携えた眼帯の少女は天龍といい、『軽巡洋艦』らしい。

 

 彼女らの名前も肩書きも、聞き慣れない物ばかりだ。暗号名や識別番号のようなものだろうか。

 だとしたら彼女らは軍隊のような組織に属しているのかもしれない。そんなことを考えているうちにも、叢雲の説明は続く。

 

「私たちの存在を語る上で外せないのが『深海棲艦』よ。深海に棲む艦艇と書いて深海棲艦ね」

「艦艇、ね……」

 

 遠坂が呟く。

 恐らく俺たちを襲ったあの異形を思い出しているのだろう。生物と機械の特徴を備えていたアレを。

 

「深海棲艦が初めて確認されたのは199X年。太平洋の公海上での事らしいわ。まだ当時は人類のレーダーで補足できた」

 

 その深海棲艦は俺たちを襲ったのと近い姿をしており、近くを通りかかったタンカー船の護衛船団を沈没させたという。当初は某大国が極秘裏に開発した新型兵器ではないかとされていたそうだ。というのも、その某国の海軍が周辺海域を事実上占拠し、深海棲艦を恐らくは鹵獲して回収したからだ。

 

「実際のところは軍事利用の為に独占して研究しようとしたんでしょうね。鹵獲なんてするから、駆逐級相手に少なくない被害が出たそうよ」

 

 しかし、その努力は無駄に終わった。

 苦労して体内を暴いても、生物とも機械とも取れない深海棲艦の構造は、科学では理解することが適わなかったのだ。更に最初の出現からしばらく後に、太平洋の各地で同じような個体が次々と確認され、未知の存在は多くの国が注目することとなった。

 

 最初のうちこそ、この未知の存在を利益に変えようと、多くの欲と好奇の視線が注がれていたが、徐々にそんな余裕は無くなっていく。

 深海棲艦の出現数は、ゆっくりとだが着実に増していったのだ。それに伴い船舶への被害、それに伴う輸送網への打撃が拡大していき、各国は早急な対策を迫られた。

 深海棲艦は現代兵器に対して高い耐性を備えていたが、当時の各国は軍備を拡大し臨戦態勢にあったために、潤沢な攻撃手段を備えていたという。中でも運動エネルギー利用兵器や、超高温を発生させる核兵器が有効であることが確認された、らしい。

 

「ちょっと待ってくれ。核兵器って、そんな物が公然と使われたのか?」

 

 放射能で一帯を汚染するようなものが安易に使用されて良いはずがない。

 しかし叢雲は怪訝な表情で言った。

 

「はあ?核兵器なんて深海棲艦が出現する前から使われてたでしょう?色んな国で」

「な……」

 

 絶句する俺の横で、遠坂が呟いた。

 

「そう……。深海棲艦の出現が分岐点かと思ったけど、もっと以前から分岐した世界だったてことね」

「その様子じゃ、そっちの世界とは歴史がズレてるみたいですネー」

「ええ、だから少し詳しく教えて貰えると助かるわ」

「ええと、確か発端は……アフリカ北部の民主化運動に核兵器が使用された、ような」

「その話は後にしましょう金剛。今となってはどうでも良いことだし、当時はまだ私たちも居ないから直接知ってるわけじゃないし」

「そうね。興味があれば後で資料庫に案内しマス」

 

 叢雲は話を戻した。

 

 そうやって人類と深海棲艦の『戦争』は始まったらしいが、結果は人類にとって厳しい物だった。

 コストが掛かりすぎるのだ。

 例え敵を倒せたとしても、高価な兵器を大量に消耗する上、賠償を求める国家が存在しない。さらに深海棲艦は倒しても倒しても沸いてきて、着実に勢力を広げていく。おまけに強力な新種まで次々と現れていったらしい。

 このままでは人類は、近いうちに制海権を完全に失う。そんな考えが現実味を帯びてきた。

 

「そんな時に現れたのが」

「私たち『艦娘』デース!」

「艦娘?」

 

 またもや聞き慣れない言葉に戸惑っていると、叢雲が頬を掻きながら言った。

 

「長ったらしい正式名称もあったんだけど、呼びにくいから艦娘が正式名称みたいになっちゃったの。簡単に言うと、私たちは非科学的な方法で製造……建造された人形よ。人間じゃなくてね」

「にん……ぎょう?」

 

 思わず少女らをまじまじと見つめてしまう。

 

「凄いでしょう?外見はどう見ても普通の人間だもの」

 

 叢雲が伸ばした自分の手を見ながら言う。

 

「詳しい仕組みは最後まで公開されなかったけど、要は人型の器に第二次世界大戦時の艦艇に宿った魂を憑依させてるらしいわ。外見が女性ばかりなのは、艦艇の事を女性形と見なすことが多かったから、とか言われてる」

 

 そう言われてようやく合点がいった。

 

「……なるほど。さっきの駆逐艦とか戦艦ってのは、その、君らの元になった船の名前なんだな」

「そういうこと。それにしても理解が早いわね。こんな非科学的な話なのに……って、あんたたちも非科学的だったわね」

 

 彼女はこちらを見やると問う。

 

「魔術師って言うぐらいなら、もしかしてこういう技術も知ってたりするの?」

「……無くはないわね。降霊術と何かしらを組み合わせれば不可能ではないと思うわ」 

「んー?ならもしかしたら、私たちの雛形を作り出したのは魔術師さんかもしれませんネー」

「最早確かめようがないけどね。とにかく、深海棲艦に対して有効な攻撃方法を備え、従来の兵器よりも圧倒的に低コストで運用できる兵器、或いは兵士として生まれた存在。それが私たちよ」

 

 彼女たち艦娘が現れ、効率的な運用のための施設『鎮守府』が日本各地に建設された。そして『提督』と呼ばれる、特定の条件を備えた人間による指揮の下、艦娘は深海棲艦をから制海権を取り戻していった。それこそアリマゴ島のように、陸から離れた孤島にまで前線を広げることが出来るくらいに。

 

 艦娘を擁する人類と深海棲艦は、しばらくの間は勝ったり負けたりしながらも一定の均衡を保ちつつあったらしい。ある瞬間までは。

 

「そして今から八年ほど前ね。それが起きた」

「アレを一言で表すなら、“グレイ・グー”が割としっくりくるらしいですネー……」

 

 聞き慣れない言葉に、俺も遠坂も首を傾げる。対する少女らの表情は心なしか暗くなっていた。

 金剛が補足してくれた。

 

「先ほどの並行世界論じゃないケド、ナノマシンが登場するSFでよく使われる言葉らしいデス。ナノマシンの持つ自己増殖機能が暴走して、地球全てを覆い尽くす現象のことで、あんなことさえ無ければ、多分私たちも知らなかったネ……」

 

 不穏すぎる発言に嫌な予感が膨らむ。増殖して、地球を覆い尽くす。

 

「まさか……」

「そのまさかよ。深海棲艦が突如として異常増殖を始めたの。奴らは半日足らずで世界中の海を埋め尽くした。比喩じゃなく、海面全てが、もしかしたら海中も全て、様々な深海棲艦で黒く染まったわ。多くの艦娘も黒い海に呑まれた」

 

 じゃあ、その時の地球を宇宙から見たら、青いはずの海は黒く覆い尽くされていたのだろうか。冷や汗が流れるような錯覚を感じる。しかし余りに現実味がなさすぎてイメージが沸かない。だいたい窓の外に広がる景色は平穏そのものじゃないか。もしかして、彼女たちなりの不器用なジョークかもしれない。そんなことを考えた。

 

「へ、へぇ……。この島はよく無事だったな、そんなことがあったのに」

「……」

 

 叢雲は無言で目を伏せている。代わりに金剛が答えてくれた。

 

「え、エート……。各『鎮守府』周囲の海域には深海棲艦を寄せ付けない護りが施されていマス。それでも相当な数の敵が押し寄せてきましたケド、なんとか耐えることができマシタ。この護りは最近は綻び始めたみたいで、弱い個体は紛れ込んだりするネー……。それから深海棲艦版の“グレイ・グー”ですが、しばらくしてから急速に消滅したらしいネー。理由は不明。増殖と同じ半日ほどで、元の規模まで数を減らしたようデス。とはいえ、艦娘を含む人類側の戦力は、その短時間で制海権をほぼ完全に失っていた……」

「それじゃあ、この島に辿り着ける人がいないっていうのは、世界中の海に深海棲艦がいるからか……」

「そういうことデス。まあ仮に辿り着けるだけの戦力が整ったとしても、こんな辺境の孤島に来る理由はないと思うワ」

「じゃあ、日本が今どうなっているかとかは分からないの?わざわざ足を運ばなくても電波くらい届くでしょう」

 

 遠坂が尋ねる。

 そこは俺も気になっていた。

 

「それは……そうでもないわ」

 

 金剛に先んじるようにして、叢雲が言った。返答にやや間が空いたのが、少しだけ気になった。

 

「深海棲艦が多い海域は、暗い闇色に染まるの。そういう海域を『深海』と呼称してるんだけど、“グレイ・グー”でこれが一気に拡大したわ。世界各地に出来た『深海』が電波を妨害しているらしくて、大陸間ならまだしも周りが海しかないここは、何処とも繋がらないの」

「つまり外部の状況を知る手段はないってこと?」

「まあ、そうね」

「……」

 

 遠坂はまた何か考え込んでいるようだった。なんとなく遠坂の考えていることが分かる。今までの話の中で、明らかにおかしいと感じる部分があったのだ。しかし俺も遠坂も、それを問うことはしなかった。

 

「そうか……。おかげで、君らとこの世界についてはよく分かったよ」

「そうね、にわかには信じられない状況だけど」

 

 まさかそんなとんでもない状況だとは思いもしていなかったが、彼女たち艦娘について知るついでにこの世界についても知ることができた。

 

「ま、今はこんなところでいいでしょ。貴女たちには無理しないでゆっくり休んでもらうわ。せっかく八年ぶりに出会えた人間だもの」

 

 叢雲の口ぶりは、この島には艦娘しかいないことを意味していた。

 

「そういえば、艦娘は『提督』っていう存在に指揮されてたんじゃないのか?ここにはその提督さんはいないのか?」

「……ええ。かつては居たんだけど、“グレイ・グー”が起きた日に、皆の制止を振り切って船でどこかへ消えたわ。まるで何かに吸い寄せられるみたいだった」

 

 それはなんとも気になる情報だった。その提督は何が目的で何処へ向かったのか。

 

「まあ今となっては、あの提督の真意も闇の中ね。それじゃ、私はこれで失礼するから」

「そうしまショーか。あとで軽めの食事でも持って来るネー」

 

 そう言うと彼女らは、出口へと向かっていく。

 俺は我に返って彼女らに声を掛けた。

 

「あ、あの。今更かもしれないけど、改めて、遠坂と俺を助けてくれて本当にありがとう」

「そうね、私も。あそこで終わってたら、死んでも死にきれなかった。ありがとうございます」

 

 俺に続いて、割としおらしく頭を下げる遠坂。

 

「……あ、アハハ。気にすることないネー。当然のことをしたまでですカラ」

 

 金剛はこっちを見ずにあくまで明るく言うと、心なしか足早に去っていった。

 叢雲も金剛の去っていた方を見ながら、呟くように言った。

 

「そうね、当然のこと……よね」

 

 そうして彼女らは退室していき、部屋には俺と遠坂が残された。

 




随分間が空いてしまった……
もしも読んでくださっている人がいたらすみませんでした

あ、冬イベお疲れ様でした。
なんとか紫電改(三四三空) 戦闘301 入手出来ました。
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