目を覚ますと、腕の中に遠坂がいた。
「……」
規則正しい寝息を立てるその顔は、普段は無いあどけなさを見せている。まるで天使のような、なんて感想が出てくるのは恋人びいきかもしれない。
(まあ目を覚ましたら“あくま”に早変わりなんだけど)
そんな事を思いつつ、慎重に遠坂と呼吸を合わせてゆく。
(……今。)
そしてタイミングを計って、するりとベッドから抜け出した。
遠坂の寝息に乱れは無く、目を覚ます気配はない。
カーテンの引かれた窓の方を確認すると、まだ朝陽が顔を出すまで少しかかりそうな雰囲気だ。
軽く身体を解そうと考え、着替えてから静かに部屋を後にした。
◇
アリマゴ島の密林に敷かれた道を軽くランニングする。
薄暗い道は当然土が剥き出しで、端には落ち葉が溜まっている。走っていると、道にいる半陸生と思しきカニが慌てて脇に逃げていく。日本で見慣れた種類とは少し違う色合いをしている。
「“蟹”……か」
そういえば、以前龍驤が言っていた。アリマゴとは『蟹』を意味する言葉なのだと。
むかしむかし、この島では海の神様にお供えものをしていたという。ところがあるとき、病気の母親に食べさせるものが無く困り果てた少女が、神様の供物に手を付けてしまった。神様の怒りを買った少女は祟りに合い、小さな沢蟹の姿に変えられてしまった。
それ以来、この島の蟹にはあらゆる病をたちどころに治す力が備わり、少女の母親の病も、蟹を食べるとすっかり治ってしまったという。
救いがあるのか無いのか分からない、だが別に珍しくもない民間伝承のひとつ。
そして龍驤が言うには、その神様を祀っていた祠があった場所こそ島の中央、榛名さんたちが暮らすログハウスが建つ高台らしい。
かつて海神様が居た場所に、切嗣たちが暮らしていた痕跡があり、今では海の守り手が暮らしている。
不思議な巡り合わせもあるものだ。
それからしばらくして、その高台まで辿り着いた。ゆっくり走ってきたので、思ったよりも時間がかかってしまった。
軽い柔軟体操などを行っていると、声を掛けられる。
「おはようございます、衛宮さん」
「榛名さん。おはよう。……もしかして起こしちゃったか?」
監視棟という名のログハウスの入り口に、車椅子姿の榛名さんが佇んでいた。
「最初から起きていましたから大丈夫ですよ」
「そう……か。なんかいつ来ても起きてるけど、ちゃんと寝てます?」
俺の問いに榛名さんは愉快そうに笑った。
「ありがとうございます、心配していただいて。でも榛名は大丈夫です。器用貧乏なので、睡眠中も一定の意識だけは結界の監視に割いたり出来ますから」
「す、凄いな。流石戦艦……」
そう口にしたところで、同じ戦艦で姉妹でもある金剛を思い浮かべる。
最初に出会った時は、確か熟睡していて声を掛けるまではこちらに気付かなかったような……。
「お姉様はこんな小技を使わなくとも、素晴らしい戦果を挙げられますから」
「そうなのか」
「そうなのです。……せっかくですし、中に上がっていかれませんか?大したもてなしも出来ませんけど」
そんなふうに言われると断るわけにもいかない。お邪魔させて貰うことにしよう。
「どうですか、実戦を積まれてみて。何か困ったりした事はありませんか?」
飲み物を準備しながら榛名さんが言った。
俺も手伝おうかと思ったのだが、客人をもてなすのはホストの役割だと、断られてしまった。
「うーん皆が優秀だからあんまり……。強いて言えば、出来るだけ早く遠坂が推定してる“海域浸透型”の個体と戦いたい、かな?」
「一週間ほど前に皆さんが遭遇した、レ級のことですね」
ハーブティを二つ卓上に置いて、俺の向かい側に移動した榛名さんが言った。
「ああ。ギリギリの局面で出会うよりは、余裕のある状況で対応策を確立出来た方がいいに決まってる」
「その件に関しては私の知識では役に立てそうにありませんね……。我が艦隊にとっても初めてのことですし」
顎に指を当てて思索する榛名さん。
ふと気になって尋ねてみる。
「一つの深海に複数の中枢個体が出現するのは?」
「ああそれは、別に珍しいことでは無かったです。複数の鎮守府が合同で行う大規模作戦では、一つの『深海』に十数体の鬼級や姫級が確認されたこともあります」
「うぇ……!?」
「……とは言っても、当時は今より二回り以上弱い個体ばかりでしたし、仮に今のお姉様たちが戦えばそうそう苦戦することもないと思います」
「そうか……って、皆そんなに強くなってるんだな、昔と比べて」
その時、隣の部屋から陽炎が出てきた。
「……おはよー榛名さん」
「陽炎さん……はしたないですよ、殿方の前です」
「とのがたぁ?」
まだ寝ぼけているのか、胡乱げに俺の方を見る陽炎。しっかりと目が合う。
寝間着のまま出てきたであろう彼女は、キャミソールにショートパンツ姿だった。いつもは白いリボンで結われているツインテールも、今は解かれている。
ここはどう対応すべきか一瞬だけ迷った結果、礼儀正しく視線をずらし目を閉じて待つことにする。
数秒後、ドタバタという足音が隣室に消えていった。
◇
「よくも見たわね、金を払え~」
「そう言われても……」
着替えなどの身支度を整え、いつもの調子を取り戻した陽炎に言われて、困る。
「前に一度、 (遠坂の企てで) 大浴場に突撃してきたじゃないか。今更気にすることか?」
「あーれーはー心構えが完了してたからセーフなの!無防備なとこを不意打ちされたらダメージも大きいの!」
「……ふーん、そんなもんか」
「あっ!ちょっと対応が雑過ぎない!?飲み物とか飲んじゃって大人の余裕漂わせてるのがムカつく!」
そこに榛名さんのおっとりとした突っ込みが入る。
「いい機会ですから、これを機に朝の身支度はちゃんとしましょうね」
「う、ぐぅ……わかりました……。くっそー油断したな~。男の人がいるとこういう事もあるか……」
「荒潮さんはどうしました?」
「爆睡してるでしょう多分。昨晩はあの子がメインで監視に当たってたんで」
それを聞いて微妙に安堵する。
無論荒潮のことが嫌いなわけでは全然無いのだが、度重なる浴場侵入により、若干警戒感が高まっている俺であった。
そこで陽炎が、俺たちを見回して聞いてきた。
「んで、何の話をしてたの?」
「ああ、電探に引っかからない深海棲艦の話。余裕のある内に対処法を確立したいなって」
「あーあの……みんなが言ってた超強化版のレ級かぁ」
実際にはレ級だけが海域浸透型たり得ると、まだ決まったわけでは無い。しかしわざわざ指摘するようなことでも無いし、そのまま頷いておく。
「向こうだけ準備万端で強襲してくるってのは、厳しいよな……」
自分たちの有利をひたすら押しつける状況が理想なわけで、特に味方の犠牲をゼロにしたい場合は海域浸透型(暫定)の性質は厄介極まりない。
金剛の水平線越え射撃もある意味似たような優位性を持っているが、あれは向こうの索敵網が広がっている場合は効果が半減する。
「遠坂さんなら何とかしてくれそうじゃない?何度か一緒に海に出たけど、ほんと何でもこなせるわねあの人」
「まあ魔術師的にも凄く希少な『五大元素使い』だからな……」
世界中から魔術の徒が集う時計塔ですら、遠坂と同じ五大元素を持つ人は見かけなかった。俺が見聞きした範囲では、という注釈は付くが。
ともかく架空元素以外の全てに適性を持つ遠坂は、時計塔での研鑽もあってバリエーションの豊富さなら随一だ。
もし遠坂が、その魔術によって初撃をノーダメージで防げたなら、その間にこちらも体勢を整えるくらいは出来るはずだ。
「現状は遠坂さんが有効策を用意できるかどうかって感じなのね……」
「遺憾ながら、そうだな」
艦娘や俺にとっては、ごり押し以外の目処が立たない厄介さだ。結果として前回は勝ちこそすれ、俺と暁がしばらくの戦闘不能、金剛と叢雲が
「陽炎さんは昨日も衛宮さんの訓練に付き合っていましたね。あなたから見て、衛宮さんはどんな感じですか?」
そこで榛名さんが話題を変えるように聞いてくる。
問われた陽炎は「んー」と少し考えてから、
「とにかく当てにくいと言うか、まあ回避が上手いですね。足場を使って急な方向転換や立体的な動きが出来るのは
「欠点は?」
「……そうですね、足場を早く展開しすぎると当然動線が予測できちゃうので、そこは気を付けた方がいいです。あと『装甲』が無いから見ててひやひやします。正直、後方で固定砲台だけやっててくれる方が心臓に優しい」
遠慮の無い物言いに思わず苦笑する。
「そこは俺も弁えてるつもりだよ。なるべくは船の上からの支援に徹するつもり」
すると二人は目を丸くしてこちらを見たあと、半眼気味になった。
「そうですか」
「ふーん……」
「なんか信用されてない感じがするな……嘘じゃ無いぞ?」
それが艦隊全体にとって一番効果的なポジションであるなら、わざわざ突っ込んで行きはしない。冷静に必要な事だと思ったから、レ級相手にはリスクを上げたのだ。
まだそれほど深く知り合ったわけでも無いのに、早くも猪突猛進キャラだと思われているのだろうか。
「金剛さん怒ってたしね。ちょびっとだけ」
「……榛名は感謝していますよ。お姉様は損傷の多い……最短効率的な戦い方を好まれますし。でもやはり……」
「ね、自己修復が働く艦娘のために体を張って貰うのは効率悪いし。特に金剛さんなんて、修復速度が異常すぎて撃沈される様子が想像できないくらいだし……」
固有結界の中、
理屈では分かっている。
しかしもう一度同じ状況になった時、たとえ修復できると分かっていたとして、この少女たちがズタズタにされるのをただ静観する、なんて真似が出来るだろうかと自問すれば。
正直無理じゃないかと思う。
冷静に考えろと言われるかもしれないが、考えるより先に反射で動いてしまったらどうしようもない。
「あれは緊急事態だったし……でもそうだな、気を付けるよ」
それでも結局、そんな言葉しか出てこなかった。
陽炎は苦笑いになった。
「これあんまり信用できないやつだ」
「……かもしれない」
響には理解して貰えた。
かといって俺も、別に積極的に死にたいわけでは無い。
息苦しくとも、自分の中で落としどころを見つける必要があるのだろう。
そんな事を思っていると、榛名さんが何かを思いついたように、ぽんと手を叩いた。
「そうです。仮に陽炎さんたちが完璧に立ち回って一切ピンチに陥らなければ、衛宮さんも無茶したりしないでしょう」
「げ。私らがですか……?」
「はい、陽炎さんなら多分いろいろ大丈夫でしょう。頑張ってくださいね」
榛名さんはそう言って天女のように微笑んだ。
錆び付いたロボットのようにこちらを向く陽炎。
「……訓練するわよ、士郎さん。私が敵に突っ込んで士郎さんが後ろからサポートする感じのを、今すぐに!」
いきなりおののきだした陽炎に少し困惑する。
そんなに榛名さんが怖いのか。こんなに優しそうで、陽炎自身いつもフランクに接してるのに。
――――それは置いておくとしても、
「いや、今すぐには無理だな。今日は任命式があるし、その後は出撃もある」
「あれ?そういえば今日だっけ。平から一気に将官かぁ、凄い昇進っぷりね」
そう。本日このアリマゴ鎮守府の艦隊に、八年ぶりに“提督”が着任する事になっているのだ。
◇
鎮守府本館の大会議室。
俺と遠坂の他に、榛名さんを除いた全艦娘が集合していた。
ちなみに俺と遠坂は、軍服+制帽+黒いマントのような服に身を包んでいる。大正時代の男子学生が学ランの上から羽織っているアレが、俺の持つイメージとしては近い。
加賀さんと金剛が何処かから見つけてきた物で、遠坂が許可を得て改造した。元々丈夫な生地だったが、内部には即席の防護呪符が隙間なく裏打ちされている。
この呪符、協会の術式とは違うみたいだが、誰から教わったんだろう?
部屋の中央には叢雲が立ち、彼女の前には式台が置かれている。
「遠坂凛。衛宮士郎」
「はい」
叢雲に呼ばれ、遠坂と共に彼女の前に立つ。
式台の上には、上質そうな書面が二枚。
向き合って互いに敬礼をした後、叢雲から書面を受け取る。
この書面は単に形式上の飾り物というわけでは無い。
「本日を以て、遠坂凛を我らがアリマゴ島艦隊の『司令官』に、衛宮士郎を『副司令官』に、それぞれ封じます」
「拝命するわ」
「俺も、拝命します」
すると、手に持つ書面が勢いよく燃え上がり、炎が一瞬で線状に伸びて、俺たちと叢雲、そして後ろの艦娘たちを縛り付けるように巻き付いた。
炎によって形成された繋がりは、一瞬の後には霧散していた。いや、目では見えなくなったと言うべきか。
「なおこの任命は現在の特殊な状況を鑑み、吹雪型駆逐艦五番艦叢雲が独断で行う物であり、二人の行動及び身柄は大本営から一切の干渉・束縛を受ける物では無いことを、ここに明言しておく。……ハイ終わり」
一息にそう言い切ると、叢雲はヒラヒラと手を振った。
「これで、もう……?」
「虚飾が無くて結構でしょ。簡素なのはいい事よね」
「全面的に賛同するわ。これからも一緒に戦うわけだけど、よろしくね」
「……よろしく」
遠坂は、炎が巻き付いていた手首を確認するように握ったりしながら息を吐いた。
背後の艦娘の皆を見れば、遠坂と同じように手首の辺りを気にしている。
ただ少し違うのは、皆の表情が明るいこと。
鎮守府に所属する艦娘は、『司令官』(=提督)に率いられることで僅かながら能力が向上するらしい。
彼女らにしてみれば、八年ぶりに正式な契約下に収まったことになるのだ。
「二人とも、よろしく頼むで」
「よろしくお願いしマース!」
「こ、こちらこそ」
俺の隣で遠坂が、柔らかい声音で言った。
「面倒な作業だったけど、みんなが嬉しそうならそれだけでも意味はあったかな」
実はこの契約、大本営が技術面を管理していたので、誰も詳しい原理を知らなかったという。
遠坂はそれを、皆の証言や結界の起点である『神殿』に染みついた術式の残り滓やらを元に、時間を掛けて何とか復元したのだ。
任命が今日まで先送りにされていたのには、そういう理由があった。
「ともかく、これでアンタたちの役割が特に増えるワケじゃないから安心して。凛には私がやってた艦隊指揮っぽいことをある程度任せるけど、副司令官さんは今まで通りで問題ないわ」
叢雲の言葉に頷く。
「ああ、了解だ」
「何気に士郎の名前呼びを回避したわねこの子」
「……っ」
遠坂の指摘に、叢雲はびくりと肩を竦ませた。
そういえば叢雲は、俺に対して若干人見知りを発動していたんだっけ。忘れていた。
隣へと目を向ければ、なんか遠坂の顔がみるみる笑顔になっていく。
「司令官である私が叢雲に命じます」
俺がよく知る邪悪なあくまがそこにいた。
「士郎のことを副司令官って呼ぶのは禁止です」
「そんな……」
絶望の呟きは、大会議室に満ちる喧噪に掻き消された。
◇
俺と遠坂は、修復ドック前の港に浮かぶ巡視艇へと乗り込んだ。
全員で復旧させ、全力で魔改修を施した霊力式の船である。
全長:30メートル
排水量:約130トン
最大速力:35ノット以上
航続距離:不明(本来は350キロメートルほどだった)
兵装 :ブローニングM2重機関銃×1基 有効射程2000 最大射程6700(魔改修済みだが、有効性は不明)
RHIB(複合式ゴムボート6.3m級)を一隻搭載
それほど大きな船では無い。しかし、これまでの
この巡視艇が必要になったのは、トラック泊地への航路を開くための反復出撃で、そろそろ霊力式RHIBでは航続距離が足りなくなってきたからだ。
「はぁあ……いよいよこの子の出番。緊張するかも……」
「気楽に行けば?何かあっても、みんながなんとかしてくれるわよ」
先に乗船していたのは秋津洲と陽炎。秋津洲は操縦者として、この船を基本的にたった一人で操る役目を負っている。
「秋津洲。負担掛けると思うけど、よろしくね」
「あたしが出撃なんていつ以来だろ……。でも凛ちゃんには色々整備して貰ったからね。頑張るかも」
遠坂と秋津洲は一緒に作業する事が多かったからか、意外にも気安い友人のような関係になっている。
陽炎の方は、何やら俺たちの服装をしげしげと眺めている。
「黒服の司令か……」
「え、変か?」
「いや別に。遠坂さんほどじゃないけど似合ってるわよ。だた以前の司令はずっと白服だったから、司令官イコール白服、みたいなイメージがね……」
「へえ……」
俺にしてみれば、旧帝国軍の軍服は全部黒色だというイメージがあったので、白い軍服の方に違和感を覚えてしまう。
「このお船と一緒に出撃なんて、なんだか懐かしいわね!」
「ええ。あの頃を思い出すのです」
「お?なんだよちびっ子ども。一丁前に歴戦気取りってかぁ」
次にやってきたのは、感慨深げな顔の雷、電姉妹と天龍。
「天龍ちゃん……」
「ちゃん付けやめろ」
「天龍……。客観的に見てこの島には歴戦の子しかいないのです」
「呼び捨てかよ!……まあそうかもな、残った俺らは」
その時、空を影が横切り、思わず顔を上げた。
海鳥かと思ったそれは、艦載機だった。何十機もの影が、大きく円を描いて哨戒艦の上空を飛んでいる。その様子は魚の群れが渦を巻いているようにも見える。
「では、この通りほぼ全て艦戦で構わないのですね」
「ま、今回は敵さんの殲滅よりか、味方の被害を減らす方がうちらにとっては重要やしね。せやろ?秘書艦さん」
「うん。そうなるわ」
歩いて来たのは鳳翔さんと龍驤、それから叢雲の三人だ。
軽空母の二人がそれぞれ片手を空に向けると、艦載機の群れが吸い込まれるように彼女らへと雪崩れ込んでいく。
艦載機のおよそ半数は幾条もの矢へと姿を戻し、カカカッ音を立ててと鳳翔さんの矢筒に収まった。
残りの半分は白い形代へと戻ると、龍驤が差し出す掌の上に積み重なった。
「む……。やっぱり何度見ても格好いいな、あれ」
「なに童心に返ってるんだか、士郎は」
遠坂が茶化してくる。
心の中に留めていたつもりが、どうやら無意識に口に出ていたようだ。
「男は皆、ああいうのを見ると少年に戻るんだよ」
「もうそういうのに憧れる歳でも無いでしょ」
「何を。憧れ自体は止めどなく出てくるぞ」
何気に今の俺たちの服装も少年ハートをくすぐってくる。
「この服、遠坂の黒髪に合ってるよな……サーベルとか腰に提げたら様になりそうだな。投影してみるか……?」
「その辺で止まりなさい」
若干呆れられた。
そのまま遠坂は周囲を見回す。
「……んー、そろそろ全員揃ったかな?」
「金剛がまだじゃないかな……噂をすれば」
鎮守府本館の方に手を振りながら、金剛がこちらへ駆けてくる。手を振る先を探すと、加賀が小さく手を振り返しているのが見えた。
「ヘーイお待たせシマシター」
彼女は本日もテンションが高めだった。
本日の出撃メンバー全員が哨戒艦の甲板に揃うと、叢雲が言った。
「時刻ヒトマルサンマル、時間通りね。じゃあ今日も出撃するわけだけど、せっかくだしあなたから何か無い?『司令官』」
「え、私?」
「ほかに司令官はいないわよ」
「そ、そうよね。えっと、……コホン」
突然話を振られて焦ったようだが、なんとか言葉を探す遠坂。
「……本日付で肩書きは司令……『提督』になったけど、正直ちょっと勉強した程度で艦隊指揮なんて無理だし、難しい判断は叢雲に任せることもあると思う。指揮系統も混乱しそうだし、本当は叢雲に全部お願いしたいくらいなんだけど……」
遠坂は視線を叢雲に向けるが、銀髪の少女は小さく肩を竦めるのみ。
「叢雲がフリーで動けるようになればかなりの戦力になるでしょうし、慣れていくしかないみたい。私も頑張るからよろしくね、みんな」
艦娘たちの反応は様々だ。
「リン。テイトクはどんと構えててくだサーイ。それだけで何か安心するネー」
嬉しそうに言う金剛だったり、
「凛さん、似合っててかっこいいわね」
「会議室の時は、暁ちゃんがキラキラした目で見ていたのですよ」
「まあ暁にとっては、理想的な “れでぃ” だし仕方ないわ」
話し合う六駆の姉妹だったり、
「わ、私の操船に提督の命が掛かってるかも」
緊張に生唾を飲む秋津洲だったり。
遠坂は全員を見渡して、ふと思いついたように付け足した。
「みんな知っての通り、先日確認されたレ級は索敵に掛からない性質があった。とりあえず『海域浸透型』なんて呼称してるけど、コイツが出た場合はよく観察すること。何か通常個体との差異があれば報告してほしいの」
陽炎が手を挙げて発言する。
「滅茶苦茶厄介な敵みたいだけど、そんな余裕あるの?」
「厳しいことは確かよ。でも情報は最優先で欲しい。弱点や効果的な戦法を見つけるためにね。幸い士郎の固有結界は相性が良いみたいだし、マズいと思ったら士郎の判断で展開して貰うわ」
「その時は、私とか金剛みたいに直接戦闘力のある子を、可能なら巻き込んで」
遠坂と叢雲の言葉に頷く。
「了解した」
「それじゃ、そろそろ出港しましょうか」
遠坂の言葉に、全員が「了解!」の合唱で答え、各位が持ち場へと向かっていく。
雷と電は艤装を展開し、甲板から海へと飛び降りて先行する位置へ着く。船から下りて警戒に当たるのは、主に駆逐・軽巡組が交代で担当するらしい。
秋津洲は扉から操舵室へと入る。
龍驤は偵察機で警戒に当たるために甲板に留まり、金剛は船尾の方に向かった。
「……俺たちは?」
「司令官と……衛宮士郎は甲板室で待機していればいい。索敵は私たちが交代で行うから」
「でも……」
「適材適所よ。人間はすぐ疲労が溜まるんだから、大人しく休んでて!」
叢雲の言葉に押されて、操舵室へ入った。
中では秋津洲が、ちょうどエンジンを掛けようとしていた。
「――――起動、するかも」
彼女の艤装が変形して床面に接続される。
すると、そこから光のラインが枝分かれしつつ伸びてゆき、操舵室だけでなく船全体に広がっていく。
やがて、この船に備わった二機のエンジンが駆動する振動が響いた。
試運転と同様に魔改修の成果は発揮されている。
「霊力式巡視艇『かぜなみ改』、抜錨。両舷前進微速、250°、ヨーソロー!」
こうして、俺たちを乗せた巡視艇はアリマゴ島を発った。
正義の味方が着任しました。
……“副”司令官としてね
軍服かっこいいですよね
『終わりのセラフ』一巻表紙みたいな格好がとても好き
それから巡視艇の名前ですが、全く決めてなくて今考えました
かがゆき型巡視艇、というのがモデルです