正義の味方が着任しました。   作:碧の旅人

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第8話 状況確認

「ありえない……」

 

 遠坂が片手で顔を覆う。目線が左右に揺れ動いていて、高速で何かを思考していることが分かる。

 口に出さないだけで、俺も似たような気分だった。日本海に来ていたはずが、いつの間にか太平洋の孤島にいる。アリマゴ島なんて名前は聞いたこともないが、窓の外の景色を併せて考えてもここが日本海側でないことはよく分かる。

 

「じゃあ日付は!?今は西暦何年なの?」

 

 遠坂がハッとした様子で顔を上げて尋ねる。

 叢雲は怪訝な様子で答えた。

 

「はあ?いきなり何よ。今日は20XX年12月26日よ。なに、貴女まさか、自分たちは過去や未来から来ました~とでも言いたいわけ?」

 

 しかし遠坂は口元に手をやってブツブツと呟いているだけで返事をしなかった。そして「二日ずれてる」と呟くと再び顔を上げる。

 

「ねえ。私たちが海に落ちてから、どれくらい経ったか分かる?」

「問い詰めてるのはこっちだってのに、全く……。半日ほどよ。貴女たち二人は昨晩ここに運ばれたの」

「ってことは残るは一日半か……。あの無人島で一日半も倒れていた?士郎はともかく私は刻印が無理にでも修復するはずなのに……」

 

 遠坂が考えているのは、俺たちが宝石剣の試運転を島で行ってからの時差だろう。記憶が確かなら、それは12月24日だったのだ。ちなみにクリスマスイヴなどの、人々の気持ちや行動が活発になる日には、世界に満ちる大源もまた増える。魔術の行使にはもってこいである。

 

「……ねえ、いい加減こっちの質問に答えてもらえない?貴女たちが何者なのか。深海棲艦でないのなら、さっきソイツが私の砲撃を弾いたのはどういうことなのか」

 

 叢雲は胡散臭そうに頬杖を突いている。

 遠坂は我に返ったようになる。

 

「えっ、あ、そうね。えーと……出来るなら私たちについて詳細に説明したいんだけど、それを教えると私たちだけじゃなくて、貴女たちにまで身の危険が及ぶというか。協会って所から誰かが殺しに来るかもしれないけど、構わない?」

「協会ってのが何だかは知らないけど、このご時世に海を越えてこの島に辿り着ける人間なんて限りなくゼロよ。だからこそ貴女たちは疑われているわけで。」

「そう……。こっちはそういう状態なのね」

 

 遠坂は一人で納得したように頷いている。

 

「じゃあ端的に話させてもらうわ。貴女たちにとって私たちは、『並行世界から来た魔術師』よ。恐らくだけど」

「……?」

「なっ!」

 

 叢雲はますます怪訝な表情になってしまったが、俺としてはとても聞き過ごすことが出来ない一言だった。

 

「それはおかしい遠坂。並行世界って、ここが?そんなの……魔法そのものじゃないか」

「そうなるわね」

「宝石剣には、人間を並行世界へ送り込む力なんてないって言ったのは遠坂だろ」

「そこが問題なのよ……」

 

 頭を抱える遠坂。

 

「あの剣には極小の穴を穿つ力はあっても、人が通れるような大きさの穴を開けるなんて出来ないはずだった。けど、無人島でのあの瞬間、確かに空間に穿たれた穴が広がった」

 

 つまり、宝石剣の試運転が見事に失敗して、本来有り得ないことが起きたというわけか。いや、それとも本来以上の結果を出した大成功?

 遠坂は自分の掌を見つめながら続ける。

 

「それだけじゃないわ。仮に人間大の穴を開けることが出来たとして、その穴をくぐるだけで並行世界へ行けるわけじゃないのよ。確実に肉体が耐えられないわ。これは時計塔でもお墨付きの事実。なのに私たちはこうして肉体を伴った状態でここにいる。もう意味不明よね……」

 

 どうやら、遠坂がついうっかり、で引き起こせるレベルの事態ではないようだ。

 

「こんな事態になる原因なんてこれっぽっちも心当たりがないわ……。大体宝石剣と言った……ら……。――――……。」

「遠坂?」

 

 何かに思い当たったような顔をしているが、何か分かったのだろうか?

 

「結局何が言いたいワケ?並行世界だの魔術師だの、宝石剣?だの。分かりやすく説明しなさいよ」

 

 痺れを切らしたように叢雲が言った。

 再び考え込んでいた遠坂は、小さく息を吐いた。

 

「そうね、考えてすぐにどうにか出来る問題じゃなさそうだし。えっと、それで私たちについてなんだけど。『魔術師』っていうのはなんとなく分かるでしょう?お伽噺の魔女や魔法使いのイメージで良いと思うわ。厳密には違うけれど」

「……。じゃあ何?杖を振ったら水とか炎とか出てくるわけ?」

「勿論。実演したいところだけど、私の回路はまだ使えないみたいだし、ほら、士郎」

 

 遠坂が枕を渡してきた。

 

「それ強化してみて」

「いいのか?」

 

 問いかけは遠坂ではなく叢雲に向けたものだ。

 無言で頷きが返ってくる。

 

――――構成材質、補強。

 

 自身の内面に念じるだけで、それは成された。呆れるほどの時間を費やしても、ほとんど成功しなかったあの頃と比べると、少しは進歩したはずだ。

 

 

「こんな感じね」

 

 俺から受け取った枕を軽く叩きながら遠坂が言った。

 魔力で補強された枕は、コツコツと硬い音を返している。

 

 しかし対面する少女らの反応は微妙なものだ。

 

「うん。言いたいことは分かるわ。士郎の強化って地味だしね。もっと、らしいのがお望みなら、私の復調を待ってもらうことになるわね」

 

 やや苦笑いで遠坂。

 悪かったな、地味で。

 

「……ひとまずはそういう事だとしておいて、次は貴女たちが何処から来たのかよ。目下の最重要疑惑だから、並行世界だか何だか知らないけど、包み隠さず全部話すこと」

「その疑惑って、さっき言ってたシンカイセイカンって奴よね。私たちを襲ったあのクジラみたいのの事だと思うけど、アレってそんなに私たちと似てる?それとも人間型のもいるのかしら?」

「……」

「まあ、それで疑惑が晴れるって言うなら全部話すわ。けど出来れば私たちが言った内容は、他人に口外しないでもらえると助かるんだけど。神秘が薄まっちゃうのは最小限にしたいし」

「心配無用よ。この島には外部との連絡手段なんてほとんど無いようなものだから」

「そう。なら安心ね」

 

 遠坂はそこで一息吐くと、疑問を呈した。

 

「ところで私たちの持ち物で、アタッシュケースって見つかってないかしら?」

「回収してあるわ。当然、今すぐ返せと言われても応じられないけれどね」

「構わないわ。見つけてくれただけでも凄くありがたいし。でもあのケースは迂闊に開けて触らない方がいいわ。とても危険な物だし、今となっては何が起こるか……。まあとにかく、アレの中身が私たちの出現に関わる物なの。恐らくだけど」

「……()()、ねぇ」

「そう、出現よ」

 

 遠坂は人差し指を立てて本格的な説明に移る。今更だが、こんな状況でも遠坂は全然物怖じしていないな。相手が同性の少女たちだからだろうか。

 

「並行世界。パラレルワールドって言えば分かりやすいと思うけど、聞いたことない?」

「SF用語かしら。詳しくは知らないわ」

「簡単に言うと『あり得たかもしれない世界』、『別の歴史を歩んだ世界』のような、無限に連なったIF(もしも)の世界。その世界の壁を越えて、偶然この世界に入り込んでしまったのが私と士郎なの。だから、私たちの知識や常識は、この世界に全く即していない可能性があるわ」

「信じられないわ。杖から火や水を出すのとはワケが違う。それらは科学でも再現が可能だけど、世界を越えるなんてそれこそ神様の力じゃない」

 

 遠坂は驚いたように目を見開いた。

 

「驚いた。貴女随分と聡明なのね。いきなりそこに気がつくなんて」

 

 俺も同じ気分だった。この叢雲という少女は、少なくとも俺なんかよりずっと頭の回転が速いようだった。

 叢雲の後ろでは、金剛が和服の少女と話している。

 

「金剛はどういうことか理解できますか」

「んー。つまり、二人は迷子ってことネー」

「……」

 

 遠坂の説明は続く。

 

「私たちの扱う『不思議な力』には、大まかに二種類あるの。今の科学で代用が可能な『魔術』と、科学では絶対に再現できない『魔法』。特に後者はこの世に五つしかない奇跡で、使い手なんて片手の指で数えきれる」

 

 例えば、心臓を貫かれたとして、即座に人工心臓のような物で修復出来るのが優秀な『魔術』師であり、時間を巻き戻して貫かれる前の状態に戻せるのが『魔法』使いだ。

 これは、魔術師なら誰もが知っている話だ。というか彼らの根幹に深く関わっている。

 全ての魔術師の目的は『根源』への到達だ。

 『根源』。『事象の出発点』、『全ての始まり』、『神様の居る座標』、或いは『アカシックレコード』とも呼ばれる場所。そこを目指す人種のことを、総じて『魔術師』と呼ぶのだ。だから正確には、俺は魔術師では無い。

 その根源へ辿り着く手段として魔法があり、また根源に辿り着いた結果として魔法を得たケースもある。

 

「魔法の一つであり、私たちがここに入り込んだ原因であるのが、第二魔法『並行世界の運営』よ。私たちは魔術師であって魔法使いではないけど、あのアタッシュケースの中身は、第二魔法を一部分だけ再現できる代物なの」

「じゃあ貴女たちはそれを使ってここに辿り着いた、並行世界の人間だって言いたいワケね。さっきの台詞からすると偶発的な事故として」

「その通りよ」

「それを証明できる?」

 

 遠坂はしばらく目を閉じていたが、観念したように言った。

 

「無理ね」

「でしょうね。私でもきっと同じ答えよ」

 

 叢雲は大きく溜息を吐くと、後ろの和服に割烹着姿の女性に言った。

 

「鳳翔さん。お願い」

「ですが……」

「いいのよ。これが最終確認だから」

「……。致し方ありませんね」

 

 鳳翔と呼ばれた奥ゆかしそうな女性は、どこからともなく一本の矢を取り出すと、それを投げ上げる。するとそれは落下中に形を変え、小鳥ほどの大きさのプロペラ機になって滑空するように舞い上がった。「あ……」と金剛が小さく声をあげた。

 

「なんだこれ、ラジコン……ドローン?」

「使い魔かしら?ってこれ魔力が……」

 

 突然広い室内を飛び回りだしたそれを、俺たちはやや呆けつつ眺める。するとそれは遠坂の頭上で、ポトリと何かを落とした。

 

「あら……」

「ちょっ……!」

 

 嫌な予感がした俺は、思わずといった感じで落下物を受け取ろうとした遠坂を、止めようとして

 ――――それは盛大に爆発した。

 

「遠坂っ……?」

 

 遠坂は受け取ろうとした姿勢のまま固まっていた。ぱちぱちと瞬きしていて、混乱しているようだ。見たところ、外傷は無さそうだった。しかし。

 

「遠坂に何すんだ……!」

 

 遠坂を攻撃された怒りのままに、剣を射出してプロペラ機を打ち落とそうと振りかぶる。

 

「待って」

 

 それを、遠坂が押し止めた。叢雲に視線をやったまま、俺の空いている方の袖を掴んでいる。

 

「今のって」

「訓練用の模擬爆弾よ。ちょっとくらい怪我するかもしれないと思ってたけど、無傷で済んで良かったわ。貴女も硬いのね」

「それで、満足できる結果は得られた?」

「……ええそうね。艦載機を初めて見た、って感じで無警戒だったし、深海棲艦じゃ無さそう。おまけに私たち艦娘の事も知らないなら、本当にパラレルワールドから来たのかしらね……。なんにせよ、これ以上は悪魔の証明ね」

 

 叢雲はソファから立ち上がるとベッドの前で頭を下げた。水色がかった銀髪が流れる。

 

「乱暴なやり方でごめんなさい。わけが分からないと思うけど、貴女たちの身元をハッキリさせる必要があったの」

 

 そう言う叢雲の後ろで、鳳翔と呼ばれた女性が手を宙に伸ばしていた。するとプロペラ機が一本の矢に戻り、その手の中に収まった。彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「助けてもらったのはこちら側だもの。当然の警戒だと思うし気にしないで。あとこの服も替えてくれてありがとう」

「そう言って貰えると助かるわ」

 

 顔を上げた叢雲がそう言って苦笑する。

 何気に初めて見せた笑顔だった。

 

「それにしても……」

 

 蒼銀の少女は、脱力したようにソファに座ると、頬杖を突いて言った。

 

「それ、さっき見たのとは違う力よね。私の砲撃を弾いたのもそれかしら」

 

 彼女が見ているのは、俺が投影した短剣だった。

 自分の身を守る時は上手く誤魔化せたというのに、今回は出現させたままだった。間抜けなものである。

 そしてあっさりとバラしてしまう遠坂。

 

「それはまあ、士郎の奥の手ね。……というかそっちが本来の士郎の魔術よ」

「へぇ……。枕を硬くするより、よっぽどファンタジーじゃない」

 

 面白そうに笑う叢雲。

 警戒が解けたからだろうか。少し尊大な態度はそのままに、表情が柔らかくなっている。

 

「まあともかく、二人の身柄はこの『アリマゴ島鎮守府』が責任を持って保護するわ」

 

 それでいいでしょう?というように背後の金剛を顧みる。

 金剛は嬉しそうに叢雲をソファの後ろから抱きしめる。

 叢雲は金剛を鬱陶しそうに剥がしながら言った。

 

「貴女たちがこれからどうするかは知らないけど、ゆっくり休んでいきなさい」

 

 しかしその言葉で、遠坂の顔が曇る。

 

「そうだったわ……。これからどうしよう。っていうか帰れるのかしら、私たち」

「どうするって、遠坂の調子が戻り次第、また宝石剣を使えば帰れるんじゃないのか?」

「そうかもしれないし、帰れないかもしれない。嫌な予感がするの」

 

 そういえば、先ほども何か気になっていたようだし、心当たりがあるのだろうか?

 そこで金剛が声を掛けてきた。少し寂しそうな顔をしている。

 

「え?すぐに帰ってしまうデスカ?折角会えたんですから、もっとゆっくりしていけばいいネー」

 

 それは魅力的な提案かもしれなかったが、今の俺には頷くことが出来ないものだった。

 

「悪い。でも俺たちには、元の世界にどうしても助けたい人が居るんだ」

「うぅ……。なら仕方ないネー」

 

 今も桜が苦しんでいると知りながら、のんびりしていることなど出来ない。

 

「まあ、全ては私の調子が戻ってからよね。そういえばこの魔術回路のダメージも、宝石剣の副作用なのかしら。それとも世界を越える、なんて無茶の代償?」

 

 遠坂はまた少し考え込んだ後、疑問を棚上げしたようだ。

 

 ともかく、俺と遠坂の疑惑は晴れて解消されたようなので、俺はずっと気になっていた事を聞くことにした。

 

「じゃあ、こっちからも訊いていいかな。ここは、どういう世界で、君らはどういう人間なんだ?俺は、シンカイセイカンなんて知らないし、この島に辿り着ける人が居ないっていうのも変だと思う。魔術師を知らないなら、魔力を使える君らは何者なのかも気になる」

 

 疑問は数え切れないほどあった。

 矢継ぎ早に質問を繰り出す俺に、少女らは顔を見合わせると、困ったように笑った。

 

「そうね、じゃあ次は私たちの事について話しましょうか」

「まずは自己紹介からですネー」

 

 そうして、彼女らの話が始まった。

 

 

 

 




冬イベ始まりましたが甲狙いなら軽母鈴熊いるのかな
まだ2隻目Lv58です……

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