ラのWonderlandへご案内~   作:常盤@拡声器

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ジャックはプリマを捕らえた。旧友にメールを送ったところから世界は狂い出す。

(概論先生は大学編の空耳から取って名前を小泉にしています)

※ラのつくコンビの世界をごちゃ混ぜにしたパラレルな小説です。なんでも許せる人だけご観覧ください。
お題くれた方、ありがとうございました!期待に応えれたかな…


採集と小宮山と概論と

お題

 

・採集

・新・旧小宮山しんたろうた

・現代片桐概論(高校編)

(シリアス路線で)

 

 

 

 

俺は、何の障害もなくプリマを手に入れた。全て思い通りに動いた。簡単に手に入れてしまえた。

眠っているプリマの身体を卓球台の上に運んで、手足を固定した。さっき睡眠薬投与したから、外部からの強烈な刺激がない限りは起きない。効果が自然に切れるまでには2時間はかかる。

もう、完璧すぎるほどの舞台だ。

「…えらく簡単だったな。笑っちまうほどに。………、」

あとはもう消毒して解剖して中身を全部取り出して洗浄して綿やらなんやら詰めて縫い合わせりゃあ…剥製が出来上がる。

「…俺にとっては、これが最後の願望になるんだよなぁ…、お前が手に入ればもう、何も望むものがなくなっちまう」

………俺の最高の友達、プリマ。お前が最後の願望。

「……ふっ…なんでアイツの顔なんか思い浮かんじまったのかなぁ…久々に、…か」

俺は旧友のとある奴にメールを送った。

そっと電源を切り、俺はその場にうずくまった。

 

✄--- ---✄

 

 

♪~ティロリン

殆ど連絡を取らない旧友からのメールが来たのは俺が高校の教師の仕事終わりでそろそろ風呂に入ろうかとしていた時だった。

「…あ?誰だぁ〜こんな時間に……ジャック…?」

まさかコイツからメールが届くとは思っていなかった。卒業して以来メルアドを教えてはいたものの連絡が来ることは一度もなかった。

のに、こんな時間に…しかもなんだ?内容は

 

<件名:なし

本文:体育館にこいよ。俺もプリマもまってる>

 

…体育館…って、あそこでいいんだよな、俺らが卒業した…。…んー、酔ってるような文面じゃあないな。これから飲み会か?

「…んあぁーーっ!…なんなんだ一体…、こんな時間に!終電も終わってるような時間だぞ…?眠たいし行きたくねぇなぁ」

断りのメールを返信しようと思って文を打つ。

 

<件名:なし

本文:無理だな。こんな時間に呼び出すなんて常識を考えろ、日付越えそうじゃねえか。飲み会ならまた今度に_

 

「……、」

手が止まる。無意識に手が止まった。

 

<件名:なし

本文:_

 

全部消した。行かなきゃいけないような気がした。

「…ジャックからの呼び出しねぇ。お高くとまりやがって。残業終わりの高校教師を呼び出すなんてなぁ?…えーっと?一応これも…かなぁ…?」

ジャックへの返信はせずに俺は必要なものをバックに詰め込んで車へと乗り込んだ。まぁ明日は土曜日だし、そんなに急いで帰ってくることもねぇか。エンジンをかけてスピード違反ギリギリでぶっ飛ばす。母校はここからそんなに遠くはない。高速使えば30分くらいだ。俺は小銭を白衣の胸ポケットから出して高速へ乗った。

 

✄--- ---✄

 

 

「いやはや!着きましたよ!私が担当している応用雑学部の!聖地!!ここは私小宮山が応用雑学部を発足した場所なんですねぇーえぇえぇ。うんうん、いやぁしかし全然変わっていないなぁ~あの廃れた感じの校舎!二階を見てください!今にも崩れそうでしょう!?あれねぇ、私が応用雑学部を発足してから、どの程度足場の板を抜いたら老朽した床は一階まで崩れるのか、というのを実験しましてね!?途中で教頭とPTAに怒られてやめちゃったんですよー、こう、ジェンガみたいで楽しかったんですけどねぇ!ここ抜いたら…あぁっ!……大丈夫〜!!みたいなスリルを味わっていたものですよ、懐かしいなぁ~!もう廃校になってるので侵入し放題ジェンガし放題ですよ!もうお気づきの生徒もいるでしょう?先週次回の内容をシークレットにしたのはここでジェンガをするためなんですよぉ!みなさん、張り切って床板を剥がしましょう!…あ、いつ下に落ちてもいいように防具は身につけていてくださいねぇ?えぇ、もし怪我なんてしたら応用雑学部の存続に関わりますからねぇ、私、小宮山はちゃぁんと剣道部から無断で防具を借りてますから大丈夫です。さぁ!みなさん!命を賭してレッツジェンガーー!!!…………と、今度の応用雑学部の仕切りはこんな感じでいいかなぁ~?う~ん、完璧だなぁ、えぇ、心配だからこうして夜中に1人で見に来たわけなんですけどもねぇ?はーい誰もいなーい、あっはっはっはっはっ…。小宮山、今、孤独山…あっ、上手い…!……はぁー、こんなもんでしょう。よし」

私は今、明日の準備と下見のために母校に来ている。本当に懐かしい限りだ。ここで教科補助の先生をやっていた時に、応用雑学部の発足を認めてもらえたんだったかな。あの頃はまだ何も知らない私と生徒でただ毎日を楽しく過ごしていただけだったなぁ。雑学と応用雑学の違いから教えて、今よりももっと科学的というか、理科的なことをしていたのを覚えている。今のように雑炊作ったりコロッケを作ったりなんて幅広くやってはいなかったものだ。

例えば、カエルはどのくらいまで解剖したら死んでしまうのか、とか、剥製を作るにはどの作業からやったらうまく出来るか、とか、今思えば調べれば出てきそうなことをやっていた。その頃は分からなかった事だが。

「明日の下見は大丈夫そうだな、あ、私だけ完全防備というのはクレームが来ること間違いなし…。もしも落ちた時のために下の教室にはマットを用意しなくては!マットー、マットー…あ、体育館倉庫とかにあるかもしれないなぁ、何枚か重ねればいい跳ね具合になるかもしれない、疲れた生徒はそこに寝かせておくことも可能!便利!万能ねぎ程ではないが便利だ!マット!よし!取ってこよう!」

校舎からさほど離れていない体育館。その横にピッタリくっつくように建てられた体育倉庫。そこへ向かう途中で、白い影を見た。

「…幽霊…!?」

もしや!?幽霊だとしたら!?私はなんてラッキーなんだ!追いかけよう!インタビューすることは沢山ある!

「…おやぁ…?幽霊…じゃなぁいですねぇ…?」

よくよく見たらただの人の背格好に見える。あれは白いのは白衣かなぁ…?うん、白衣だなぁ、うーん、残念だ。だがしかし、何故こんな時間にここに白衣を着た人がいるんだろうか?

「なるほどぉ…、はいはいはいこれは乗りかかってしまいましたねぇ。謎を暴かなければ小宮山は帰ることはできませんねぇ…まずは情報収集ということでついて行こう」

こうして、私小宮山の尾行が始まったのです。なにやらそのまま私と同じように体育館へ向かってる様子、これは好都合だ。

 

✄--- ---✄

 

 

やべー、めんどくせぇやつが着いてきたぞー?あーあー、どうしたもんかね。さっさと対面して別れた方が賢明だな。よし、

「…はぁ、めんどくさいけど、…おーい!後からついてきてるやつ止まれー」

俺は振り返らずにそう言った。すると、めちゃくちゃ簡単に草むらから例のめんどい奴がひょっこり出てきた。

「なんでわかったんですか!」

出た、そうかなー?って思ってたらやっぱりコイツだった。全然かわってない。

「先生の目は…、後ろにもついてるんですよぉ…?」

「なんと!素晴らしい!さっそくやってみたいことがたくさん浮かんできた!背後の目を使って沢山応用雑学を発見していこう!」

……あぁーやっぱりめんどくさいやつだ。このノリを忘れるわけがない。

「…なぁーーんちゃってぇ……ふっ(笑)後ろの目なんて冗談ですよ、小宮山先生」

「え…?君、私の名前を知ってるんだねぇ…?どこかで会ったような…うーん??」

完璧に忘れてるようだな。仕方ない、変な嘘をついても後々めんどくさいだけだ。

「覚えてないんですか?ほら、俺ですよ、応用雑学部のパシリだった」

「……あー、あぁ!!小泉君か!思い出した思い出した、私の応用雑学部発足時のスタンディングメンバーだね!?初代の応用雑学部の子だったよねぇ!?いやぁ懐かしい!シンメトリーズの仲間入りを果たせない私と同じようにどんなに簡略化された字でも泉のセンタージョイントがねぇ…!」

このテンション、未だ継続中なのかよ…、こいつのいる学校何処か知らないけど生徒は毎日こんな奴の相手して大丈夫なのか…?

「…あは、えぇいやぁお懐かしい限りですよ、小宮山先生はどうしてここに?」

めんどくさい話は全部カットだ。単刀直入に聞かないとコイツは余計な話を膨らませて全く話が進まないんだ。

「おっと、(咳払い)…それがですね、母校で小泉君たちの世代でやっていた懐かしき校舎ジェンガを再びやろうと思いましてね!?今私が受け持っている大学の応用雑学部で明日やろうと思って下準備中なんですよ!で、今から体育倉庫にマットを取りに行こうとしていたところで小泉君を見かけたってわけなんですよ」

「敬語かタメかどっちかにしてもらえませんかね…」

「昔からどうもね!入り交じってしまうんですよこれが!」

なるほど、小宮山先生はジャックに呼ばれたってわけじゃないんだな。呼ばれたのはあくまで俺だけか…。でもコイツも別件で体育倉庫に行くってことは、どっちみちジャックたちと会う羽目になるな。何をしてるか知らないが、…問題ないだろう。

「俺も体育館に行く途中なんですよ。ここで話すのもなんでしょう、やっぱりここは田舎だ、冷える。体育館でゆっくり昔の思い出でも」

「いいねぇ!昔から歳上に気を使える小泉君、未だに健在ですかぁ!はぁそりゃあ良かったぁ、一生大事にしてくださいねぇ?そのスキルはいつまででも使えますからね?」

「言われなくても。ほら、行きましょう」

俺もなぜジャックに呼び出されたのか分からない。まぁ、昔から少し変わったところのあるやつだ。今はどうか知らないが、会って確かめないことには…。

そこまで距離の無い体育館へ俺と小宮山先生は歩を進めた。

 

✄--- ---✄

 

 

それほど長くは無いはずだが、どれくらいこうして1人うずくまっていたんだろうか、重たい鉄の扉が開いた。

「…やっと来たか、小泉」

顔を上げてその人物を見つめる。…あれ?

「二人…?」

逆光で良く見えないが片方は間違いなく小泉だろう。あの歩き方はそうだ。それにしても隣のヤツは誰だ?

「あぁーー!!君は一目でわかるねぇ!ジャック君!!なんて言ってもその変わらない天然パーマ!メガネ!いやぁ懐かしい!」

うわあぁ走ってきた、ハイテンションだ、…思い出した、小宮山先生だ…。応用なんちゃらの顧問してた、俺とプリマと小泉で入ってたやつだ…。

ばつが悪そうに小泉がしかめっ面をしている。

「小宮山先生…、なんでこんなところに」

「それがですねぇ?先程小泉君にも話したんだけども、あそこの校舎を

「あー、俺から話す。から、先生はちょっと静かにしててもらえます?」

小泉からことの流れを話された。なるほど、偶然会ってしまったって感じのやつか。嘘をつくような先生じゃねえ。仕方がない。無理に帰しても怪しまれるだけ…っていうか、小宮山先生は乗りかかってもないのに乗ってくるやつだ、帰りそうもない。

小泉は一呼吸置いて続けた。

「……で、俺を呼び出した用件は?ジャック」

「………、」

「まぁ、後ろの卓球台で寝てるプリマとなんか関係があるんだろうなぁ」

「そうですねぇ、プリマ君は先程からずーっと寝ていらっしゃるようだぁそんなところで寝ずに体育倉庫にはマットがあるから敷けば多少は卓球台よりは寝心地がいいと思うんですよねぇ!」

「先生ちょっとホントに1回黙ってください」

「おっと…私黙った方がよろしい…?…はぁいはいはいはいなるほど、了解でございますよー?お口チャック。」

うるさい先生も黙った。…この状況を先生にも説明しなきゃいけないのか…めんどくさいな。俺は立ち上がって卓球台に軽く寄りかかった。

「来てくれてありがとうな、小泉、と、…先生も、予定外だけど。あの、先生はホントに喋らないでくれ話が進まない。いいかな。……えっと、プリマがなんで卓球台の上で寝てるかっていうと、な。俺がこれから剥製にするからだよ」

「……!?」

「……なっ…」

驚愕の表情を浮かべて黙る二人。まぁそんなもんだろう。

「お前…、昔から標本作るの好きだったもんな…。それで?今、剥製にまで進展して…?人間のを作ろうと…、ってことか」

「そうだよ、…俺は標本じゃもう足りなくて、剥製にシフトした。…いろんな剥製を作ってきた。学校で飼っていた鶏も兎も剥製にした。やっぱりさ、ヒトの剥製が作りたいって思うんだよ。だから、手を出した、…標本でやってたようにツガイで。マドンナと、プリマ。お似合いだろ?実はな、もうマドンナの方はやっちまったんだ。先週呼び出してもう、剥製に。ほかの動物と容量違うこと多くて手間取ったけど、出来た。…多分、俺はプリマを剥製にしたらもういいんだ。だから、最期を懐かしい友人に見てもらいたくて呼び出したってわけ。…まぁ、予想外で最期を飾るのに相応しいメンバーが集まったけどな。応用雑学部の初期メンバー、小宮山先生、小泉、プリマ…俺」

小宮山先生は目線を泳がして言葉をみつけようとしている。小泉はずっと俺をしかめっ面で見ている。

「終わりだ終わり。ここで始まってここで終わろう。見てってくれるよな?旧友が剥製にな

「…ふざけないでもらえますか…!」

俺が全ての言葉を言い終わる前に小宮山先生が言葉を発した。聞いたこともない低いトーンに混じった怒りに、俺も小泉も動けなかった。

こんな声…出せるのか…あんな能天気なヤツに…

「確か、最初に君に標本のやり方を教えたのは私でしたね、応用雑学部でそれぞれのやってみたいことを聞いて実行に移して皆一緒に簡単な標本を作った…!…趣味が高じたのは分かります、そのまま好きなことを続けているのは大変素晴らしい事だ、だけど!!……バレたら捕まってしまうようなことはしないで欲しかった…、確かにヒトだってほかの動物同様ただの命だ!ほかの動物がよくて何故ヒトはやっちゃいけないんだと思うかもしれない でも!!…結果として意思疎通のできる友を犠牲にしてまで自分の願望を叶えるのは…違うでしょう…?私が…教えてしまったから、ごめんなさい…すみません……君も悪いように、私も、悪いんです…、もう、やめにしましょう…?ジャック君…!」

なんでこの人がこんなにも熱弁を振るうのか、なんでこの人がこんなにも泣きそうな顔をしているのか、なんでこの人がこんなにも怒りに混じって声を震わせているのか、…痛いほど分かった。伝わってくる。止めたい一心と、それを教えてしまった自分への罪の意識。

「先生…先生は、悪くないんだ、俺が一人でやったことだ、なんで先生が泣くんだよ…!そういうのは、俺が一人で悪者でいいんだよ!じゃねぇと、俺だけが悪いで終われたのに…!」

なんでか俺も泣いていた。涙がなんでか溢れてきて、止まらなかった。服の袖で何回も拭いたけど、止まることはなくて、声にならない声が漏れた。

「…ジャック、本当はお前、止めて欲しかったんだろ?」

「…小泉…なんで…っ、」

小泉は軽く笑った。

「ふっ…分かるんだよ、昔からお前がやりすぎることを止めてたのは誰だ?ん?お前を止めるのは、…プリマと俺の仕事だったろ?」

気づかれていた。俺は昔からなにも変わってない。成長もしてない。周りのヤツを巻き込んで自分のやりたいことを優先して、結局ワガママのままずっと生きてきて体だけ大きくなってしまっていた。

小泉にメールしたのも本当は止めて欲しかったから、そうだ、その通りだ。もう自分じゃ止めることができなかった、プリマを殺したくはない、でも俺の願望はプリマじゃなきゃ達成できない、どうすればいいか分からなくなった、だから…

「…ジャック君、君は、良い友達をもっています。ちゃぁんと止めてくれる、良い友達を。……君の願望は、ひとまずここで終わりにしましょう、プリマ君を、起こしてくれますか」

俺はようやく涙が止まったから、先生の言葉に頷いてプリマを固定していた器具を外して、プリマの上半身を起こした。背中を強めに何度も叩く。薬を投与してから1時30分は経っているから、この程度の刺激で起きるはずだ。

「…………ん……?」

「おはようございます、プリマ君」

まだ目が虚ろなプリマに優しく優しく声をかける小宮山先生。プリマはまだ頭が起きてないようだった。

「なん…こみ…や、せんせ…?」

「こみやではございません、小宮山ですよ、懐かしいやりとりですねぇ」

だんだん頭がはっきりしてきたプリマは、隣にいる俺を見てビクッとした。目が怯えている。無理もない。

「ジャック…、お前、なんで、俺を殺し…ん?小宮山先生も…?え!?…え?小泉??なんで居るんだ!?」

「話したら長いんだけどな、俺はジャックに呼ばれて来た。小宮山先生はたまたまこっちに」

「あぁ…ぁ…、そっか、たまたま…ちょっと、整理する時間くれないか…」

プリマが頭を押さえながら整理をしている間、俺も気持ちを整理していた。俺は、これが終わったら自主しにいく。マドンナは何をしても戻ってはこない。俺が犯したことは、ちゃんと償わなきゃいけない。自主で償えるとは思ってないけど、せめて、それだけでも。

「…よっし…、プリマが落ち着くまで、俺飲み物買ってくるわ。さっき来る途中にここからはちょっと離れてるけどまだ開いてる店あったからさ。でっかいペットボトルので良いよな?紙コップも買ってくるわ。せっかく集まったメンツだ…、1杯軽く、どう?」

「いいですねぇ!応用雑学部初期のスタンディングメンバー、次いつ会えるか分からないですからねぇ、買い出しをお願いしてもよろしいですか」

「そんな恭しく言わないでいいですよ、…じゃあ行ってくるな、ジャック。あー、と、10分くらいで戻る予定」

「あぁ、ごめんな、ありがとう」

小泉は軽く走って外へ出た。車のエンジンをかける音、走っていく音が消えていった。

「えーっ…と、なに?俺の最後の晩餐…?」

苦笑いしながらもプリマの目は笑っていなかった。

「違うよ、…ゴメンなプリマ。俺、本当に取り返しのつかないことをしようとしてた。…本当にごめん…!」

俺はプリマに頭を下げた。いや、それだけじゃダメだと思って、土下座をした。散々怖い思いさせて、本当に殺そうとして、…今更謝って。

「許してくれなくて当然だよな、こんな事しちまったんだから…お前がどういう答えを出しても、俺は全部受け入れるから!…だから、本当にすみませんでした…」

また目の前が滲んできた。鼻をすすりながら体育館の床に頭をつけていた。無言の時間がやたらと長く感じる。

「………いいぜ、ジャック。頭…、あげてくれよ」

「……」

俺はゆっくりと頭をあげた。でも顔は見れなかった。

「……許すよ。お前は、ずっとそういう趣味だったから。結果として、俺は生きてるんだからな、あーあーあーほら、もうそんな顔すんなよ…」

卓球台から降りたプリマはよろけて体勢を崩した。まだ上手く身体が動かなかったらしい。

「あっ、プリマ君!」

小宮山先生と俺が咄嗟に身体を支えた。そのままゆっくり床に座らせて、俺とプリマの目線が一緒になる。俺は、やっぱり顔を見れなかった。目を合わせるのも、無理だった。言葉を発そうとしても上手く言葉が出てこない。

「…許すことってさ、意外と簡単なんだよ。俺もさ、お前も、先生も、もう働いてるから分かるだろうけど、どこにいても理不尽な人に出会うことってあるよな。お客さんだったり、生徒だったり、隣の部屋の人だったり。…嫌なことされたり態度悪かったりすること、あるだろ?でもさ、ずーっとずーっとその人からされた事を根に持って生きるのって疲れると思うんだ。…そりゃあすぐには許せないけど、でも、許す行為は簡単なんだよ。だから、俺は、お前を許す。ってことでいいんだよ」

「…プリマ…」

プリマは、今度は笑っていた。いつも見るプリマの笑った顔だった。

「それに、楽しかった思い出の方が多いんだ」

「…プリマ…お前…どんだけお人好しなんだよ…」

つられて俺も笑ってしまった。さっきまでの雰囲気から拍子抜けして身体の力が抜けた。

「おや?車の音が聞こえてきましたねぇ…!台の上を片付けましょう、小泉君が飲み物を買ってきてくれているはずですから」

エンジンの止まる音が聞こえた。ドアを閉める音が聞こえ、体育館の扉が開いた。

 

 

「では、乾杯と参りましょう!はいー、準備準備ー、のーみーもーのーはー、えーっと?」

「あぁ、俺が好きなのしか買ってないから1.5ℓの午後ティのミルクのやつしかないぞ」

「まぁまぁまぁ俺は飲めるから別にいいけどさ」

「俺も好きだから、大丈夫だよ。紙コップ配ろうか、ジャックちょっとその袋取ってー」

「はいよー」

「……っしょっと、キャップ硬ぇな。はい、コップかしてー」

「あれ、小泉お前気が利くなぁ。お菓子も買ってきてくれてんのかー、おーっと?これは、…ばかうけか。懐かしいなぁー!」

「さぁ!さぁさぁよろしいですかな?ごほん…、ぇぇええ、それではぁぁ!応用雑学部発足時のスタンディングメンバーの再開を記念いたしまして!みなさんコップは持ちましたかね?…よし、かんぱーい!!」

「はい、かんぱい」

「かんぱい!」

「かんぱーい」

それぞれ手に持った午後ティを一気に飲み干す。たまに飲むと美味しいな。二杯目以降はそれぞれが注いでいく。

「小泉ぃ相変わらずのテンションの低さだな!」

「まぁそういうなよ、プリマ」

「今、二人はなにやってんの」

「えっとな、俺は中学教師の理科担当」

「俺は、東京で花屋やってる」

「ジャックは相変わらずって感じだな」

「まぁなー」

「プリマ君は、なんというか予想外ですねぇ!花屋をやるようなイメージがありませんでしたもんでね!?」

「あはは、よく言われますよ。そういう先生は、今もどこかで教師を?」

「はぁいー!大学で応用雑学部を担当しています!」

「ほぉー、先生も変わってないっすねー!」

「で、小泉って今何やってるんだっけ」

「…ん?あぁ、高校で教師してる」

「はぁー!高校教師をしてるんですねぇ!いいですねぇ!高校教師、一番扱い易い時期の生徒達だ!」

「そうですねぇ、何人か言うこと聞かない奴もいますけど、基本的に素直な奴らばっかりですよ」

「で、何の担当教科なの?」

「あぁ、えっと、現代片桐概論って、知ってる?」

「現代片桐概論ですか、聞いたことはありますよぉ~!世界に生息しているカタギリを学問として確立させた分野ですね?」

「先生よく知ってんなぁ~。俺カタギリは知ってるけど現代片桐概論なんて名前聞いたことなかったわ」

「俺は少しなら聞いたことあるくらいの程度かな。生徒がそっち方面の教科がある高校に進学しようとかなんとか言ってた記憶がある」

「やはり教師として生活していないとこういった学問の情報は聞きませんよねぇ。かく言う私もその分野に踏み入ったことはないんですけどね?いやぁ楽しそうだなぁ~!」

「具体的に、どんなことやんの?」

「ん~、カタギリの生活とか種類とか、カタギリと人間の歴史とか、…まぁカタギリに関することについて学ぶ教科だな」

「へぇ~そんな感じなんだ、俺らが中学とか高校の時ってまだなかったもんな?なんで、現代片桐概論の教科になったんだ?」

「…そぉだなぁー、純粋に、興味があったんだ。で、専門行って免許取って、教師になった。一応、ここで応用雑学部で学んできた中で俺も生物系のことに興味持ってたからな」

「おっ!嬉しいですねぇ!…やっぱり、どんな形であろうと、私と共に学んできたことに興味をもってくれている事実、えぇこれがとても嬉しいんでございますよ!」

「えぇ、ですからねぇ…?俺が今興味を持ってるのが、……剥製作りなんですよねぇ…」

 

と、小泉が言うのと同じくらいのタイミングで、俺とプリマと先生が膝から崩れ落ちた。なんだこれ…!手足が痺れる、上手く身体が動かせない…!座るのも困難で、俺たち3人は体育館の床に倒れ込んだ。

「んー、…まぁ効き目は正確だな。っと…、俺のバッグの中に~…あった、…よし」

独り言を流れるように垂れ流す小泉。表情は恐ろしいほど一定で感情が読めない…、これは、どういう状況なんだ!?

「…こ、小泉君!?なにを…、したんですか!?」

「めちゃくちゃ痺れて動けね…ぇ、力入んねえしよ…」

小泉は自分のバッグの中でゴソゴソと何かをしながらこっちを見ずに答える。

「あ?分かんない?じゃあー、…最期だし教えとくか。俺もね?現代片桐概論担当してるとさ、いろんなカタギリの剥製見るわけよ…、んでさ?カタギリもヒトも外見はほぼ一緒なんだよ…で、思うんだ。外見がここまで似てるカタギリとヒト、カタギリの剥製があるならヒトの剥製だってあっていいと思うんだよ。俺はそこに大差はないと思ってるから。…と、よし、これでいい」

「…!?や、やめろ!」

「小泉君…!やめなさい!」

何かの液が入った注射器をこちらに向ける。抵抗のできないプリマと小宮山先生の首に刺し、やがて二人は深い眠りに落ちた。つぎは、俺の番か…

「まさか剥製作ろうとしてた俺が剥製にされるなんてな。笑えるわー…」

「ん?ジャック、お前は剥製になんてしないぞ?」

「え?」

バッグの中から別の注射器を取り出して俺の首に刺す。痛かったが痺れが取れて動けるようになった。

「ちょっとまて…!なんで、?お前、一緒の飲み物飲んで…しかもコップは紙コップ…俺とプリマが取り出して…!飲み物だって!最初にお前が…いや!でも、二杯目からは俺たちが…あれ…?」

「説明しなきゃいけないか?…あー、えっとな、俺は車の中で先に解毒剤を飲んでた、つまり身体の中に抗体があるわけだ。午後ティのペットボトルに注射器で、簡単に言えば痺れ薬をわかりずらい位置から入れる。俺がそこをバレないように1発目開ければあとは簡単に開くからな。薬のトリックは至って簡単だ。まぁ?若干俺も痺れてはいたけどなー。…そりゃあこんな時間に?なぁ?呼び出されたら怪しいって思うだろ?必要になった時のために持ってきてたんだよ、一応な」

注射器を片付けながら小泉は続ける。

「剥製さ、お前に手伝ってもらおうと思って。現にお前は人殺しなんだ。もう一人二人も変わんないだろ。お前には剥製を作る才能がある。ってか、ずっと作ってたんだろ?」

「え…、お前…、さっき俺のこと止めてくれ…て、」

「演技に決まってんだろー…?1回この状況作り出さねぇと都合が悪くなるだろ?それに、お前、昔から物事を画にしたがるからさぁー、どう?画になっただろ?ふっ…(笑)…いやぁしかし、ここまで上手くことが運ぶとはおもってなかったし、お前が剥製作りするために人を殺ったことも知らなかった…が、こんなに美味い状況、利用しないのはバカがやることだ。せっかく舞い込んだチャンス…、逃す手はない。ほら、手伝え。剥製にするの。やっと俺の研究室にも剥製が増えるぞー。剥製なんて買ったら高いからなー。この間も生徒がカタギリの剥製に落書きしてジフで洗ってさぁー…」

小泉は一人で卓球台の上の片付けをしている。

俺は、身体の痺れは取れていたのに、俺はもう動けなかった。

そりゃあそうだわな…そうだ…!俺が今までやってきたことを考えろ、いろんな動物殺して、挙句の果てに人1人殺して…!救いがあるはずがないんだ…はははは…、救われねぇや…。

「…おい、なにやってんだ?ダラダラしてる暇はないぞー?…あぁ、使えないんだったらお前もここで剥製にするから」

「…えっ…?!」

思わず後ずさりした俺に、小泉は口の端を上げて言った。

 

「…なぁーーんちゃってぇー……」

 

夜の体育館には小泉の足音が響いていた。

 

 

 

END




いやぁ長かったですね。余計なこと書きすぎたり文のつながりがおかしいかもしれませんが大目に見てやってください。プリマの出番が超少なかったですが、良い事言わせたので許してください。えー、ジャックの思い描く画になるような舞台を書けたのだろうか。とりあえず小宮山先生がうるさくて仕方なかったですね。あー書き終わったらお腹空いたー!
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