風を感じた。
『
空は暗雲が垂れ込めている。
そして水平線からは無数の黒い点――――深海棲艦が現れる。その数は少なく見積もっても数千。
「これ……は……」
口が自分の意思とは関係なく動いた。
否。呟いたのは私では無く金剛だ。
(これが八年前のグレイ・グー……。よしよし、無事にこの記憶に辿り着けたか……)
最初は関係ない記憶も少し見えたりしたが、すぐに金剛の意識はこの時間へと定まった。
初めてにしては驚くほどスムーズな記憶指定だ。思考の制御に慣れているのかもしれない。
本人が忘れたと思っていても、それは思い出せなくなっているだけ。記録は無意識領域に残り続ける。たとえ一生涯思い出すことが無いとしても。
それを科学ならざる技術によって、克明に想起させているのが現状だった。
或いはこういった分野に於いてならば、魔術の神秘が科学に駆逐されるまでの時間は、他よりも多く猶予があるかもしれない。
「アレ全部が、深海棲艦デス……?」
八年前の金剛が、喉を引きつらせる。
だがそれも一瞬で、すぐさま彼女は仲間に無線を送った。
「アカツキ!アナタは即座に鎮守府に帰還。島の結界を突破されされないように……じゃなくて!テイトクに指示を仰いで」
金剛の視点しか見えない私には確認できないが、暁と一緒に航行していたらしい。
幼い声で返答があった。
『り、了解よっ』
金剛の感情はほとんど直接、こちらに伝わってきている。
動揺は驚くほど少なかった。
「さて……見たところほとんどが駆逐、軽巡程度。あとは……輸送級?やけに多いデース」
余裕を支えているのは自負。
あの程度の敵ならば、どれだけ数が多くても早々にやられることはないだろうと、金剛は考えている。
実際私も同意見だった。
金剛の実力はよく知っているつもりだったし、何よりも敵から放射される霊的なレーダー波の強度から、八年後の個体とは比較にならないほど弱いと推測できる。
『金剛っ!』
突然通信が入る。
(この声……叢雲ね)
「ヘイ叢雲、近くの泊地から救援要請でもありマシタ?でも生憎コッチは」
『それもあるけど!そうじゃなくてっ。し、司令官が……!』
今の叢雲からは考えられないほど動揺していた。
当然と言えば当然だろう。八年もあれば、様々なことが変化していく。
『司令官がボートで飛び出して行っちゃって……!そっちの方角に向かってるはずなの!』
「ハァ!?どうして止めさせなかったデスカ!」
『わからない!わからないの……!なんでか止められなくって……お願い金剛、司令官を連れ戻して……』
その会話を聞いて思い出した。
確か前任の……というか本来の『提督』は、この時に失踪したと叢雲が言っていた。
(……何が起きてる?)
その疑問は程なく解消された。
金剛は、彼方の敵と背後の鎮守府へと続く航路を何度か見比べて、提督の確保を優先したようだった。
先に帰路に就いた暁を追い、提督を鎮守府へと連れ帰るために最大戦速で海を駆ける。
やがて、暁よりも先に小型ボートを電探で補足する。
(暁がいない?)
「アノ船で暁を振り切れるハズが……」
金剛と私の疑問が重なる。
程なくして小型ボードがこちらへ向かってきた。
「止まってクダサイ!テイトク、聞こえマスカ危険デス!今すぐ回頭して帰還を――――」
併走しながら呼びかけていた言葉が途切れる。
意識と視界に霧が掛かったように、感覚が曖昧になった。
金剛には未知の感覚かもしれないが、私には違った。
(暗示、幻惑か。こいつ、金剛に魔術を使いやがった……!)
不鮮明な視界に、ボート操縦席の人物が映る。
若い男性。外見上は30代かそこらか。
目が合った。
仲間である金剛に対して特に興味を感じていない表情は、そんなことよりも重要なことがあるとでも言いたげだった。今はただ、魔術が効果を発揮したか、ただ確認しただけだと分かった。恐らく叢雲や暁、他の艦娘たちも暗示を使ってやり過ごしたのだろう。
小型ボートが、大量の深海棲艦がいる方向へと遠ざかっていく。
そして短い間、金剛の意識は暗示によって完全に塗り潰された。
(お願い金剛、早く目覚めて!)
どれだけの時間が経ったのか、金剛の意識が覚醒した時、小型ボートは忽然と姿を消していた。
『――――剛!金剛!?どうしたの?ねぇ!?』
「アレ……ワタシ、何を……?っそうだテイトクは!?」
見渡しても、電探で広範囲を洗っても、もう深海棲艦しか発見できなかった。
それからの彼女はよく戦った。
動揺を押さえ込み、単騎で敵の防波堤となるべく獅子奮迅の立ち回りを演じた。
屠った敵の数は300を超えただろう。
それ以上の数がアリマゴ島の方角へと抜けて行ったが、榛名や龍驤など、頼りになりそうな艦娘はいる。
彼女らがなんとかするのだろう。
この頃の金剛が現在の金剛と違うのは、艤装の変形を行わないこと。怪我の修復に時間が掛かること。そして、星幽体駆動形態を使えないこと。
ほとんどの敵砲撃を『装甲』で跳ね返すとはいえ、全てでは無い。
時間が経つにつれ、戦艦や空母など、急速に敵の編成が強力になっていったのもある。
交戦距離は数十メートルから数メートルまで近づき、遂には砲撃だけで無く、殴る、引き千切る、投げ飛ばすといった攻撃すら交える事になった。
掲げた敵の屍を盾にして、或いは押し寄せる敵の身体を踏み台にして飛び跳ねて、着実に撃破数を増やしてゆく。
視界には常に10隻以上の敵が映り、強力な鬼・姫級こそ居ないが数十隻の敵に囲まれながら戦った。そうするうちにも、敵の密度は際限なく上昇していく。
こうなると当然金剛もただでは済まない。
疲労と損傷は徐々に蓄積してゆき、やがて限界は訪れた。
両足と背中の艤装を破壊され、両腕は打ち砕かれ、胸に大きな風穴が空く。
もはや海面に立つことは適わず、艦娘金剛は海に沈んだ。
暗い水底へと沈みながら、彼女の脳裏に過ぎったのは後悔だった。
戦艦『金剛』はかつての大戦を経て、今再び沈んだ。あの時は乗員を、今は妖精を連れて。
せっかく彼らと同じヒトの姿を得たのに、今日まで禄に会話もしてこなかった。出来るのかさえ知らなかった。それを今頃になって彼女は悔いたのだ。
嗚呼、もう手遅れだと分かっていても
「(それでも、最後にこの子たちの事が知りたい)」
もしかしたらこの時、彼女の作り物の身体は完全に死んでいたのかもしれない。
やがて作り物の身体に収まった作り物の魂さえも、消滅してゆく、その刹那。
感覚は無限に引き延ばされている。
器が無くなったことで彼女の魂は、同じ階層にある妖精たちと繋がることが出来た、のかもしれない。
傍観者である『
僅かにソレを経験しただけで、私は自分のその行為に対しての危機を覚えた。仙人でも無い只人の身で、悠久の時間経過を体験することになるからだ。
自身の精神を保護するために、私は金剛との同調を意図的に乱すことで、変化が表れるまで外側から観察を続ける。
この事態はどういった魔術的意味を内包しているのか。
(まさか……擬似的な輪廻転生だとでも?妖精たちの人数と同じ回数……?何百回、ううん、下手したら何千回……?)
それからどの程度時が流れただろう。
艦娘という作られた魂、その階層が変化する。
「アレ……?」
気がつくと金剛は、海面に立っていた。
「ワタシ、どうして泣いて……」
ゴシゴシと涙を拭うが、後から後から溢れ、頬を伝って海に落ちていく。
とても永い、永遠のようなユメを見ていた気がした。
しかしいつまでもそうしてはいられない。
何故か元通りになっていた艤装から霊波を発信し、鎮守府の方角へ多数の敵反応が向かっていった事を知る。
「……今すぐに向かわないと!デモ……」
反対側の海を振り返る。
あれほど際限なく押し寄せてきていたその方角からは、もう何の反応も感じられなかった。
「……ッ」
困惑を振り切って、彼女は海を駆け出した。
守るべき場所と、仲間の元へ。
提督に関する自身の記憶や優先度が、不自然に変化していることには気付かずに。
金剛がアリマゴ島に帰還してしばらくした後、深海棲艦は潮が引くようにその数を減らしてゆき、『グレイ・グー』は終息することとなる。
◇
「……そういう、事」
金剛の記憶から戻った私は、ベッドの上で上体を起こした。
時計を見ると、一時間弱が経過している。
頭がズキズキと痛んだが、多分問題ない範囲だろう。頭を抑えようと手を動かして、金剛と手を繋いだままだと思い出した。
「……ふ」
繋がっていた魔術回路を解き、ゆっくりと手を引き抜く。
「ン……」
金剛が身動ぎして、目を覚ました。
「……リン」
「お疲れ様、どこか不調は無い?」
「……多分……わぁ!?」
彼女はこちらと同じように上体を起こしたが、はだけた服から色々露出していることに気付いて素早くシーツを胸まで引き上げた。
「大丈夫よ。今魔術で士郎の眠りを深くしたとこだから」
「……」
ソファの上で、こちらに背を向けて眠る士郎をしばらく注視する金剛。
その肩が、呼吸に伴って規則正しく揺れるのを確認して、ようやく安心したようだった。
「それで、記憶は問題なかったデスカ……?その……コチラはほとんど記憶が無くて」
恐る恐る尋ねる金剛。……理由は分かっている。
無意識領域にある記憶なので、あくまで術者である私だけが内容の持ち出しに成功したようだ。
「ええ、ばっちりよ。……あとそれだけじゃ無くて」
黙っているのは不誠実だと思うので、正直に告白することにした。
金剛の意識の中で見た、『それ以外の記憶』のこと。
「ごめんなさい金剛。私知らなかったの……その、あなたが士郎をどう思っていたのか」
「……っ!」
目が大きく見開かれ、口元が手で塞がれる。
薄明かりの下でもはっきり分かるほど、金剛の顔色が変化した。見ているこちらが申し訳なくなる。
彼女は布団の上にばふっと突っ伏した。
「ううぅ……。こんなのあんまりデス……。惨めな心の内を、ほ、本人たちに知られるなんて……」
「ごめん……」
凛としても気まずいというか、それ以上掛ける言葉が見つからない。なまじ金剛に対する好感度が高いために、反感を覚えることも無く非常に表現しづらい感情だった。
しばらくすると金剛がゆっくりと顔を上げた。
「リン……お願いしマス、この事はシロウには……」
「……流石にそんな酷いことしないわよ」
頭を抱えそうになりながら凛は、金剛の“その記憶”を思い出す。金剛は、士郎に抱いた思いを打ち明けるつもりは無く、最後まで心の奥底に秘めておくつもりらしかった。
金剛では無く叢雲の記憶を見せて貰えば良かった……。と少し後悔する。
だがいつまでもそうしては居られない。
「よし、棚上げしよう」
「リン……?」
「今優先すべきはマリアナ。その為のトラック到達なんだし、余計なことは考えないことにする!あなたも、変に引け目とか遠慮とかせずに、普通に接してくれると助かる。……勝手に記憶を暴いた私が言うのも何だけど」
「イ、イエ。そもそも、記憶が漏れたのはワタシの未熟さデス。デモ、ああ……そうか」
金剛は力なく微笑んだ。
「やっぱりワタシ、シロウに惹かれてたんデスネ……」
「金剛……」
「お陰ではっきり自覚できましタ。リンには悪いですケド、知って貰えてチョット気分が楽になったかも。謂わば無敵状態デース」
ぽかんとしていた凛も、思わずといった感じで笑いを漏らした。
「なにそれ」
「ヨシ、じゃあワタシは戻りますネ。明日も頑張りまショウ……」
金剛は大きく伸びをすると、そのままベッドから立ち上がった。
「もう遅いんだし、ここで寝れば?」
「アハハ、それはチョット出来まセーン」
金剛はソファで眠る士郎を見ると、首を横に振った。
そのまま静かに扉を開ける金剛に、凛は声を掛ける。
「……お休み、金剛」
「ハイ。お休み、リン」
扉が閉じられ、凛と士郎だけが残った。
凛は、士郎が眠るソファにこっそり近づき、寝顔を覗き込む。
「狸寝入りなんてしてないわよね、衛宮くん」
「――――」
士郎の規則正しい呼吸に乱れは無い。
「あんな良い子が、ね。……モテモテか、士郎のクセに」
少し悔しくなって、士郎の頬をふにふにと突く。
「むう……私が育ててあげたのにぃ~~」
そのお陰で今や士郎は、他の女性の目にも優良物件に映ることが多い。倫敦や諸国漫遊の最中でもそれは凛も感じていた。
ただ具体的に、士郎のどの部分が金剛の琴線に触れたのかまでは分からない。
(……私は士郎をどうしたい?士郎とどうなりたいの?)
一人の魔術師であり、また一人の女性でもある凛が、結論を先送りにし続けている問題。
そしてそれは、多分士郎も同じ。
(私は、遠坂家の当主。代々受け継がれてきた刻印を、次代に繋げなくてはならない。その生き方に不満は無かった。でも……)
その生き方に士郎まで巻き込む事は許されるのか。そう考えることもある。
自分以外の子の方が、士郎の為には良いのではないか。そう考えると苦しくなる。
「好きよ、士郎」
不意に涙が滲んで、慌ててゴシゴシ擦る。
「……私も寝よう」
もう少し。せめてもう少しだけ、今のままで。
そう祈りながら、凛は自らに眠りの暗示を掛けた。
◇
小さな物音に目を開ける。
金剛が帰ってきたらしい。
薄く開いた目を再び閉じて、叢雲は眠りに戻ろうとする。
……が。
「……む?ちょっと、ここは私の場所よ。アンタのベッドはそっち……」
「……」
もそもそと、無言で叢雲のベッドに入ってくる金剛。そのまま抱き枕代わりにされる。
「もー暑苦しいっ。とっとと離れなさいよ」
「……」
「ぎゃあ折れる折れる戦艦の馬力で締め付けるな馬鹿!」
だが金剛は相変わらず無言で、しかも心なしか元気がなかった。
その理由を見つけようとして、はたと思い当たる。
(え、まさか本当に……?)
こんな事なら自分が手を挙げておけば良かった、と思う叢雲だったが、あの時は何故か拒否の言葉が口を衝いて出たのだ。別に知られて困る過去なんて、もう無いはずなのに。
(詳しく聞きたい、気もするけど、聞ける雰囲気じゃ無いわね)
仕方ない、今夜ばかりは抱き枕に甘んじてやるか、と叢雲は溜息を吐いた。
◇
士郎はソファの上で目を覚ました。
時計を見れば、間もなく朝の五時。
「~~~っ」
起き上がって伸びをすれば、あちこちの関節がバキバキと鳴った。狭いソファで寝ていたからだろう。
ベッドで熟睡する凛を見つけて、思わず顔がほころぶ。
昨晩は上手く星幽体駆動形態に関する情報を得られたのだろうか。
とりあえず身体を動かして、食堂の台所を使わせて貰おう、と考えた士郎は、音を立てないように着替え始めた。
鎮守府本館の隣にある食堂へと向かう道すがら、停泊中の『かぜなみ改』が目に入った。
甲板上に秋津洲の姿を見つけたので、近寄って声を掛けた。
「早いな、修理か?」
「あっ、おはよう士郎君」
分厚い皮エプロンなど、溶接用の保護具を纏っているが、特徴的な疑似ツインテールは健在で、一目で秋津洲だと分かる。
彼女は手持ち溶接シールドを置くと、にぱっと笑った。艤装のクレーンやロボットアームが何本も展開されていて、個人工場とでも言うべき様相だ。
「なるべく早くこの子を動かせるようにと思って。戦闘以外なら私が主力だし」
「あまり無茶はするなよ。秋津洲の代わりは居ないんだから」
すると秋津洲の表情がからかうような色を帯びる。
「……ふーん。まさか君が無茶をするな、とはねぇ」
「あっ……と。朝飯を作りに来たんだった。秋津洲の分も用意してくるから待ってろ」
自分に不利な空気を感じ取った士郎は、そそくさと逃げ出した。
食堂で作ったのは、缶詰パンに白身魚のフライを挟んだフィッシュバーガーと、貝類や海藻から出汁を採った魚介スープ。
ちなみにパン粉は缶詰パンから無理矢理作っている。
そして地味に大活躍するのが、キャッサバという南国の芋。長くなるので詳しくは割愛するが、鳳翔さんや六駆の子たちが島で採ってきた*1のを、水に晒して毒抜きして使っている。粉状にして炒めた物はファリーニャといい、以前から料理に使ってみたいと思っていた食材だった。
さらにはデンプン……片栗粉も採れる。キャッサバからとれたデンプンはタピオカの原料にもなるため、今度時間があれば、タピオカ入りココナッツミルクに挑戦しようと思う士郎だった。
バーガーとふかし芋はバスケットに詰めて、スープは魔法瓶に入れて、かぜなみ改へと戻る。
「出来たぞ」
「うわ、なんか凄いの出てきたかも」
甲板に適当に腰掛けて、二人で朝食を頬張る。
「どうだ?修理できそうか?」
「まあね~。これでも大型飛行艇整備艦の概念の結晶体ですから」
素早く食べ終えた秋津洲は、ごちそうさま、と礼を言ってから早速修理の続きへと向かう。
「食事は必要ないはずだけど、食べたらなんか元気出てきたかも。損傷箇所の把握は終わってるし、明日までにはばっちり間に合わせるから、士郎君たちは他のことやってていいよ」
「……そっか。じゃあよろしく頼むよ」
「了解しましたかも、副司令」
士郎が宿泊棟に戻る頃には六時を過ぎていて、凛も起き出してきていた。
「朝ご飯出来てるぞ。菜園組のキャッサバ付きだ」
「そう、鳳翔さんたちには感謝ね」
地獄の寝起きモードを脱した凛が、髪をポニーテールに纏めながら言った。
「かぜなみ改は秋津洲が一人で出来そうだって言ってたぞ。俺たちがやる事ってまだあるか?」
「ある。……御飯食べたら、前任の提督の部屋をもう一度精査するわよ。知りたいことができたから」
「雨樹提督の私室を調べたい?好きにすれば?」
叢雲に聞くとあっさりと許可されたので、士郎と凛は連れ立って部屋へと向かう。驚いたことに凛は
「随分本気なんだな、遠坂」
「ええ。油断しない方がいい気がするの、この魔術師には」
行方不明の人物相手にこれだけ警戒するということは、昨晩何か新たな情報を得たのだろう、と士郎は察した。
深く追求はしない。必要であれば、彼女はいずれ全てを話すだろうから。
「この部屋までの道のりを全力でスキャンしてみたけど、やっぱり日本の、密教系のモチーフが多いみたい。……表面上は」
「表面上?密教のモチーフは偽装で、実際は違うのか?」
「或いは近しい魔術系統か、って感じね。……ここからは礼装は邪魔になる」
そう言うと凛は
衛宮矩賢氏の遺留品などが保管されていた、魔術師の工房と思しき空間だ。
凛は慎重に足を踏み入れると、あちこちを指先で軽く叩いてみたり、空中の何かを掴もうとするかのように手を動かしたり、士郎には理解できないような方法で何かを探った。
そうして30分ほどが経過した頃、彼女は指をパチンと鳴らした。
「なんだ、そういう事ね!」
それから聞こえないほど小さな声で何かを呟きながら、凛は部屋の中央付近の高さ一メートルほどの位置で、何かを掴むような仕草をした。
すると、何も見えないその位置から、鎖を揺らすような金属音が響いた。
そのまま凛は、水底に沈んだ鎖を手繰るように、見えない何かを引っ張り続ける。
「……!?」
やがて水の中から浮かび上がるようにして、木製の古い扉が床面に現れた。
「……ビンゴね」
「こんな仕掛け、よく分かったな」
「ある程度、決められた様式、ルールに則って隠されてるからね」
それでも、今の作業には卓越した技能が必要だろう事は士郎にも分かった。
士郎が比較的得意とする物理的な構造把握だけならば、何週間掛かっても見つけられないだろう。そしてこの魔術工房の主の実力も、侮って良い物では無かった。
「士郎、ちょっとこれ持ってて」
「了解」
パントマイムのように、凛が手に持つ『何か』を受け取ると、鎖の冷たい感触がした。
凛はというと、床に出現した扉――西洋の術式だけでなく、どこか曼荼羅を思わせる意匠が記されている――を手で触れて調べている。
軽く魔力を触れさせてみたり、極小規模の弱い魔術を試薬のように掛け続けてみたり、慎重に解析を進めている。
「――――多分この真下に物理的な空間がある。完全に密閉されてて、この扉の先に形成された極小の『異界』を通路として入室する……みたい」
「ガチガチの工房じゃないか。ここは鎮守府だろ、魔術師にとって本拠じゃない臨時の居場所のはずだ」
そこまで厳重な仕掛けを作る意味はあるのか、と言外に問いかける。
「分からない。けど提督として着任する以上は、何年もこの島に腰を据えなければならなかったはず。魔術師として研鑽に充てるべき貴重な時間を、艦隊指揮だけに使いたくなかったのかも」
凛は準備運動のように手の関節を鳴らすと、再び
「今から扉の鍵を開けるわ。ちょっと下がってて」
士郎は大人しく三歩後ずさって、凛を見守る。
そして、凛は一小節の魔術を高速で連発した。
「
幾つかの単語の組み合わせ……だろうか。見ている士郎にはよく分からないが、凛は似通った何通りかの一小節の連なりを扉へぶつけていく。
単語の数は段々と増えていき、最終的に十小節ほどまで膨らんだ。
「――――、そして
凛の言葉と同時に、周囲の宝石たちが対応する属性の魔術を繋げて行く。
その道筋こそが、この扉の鍵だった。
その証拠に、扉が勝手に開いてゆく。
覗き込んだ先に広がるのは、純粋な黒い闇。
「このルートが正解か……。基本に忠実というか、もはや融通が利かないレベルね。この人がグレイ・グーなんて引き起こせるのかしら」
「遠坂、それは……!」
「ううん。金剛の記憶から、雨樹提督が怪しいと思ったんだけど、もしかしたら外れかも」
凛はそう言いつつ、士郎の指に、魔力で編んだ糸を結んだ。……何故か小指に。
長いその糸の逆端は、凛の手に握られている。
「じゃ、私はこの中に入って調べるから。士郎は外側で『楔』の役割お願いね」
そう言うなり、凛は扉の奥の闇に、躊躇無く飛び込んだ。
「なっ、遠坂!」
「あ、声は聞こえるみたいね。こっちは如何にも『魔術師の工房』って感じよ」
士郎は胸を撫で下ろす。
「平気なんだな?」
「そう。ここまで厳重に隠した部屋が、罠なわけがなかったか……ってちょっと、これ」
「どうした!?」
凛の不穏な声色に、士郎の緊張が高まった。
この日、凛がこの工房の中で見つけたのは、雨樹提督の裏切りを示唆する証拠となり得るモノだった。
祝、艦これ7周年
【SG レーダー(初期型)】
今まで索敵値がゼロだと思ってました。おかしいとは思ってたんです、索敵0のレーダーって何だよ、と。
……GFCSより索敵範囲広いじゃん!なんなら22号改四後期より広い!教えてよおお