正義の味方が着任しました。   作:碧の旅人

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南の日々に花の咲く
第52話 座礁船


 目を開くと、自分の左腕が見えた。

 

 瞬きをゆっくり二回。

 天井に向けて、何かを掴もうとするかのように伸ばされた己の腕を見つめ、やがてぱたりと降ろす。

 

 昨日に引き続き、何か夢を見ていた気がする。

 直前の記憶を辿るように意識を集中するが、深く考えるほどに霧散していく手応え。

 

(……駄目か。これは多分、もう思い出せないヤツだな)

 

 やれやれと、溜息と共にベッドから上体を起こそうとして

 

(ぅわっ……!)

 

 体勢が右向きに崩れ、ベッドにぼふりと帰還する。

 同時に電撃のような痛みが走り、歯を食いしばって苦痛が過ぎ去るのを待つ。

 

「……っ、はっ、はっ、は……」

 

 痛みが治まると、今度こそ慎重に上体を起こし、ベッドに腰掛けてぼんやりと部屋を見回す。

 

 相当に広く、豪華な内装の部屋だった。

 厚い絨毯に調度品。明るい光が差し込んでくるのは壁一面の大窓。

 その向こうに広がる珊瑚礁の海。そして島々。

 

 まるでリゾートホテルのスイートルームに居るのかと思ってしまう状況だが、実際似たようなものだった。

 ここはチューク環礁の内側、ウェノ島南部の陸から程近くにある座礁船の船内だ。この部屋の造りを見れば分かるように、客船だった。豪華客船と言われてイメージする物よりもかなり小型ではあり、だからこそチューク諸島のような小さな港に寄港したのだろう。

 

 まだ詳しいことは士郎も知らなかったが、なにせ客船だ。グレイ・グーより前からここに着底していたと考えるのが妥当だろう。そして、なぜ深海棲艦に完全破壊されず、内部は綺麗な状態を保っているのかというと――

 

 

「あ、起きてる」

 

 

 ドアが開く音と共に、秋津洲が入ってきた。

 彼女は窓際のソファに腰を下ろすと、上半身だけで士郎の方を向いた。彼女の仕草から微かに感じ取れるのは、疲労。

 

「怪我の具合はどう?」

「ぼちぼちだ」

「今、金剛さん達が敵を迎撃中かも。でも、士郎君は駄目だよ。あたしが見張ってるからね」

「……」

 

 このトラック泊地を深海の手から奪還したのが一昨日の事。しかし、未だ断続的な敵の襲撃は続いていた。士郎は勿論、凛も訳あって迎撃要員からは外されており、ローテーションを組んでいるとは言え艦娘たちの負担は大きくなっていた。

 

「お前こそ、消耗を隠してたな。暁から不穏な無線が入ったときは、心臓が止まるかと思ったぞ」

「えへへ、ごめんなさい」

 

 頬を掻く秋津洲。

 海底に沈んでいたところを謎の少女に助けられた彼女は、今も消耗が回復しきっていない。士郎が飛び出さないか見張りも兼ねて、叢雲から室内待機を仰せつかっていた。

 考えてみれば、秋津洲が形成していた実物大の二式大艇は、戦艦である金剛型の艤装の何十倍も大きい。あれを一度組み上げるだけでも、普通の艦娘が数十回大破するのと同程度の消耗があってもおかしくない。それを半日と置かずに、連続して敢行したのだ。

 

「でも、いつも戦えない分、今回ちょっとは活躍できたかな」

 

 ふっふっふ……と何処か得意げに説明してくる。

 

「なんと!あたし、クラゲ型の重爆母艦を撃破しました、かも!」

「なん……だと……」

 

 想像してたより凄い戦果だった。というか秋津洲の持つ兵装で墜とせるのか、あれ。

 

「雷ちゃん電ちゃんが大艇ちゃんから降りる前に、機内に魚雷を山ほど生成して貰ってね、大量に積み込んだ状態で、クラゲの極太光線を躱して体当たり!見事爆散、ってね。あ、勿論ぶつかる前にあたしは緊急脱出したかも」

 

 火薬庫と化した二式大艇を直接ぶつけるなんて、随分危険なことをするな、という感想しか士郎には浮かばない。

 彼の内心が聞こえていたら、周囲から『お前が言うな』の大合唱が返ってきたかもしれないが、幸いにしてそんな事態は回避された。

 

「海に落ちた後はバテバテでひたすら退避。結局、戦艦かなにかの流れ弾が至近に一発落ちただけで、沈んじゃったんだけどね……」

 

 その時のことを思い出したように、秋津洲はブルリと身体を震わせる。

 続いて、聞き逃しそうなほど小さな呟きが零れた。

 

「あの不思議な人が助けてくれなかったら今頃……」

 

 咄嗟に返す言葉も見当たらず、束の間の静寂が落ちる。

 やがて士郎は、足に力を入れて立ち上がった。

 

「喉渇いた、お茶でも淹れようか。秋津洲も飲むだろ?」

「……うん。確かそこにティーポットが……って、お湯切れてるかも」

 

 電力が貴重であるためか部屋の中に電気ケトルの類は無く、そういった物は一箇所に集められていた。

 

「残念。厨房で沸かしてくるよ」

「あ、私もいく。……その、片腕じゃ大変でしょ」

 

 秋津洲の言葉に、自分の右腕を見下ろす。長袖のシャツを着ていて直接は見えないが、途中で袖がペラペラと揺れていた。

 

「――そうだったな、じゃあ悪いけど頼むよ」

 

 苦笑しつつも秋津洲の気遣いに感謝する。

 

 士郎は一昨日のあの戦いで、一時両腕を失った。

 凛の処置のお陰で最初に斬られた左は繋がったが、食い千切られた右手はどうしようも無かった。

 二の腕の傷口に、ズキリと痛みが走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋津洲と二人、並んで廊下を歩く。

 

「凄いねあれ。魔法の国みたい」

 

 途中ですれ違った人型ゴーレムを見て、小声で囁いてくる。

 このフロアの部屋や廊下が綺麗に保たれているのは、あの清掃員たちの努力の賜らしい。ガラス玉の目のついた顔に、岩石の身体。無骨な手足を器用に動かし、モップや雑巾を使いこなしている。

 

「そうだな。俺も初めて時計塔で見たときは、秋津洲と同じ感想だった」

「昨日話し掛けてみたんだけどね、無視されちゃったかも」

「ゴーレムとかホムンクルスは普通、複雑な知能は搭載されてないからな。決められた受け答えはするかもしれないけど……」

「……ふーん?」

 

 そうして着いた厨房でお湯を沸かす。正確には、船内カフェだったスペースの厨房だ。調理に使う機器は一通り残されており、どれも清潔に保たれていた。

 

 誰にも使われなくなったテーブルの群れが、もの悲しさを漂わせている。しかし、じきに賑やかになるんじゃないかと士郎は思った。客室内に調理スペースは無いため、これからは基本的に皆、ここで集まって食事を取ることになるだろうから。

 沸騰した湯をポットに注いて部屋に持ち帰る、その途中。

 

「――――」

 

 一人の男と鉢合わせる。

 秋津洲が、「あっ」と緊張したように声を漏らした。

 

「永澤提督……」

 

 三十代半ばと思しき、神経質そうな雰囲気のその男は、眼鏡の奥の目を細めて二人を見ると不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 永澤政史(ながさわまさし)

 魔術師であり、ここトラック泊地の提督――だった人物だ。

 今この男の旗下に、艦娘は一人もいない。  

 

「……ありがとうございます。工房に俺たちを受け入れてくれて」

 

 軽く頭を下げる士郎。

 艦娘に対する態度などから、士郎が抱いた第一印象は余り良いものでは無い。しかし実態としては恩人であり、アリマゴ島の艦娘たちにとっても上官であるため、士郎も一定の敬意は払っていた。

 

「……しつこい。そういう取引だ。無闇に僕の領域に立ち入るなよ」

 

 それだけ言い残すと、彼は二人の横を通り過ぎ、通路横の階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 照りつける日差しに浮かんだ汗を拭う。

 

「あっつい……! どうして私がこんな事やらされてるのよ……」

 

 遠坂凛(わたし)は、『かぜなみ改』から降ろしたゴムボート(RHIB)に乗って、チューク環礁の島々を巡っていた。

 新たな島に上陸して、渡された地図を見ながら、独りごちる。

 

宝石剣(これ)さえあれば魔力は無限に確保できるのは助かるんだけど……単純に暇ね。話し相手でもいればいいんだけど」

 

 いくらぼやこうとも、相槌を打つ者はいない。他の皆は敵の迎撃に出撃したり休息に専念したりで忙しく、士郎も元気に動き回れる状況ではない。

 

 私は今、トラック泊地の結界を本来の規模まで取り戻すべく、各島の支点を復活させる作業に明け暮れているのだった。――あの何処かいけ好かない魔術師の指示で。

 

 

 

 

 永澤政史について話すためには、少し時を遡る必要がある。

 あれは一昨日、宝石杖で白い悪魔を退けたその後の出来事。

 

 

          ◇   ◇

 

 

 金剛や巫女装束の少女が見守る中、私は魔術で士郎の治療に専念していた。右腕の傷口を皮膚で覆うように塞ぎ、切り飛ばされた左腕もなんとか繋がった。滑走路に落ちていた腕を見下ろして、拾い上げたときにまた少し、涙が零れてしまったが。

 

 そうしてなんとか一命を取り留めたと、安心できる状況まで辿り着いた。

 途中で、天龍たちが暁らと交戦していた残敵を殲滅し終えた、とノイズ混じりの報せを、金剛が受け取った。「こちらも秋津洲を見つけた」と送り返し、二人で安堵したところで、その男は現れた。

 

「何者だお前たち」

 

 中背で痩せ気味の、眼鏡をかけた日本人だった。

 目付きや仕草から、神経質そうな印象を受けた。そして何よりも重要なことがあった。

 

(魔術師か)

 

 服装の細部に微かにちりばめられた魔術的要素。直接それらを意識したわけではないが、魔術世界で生きてきた勘が、無意識かつ総合的にその人物を魔術師だと訴えていた。

 そして何より、隣にいた金剛が呆然としたように呟いた。

 

「永澤提督……生きて、いらっしゃったのデスカ……」

 

 その男は尋ねるように視線を、黒衣の代行者へと向ける。

 初老の代行者はゆっくりと首を横に振った。

 

「……儂も先ほど見つけたところだ」

 

 その遣り取りは初対面同士のものとは思えない。この二人は知人なのだろう。魔術師と代行者が敵意無く会話することは、普通有り得ないのだが。

 

 ともあれ私は、永澤提督と呼ばれた男に向き直った。

 

「遠坂凛、魔術師よ。提督不在だったアリマゴ島の艦隊を、臨時の提督として統率して、たった今このトラック泊地を奪還したところですが、貴方は?」

 

 永澤は露骨に眉を顰めながらも、口を開いた。

 

「……永澤政史、トラック泊地の提督だ。話は分かった。アリマゴ島の艦隊が健在だったのは予想外だが……おい」

 

 永澤は金剛と秋津洲を抱いた少女、そして拘束が解けたのかこちらへ歩いてくる叢雲を見て言った。

 

「アリマゴ島の艦娘共はこちらで預かる。そこの……四隻と残りの艦娘は今から僕の指揮下に入れ。……泊地を深海から奪還してくれたことは感謝する。お前とそっちの連れは、こちらで用意した部屋で休むといい」

「……なんですって?」

 

 なんとかそれだけ絞り出した。

 金剛も叢雲も、驚いたように目を見開いてはいたが、反抗の言葉は出なかった。当然だろう。直属ではないにしろこの男も、艦娘にとって上官だ。だが私にとっては只の同業者である。

 

「いきなり言われて、ハイそうですかと私が答えるとでも?」

「お前たちは『大本営』から辞令を受けた提督ではないんだろう。僕が居る以上、部外者が提督を続ける必要はない」

「……自分の鎮守府も取り返せないヤツが、この子らを指揮する?大体、自分の艦隊はどうしたのよ」

 

 永澤は僅かに目を開くと、小さく舌打ちをして吐き捨てた。

 

「いない」

「は?」

「八年前の大規模襲撃で全滅だ。一隻残らずな」

 

 艦娘二人の息を呑む音が、やけに鮮明に響いた。

 

「……そう。そういう事。貴方一人、逃げ延びたのね」

「お前……!」

「ごめんなさい、別にそれが悪いとは言ってないわ。でも皆のことは渡せない。約束したもの、一緒に戦うって」

 

 苦々しそうな顔で、永澤は言った。

 

「馬鹿かお前。艦娘を手中に収めても、部外者のお前らに利益なんてないぞ」

「あら、もう部外者じゃないわ。それに、私たちの目的はマリアナ海溝だもの」

 

 私は立ち上がり、膝の汚れを落とすと永澤に向き直る。

 

「さて、それじゃあ部屋に案内して下さらない?士郎を休ませてあげたくて」

「自分だけ望みが通ると思ってるのか?」

「……ここの奪還だけでは不十分だった? 今の私たちにとって害になるなら、申し訳ないんだけど死んで貰うしか……」

 

 手に持つ宝石剣に、莫大な魔力を充溢させる。

 こんな脅しは優雅じゃないが、この時の私は士郎を安静にする事で頭が一杯で……多少倫理観がおかしかったかもしれない。魔術師相手に倫理観も何も無いけれど。

 

「待て……!っこの野蛮人め、ああ分かったから魔力を収めろ!案内する!」

 

 そうして立ち去り際に、永澤はちらりと巫女装束の少女に視線を向け、訝しむ。

 

「……? お前は、艦娘では……まさか。何故今更現れた。八年間も何をしていた」

 

 対して少女は、困ったように笑う。

 

「何故ってそりゃあ、『深海』で塞がってた道がいきなり復活したんよ?気になるじゃろ。まさか提督だけが落ち延びとったとはなぁ」

 

 永澤は一瞬だけ顔を歪めると、すぐに平静を取り戻し、「ついてこい」とだけ私に言うと歩き出した。

 そうして、私たちはウェノ島の南にある、朽ち果てた座礁船の元へと案内された。

 

「ここが、貴方の隠れ家?」

「そうだ」

 

 意識すれば感じ取れるのは、幾重にも執拗に張り巡らされた、人避けと隠匿の魔術。道端の雑草が誰の目にも留まらず、意識されないのと同じだ。この座礁船は、魔術を知らぬ知性体から注目されることは無かっただろう。というか私自身、近くに案内されるまで気付けなかった。

 

 それらの魔術で隠された座礁船は、外壁は至る所に弾痕が刻まれ、全体が赤茶けた錆色に染まっていた。着底しているため、満潮時には甲板くらいまで水没するのだと、側舷に付着した貝やフジツボが物語る。その上の客室が積み重なった建物部も、窓から見える内部は酷く荒廃している……ように見える。

 だがボロボロなのは外から見た場合だけだった。

 

「……!」

 

 一歩中に足を踏み入れれば、文字通り世界が変わる。

 荒廃して見えたのは魔術が作り出していた偽の景色で、実際の内部は綺麗に清掃が行き届いたホテルのようだった。

 

(八年間も独りだったとはいえ、それなりに快適に暮らしてきたって事……?食料は、魚介類はともかく野菜はどうしてたのかしら)

 

 そうして詳しい案内もそこそこに、私と士郎はとあるフロアの広いスイートルームをあてがわれた。部屋は大量に余っているらしいが、綺麗に管理されているのはほんの一部だと永澤が言っていた。

 

 私は金剛たちを振り返って永澤に聞く。

 

「艦娘たちは?泊地奪還の功労者なのは彼女らも同じなんだし、同様の待遇をお願いしたいんだけど」

「……管理しているのは一部だと言っただろう。僕はホテルのオーナーじゃない。これから泊地機能を復元するために忙しくなるんだ」

 

 私はしばし考え込むと、指を伸ばした。

 

「じゃ、それ私も手伝うから」

「……お前が?」

「これでも時計塔にいた頃は主席だったのよ。一瞬だけど」

「な……」

 

 永澤は驚いて言葉に詰まると、怒りの表情を作った。

 

「それを最初に言え……!強者なら強者だと分かり易く喧伝しろ!……くそ、やたら力のある小娘だと思ったら、本当に化物だったか」

 

 勝ち目の薄い相手とは、一切争いたくない性分なのだろうか。その勢いに若干引きつつ、私は頷いた。

 

「ま、まあそんな感じ?で、その強者からの頼みなら聞いてくれるの?」

「……ランクは落ちるがツインの部屋を幾つか用意する。それで不満なら野宿しろ」

「ありがとう、あの子たちもしっかり休ませてあげられる」

「ここは僕の工房だ。他のフロアに勝手に立ち入らないよう、艦娘共に周知しておけ。死んでも知らんとな。これはお前も同じだ。僕を手伝うと言ったその言葉、忘れるなよ」

 

 そう言い残して永澤は去っていった。

 私は部屋に入ると士郎をベッドに横たえた。叢雲と金剛に現状を皆に伝えるように頼むと、自分も隣のベッドに倒れ込む。

 一気に緊張が解れる気がした。

 

「あー……死にそう」

 

 今日だけで何度目かになる感想を呟く。

 もう視界はブラックアウト寸前だったが、気合いで扉に魔術で簡易ロックをかけようとする。

 と、そこで巫女装束の少女が私の手を遮った。

 

「わえがしばらく見張っといたるけん、ゆっくりお休み」

「……」

 

 何も知らないはずの少女の言葉だが、不思議と信頼できると思えた。

 そこで完全にエネルギー切れになった私は、ふかふかの感触に包まれて意識を手放した。

 

 

          ◇   ◇

 

 

 そして翌日、結界復元のあれこれを永澤から丸投げされた。工房が大所帯になったことで、下の階層に運び込まれている魔力炉一基だけでは、電力などを賄いきれないらしい。文明的な生活を送りたければさっさと復元しろ、と暗に脅された。

 

「微妙に納得いかない……」

 

 とは言いつつも、本来ならここチューク環礁内には廃墟しかないはずだったのだ。手足を伸ばして眠れる場所を提供して貰えるだけで、充分にありがたい話ではある。

 

 加えて、本来なら数ヶ月掛かるはずの結界復元の時間も、永澤提督がこっそりと要所要所の霊脈を保護していたお陰で大幅に短縮される見込みだ。私の見立てでは戦闘力こそ低そうだが、霊地の管理者としての能力は年齢相応に――私より幾らか要領がいいという意味で――あるようだった。

 

「私たちを取り巻く現状、やらなきゃいけない事も山積みだし、まだまだ謎も多いなぁ。支点の術式を賦活化するだけでも、今日中に全部終わらせちゃおう……」

 

 呟いて、隠された次の支点へと足早に向かう。

 その途中で。

 

「暑い中、お疲れやなぁ」

「……こんにちは」

 

 上から降ってくる声に顔を上げると、高い木の枝に腰掛けた少女と視線が合った。目立つ巫女装束が、木陰を抜ける風に涼しげに揺れる。

 

(この子が一番謎なのよね……)

 

 取り敢えず対話から始めてみよう。私はそう思った。

 

 


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