お題
・銀河鉄道の夜のような夜
・採集
・アトムより
僕は、機関車の中に居た。
届いてなかった牛乳を取りに行った帰り道だ。こんなに遠いのもなかなかアレだけど、仕方がない。ちゃんと明日からは届けてくれるって約束もしてきたから、大丈夫だろう。
牛乳瓶が2つ入った紙袋を隣の席に、僕は機関車の中で座席に座って窓の外を眺めていた。
車内には、僕の他に2組。帽子をかぶってはしゃいでいる人とそれを諭した感じで相手してる人で1組、僕にさほど離れてないボックス席に座っている。二人とも落ち着いててポツポツと喋っているもう1組の方は僕より少し離れた対角線上のボックス席にいる。こんな時間に乗ってるのは珍しい。僕に近い方の1組の会話が聞こえてきた。
「いやぁ~冨樫くん、大マンモス展は面白かったろわいよ!」
「そうだなぁ。思ったよりおもしろかったな」
「のす!俺は冨樫くんに貰ったカメラで沢山写真を撮ったのす!帰ったら現像するのすよ~!」
「ほらほら、あんまはしゃぐなよ、人が少なくて静かだから、声が響いちゃうだろ」
「冨樫くんは神経質のすね~。冨樫くん、神経質という文字は」
「書けないんだろ」
「違うのす」
「えっ、書けるの!?」
「神経質という文字は、三文字のす」
「うん、知ってるぜ」
どうやら、どこかに行った帰りらしい。他愛のない会話をしている。大マンモス展ねぇ…どこで行われてるんだろ…。マンモス…って言ったら大昔だもんなぁ、氷漬けで地下から出て剥製とかが展示されてるってわけか…。大昔っていうと発掘しないとわかんないよなぁ。恐竜の骨とか、そういう化石…、発掘…行きがけに見た発掘現場を思い出すなぁ。その時、
「…っつぅ!?」
突然頭痛がした。普通の頭痛ではない、なにか思い出そうとしたらそれに反応するかのような痛みだった。…僕は何かを忘れているのか…?頭が痛い…
「冨樫くん、今度は、俺の好きなバンド、ダイアナソウルズのライブを一緒に見に行くのす!きっとかっこいいだろわいよ~…ズンジャカジャカ!ジャーンッ!って感じのす!」
「だぁかぁらぁ、周りの人の迷惑だろ?あとで考えといてやるから大人しくしてろって」
ダイアナソウルズ…?っ…!まただ…、ひどい頭痛だ…。なにか、僕は思い出さなきゃいけないことがあるんじゃないのか?僕は何を忘れているんだ?ダイアナソウルズ…は、確か、前の祭りの時に来てくれていたバンドだったはず…その時、僕は曲も知らなかったけどノリで友達と一緒に大声で叫んで歌って…
「…友達…って、誰だ…?」
誰が隣にいた…?あの時、僕の隣で一緒にはしゃいでたのは…誰…?なんで思い出せないんだ!?僕が忘れてるのは、誰か…なのか。なんで隣にいたはずの奴を思い出せない…?頭が痛い、思い出せない、頭が痛い…思い出すことはやめた方が…いいのか?
「のす!そのライブが終わったら、芸術家金村アンナの大版画展を見に行くのすよ!夜遅くまでやってるのす!」
「どうせそれもお前はでっかい木版画があると思ってんだろー。ったくさぁ、俺はそんなに暇じゃないんだよ」
金村…アンナ…?カネ…む、ら、………???
かねむら……???
------------- ト キ ワ ---------------
「……うぁっ…、うわああああああっ!!!ああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!ああああ!!!!!!」
思い出した、思い出した、僕は、ずっと一緒だったのは金村だ金村なんだなんで今まで忘れてたんだ!!僕は金村と一緒にいろんなところへ行って色んなことをやっていろんなことで笑ってはしゃいでバカやってなんで……!!!!どうして忘れていた……!??あんなに大事な友人…親友なのに!!!何故!??
頭を抱えてうずくまる。呻き声と嗚咽が混ざってよくわからない声が漏れる。涙で視界が滲む。金村…ごめん。ずっと忘れてた、お前のこと…ごめんな、ごめんな、本当にごめん……
「だ、大丈夫のすか!?冨樫くん!どうするのすか!?」
「あんた、どっか悪いのか!?大丈夫か!?」
近くにいた二人が心配してきてくれたようだ。乱れた呼吸を落ち着かせて、少し経ってから言葉を紡いだ。
僕が落ち着くまで、二人は待ってくれていた。
「…はぁ、お騒がせしてすみません、思い出した途端に…」
「思い出したら、泣いちゃったのすか?」
「はい…あの…ずっと一緒だった人を僕、忘れていた…みたいなんですよね…。信じられないかもしれないけど…」
「一緒だった人?友達か?」
「はい…。ほんとに大事な人だったんです…いや、今でも大事な…親友です。昔から一緒で、…どこに行くにしても一緒に…」
思い出していたらまた涙が滲んできた。袖で拭いながら、言葉につっかえながら状況を説明していく。
帽子を被った人が前のめりになって聞く。
「でも…なんで忘れてたのすか?」
「なんで…でしょうね。分かりません。でも、これだけは分かるんです。…きっともう、アイツには……会えない」
「それは…どうしてですか?」
そう、僕には薄らと分かる。何故か、確信がある。金村にはもう、会えない。ずっと一緒だった人を忘れてしまうほど、記憶の中からも消えてしまっている…ということは、アイツにはもう…。
「分かるんです。確固たる証拠はありませんが…何となく。どこにも居ないってことが。……分かります?あの…、ずっと一緒だった人が、突然記憶からも何もかも居なくなってしまう、その辛さが」
涙を浮かべながら、僕は笑うしかなかった。
世界のどこにいたってもうお前はいないんだから。
冨樫くんと呼ばれていた男性は悲しそうにして言う。
「まだ、そうなったことは無いからわからない、でも、俺は絶対さみしいと思うな」
「そうのすねぇ冨樫くん。俺は冨樫くんのことを忘れたくないだろわいよ、ずっとずっと記憶に残しておきたいのす」
「そうだな、ノスに不具合がないようにこれからも定期的にバックアップと整備をやんないとな」
「…え?バックアップ?整備…?」
ノスくん(?)と冨樫くんはお互いを見て、ニコリと笑い言った。
「ノスは機械でできてるんだ。ノスみたいな機人は他にも販売されてるんだよ。バッテリーで動いてて、色んなタイプがある。飛べるやつから、泳ぐのが早いやつまで。まだ一般家庭用のは高額だから普及はしてないけど、あ、ほら、鉄腕アトムはノスと同じ機人だよ」
「え!?あ、そうなんだ!?アトムと同じなんだ…」
ノスくんは嬉しそうに笑って答える。
「のす!だから俺はたまに止まるのす。そのたびに冨樫くんからバッテリーを交換してもらってるのす」
「そ、だからまぁ、記憶は絶対に媒体としては無くならない。…でも、どんな瞬間にいきなり全部吹っ飛ぶかなんて、機械でも人間でも分からないからな。…俺は、仕事が忙しくてもノスが居てくれるからだいぶ癒されて助けられてるんだ」
「…なるほどね。…いいなぁそういう関係、人と機人の間に憚りがないってのは」
と、アナウンスが流れてきた。僕が降りる駅だ。
牛乳瓶の入った紙袋を手に取り、席を立つ。
「僕、ここで降りなきゃ。…お互いを大事に、どうか…。あはは、僕がいうような事じゃなかったですね。さて、行かなきゃ」
「もう大丈夫のすか?」
「はい、ありがとうございます、こんな話を聞いてくれて」
「いや、俺にとってもノスにとっても、お互いを考えられたいい時間でしたよ。貴方も自分を大切に、…あと、思い出せたことは貴方にとっていい事でもあるし悪いことでもあるんだ、きっと。あまり思いつめないで」
「……ありがとうございます、…では、またどこかで」
ばいばーいのすー!という声を背後に聞きながら、僕は機関車を降りた。
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「……あの人、なんか、…うん」
「なんだよ、プリマ。所詮は他人の言ってる事じゃないか」
「…でも、友達が急に居なくなったら…悲しくない?」
「そうねぇ、ま、お前はそうかもな」
「なんだよ、お前は違うのかよ」
「慣れたって感じかな。…居なくなって欲しくないならずっとそばに居させりゃいいんだ」
「ふーん、まぁそれもそうだな。…でも、俺は、ジャックがいなくなったら…すげぇ悲しいと思うな。うん、悲しい。し、寂しい。しかも突然頭からお前が消えんだよ?…話せなくなると思うと一気にこう、なんて言うかな。上手く言えないけどな」
「…………あ、プリマ、俺、思い出したわ」
「ん?」
「体育館、イタチが入り込んで好き勝手しちゃってたから散らかってて使えないんだったわ。俺の家で宅飲みでもしよう」
「ぷっ…はぁ!?なんだそれ、さすがド田舎だな!あーでも、お前ん家で宅飲みもいいなぁ!」
「だろ?俺も一人暮らししてるし、騒いでも大丈夫だぜ」
「よっしゃ、今日はオールで飲み明かそうぜ!」
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機関車を降りて、自分の家へ帰っている僕の足は、何故か川の方へと向かっていた。
歩きながら、最後に金村と会った時のことを思い出していたら、アイツと最後にあった時に確かあいつは、
『そうか、だから俺の服はこんなにびしょびしょなんだな』
あれは、スコールなんかじゃない、だって僕も同じ地区にいたんだから。僕が濡れてないのはおかしな話だ。そして金村はどの方向から来た?思い出せば、川のあるこっちから来たじゃないか。
川で何があった…?あいつは、あいつはもしかしら…。
いつの間にか駆け足で息を切らしながら川に向かっていた。そして、着いた。僕らが小さい頃から遊んでいた川に。
遊び場としてよく使われるが、一歩間違えれば大人だって流されるような川だ。それにアイツは…運動が苦手で…
「金村…」
牛乳瓶の入った紙袋を川原に置いて、僕は引き込まれるように川の中に入った。深いところは僕の腰まで水深がある。今の時期の川の水は少し冷たい。冷たいし、服のままだから動きづらい。でも、僕は川の中をひたすら突き進む。川底を漁る。漁る、掻き分けて掻き分けて漁って掬って、……また歩いて…川底を攫って…
あるはずだ、あるはずなんだ。このどこかに、あの時金村が濡れていたのなら、本当に濡れていたのならばここのどこかに…
僕は川の中で立ち尽くした。
満天の星が散りばめられた夜空を仰いで、1人。
「無いよな…あははは!!!!無いよ!!そんなもん!!あったとしてもこんなところにあるわけがないよ!!!!……流されてるよ、きっと」
僕の目からこぼれたそれは、何の水だったのかわかる由もない。知らなくていい、分かりきっていたことだから。
ひとしきり笑ったあと、
耐えられなくなって、僕は、夜空に大声で叫んだ。
牛乳屋よりも遠くて近い、友に向かって。
END
はい、今回は銀河鉄道の夜のような夜と、採集と、アトムより、の3つのお題で書かせていただきました。
銀河鉄道の夜のような夜は大好きな作品でして、お題が来た時はまぁぁぁぁ嬉しかったですよ。やったるでぇ!思ってました。採集は相変わらずの人気ですね、また入ってますよ。アトムよりも好きな作品なので、ノスを和やかムード係でいれました(笑)
さて、今回の主役は銀河鉄道の夜のような夜の常磐です。機関車の中で紡がれるストーリーに終止符を打ちました。私なりに。思い出せたことは、ハッピーエンドでしたか?バッドエンドでしたか?メリーバッドエンドでしたか?どうでしょう?
さて、私の感想はここまでにして、あとがきながらここにもう1つのストーリーを書かせていただきました。本編では語られることのなかった人物の心境をつらつらと。こちらも本編に入れようかと迷ったのですが、語り手の主人公は一人にしたかったのでこちらの方に。
それでは、また次の作品でお会いしませう。
(。-ω-。)----------キリトリ線----------(。-ω-。)
俺らは、地元の体育館へ向かう為に機関車の中にいた。プリマと一緒に特別に何かを話すわけでもなく、静かに揺られていた。
「懐かしいなぁ…ここら辺」
プリマは独り言をつぶやく。俺はそれを聞いてはいるが反応はしない、そんな感じの空気感。
これから、俺はプリマを騙して剥製にする。その為にプリマに色々と嘘をついて地元まで帰ってきてもらったんだ。
あと5駅くらいか、と思っていた時だった。
少し離れたところで男性が1人突然叫び声とも呻き声ともつかない声をあげた。もちろんびっくりした。
「なに…!?どうした!?」
「わかんねぇ…覗くか」
あまり騒ぎを大きくしてせっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。ここまでどれだけの計画を練ってきたと思ってるんだ。
プリマと一緒にこっそり聞き耳を立てる。
経緯はよく理解はできなかったが、概要は何となく伝わってきた。
「……あの人、なんか、…うん」
「なんだよ、プリマ。所詮は他人の言ってる事じゃないか」
「…でも、友達が急に居なくなったら…悲しくない?」
急に居なくなったら、ねぇ。それを高校卒業後に都会に出ていったお前が言うのか。俺を置いていきやがって。
「そうねぇ、ま、お前はそうかもな」
「なんだよ、お前は違うのかよ」
「慣れたって感じかな。…居なくなって欲しくないならずっとそばに居させりゃいいんだ」
そう、そばに居させりゃいいんだ。ずっとずっとそばにいさせりゃいい、離れていかないように。
「ふーん、まぁそれもそうだな。…でも、俺は、ジャックがいなくなったら…すげぇ悲しいと思うな。うん、悲しい。し、寂しい。しかも突然頭からお前が消えんだよ?…話せなくなると思うと一気にこう、なんて言うかな。上手く言えないけどな」
プリマはそう言って悲しそうに笑った。
……話せなくなる。
…剥製にしてしまったら。
……2度と声も聞けない。
…………いずれプリマの声も忘れてしまう?
…それはもう、消えたことと同じ?
……違う、俺はプリマの剥製を作りたかっただけだ。
……俺の趣味のために、剥製にするだけ。
…本当に、そうなのか…?
本当は、俺は、プリマに…
ただそばにいて欲しかっただけだったんじゃないのか。
あぁーーー…そっか。
「………あ、プリマ、俺、思い出したわ」
「ん?」
「体育館、イタチが入り込んで好き勝手しちゃってたから散らかってて使えないんだったわ。俺の家で宅飲みでもしよう」
「ぷっ…はぁ!?なんだそれ、さすがド田舎だな!あーでも、お前ん家で宅飲みもいいなぁ!」
「だろ?俺も一人暮らししてるし、騒いでも大丈夫だぜ」
「よっしゃ、今日はオールで飲み明かそうぜ!」
明日、プリマが帰ったら片付けないとな。
綿も、包丁も、卓球台も、アルコールも。
ウォッカとビールは今日全部飲み干そう。空にしてしまおう。変な思いも全部全部。
「さ、着いた。降りようか」
To be continued,,,