正義の味方が着任しました。   作:碧の旅人

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第24話 彼女たちの戦い方

 咆吼が轟く。

 何故。

 思い浮かぶのはその疑問だ。あの深海棲艦は一体どのタイミング現れた?事前に艦娘の皆が電探やソナーで充分警戒していたはずなのに。

 

 フードを被った少女、の形をした怪物。叢雲は戦艦レ級と呼んだ。

 その手に持っていたモノが、乱雑に投げ捨てられる。

 金剛の腕。

 視覚的な衝撃に、頭が白熱しそうになる。

 彼女は無造作に俺たちの乗るゴムボートに近づいてくる。

 

「衛宮士郎!凛!」

 

 

 叢雲と天龍が、それぞれの得物でレ級に斬りかかった。

 しかし叢雲の槍はあっさりと手の甲で弾かれ、天龍の軍刀は、ぱしりと手で握り込まれてしまう。

 

(砕かれる……!)

 

 脳裏をよぎった予測に反し、天龍とレ級の押し合いは拮抗する。

 レ級はギリギリと握る手に力を込めているが、軍刀は歪む様子も無い。フードの奥の顔が不思議そうに傾げられた。

 叢雲は目だけでこちらを振り返って叫ぶ。

 

「鎮守府まで待避!!全力で離脱しなさい!」

「何を……」

 

 レ級は天龍の刀を砕こうとするのを止め、刀を握る天龍ごと振り払うように投げ飛ばし、こちらへ近づいてくる。

 と、その身体が高速でブレた。

 視界の外から砲弾のような速さで飛び込んできた誰かが、思い切り殴り飛ばしたのだ。更に追撃として艤装の全砲門から放たれた砲弾が、レ級に叩き込まれた。

 破裂した空気が波飛沫をまき散らし、思わず腕で頭部をガードした。腕の間から、特徴的な巫女装束の姿が見える。

 

「金剛……!」

 

 右肩を中心として、皮膚を突き破るかのように光が放射状に噴出し、幾何学的な翼を形作っている。

 遠坂との模擬戦でも一瞬見せた、正体不明の力。

 その様は炎とも雷とも表現出来ず、何らかのプラズマのように見えた。

 

「はやく逃げて!この距離は近すぎる!」

「お前、腕が……!」

「こちら金剛。中破した。修復まであと――――」

 

 有り得ない光景が見える。

 金剛の腕のあった部分に、黒い光が集まっていき、みるみると肉体を形成していく。

 

「――――0秒。叢雲!」

 

 完全に元通りになっている。こんな再生力は治癒魔術でも有り得ない。

 

「わかってる」

 

 吹き飛んでいったレ級から俺たちを庇うように、金剛の隣に叢雲が並び立った。彼女にも、機械的な光の片翼が形成されていた。むせかえるほどに濃い魔力と、威圧感だ。

 

 レ級はゆらりと立ち上がった。『深海』の黒色が、彼女に吸い寄せられるように集まっていき、艤装と思われる物体を象っていく。それにつれて『深海』全体の黒さが薄まっていくようだ。

 しかし規模がおかしかった。未だ不安定に揺らめいている艤装らしき影は、金剛どころか、空母棲姫の艤装すら超える大きさであり、なおも拡張されていく。

 

「…………!」

 

 龍驤や暁が、絶句している。

 彼女らにとっても想定を超えた事態であると、否応なしに理解してしまう。 

 

「――――響。二人を連れて離脱して」

「っ了解した」

 

 叢雲の指示で我に返った響はゴムボートに飛び乗ると、遠坂から操縦を奪い、エンジン全開で鎮守府の方向を目指した。金剛たちの攻撃か、レ級の反撃か。重い砲撃音が、幾重にも背後で聞こえる。

 

「駄目だ!待ってくれ!」

「待たないよ。命令だからね」

 

 間髪入れずに拒否される。

 

「これだけは教えて。あの娘たちは、大丈夫なの?」

「……レ級は知らない相手じゃない。あの二人なら、きっとなんとかするさ」

 

 その時、耳元の無線から、少女たちの声が響いた。

 

『こちら龍驤。スマン中破や!修復まで150秒、仮設飛行甲板形成まで30秒!』

『龍驤と鳳翔は限界まで離れて!天龍、暁は射線を除けて背後に回り込み続けて!正面は私と金剛で時間を稼ぐ!』

 

 後方を振り返って唖然とした。

 

「嘘だろ……」

 

 完全に姿を現したレ級の艤装。それは大蛇の姿をしていた。

 だが異常なのはその大きさだ。例えるならば、在来線の車両が尻尾のように生えて、とぐろを巻いている。

 その先端部には、さながら大蛇の頭部のように……いや、どちらかというと深海鮫のようにグロテスクな“頭部”が、砲門に覆われて存在していた。

 

 だが脅威はそこで終わりでは無かった。

 まるで海鳥が一斉に飛び立つように、レ級の艤装から影が舞い上がる。

 

「艦載機……!?」

「……思い出したわ。“戦艦レ級”、戦艦のくせに艦載機と魚雷まで多用する化け物ね」

 

 俺も鎮守府で学んだ内容を思い返すが、資料で見たレ級はあんな無茶苦茶なサイズの艤装では断じてなかった。

 

 その時、レ級の艤装が何かを大量に吐き出しながら、周囲を薙ぎ払うように高速で振るわれた。

 範囲外へ離脱していた龍驤と鳳翔以外の全員が弾き飛ばされる。

 

「暁……!!」

 

 響が悲痛な叫びを上げた。しかし彼女は決してボートの操縦を止めようとはしなかった。

 

『こちら天龍!大破した暁を回収した。吹き飛ばされたところを被雷したみたいだ。かなりヤベえ、下半身が……』

『下がっていて!あと響、聞こえる!?高速魚雷が全方面に多数発射されてる。回避して!』

「……遠坂」

 

 振り切れて逆に平坦になったのか、自分でも意外なほど冷静な声だった。

 遠坂の目にはっきりと逡巡が浮かぶ。しかし何処か諦めたような溜息を漏らすと、その瞳には決意が宿っていた。

 

「いける?士郎」

「やってみる」

 

 しかし、俺たちにカチャリと砲口が向けられる。

 

「余計なことはしないでくれるかい」

「響……」

 

 自分も助けに行きたいだろうに、その声は抑制されていた。

 

「私はキミたちを鎮守府に連れて帰らないといけない」

「響、私たちは庇護対象では無いでしょ?別々の目的で、一緒にマリアナへ向かうと決めた協力関係よ」

「……」

「それに、ここはアリマゴ島に近すぎる。確実に倒しておかないと、あんなのが集団を伴って襲来してきたらそれこそ終わりよ」

 

 響は明らかに迷っている。

 

「それから士郎は、力ずくで止めようとしても逆効果なの。困ったことにね」

「ごめんな、響。俺は行くよ、たとえ響に撃たれたとしても。暁も絶対に死なせないから」

 

 響は項垂れたように砲口を下ろした。その目は悔しそうに俺を睨み、弱々しい言葉が吐き出された。

 

「ずるい……!」

「ごめん」

 

 それ以外に言える言葉はなかった。

 遠坂は、既に1000メートルほど離れた戦場を見据えながら言った。

 

「さて。じゃあ士郎は準備を始めて。魚雷は私がなんとかするから」

「ああ、任せた」

 

 意識を自らの内面へ向ける。

 両目を閉じたのは、遠坂への信頼故だ。

 

――――I am the bone of my sword(体は 剣で 出来ている).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も無いところから突然出現した深海棲艦、レ級。

 ワタシ、金剛にとってもこんな経験は初めてだった。 

 さらに極めつけはあの艤装だ。長さだけならば100メートル以上ある。

 かつて、艦娘や深海棲艦の艤装の到達点として考えられていた、『第二次世界大戦時の艦艇を完全に再現しうる規模』にかなり迫っていると見ていいだろう。

 うちの艦隊で限定的にあのレベルに達しているのは、秋津洲くらいだろうか?

 

 まるでビルで殴られているかのような大蛇の薙ぎ払いを、艤装の一番装甲の厚い部分でガードしつつ、吹き飛ばされた空中で主砲を斉射した。

 反動で着地点をズラし、バラ撒かれた魚雷を避けて着水することに成功する。

 

(まあこんな敵もいますよネ……。ワタシたちだけが強くなっている、なんて都合良くはいかないか。シロウたちは……上手く離脱できたみたいデスネ)

 

 そう思いつつ皆の様子を確認する。

 叢雲は艤装が大破して、片腕が不自然に折れ曲がっているが、直ぐに修復されていく。

 流石に駆逐艦の装甲ではダメージが大きいようだ。

 

『下がっていて!あと響、聞こえる!?高速魚雷が全方面に多数発射されてる。回避して!』

 

 天龍によると、暁の損傷が激しいらしい。

 早急に撃破しないと被害は大きくなるばかりだろう。 

 背面から光を噴出させる叢雲を、チラと見やる。この技能は長く使用が許される物では無い。

 次にレ級を観察する。人のカタチをした本体を、長大な艤装がぐるりと囲んでいる。

 

「叢雲、ワタシが本体を叩く。艤装を頼みマス」

「無茶言うわよね。……わかった、やってみる」

 

 答えるなり、叢雲は弾けるように跳んだ。

 電車ほどもある青白い大蛇の腹を蹴りつけ、高く鎌首をもたげた頭部まで跳び上がる。

 そのまま彼女は、巨大な頭部に自らの槍を深々と突き刺した。

 振り落とされないように槍に掴まりながら、頭部の砲塔の一つに連続して砲撃を撃ち込み続ける。

 

 それを確認すると、ワタシは一息でレ級の艤装に接近した。今の状態のワタシや叢雲ならば、速さだけはレ級を上回れるはずだ。ウネウネと波打つ艤装の下を瞬間的に掻い潜り、レ級本体へと肉薄した。

 ワタシよりも小柄なその身体を押し倒し、海面へ押さえつけつつ至近距離から顔面へ砲撃する。『装甲』に当たって次々に弾かれるが、機械的に砲撃を続けていく。

 

 周囲では、叢雲を振り払おうとレ級の艤装がのたうっている。

 

『砲塔一つ破壊……っ。硬すぎるわ。空母……今のうち……艦爆減らして……!』

 

 掴まっている叢雲も必死だ。

 鳳翔が忌々しげに答える。

 

『了解です。しかし先ほど第二陣が飛び出てきました。合わせて総数300機ほど!直ぐに優勢まで持ち込めません!』

 

 ワタシの周囲にもレ級の艦載機が大量に爆弾を投下していく。『装甲』で遮ってはいるが、着実に飽和させられていく。

 

「く……!」

 

 鬱陶しいったらない。

 だが遂に、撃ち込み続けた砲撃がレ級の『装甲』を超えた。

 そのまま砲撃を続けて、成果を確認するが……。 

 

 レ級は歯で砲弾を噛み砕いている。

 傷だらけの顔が不気味に歪んだ。

 

「な……!」

 

 レ級を海面に押さえつけている両腕が、掴まれた。

 ミシミシと、両肩から嫌な音がする。

 

 ワタシの『一番大切なモノ』を消費して戦っているのに、有効打にならない!

 じわりと、心に絶望が広がりそうになる。

 

「Shit! 何を弱気に……!」

 

 効かないならば、効くまで最大威力を喰らわせ続けるしかない!

 艤装を、連射性に劣る超長距離用に組み替える。

 そしてそれは、相手に反撃の隙を晒すということで――――

 

 ぶちぶちと音を立てて、腕が再び引き千切られる。全く、人の身体を枯れ枝のように壊すのはやめてほしい。

 断面から覗くのは、人間の身体には存在しない躯体(ぶひん)。だがそれがどうしたというのか。

 艤装に全霊力を集中させる。

 

「……ワタシの腕なら差し上げますヨ。貴女の頭とトレードしまショウ?」 

 

 正真正銘、最大威力の一撃が炸裂した。至近距離だったからか、『装甲』があるにも関わらず、自分の攻撃の余波で身体から血が流れてしまう。

 レ級の本体は、撃ち込まれた衝撃で海中深くに沈み込んでいる。ゆっくりと浮き上がってくるその姿を注視して、笑いが零れてしまった。

 

「頑丈過ぎるでショウ、貴女」

 

 頭部の半分ほどを失っているが、それだけだ。その損失も徐々に修復されている。

 レ級という深海棲艦自体が、本体が艤装よりも頑丈なのだが、進化したこの個体はその性質がより顕著に表れているらしい。

 

(でも、やれる)

 

 片腕と半頭部なら、悪くないトレードだ。このまま消耗戦を続ければ、最終的には勝てる。問題はその後で、ワタシという艦娘が使い物にならなくなるかもしれない事。

 

(今は、やるしか無い)

 

 失った腕を修復し、浮上してくるレ級に照準を合わせる。ところが、

 

『金剛!避けて!』

「えっ」

 

 横から鉄塊に衝突したかの如き衝撃。

 その比喩は実際間違っていなくて、ワタシを噛み砕かんと突っ込んできたのはレ級の艤装、その頭部だった。

 辛うじて『装甲』の最大展開が間に合ったものの、プレス機のように押し潰してくる上下の顎に挟まれたまま、いつまでも耐えられそうはない。

 

『ごめん、駄目だった……!』

 

 叢雲は振り払われてしまったようだ。よく見ると艤装頭部には、かなりの損傷があった。これを一人で、しかも駆逐艦の火力でやったのだから大したものだろう。

 生憎とそんな感想を伝える余裕は無かったが。

 

 艤装と本体を同時に相手するのは、流石にマズいかもしれない。

 大蛇の艤装は、ワタシをくわえ込んだまま暴れ回った。

 海中に突進し、海面から飛び出し、また海中に潜る。

 リヴァイアサンというのは、こんなふうに泳ぐのだろうか?馬鹿げた疑問が一瞬過ぎった。

 

(これ……もういっそ食い千切られて、修復した方が……)

 

 そんな考えが浮かぶ。負担は大きいが、十分可能だ。

 

(……リンやシロウに見られるのは、嫌だったケド)

 

 今のワタシの修復速度は自分でも異常だと思う。

 千切れた半身が見る間に修復されていくのを見て、二人はどう思うだろう?

 こちらが見えないくらい遠くまで逃げていればいいのだが。

 

(今更……くだらないことを気にしますネ……ワタシも)

 

 それがちょっと可笑しくて、口元が緩む。

 だが、覚悟は決まった。いや、覚悟も何も最初に決めたのだった。

 何があっても、必ずあの二人を守るのだと。

 

 巨大な歯に食い千切られるために、『装甲』を緩めようとして、その声が響いた。

 

『こちら遠坂!今から深海棲艦と艦載機を切り離す!残された皆は艦載機だけに集中して!』

「は?」

 

 その言葉が意味するところは。

 

『どうして離脱していないの!?』

 

 叢雲が怒鳴る。

 気分的にはワタシも全く同じだ。今は喋る余裕が無いだけで。

 だがリンはそれに答えずに、誰かに語りかける。

 

()()()()()()()()。士郎、行って――――!!』

 

 瞬間。視界に一条の光が奔った。

 

(……?)

 

 奇妙なことに、ワタシを振り回していた大蛇の動きが停止している。

 そして少し置いて、身体が浮遊感に包まれる。落下しているのだろう。

 海面に叩き付けられるが、ワタシは自らを噛み潰そうとしていたレ級の艤装から、溺れ落ちるように脱出できた。

 

「……っ。な、に?」

 

 なんとか立ち上がり、状況を確認する。

 ワタシの横では、切断されたレ級の艤装、バスほどもある頭部が浮き沈みを繰り返している。

 上を見れば、切断された大蛇の断面が見える。青白い体表に対して、毒々しいまでの赤色の肉から血が溢れている。

 

 海面から上へ向けて、ガシャガシャと無数の剣が積み上がっていき、その上に一人の人間が着地した。

 恐らく今のこの状況を生み出したであろう人間が。

 

「――――シロウ」

 

 彼は一振りの、奇妙に拗くれた剣を携えて、本体であるフード姿の少女を見下ろしていた。

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 レ級が思わず耳を塞ぎたくなる不協和音を響かせる。

 すると、黒かった海水の色が、一段と薄まった。同時に、大蛇の切断面から流れる血が止まり、新たな頭部らしき物を形成しようとしている。

 

『マズい!修復する……!』

 

 叢雲が呟く。

 対してシロウはただ静かに、()()()()()()()()()

 

「――――My whole life was "unlimited blade works"(この体は、 無限の剣で出来ていた)

 

 

 




ボートに向かってきた魚雷は、遠坂が海水を操ってヨイショって感じで大波を起こして強引にズラしました。


※いつも誤字報告してくださる方、ありがとうございます。助かっています
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