正義の味方が着任しました。   作:碧の旅人

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第14話 片鱗

 空はにわかに雲が垂れ込め、すっかり陽光を遮っている。

 アリマゴ島鎮守府本館前の海を臨む広場に、会議室にいた全員が移動していた。

 そういえば金剛の妹であるという榛名さんは、未だに姿を見せていない。少し気になって叢雲に聞いてみたところ、彼女は基本的に島の中央の監視棟から離れないらしい。なんでも、自ら望んで今の役割を担っているとか。

 

 金剛の妹なのだから、榛名さんも明るく活発な感じなのだろうか?

 

 

「演習はこの本館前面の湾内で行う。勿論海の上で。マリアナ海溝を目指すって言うくらいなんだから、文句は認めないわよ」

 

 遠坂と金剛の前で確認するように叢雲が言った。

 

「そこは当然よね。OKよ」

「それから、交戦開始距離は湾内の広さを鑑みて0.2海里……370メートル程度に設定するけど、大丈夫?」

「……了解よ」

 

 遠いな、というのが正直な感想だった。

 英霊ならばともかく、人間の魔術師にとって、370メートルもの距離を挟んでやり合う事は稀だ。魔術系統にもよるが、魔術を用いた攻撃の射程は通常会話が届く程度の距離を想定していることが多い。

 しかし、艦娘はかつての海軍の艦艇に深い関わりを持った存在だ。二日前に見た榛名さんの砲撃から考えても、その射程はかなりのものであるはずだ。

 恐らく遠坂は、初手を金剛に譲ることになる。そしてそれは、深海棲艦を相手にしても同じだろう。

 勿論、俺という同行者を計算に入れなければの話ではあるが。

 

 しかし遠坂は、それでも自分が適任だと言った。ならば信じて見守るしか無いだろう。

 

「それから武装だけど……始めは完全に仕舞った状態で始めましょうか。開始するまでは海上で立っているのに必要な装備のみを認める」

 

 そう言った後、叢雲は金剛を見て言った。

 

「こっちが戦闘で使うのは、改二の延長上にある通常型の艤装でいいかしら」

「ハイ。それが一番リンの力を測りやすいと思いマース」

「じゃあそれで。開始までは両足の主機のみ出現させておくこと。凛、貴女はどうするの?」

 

 問われた遠坂は、少し考えてから

 

「宝石剣は使わないわ。代わりといってはなんだけど、これを使う」

 

 そう言って取り出したのは、掌に収まるサイズの小さなライトだった。

 

「……?まあ構わないけど」

「こっちはこれで準備完了よ」

 

 スカートのポケットにライトを仕舞いつつ、叢雲に頷く遠坂。

 

「それじゃあ、さっさと始めましょうか」

 

 

 遠坂は金剛と共に海面に降り立ち、開始位置に向かっていく。今後の為にも、金剛の戦い方をよく見ておいたほうが良いとは思うのだが、視線はどうしても遠坂を追いかけてしまう。

 

「心配なのですか?」

 

 隣を見ると暁型の末っ子、電がこちらを見上げていた。

 

「とっても心配そうな顔をしているのです」

 

 思わず自分の顔を触ってしまう。こんな小さな子に気を遣わるほど、心配そうに見えたのだろうか。

 

「いや、どうかな……あれでも遠坂って少し抜けてるところがあるから」

「大丈夫なのですよ。金剛さんは戦う時はとても冷静で慎重な方なのです。遠坂さんが重傷を負ったりする事は絶対無いのです」

 

 金剛のことは全く心配していないように見えるが、それだけ信頼を置いているということだろう。あと、軽傷ならありえる、とも読み取れる主張は、こんなに小さくてもやっぱり戦闘員なんだな、と感じさせられる。

 それにしても……

 

「ふにゃ!?」

 

 頭を撫でられた電が変な声を出した。

 

「な、なんなのですか?」

「いや、電は他人を気遣えて偉いなぁと思って」

「はわわ」

 

 お陰で少し気持が落ち着いた気がする。

 気を取り直して金剛の――――艦娘の戦闘スタイルを見逃さぬよう、目を凝らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海を隔てた遙か向こうで、巫女装束の振り袖が風に揺らされているのが小さく見える。私にとってはちょっと遠く感じるのだが、彼女にとっては違うのだろう。士郎の話によると、金剛の妹の有効射程は少なくとも2km以上らしい。400メートル弱なら必中距離と見た方がいい。

 対して私の射程はぎりぎりだ。出来ればもう少し距離を詰めて戦いたいところ。もし事前に準備をすることできれば話は違ってくるのだが。

 

 そもそも魔術師の本領は入念な下準備にあると言っていい。例えば前回の聖杯戦争で私が使用した宝石群は、十年以上掛けて織り上げたとっておきだったのだ。価格も大層なもので、余り思い出したくは無いが一つあれば家が建つぐらい、とだけ言っておく。

 しかし今は素の状態の私を評価してもらう時間だ。無い物ねだりは言っていられない。あの時からの自分の成長を信じる。

 

 足元に目をやる。

 重力や表面張力に干渉する術式に滞りは無い。お陰で今の私は水面を歩くことが出来るし、その気になれば水黽(アメンボ)のように滑ることも出来る。

 対して艦娘である金剛は、彼女らが主機と呼ぶ足部に纏った装備で海に浮いているようだった。完全に海上に立つわけでは無く、足の甲近くまで水面下に沈むがその移動、というか航行はスケートの選手のようで、半自動的に見えるほど洗練されている。

 

 本館前の港湾部で、叢雲が間もなく開始する旨を大声で叫んでいるので、手を振って了承を伝えておく。

 

 

 

 ――――程なくして、開始の合図である砲音が響き渡った。

 

 私は瞬間的に身体強化を施し、ポケットからペンライトを取り出して備える。

 金剛を見ると、彼女の背面には巨大な鉄塊のような物が装着されていた。分厚く曲面的な装甲に覆われたそれは、言いようのない威圧感を放っている。かつての軍艦を、人型で使用できるサイズにまで落とし込んだとしたら、ああなるのか。その意味を理解する。

 

「アレが『戦艦』金剛の艤装……」

 

 そんな事を呟いているうちに、艤装上に並んだ砲門が火煙を噴いた。

 次の瞬間、私の3メートル右横に轟音と共に着弾する。

 

「分かってたけど、やっぱり速い」

 

 水飛沫で全身が濡れたが、一切気にせずに金剛を見据える。

 初弾を外したのはわざとだろう。『早く対処しないと直撃するぞ』と警告してくれているのだ。金剛の優しさには感謝をしながら、それでも私は何もせずに一歩を踏み出す。せめて300メートル以内に近づきたいところだ。

 

 無防備に歩を進める私を見て、金剛は次弾を放った。

 今度は私の左と右後方に着弾する。

 それでもなお歩みを止めない私を見て、困惑したように首を傾げる金剛。だがそれも一瞬だった。魔力で強化された私の視力は、金剛の艤装のうちの一門が僅かに照準を調整するのを捉えた。

 

 次は当ててくる……。

 そう思いながら、私は無抵抗で直撃弾を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 何の対処行動も起こさないリンに対し、ワタシは迷いを断ち切って判断を下す。威力を抑えたうえで、万が一にも命に関わる部位は避けて、擦らせるように直撃させる。敵の砲撃が偶然直撃しない、などという幸運を当てにしてマリアナ海溝へ向かうことを、許すわけにはいかない。

 電探でリンの正確な位置を再補足。得られた情報を瞬間的かつ半ば無意識に処理し、ワタシの意識と連動した艤装が彼女に照準を合わせる。そのスピードと精度は共に、初期の頃のワタシたちと比較すれば異次元の域にあるだろう。

 

(チョット痛いと思いますが、我慢してくださいネ、リン)

 

 超音速で放たれた砲弾は、一秒も掛らずにリンに向かって殺到し――――

 

 

 リンはそれを瞬き一つせずに霧散させた。

 

「――――!」

 

 驚きは、未知の光景に対しての物では無い。()()()()()()()()()()()驚いたのだ。強力な深海棲艦等に備わる、生半可な砲撃を弾くその力は……

 

「『装甲』持ち……!しかも結構硬い」

 

 彼女は深海棲艦では無く魔術師だ。アレも正確には『装甲』とは違うのかもしれない。しかし性能としては同じような物だろう。

 確認するように続けてリンを狙い撃つ。彼女はただこちらに向かって海上を歩いて来る。そして全ての砲弾は、リンに直撃する寸前で破砕音と共に霧散していく。

 

 そしてその状態のまま、リンはワタシを指さすように右手を伸ばした。

 その指先から紅い光弾が連続して射出される。

 

「リンの有効射程に入った……?」

 

 決めつけるのは危険だが、距離にして300メートル弱が、今の彼女の射程ということだろうか。流石に艦娘であるワタシほどの照準性能は無いらしく。多くの光弾がワタシの左右を抜けていった。

 見たことも無い種類の攻撃に、僅かな緊張が走る。しかしそれはお互い様だ。

 ワタシは冷静に務めながら、引き続き紅い光弾の掃射を受ける。

 

 そして、遂にワタシは不吉な色の光弾に被弾した。いや、正確にはワタシの『装甲』にぶつかって弾かれる。

 

「……肉体、艤装、共に異常なし、デスネ」

 

 『装甲』は、魔術という未知の攻撃に対しても問題なく機能したようだ。いや、むしろワタシたち艦娘は元から魔術(オカルト)寄りの存在なのだろう。リンとシロウに出会ってから、改めてそう強く自覚するようになった。 

 

 ともあれ、今のままでは互いに攻撃が直撃しない。だがそれは当然だ。ワタシもリンも、相手を沈めようとしているのではない。

 これはあくまで演習という名の確認作業。

 だから、次は少しだけギアを上げていく。先ほどより多くの霊力を、背負った艤装に流し込む。

 

「リン、気をつけて。次は少し重くなりますヨ」

 

 艤装の両舷から四発を同時に撃ち出す。

 今度は違う結果だった。砲弾はリンの纏う『装甲』に食い込み、 弾道を逸らされながらも後方に抜けていき、ようやく砕け散る。我ながら完璧な力加減だ。

 

 リンの足が止まった。

 こちらの攻撃は脅威と認められたようだ。

 

 彼女は手に持つペンライトを翳し、空中に文字を書くように軽く振った。すると、光の軌跡が一瞬だけ何かの記号のような形を描く。まるで露出時間を長く設定したカメラで、星や蛍を撮影した時のような光景だ。

 続けてもう一度。今度は先ほどと違う記号。

 それだけだった。

 もう対策は万全と言わんばかりに、彼女は前進を再開する。

 

「だったら採点させて貰うネ!」

 

 全ての砲塔を彼女に向ける。今度は全弾当たるように撃つ。

 

「Fire!」

 

 快速を以て放たれた砲弾はしかし、リンの護りを突破するどころか削ることすら適わなかった。ワタシの砲撃に反応するように、彼女の前面に半透明の障壁が出現する。先ほどまでとは段違いの防御力だ。その硬さだけなら、通常の『戦艦』クラスを上回っているだろう。

 

「凄い……。取りあえず、どの程度その障壁を維持できるのか、見せて貰いマス」

 

 更に威力を微調整し、間断なく撃ち込み続ける。

 既に、開発初期段階の艦娘ならば最大威力と言ってもいいレベルの砲弾が、指一つ動かさずに無力化されていく。本当に人間と戦っているのか疑わしくなってくる光景だ。

 

 それだけでは無かった。

 ワタシの砲撃を受け続けながら、リンの空いた右腕がこちらへ向けられた。

 今度現れたのは青い光。腕の前で円形に収束したそれは、複雑な紋様を描いた。

 

「魔方……陣?」

 

 思わず声が漏れてしまったが、そのいかにも、という現象に心のどこかで納得していた。『魔術師』を名乗るのだから、そういう技も使うのだろう。

 

 陣の中心に光が集まっていき、青色の光弾が勢いよく放たれた。

 勢いよくと言っても、ワタシたちの砲弾に比べれば遅い。それでもワタシは油断なく『装甲』に霊力を集める。そして、その判断は間違いでは無かった。

 

「……っ」

 

 重い。直撃したその一撃に、物理法則に沿わない理不尽さを感じる。

 だがそれは艦娘や深海棲艦も同じだ。

 ワタシたちは、通常の科学兵器や防壁に対して、理不尽な優位性を持っている。科学では説明できないソレこそが、今の世界の状況を形作っている。

 恐らくあの青い光弾も、ワタシたちと近い種類の力だ。

 その上でワタシの『装甲』に対して優位性を備えている感じがする。そうだとしたら、単純な比較で考えるなら、正直分の悪い競い合いだろう。

 

 しかし、それは勝敗に関わる決定的な要素ではないとも言える。

 次々と中空に展開される魔方陣から放たれる光弾を受けながら、ワタシは確信した。

 現に今のリンを見ていても、倒せない相手だとは思えない。

 とても、あの海域を制することが出来るようには見えない。

 

「……だからリン。もっと貴女の力を見せてくだサイ!」

 

 更に一段階ギアを上げながら、ワタシは砲弾の質を切り替える。

 

 




金剛が、『装甲』と認識しているのは魔術障壁です。
魔術師が無意識に纏ってるやつ。

原作時空より成長している&今回は少し気合い入れて展開してるので、かなりの防御力です。
当然士郎には真似できません。彼は紙です。
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