◼賭博都市ヘルマイネ 国営賭博場
喧騒に包まれた賭博場、そこで二人の男がカードゲームに興じていた。一人は、テンガロンハットを頭にのせて、対戦相手を睨み付けている。もう一人の色眼鏡をかけた男は、薄ら笑いを顔に張り付かせて、カードをシャッフルしているテンガロンハットの男を見ていた。
「どうしたよ色男。いつの間にかもう後がないぜ? 【
否、それだけに飽きたらず、挑発までのせている。
「減らず口を! 目にものを見せてやる。さぁ、カードを捲りな! 」
配られたカードはお互いに5枚。そう、二人がやっているのはポーカー。たった一度の交換チャンスを生かし、手札に揃えた役で勝敗を競う、由緒正しきギャンブルだ。掛け金としてチップを吊り上げていき、勝負に勝てばその度に賭けられたチップを総取りできる。そうしてチップを増やしていくのがこのポーカーというギャンブルなのだ。そして、テンガロンハットの男、【伝説賭博師】ロットン・マルコムが賭けている最後にして最大のチップ。それは自身が就く賭博師系超級職、【伝説賭博師】の座そのものであった。
お互いに、無言でカードを捲る。【伝説賭博師】の座と10億リルに相当するチップ。それが二人のオープニングベット。たった一度の勝負ですべてが決まるまさに狂った
「へぇ・・・」
ロットンは己の手札を見たあと、面白そうに口の端を吊り上げる。そして、二人はカードの交換を行う。この国営賭博場ではポーカーの手札交換は、ディーラーが先という珍しいルールだ。そして、テンガロンハットの男は手札を3枚残し、2枚を交換する。色眼鏡の男は手札を交換しなかった。
「さぁ、ショウ・ダウンといこうじゃないか! 」
カードを交換してから自信を取り戻したロットンが宣言する。チップが残っていないロットンは実質的にオールインしたようなものである。すなわち、追加のベットはない。色眼鏡の男もレイズする必要はない。オープニングベットの1億リルがロットンのベットと釣り合っているとお互いに契約書を交わしていたからだ。すなわち、このゲームはフォールド無しなら即勝負に入る。オープニングベットのチップがフォールドした場合相手に支払われる以上、お互いに勝負を降りる意味もない。即ち、完全に運任せのギャンブルと言っても過言ではないのだ。
「ハハッ! ロイヤルストレートフラッシュだ!ワイルドとは言えてめぇも運がねぇな! 」
ロットンの手札はJokerが1枚に、スペードの10・J・Q・K。すなわち、スペードのロイヤルストレートフラッシュだ。超々低確率の役であり、ワイルドJoker無しのゲームなら最強の役でもある。ロットンのテンションは、もはや絶頂と言ってもよかった。対する色眼鏡の男は、無言でカードを見つめる。
「ハッ、早くカードを出しな! それともそんなに悪い役だったのか? 」
ロットンは、カードを中々出さない男に苛立ったかのようにヤジをとばす。
「あぁ、悪い役だったよ」
「ヘッ、最後には俺様が勝つんだよ! さぁ、さっさとてめぇのチップを寄越しな! 」
そう命令するロットンに、見せつけるかのように手札を公開しながら色眼鏡の男は一言告げる。
「悪い役だったよ、お前の方が」
空気が凍った。回りの野次馬もまた、色眼鏡の男の手札に言葉を失う。・・・この賭博場のワイルドポーカーには、ロイヤルストレートフラッシュを越える役が一つだけ設定されていた。その名はファイブカード。その組み合わせは、ワイルドJoker1枚のみを含む同じ数字のカード5枚。ワイルドJoker2枚が含まれているこのゲームにおいて、実に29,192,400分の1という超々々低確率の役。そして、色眼鏡の男の手札は、
「ス、スペードのA、ダイヤのA、ハートのA、クラブのA、そしてワイルドJoker・・・」
即ち、Aのファイブカード。このゲームにおける、最強の中の最強の手札。同じファイブカードですら越えることのできない最強到達点であった。
「い、イカサマだっ! イカサマに決まっている!! 」
ロットンがそう叫ぶ。圧倒的だったはずの自らの手札。それを突き崩された男の惨めな足掻き。しかし、それも否定される。
「それは俺の台詞だぜ? 」
そう、イカサマをしていたのはロットンであった。彼のエンブリオである【置換刻印 オグナンジェ】は予め印を付けておいたものを、自分の手元にある同じくらいの質量を持つものと入れ替える能力を持つ。これまでのゲームの中でカードに印を付けておいたものを、カードをディールするとき、そして交換する時に密かに取り替えた。そうして、色眼鏡の男の手札にいってしまったスペードのAを除く、ワイルドJokerを含む全てのロイヤルストレートフラッシュのパーツを手札に集めたのだ。それを、色眼鏡の男は見抜いていた。見抜いた上で放置していた。なぜなら、そもそも意味がないから。補正込み実数値5万オーバー。それが、色眼鏡の男ーー【
「それに俺がカードに触れたのは、手札を公開するときだけだ。イカサマしようがないだろう? 」
そう、カードの入れ替え等というスキルは、しかし容易く超人となれるこの世界においてカードを隠した状態で行わなければすぐにバレるイカサマでしかない。幻術系を無効にできるUBM特典のスキルが発動しているこの場所で、可能なイカサマは、カードが見えたままでは行うことのできないのである。つまり、ロックの手札は純粋に運のみで揃えた役であった。
「認めねぇぞ、こんな結末! 俺のジョブも! リルも! 絶対に渡さねぇ! 『
【置換刻印 オグナンジェ】の必殺スキル、『
「『
現れなかった。そして、ロットンの目の前で圧縮空気が爆発する。
「ガハッ! な、何故俺が・・・? 」
「爪が甘いんだよ。そもそも、契約書を交わしてんだ。リルはともかくジョブは渡してもらう」
そう、ここで言う【契約書】とはただの契約書ではない。交わした契約に違反したものへ予め決められた罰を与える強力なアイテムなのだ。彼らが設定した罰は、『全ジョブのリセット』。つまり、ゲームに敗北した時点で、ロットンが【伝説賭博師】を失うことは確定済みであった。
「そんな・・・」
そして、契約書の罰が執行される。即ち、全ジョブのリセット。当然、自らの圧縮空気爆弾でおっていたダメージは初期HP以上。ロットンはHPを失い、デスペナルティとなった。
◻【
「本当に、ありがとうございました」
ティアンの役人が俺に頭を下げる。そもそも何故俺がロットンとポーカーで勝負することになったのか? それは奴が指名手配の取り下げを要求していたからに他ならない。様々なアイテムを盗み、平然とギャンブルでイカサマを行い、賭博場を荒らすクズ。それがロットン・マルコムという男だった。通常なら、そのまま潰して監獄送りなのだが、奴はカルディナ固有のジョブである【伝説賭博師】に就いてしまっていた。そして、そのジョブがあんな奴の手元にあることをよしとしない一部のギャンブラー達が連盟でカルディナ上層部に依頼を出したのだ。それを俺が受注し、先のポーカー対決まで持ち込んだ、というわけであった。
「いや、こちらこそ。おかげで自分も超級職に就くことができましたし」
【伝説賭博師】の転職条件は、賭博師系上級職のカンストとギャンブルで合計100億リル稼ぐことの二つである。ちなみに、この“稼ぐ”というのが曲者で、負けはそのままマイナス換算される。俺は、奴との勝負で50億リルの大勝ちをしたため、ついにこの条件を満たすことができた。
「そうですか、あなたが次の・・・ あなたが誠実なギャンブラーであることを祈ってますよ」
「あぁ。次はテーブルで会おう」
看破で見抜いた役人のジョブは、【大賭博師】だった。
(=ΦωΦ=)<あとがき、つまり僕の出番!
(ФωФ)<やぁ、チェシャさん。久しぶりですね。
(=ΦωΦ=)<君は・・・!
(ФωФ)<皆が気になる自分の正体は置いておいて、オリジナルエンブリオの紹介だよ!
(=ΦωΦ=)<いや、置いておいちゃダメでしょ・・・
【置換刻印 オグナンジェ】
モチーフ:ナイジェリアに伝わる取り替え子、『オグナンジェ』
type:アームズ
特性:物質交換
元【伝説賭博師】ロットン・マルコムの保有する、
小さなリング状のエンブリオ。予めリングに触れたものへ刻印を付けておくことで、手元にある同質量のオブジェクトと、刻印を押したアイテムを入れ替えることができる。アイテムボックス内のものでも、問答無用で入れ替えることが可能。
必殺スキル:
手元の入れ替えるオブジェクトに空気を選択可能とし、(ゲーム内時間で)24時間以内に一度見たことがあるアイテムなら刻印を押していなくとも交換可能とする。また、空気を選択する場合、交換対象と同じ質量の空気を交換対象と同じ体積まで圧縮してから交換を行う。
(=ΦωΦ=)<これまた、完全に盗賊系みたいな能力だね。
(ФωФ)<そもそも、こいつ何で賭博師系やってたんだ? 盗賊系でもやってりゃよかったのに。
(=ΦωΦ=)<【
(ФωФ)<あぁ、ただ単に超級職に就きたかったから自分のできそうな奴狙っただけなのか。