正義の味方が着任しました。   作:碧の旅人

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第16話 確認

 模擬戦を終えた遠坂と金剛が戻ってきた。

 

「遠坂、無事か?怪我は……」

「もう治したから大丈夫よ。心配掛けちゃったわね」

「そうか……」

 

 胸を撫で下ろす。大量の砲弾を撃ち込まれる遠坂を見ているのは、正直かなり心臓に悪かった。

 だが模擬戦ということで、お互い手段も選んでいただろうし、結果的に無事に終わって一安心だ。

 しかし、新たに問題も発生した。

 

「それで、侵入した深海棲艦は全部倒したの?」

「ああ、三……隻ともあまり離れてなかったから、中心に撃ち込んで上手く爆発に巻き込めたと思う」

 

 すると金剛と喋っていた叢雲が振り返って言った。

 

「さっきまであの爆発で霊力が観測しにくかったけど、今確認した。結界内に深海棲艦の反応は無いわ。それから、今の結果を踏まえてもう一度話し合うから、さっきまでの二階会議室に集合してくれる?」

「分かった」

「私と金剛は少し調べたいことがあるから、皆先に行ってて」

 

 そう言い残すと、二人は連れ立って再度海に入っていった。微かに二人の会話が聞こえたのだが、叢雲がやや機嫌の悪そうな声で金剛に話しかけているような感じだった。

 

(何だろう?)

 

 対する金剛は、宥めるような落ち着いた態度だったので、それほど深刻な内容では無さそうだった。

 

 

 

 

 

 

「ふー。ま、お疲れさんやったな、二人とも」

 

 会議室で席に着いた龍驤が、労いの言葉を向けてくれる。

 

「特にお嬢ちゃんはえらい激しいやり合いやったし、しっかり休まないとアカンよ?」

「お嬢ちゃん、って……まあいいんだけど」

 

 遠坂が苦笑いしているのは、今更になってそんな呼び方をされたというのもあるだろうが、龍驤の外見による所が大きいのだろう。可愛らしく幼い顔立ちに、高下駄のような艤装を除けば雷や電と変わらない背丈。どう見ても小学生くらいにしか見えない彼女だが、発言や振る舞いは妙に大人びている。

 艦娘が生まれたのは最初に深海棲艦が発生した199X年より後のはずだ。ここにいる彼女らも俺や遠坂よりかなり若いはずだが、精神年齢に関しては人間の基準を当てはめるのは難しいように思う。例えば鳳翔さんなんか、俺よりも余程しっかりしていて、とても年下だという感じはしない。

 いや、もしも『かつての艦艇の魂』が記憶を保持しているとしたら、その記憶が彼女らの人格形成に影響を与えた、という可能性もあるのではないだろうか。

 

「お茶が入りましたよ」

 

 その鳳翔さんは、急須で淹れたお茶を湯飲みに注ぎ、全員に配っていた。

 

「はい、遠坂さん。模擬戦で汗をかいたでしょう?水分補給はしっかりと、ですよ」

「あ、ありがとうございます。……そういえば、この島ではお茶の葉が採れないのよね」

「はい。これは島に自生するハトムギの仲間で作ったハトムギ茶なんですよ」

「へぇ……。頂きます。……わ、香ばしくて美味し」

 

 遠坂の言うとおり、ほうじ茶のような香ばしさと微かな甘みがあり、とても飲みやすいお茶だった。もし無事に元の世界に戻れたら、自分でも作ってみたいと思えるほどには。

 

「……もしかして、そのハトムギの仲間ってのは数珠玉?」

「あら、士郎さんは詳しいんですね。ええ、そうですよ」

 

 数珠玉というのは、日当たりが良い空き地とかに生えているイネ科の植物だ。硬くて綺麗な種が実る。

 こんな南国のような島にも生えているんだな……。

 

「士郎って時々変なことに詳しかったりするのよね……」

「たまたまだ。小さい頃、藤ねえが大量に採ってきた事があってさ。ネックレスを作るとか言って」

「昔っから変わらないのね、藤村先生は」

 

 遠坂は愉快そうに笑う。

 ちなみに遠坂は藤ねえのことを気に入っているが、藤ねえの方は若干遠坂を苦手としている。

 

「私も最初はお茶にできるだなんて知らなくて、人に教えて頂いたんですよ」

「誰に教えて貰ったんですか?」

 

 すると鳳翔さんは、小さく口に手を当てて、驚いたような顔をした。

 もしかして、聞いてはいけないことだったのだろうか。そう思ったのだが、特に気にした様子もなく教えてくれた。

 

「ふふっ、私の妖精さんが教えてくれました」

「妖精……?」

 

 とても気になる単語が出てきたのだが、ちょうどその時会議室の扉が開き、叢雲と金剛が戻ってきた。

 

「遅くなりましたネ」

「お待たせ、みんな揃ってるわね」

 

 そうして全員が席に着くと、叢雲が口を開いた。

 

「それじゃあ改めて話し合いに戻りましょうか。模擬戦を経て、お互い何となく実力の片鱗くらいは感じ取れたでしょう。後は細かい認識のすり合わせをして、この二人の提案――――『マリアナ海溝最深部』直上への到達ね、それが実現できるかどうか、受け入れるか反対するか。答えを出す」

 

 淀みなく話していく叢雲。やはり彼女は、この鎮守府に於いて艦娘たちのまとめ役を任されているようだ。そこで彼女は金剛に話を振った。

 

「それで、実際に戦ってみてアンタはどう感じた?」

「そうデスネ……」

 

 スミレ色の瞳が静かに伏せられる。僅かな沈黙は、考えを整理しているからだろうか。

 

「まずは海上での機動力。ワタシたちとは異なる手段で、ワタシたちと同じように海面に立つことが出来る。流石にトップスピードでは艦娘に及びませんが、ワタシは十分だと感じマス」

「そうね。特にジャンプできるのが大きいわね。魚雷の脅威度がかなり変わってくるから」

 

 魚雷……。名前だけなら有名だが、俺を含め一般人にとってはいまいちよく分からない兵器だ。

 泳ぐ爆弾、ミサイルの水中版といったイメージしか無い。

 

「次に防御手段デース。こちらは素晴らしいデスネ。『装甲』の性能がフツーにワタシより上デス。最大展開した場合は、よほどの大艦隊に攻撃を集中されたり、至近距離まで肉薄されない限りは、突破されないと思うワ。徹甲弾もすぐ効かなくなっちゃいました」

「金剛さぁ。最後、超長距離用の艤装に組み替えたやろ?アレ、どのくらい本気でやったん?」

「結構本気だったヨ。……四割くらいは出してたと思いマース!」

 

 あれでも全力の半分以下なのか……。

 思わず遠坂の表情を窺うが、意外なことにそれほど驚いてはいないように見える。反対に龍驤の受けた驚愕はかなりのものだったらしい。

 

「四割……!?じゃあソレを防ぎきったお嬢ちゃんは、硬さだけなら姫級に並ぶってことかいな」

「あるいはそれ以上カモ?デスが問題もあります」

 

 金剛が人差し指を伸ばす。

 そして遠坂に確認するように言った。

 

「最後にワタシの砲撃を防いだ手段。詳しくは分かりませんガ、能動的なものデショ?常時展開は無理なのでは?」

「当たりよ。攻撃の手は止まっちゃうし、瞬間的にしか展開できない」

「だったら、実戦ではなるべく使わずに、敵に接近される前に殲滅するのがベターですネ……」

 

 そこまで言うと、金剛はハトムギ茶で静かに唇を湿らせた。

 

「ふぅ。……そのために重要になるのが攻撃。打撃力デス。でも、これについて言えば、リンは火力不足だと思いましタ。あと射程も足りまセン」

「……」

「恐らく、目的が違うのでショウ。ワタシたちの力は武力デス。戦争で、敵を撃破することだけを考えて発展してきた軍事力が、艦娘の力の原型。魔術というのは多分、別の目的のための物。リンの魔術は、効率的に壊すことには洗練されていない」

 

 それは、正鵠を射た指摘だった。そもそも魔術師は兵士ではなく、学者とか、研究者に例えるのが近い。敵の殲滅や、破壊力の向上が彼ら彼女らのメインテーマでは無いのだ。

 

「そのリンの火力不足を補えそうなのが、シロウが深海棲艦を蒸発させたアレなんデスガ……。ぶっちゃけよく見てなかったデース!何をしたの?」

 

「おう!それなら良ーく見えてたぜ」

 

 金剛に答えたのは天龍だった。

 

「最初になんか弓とデカいネジを出してだな……」

「か、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)……」

「んで、ネジをつがえる時に、細長く引き延ばされて普通の矢みたいになる。後は狙いを定めて射ただけに見えたな。なんか周りがバチバチしてて格好良かったぞ」

「正確には、矢が引き延ばされたのは“引き分け”の動作ですね。それから、弓や射法を見るに、洋弓とお見受けしました」

 

 鳳翔さんが補足してくれた。

 そういえば、ここで目覚めた最初の日、彼女は矢を航空機に変化させていた。奥ゆかしい外見に違わず、弓道を嗜んでいらっしゃるのだろうか。

 

「Hmm……」

 

 金剛は顎に手をやって少し考えた後、俺を見た。

 

「シロウ。貴方のその射撃は何回まで連続して使用できマス?それから、最大有効射程と最大射程を、分かる範囲でいいので教えてくだサイ」

「え、ええと」

 

 少し焦る。そういえば今まで、自らの射程を正確に測ったことは無かった。

 

「さっき使った剣はかなり消耗するかな……。俺だけの力では、十発も射れば魔力切れだと思う。魔力消費の小さい剣にすれば、威力と引き換えに回数は増やせる。有効射程は5……いや、4kmまでなら外さないと思う。最大射程は悪いけど分からない」

 

 矢を届かせるだけなら、10kmでも15kmでも可能かもしれないが、不確実なので黙っておく。

 

「……それはもう、有効射程じゃ無くて必中射程だと思うのですが……」

 

 鳳翔さんが、少し拗ねたような口調で言った。

 よく分からないが可愛い。

 

「い"っ!?」

「魔力量に関して言わせて貰えば、時間さえあれば大幅に増築出来るわ。投影の回数も、十倍どころか百倍だって不可能じゃ無い」

「と、遠坂」

 

 腕を指でグリグリしながらガンドを刷り込むのはやめて欲しい。ああ、少し体調が悪くなってきた気がする。

 

「しかし4kmデスカ……。完全にコリオリ力も計算に入ってくる距離デス。シロウ、頭の中に計算機とか埋め込んでたりしません?」

「こいつの弓の腕に関しては考えるだけ無駄よ。“中るイメージで射ったんだから中ったんだ”とか、言ってたし」

「いや当たり前だけど、射った後に動かれたら結構外れるぞ」

「……」

 

 何を当たり前な。的な顔をされても……。

 

「でもよー。さっきの模擬戦はソイツが相手だったら、流石の金剛も危なかったんじゃねぇか?」

 

 天龍が面白そうに言った。

 しかし、俺としては勘違いされたままというのも居心地が悪い。模擬戦を見ていて、これから自分に必要な物もはっきりした。

 

「いや、俺だったらもっとあっさり負けてた。多分あの条件では俺は金剛に勝てない。それが見ていて分かったよ」

「はあ?」

「まず誤解を正しておくけど、俺には遠坂みたいな普通の魔術はほとんど使えない。君らが『装甲』って呼んでる物も。だから、敵の砲弾を防ぐなら、回避するか、剣で弾いたり、弓で打ち落としたりが基本になると思う」

「いや無茶苦茶だろ、それは」

「ああ無茶苦茶だ。絶対に捌ききれなくなる。だから、何とか魔力に対する抵抗力を高めないと……」

 

 遠坂が、ようやくグリグリを止めて言った。

 

「根本的な解決は、魔術師として士郎が成長することでしか適わない。でもそんなに簡単に成長できるなら、魔術師は千年も二千年も業を繋ぐ必要なんて無かった。せめて一時的にでも、対魔力が上がるように、私の方で対策するわ」

「……そう。とりあえずこっちが聞きたいことは大体分かったと思うわ」

 

 叢雲が再び口を開いた。そして。

 

「アンタたちは、何か聞いておきたいことは無い?」

 

 そうこちらに確認してきた。

 

「……ぁ」

 

 気になることは幾つもあった。その中からまず一つを挙げるとすればやはり、先ほども見たあの異形。

 

「深海棲艦って、何なんだ……」

 

 俺が偽・螺旋剣で破壊したのは、駆逐級が二隻と軽巡級が一隻だそうだ。軽巡級というのは初めて見たが、やはり人体を連想させるような部位があったのだ。勿論人では無いと分かっている。3メートル以上の巨体を誇る人間は、恐らく存在しないだろう。

 ならば一体、この世界は何に襲われたのか。

 

「……それを私たちの口から話すべきか、判断に迷うのよね」

 

 叢雲が、こめかみを手で押さえながら言った。

 

「深海棲艦の正体。それは遂ぞ究明されること無く今に至ってる。何度も砲火を交えてきた私たちは、ある程度、部分的な推測を持ってはいるけど。」

「だったら……」

「ケド、出来ればシロウとリンが自分で感じて欲しいと思うノ。あの子たちがどういう存在なのか」

「……まあ、余計な先入観が無い状態で向き合ってみて欲しい、とは思うわね」

 

 その口調は落ち着いていて、とても殺し合っている敵に向けた物だとは思えない。

 彼女らは深海棲艦を、嫌っていない……?

 

「あっ、でも敵に情け容赦はいりまセンヨ。見つけたらズバズバ沈めてくだサーイ」

「わ、分かった」

 

 とりあえず、今は時が経つのを待つほか無さそうだ。

 

「今度は私からもいいかしら?」

 

 遠坂が手を挙げた。

 

「金剛、貴女が私の拘束から飛び出した時のアレは何?」

 

 それは、俺も気になっていた事だった。

 一瞬で数十メートルの距離をゼロにしたあの不可解なまでの速さ。そしてその時、残像のように軌跡を描いた黄金の光。

 少なくとも速度だけなら、かつて聖杯戦争で目の当たりにしたサーヴァントが比較対象として見えてくるほどだった。

 

「ア、アレはワタシの奥の手デース……」

 

 そう答える金剛はしかし、言葉と反対に居心地が悪そうにしている。

 そして、それまでずっと沈黙していた女性が口を開いた。

 

「……金剛。その件について、後でお話があります」

「か、加賀……!別にワタシは何も犠牲にはしませんでしたヨ!」

「いいえ、だとしても貴女、自分で少し削ったんでしょう?どちらにしても――――」

 

 二人でちょっとした口論になっている。

 少し穏やかでない言葉が含まれているのが気になる。

 そう思っていると、叢雲が頬杖をしたまま説明してくれた。

 

「あの状態になるってのは、特別な技能なの。全体的な性能が底上げされるんだけど、発現が確認されたのは今のところ私と金剛の二人だけよ。……ほら二人とも!そういうのは後にして!」

 

 叢雲はそう声を張り上げると、続けて言った。

 

「大体こんな所で良いんじゃない?模擬戦と……想定外とはいえ実際の迎撃で、二人の戦い方とかは見られたし、何故深海棲艦が侵入したかはまだ不明ね、今後要調査。後は私たちだけで議論するわ」

「そうネ。二人は宿泊棟でゆっくり休んでくだサイ」

 

 俺は遠坂と顔を見合わせると席を立った。

 

「分かった、じゃあお言葉に甘えて」

「ええ。……どうかお願い、協力してくれなんて言わないから、許可だけでも」

 

 俺たちに出来ることは、彼女らの判断を待つことだけだ。

 

 




劇場版HF2章やばかったですね(語彙力
バーサーカーバーサーカーバーサーカーああああ ってなってました
正義のヒーローを応援する子供の頃の心に立ち返った気がしました




士郎の技能は、UBW時よりも成長しています。
20代前半が士郎にとって一番美味しい時期、と言及されてたように記憶しているので
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